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乾達もこの騒動を起こした奴らを追っていた…乾が言うように俺達や岩井テレサの組織の事もかなり知っていた。

「…お前達もアイツらを追っているのか?

 われ達のように?」


四郎が尋ね、乾が頷いた。

なるほど、『清算の日』が訪れるスケジュールをあいつらが早めるか阻止しようとする意図は俺でも判る。

乾がケーキの残りを口に運び、コーヒーで流し込んだ。


「あいつらもどうやら『清算の日』に関する多少の知識は持っているようなんだが、その知識も中途半端でいかんせんやり方が強引すぎるしな。

 多摩の5人組もその一味かも知れないんだ。

 放って置けば『清算の日』どころじゃ無くこの星が滅ぶかも知れんから、排除する対象に決めた。」

「…。」

「あの5人組は全員ぶち殺さずに何匹か生かして連れ去って置けば良かったかもな。

 俺達なら何でも聞きだせるから。」

「乾、お前はどの辺りまで知っているんだ?

 あいつらの事を。」


明石が尋ねると乾は顔を横に振った。


「おっと、それは俺達の企業秘密と言う所かな?

 あんたらのワイバーンや岩井テレサのジョスホール以上の情報網はあるとだけ言って置くが…。」


乾は俺達以外、岩井テレサの組織の事までかなり知っているようだ。


「乾、それならなんとか協力とまで言わなくとも情報交換位でも…。」


俺が言うと乾は人差し指を立てて横に振った。


「おっと、俺達は完全独立の集まりでな。

 中立を守る為に他の組織との余分なしがらみは持たないようにしている。

 今日、ここに来て、お前達と話す事自体が大サービスなんだ。

 はなちゃん、俺の心を読もうとしても無駄だぜ。

 まぁ、ここは居心地が良いからな。

 俺の心のオアシスのような物だ。

 ここが安全に営業できる事を願うぜ。」


乾が明石や四郎と同じような事を言うので少し面白かったが、有力な情報を手に入れる望みは薄いと俺はがっかりした。

明石がふん、と鼻を鳴らした。


「まぁ、今の状況でお前が敵ではないと言う事で安心しろという所かな…。」

「景行、今の所は、と言う事だぞ。

 状況が変わればお前達も排除の対象になるかも知れないぜ。

 俺はそんな事態は望んでいないが…状況次第だと思っていてくれ。

 『行李』を呼び出す印判もあれ以来使っていないようだしな。

 きちんと分けて保管しておかないと『行李』がやってきて、誰かが呑み込まれるかも知れないから気を付けろと岩井テレサに伝えておいてくれ。」


ジンコやリリー達を取り戻す為に使った5つの破片を乾は印判と呼んでいた。

それに明石の名前も知っている事に改めて俺は油断ならない奴だと思った。


「安心してくれ、あの…印判とかいう物は完全に個々の破片を遮断した状態で厳重に保管してある。」

「それなら大丈夫そうだな、取り戻すのにひと手間掛けるかとも思ったが、あの印判はそのまま預けて置こう。

 気が向いたら取り戻しに行くかも知れんが。

 俺がそう言っていたと岩井テレサに伝えてくれ。」


岩井テレサの施設の地下深くに厳重に保管されているのだが、乾達なら易々と強奪するだろうなと、俺は背筋がうすら寒くなった。


「乾…さん、あなた達はどれくらいの規模の組織なの?人数は足りるの?

 広域で調べるなら私達と共同で…。」

「おっと、ジンコちゃんだよな?

 神古 麗羅さんと呼んだ方が良いか?

 成る程賢い子のようだが、何かヒントを探り出そうとしても無駄だよ。

 そう言う誘導尋問は無駄だよ。

 あ、ケーキの代わりを頼んでも良いか?」


俺は黙ってテーブルの呼び鈴を鳴らした。


「ところで乾、今日も随分レアな車だが、見た目ハコスカ、中身GT-R以外にも車を持っているのか?」


明石が話題を変え、乾が笑顔になった。

その時真鈴が入って来た。


「ああ、『ひだまり特製イチゴ特盛ショートケーキ』と今日のブレンドコーヒーを頼むよ。

 景行、なんだっけ?

 ああ、あのベレットか、あの車もキャブレターのままで電子的なチューンなどはしていないがね、あの当時のテクノロジーでチューンナップはしているんだ。

 その他ケンメリのGT-Rとか、ランチァ・インテグラーレとかな色々あるぞ。」


真鈴が注文をとった後で乾に話しかけた。

車好きな真鈴がランチァ・インテグラーレに飛びついた。


「ランチァ・インテグラーレ…ラリー車とか好きなの?」


真鈴の顔を見上げた乾の顔がほんの少し赤らんだのを俺達は見逃さなかった。


「あ、ああ、真鈴ちゃんだっけ?

 俺はラリー車も好きだぞ…それ以外の車全般もな。

 少し古い車が好きなんだ。

 寄り目の頃のランドローバーも持っているよ。」

「ええ!もしかしてシリーズⅠ?凄い!」


真鈴が驚いた声を上げて乾の顔がまた少し赤くなった。


「いや、残念ながらシリーズⅡなんだよ。

 整備は万全だから勿論今でも現役でバンバン走るけどね。」

「うわぁ!見て見たい!出来れば今度乗って来て!」

「あ、ああ、見たければ乗って来るよ。

 もしも…もしも真鈴ちゃんがご希望なら…試乗しても…その…。」


俺がゴホンと咳払いをした。

真鈴が俺達をちらりと見て姿勢をただした。


「あら、仕事中だった。

 はい、『ひだまり特製イチゴ特盛ショートケーキ』と本日のブレンドコーヒー、ご注文承りました。」


真鈴が個室を出て行き、乾が少し、ほんの少しがっかりした表情を浮かべたのを見た俺は少し勝った気分になった。


その後俺達はコーヒーを飲んで死霊屋敷に引き上げた。

四郎が愉快そうに言った。


「あの乾が真鈴の前で少しおどおどして上がっていたぞ。」


明石も苦笑しながら言った。


「なるほど、あの乾が真鈴に首ったけなのは間違い無いな。

 ジンコ、真鈴は乾の気持ち知っているのか?」

「景行、そんな事は無いと思うわ。

 真鈴は高校のあの時以来、結構その辺りの事から距離を置いている感じでね、しかも元々結構男女関係の事とか鈍感な所があったからね。」

「しかし、これはこれで面白いじゃの!

 真鈴に話してやろうかじゃの!」

「まあまあ、はなちゃんもう少し黙っていようよ。

 真鈴が変に気にしてもね~!」

「そうじゃのジンコ!

 もう少し様子を見て楽しむかじゃの!」


ジンコが高校のあの時以来と言った事に少し俺は気になった。


「ジンコ、高校のあの時って…なに?」

「彩斗、私と真鈴と真鈴のお母さん達で暴力団の情報収集した時のこと話したでしょ?

 実はあの時真鈴が先輩と…いや、話すと長いからやめておくわ…それに…これは真鈴の口から聞いた方が…良いかもね。」


俺と四郎と明石は聞き耳を立ててジンコの言葉を待っていたのだが少しずっこけてしまった。

しかし、ジンコの言葉の響きに何か深刻なものを感じて俺達はそれ以上聞こうとするのを止めた。

男女間の問題に鈍感な真鈴と、ずば抜けて強くまだまだ謎が多い乾か…面白い取り合わせではあるな。


とにかく、乾とまだ見た事が無い仲間達が今回の騒ぎを引き起こした奴らを追っている事に俺は少しほっとした。


死霊屋敷に戻り、夕食前に俺達は圭子さんのママ友と子供達を車に乗せて家まで送り届けた。

送る途中で窓ガラスが割れた商店などを見て、全員無事に家まで送る事が出来て安心した。

テレビのニュースでは世界の不穏極まりない緊張した様子や日本国内で多発している自殺や無理心中や暴動などの、聞いていて気が滅入るニュースを流し続けていた。


死霊屋敷では上岡夫婦が屋根裏の死霊達と、杏奈と加奈と凛とはなちゃんが司や忍と、はなちゃん達が通訳しながら仲良くおしゃべりに興じている光景が俺達を慰めてくれた。

テレビのこちら側では人間も悪鬼も死霊も分け隔てなく仲良く平和な時間を過ごしている。

自分以外の種族と仲良く過ごすのに何か特殊な才能でも必要なんだろうか?


いや、違う、テレビの向こうの世界では相手の事をろくに知らずに恐れ警戒しているだけの事なのだ。

今ここでは肌の色どころか生き物の種類自体が違う者達が仲良く過ごしている。


お互いに知り合いさえすれば…ともに地平の彼方を目指せる仲間なのに。

そこまで考えて俺はまた絶望を感じた。


お互いを知り共に進む、ただそれだけの事がいまだに実現できない人類。

同じ人間同士でさえ、気が遠くなるほどの年月を肌や信仰や言葉や生活習慣が違うだけでいがみ合い奪い合い殺し合いを飽きもせず未だに続ける世界。

それどころか同じ国に住んでいる同じ民族の間でも何か違いを見つけて差別し合う社会…。


テレビの向こうとこちらではまるで別世界だ。


人間とは…。


岩井テレサでさえ、何度も人類の愚かさに絶望したと言っていた。


俺はユキに会いたくなった。

何故だかとてもユキに会って抱きしめたくなった。


岩井テレサはこうも言っていた。

人類の限りない可能性に希望を持って共に歩んだと。



ユキに会いたかった。



凄く、ユキに会いたい。

ユキを一緒に地平の彼方に連れて行きたい。






続く




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