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…日本と世界は大騒ぎ。

俺達はボルボとランドクルーザーに分乗した。

ランドクルーザーには俺と加奈と凛と上岡親子、ボルボには明石とジンコとはなちゃんが乗っている。


司と忍の所に学校が臨時休校するとのメールが来た。

近くの別の小学校が夜の内に暴徒がなだれ込んで放火されたとの事だった。


『ひだまり』は予定通り営業する事にした。

万が一の事を考えて死霊屋敷には四郎が残り、防備を固める事にした。

何かが起これば『ひだまり』から喜朗おじとクラ、真鈴、そしてスコルピオからの応援ウェイトレス達が死霊屋敷に駆け付ける事になっている。


町中はいたるところに騒ぎの後が、店のショーウィンドウが割れていたり、放火の後の様にマンション外壁が焼けていたりした。

道路にはひっくり返された車があった。

シャッターを下ろしている商店が多い。

人通りも車の往来もいつもより少なかったし、街のあちこちで警官が立っていた。


「なにこれ…本当にここは日本なの?」


凛が町の惨状を見て呟いた。

全く、一夜にしてアジアでも有数に治安が安定している日本がまるで紛争地帯の様になっている。

なんだかんだ言って情報網が発達している日本。

昨日のニュースの衝撃映像でがらくたが入った箱をひっくり返したような騒ぎになっていた。

いや…昨日のニュースはただのきっかけで、富士の樹海騒動からもうすでに人々はある意味で『人間以外の何か』が社会に紛れ込んでいる事を薄々感じていたのかも知れない。

その後の警官の過剰発砲騒ぎですでに混乱が浸透していたのだろうか…。


途中で何回も警察の検問で止められた。

上岡親子はその度に緊張して互いの手を握り合っている。

無理も無い、警官達の容赦ない一斉射撃で命を落としたばかりなのだから。

助手席の凛と後席の加奈がその度に上岡親子を庇うように手を伸ばして安心させようとしていた。

恐怖に見開かれた目で警官達を見る杏奈がとても痛々しく感じた。

俺は警察庁警視正の身分証を見せ高圧的に警官達に道を開けるように命じた。

俺も制服警官達に反感を感じているようだ。

だが、何も知らない現場の警官達も恐れているのだろう。

昨日のニュースでは上岡親子を射殺した警官達にも少なからずの被害者が出ている。

眼に怯えの色を浮かべている警官達を見て、俺は何とも言いきれないやるせない気持ちになった。


岩井テレサの施設の周辺はことさらに検問が厳しかった。

恐らく岩井テレサの方で警察に要請があったのかも知れない。

道路に頑丈な車止めが置かれた道を俺達はジグザグに車止めを避けながら岩井テレサの施設に入った。

施設の入り口でもいつもの警備員と違い、カスカベルのワッペンが付いた戦闘服姿の警備が固めていた。

皆、UMPサブマシンガンやオリジン12ショットガン、FALバトルライフルなどで武装していた。


入り口ゲートを潜り、小高い山の上に立ち並ぶ岩井テレサの施設を見上げた上岡親子は息を呑んでいた。


「凄い所…なのね…。」


杏奈が呟いた。


加奈が杏奈に笑顔を向けた。


「杏奈、ここなら安全だよ~!

 誰も杏奈たちを傷つけないし、危ない奴らは一歩も入れないですぅ~。」


調査部の今井と田所を従えた岩井テレサが俺達を出迎えた。

悪鬼の岩井テレサも昨日から不眠不休で色々と対策をしているのか些かやつれて見えた。


「彩斗君達、いらっしゃい。

 こちらが静岡で酷い目に遭った上岡さん達ね?」


上岡親子は岩井テレサを見て少し緊張して頭をさげた。

すかさず岩井テレサはしゃがみこんで杏奈と同じ高さに顔を持って行き、上岡親子を安心させる様に笑顔を浮かべた。


「ここなら安心よ。

 もう少し私達が早くあなた達に気が付いたら安全に保護できたのに…力が及ばないで御免なさいね。

 ここにはあなた達の様に別物、悪鬼にされた人達を大勢保護しています。

 死霊のあなた達もずっとここにいて構わないわよ。」


岩井テレサの優しい言葉と微笑みに上岡親子はホッとしたようだ。


「こちらの2人はうちの調査部の今井と田所です。

 あなた達の事を少し伺っても良いかしら。

 これ以上あなた達のような悲しい思いをする人を出さないためにも協力をお願いしても良いかしら?」


上岡親子はしばし顔を見合わせた後で岩井テレサに頷き、調査部の今井と田所に連れられて、奥の部屋に入って行った。


上岡親子の後ろ姿を見ていた岩井テレサが俺達に振り返った。


「彩斗君達、おかげで貴重な情報を手に入れられそうよ。」

「いえ、加奈がたまたまあそこに出くわしただけです。」

「そう、加奈ちゃん、お手柄よ。

 あなたが死霊になってしまって本当に残念だったわ。

 いままでありがとう。

 でも、これからもよろしく手を貸してね。」

「はい、加奈は頑張りますぅ!

 でも、そんな~そんなにお礼を言われても困りますぅ~。」


加奈が顔を赤らめた。


「うふふ、頼りにしているわね。

 さて彩斗君達、こちらに来てくれる?

 今の状況を私達が把握出来ている限りお話するわ。」


俺達は岩井テレサについて行き、カフェラウンジに座った。

岩井テレサは食べ物を注文してからこめかみに指を当てて顔をしかめた。


「ごめんなさいね、昨日から何も食べていないのよ。

 彩斗君達もおなかが空いたら遠慮なく頼んでね。」


俺たちはお言葉に甘えて飲み物と軽食とスイーツを頼んだ。


「さて、昨日のあのニュース以来日本は大騒ぎよ。

 そして世界中で似た事例が起きている事を報道しているの。

 これは…だけどこれは平和を貪ってきた日本人の心の膿のような物が噴き出て来ている姿なのかも知れないわ。

 大変な量の資源を食い荒らして豊かな生活を享受しているのに感謝の心を忘れた、或いは自己の利益しか考えなくなった、他人をけなして貶めて鬱憤を晴らしてきた醜い心のつけなのかもね。

 今の日本では、別物、悪鬼の出現を目の当たりにした人間達がその騒ぎに便乗して色々な不満を爆発させているように思えるわ。

 一般の人達の恐れや不安、政治などへの不信感、正体が判らない閉塞感などでね、国中が集団ヒステリーを起している感じよ。

 まぁ、これを聞いてくれる?」


岩井テレサは職員が持って来たパソコンを開いた。

聞き覚えがある大物政治家の会話の音声だった。


「総理、今回は困りましたな。

 しかし、この一件を利用するチャンスかもしれないですぞ。」

「その通りだよ総理、この機会に俺達に都合が悪い層を一掃するチャンスかもしれんぞ。」

「今まで政府や俺達与党を攻撃する連中を鬼に仕立て上げて片端から始末すれば良いな。」

「デモ隊にも少々過激な様相になったらデモ隊に鬼が紛れているとどんどん発砲すれば良い。」

「インターネットでも俺達に不満をぶつける連中を一斉に拘束して、は向かえば鬼だと言って射殺すると言う事も一案だな。」

「われらに危険な思想を持っている団体の拠点に容赦無く家宅捜索をして片端から検挙すれば政府も無策でいると言う非難も回避できるぞ。」

「ここは覚悟を決めて戒厳令を発しよう。

 警察だけでは人手不足だ。

 各駐屯地に保存している警察手帳を隊員たちに配るのは、今この時ですぞ。」

「あくまでも鬼から人間を保護すると言う名目で北方4島に第7師団を送り込んでも良いんじゃないか?

 ロシアのあの体たらくだし、世界から非難の声が上がる心配も今は無いですな。」


俺達は会話の内容を聞いて愕然とした。


「テレサ、まさか本当に政府や与党の連中が…。」

「安心して彩斗君、これはAIで作り上げた人口の音声よ。

 しかし、相当巧妙に出来ているから首相や口が曲がった変な大物政治家たちの声を聞き分けられる人はまずいないわ。」

「…。」

「私達はこのフェイク音声がネットに流れる前に何とか抑えたの。

 完成こそしていなかったけど非常に巧妙に作られた画像まで作ろうとしていたわ。

 実行犯たちの身柄を確保して警察に引き渡したけど…裏で糸を引いている奴ら素性も探り出したけど、まだ捕まえられていないわ。

 これを仕出かした奴らは別物、悪鬼とは全然関係ない人間達の集団よ。

 まぁ、今までさんざん政治不信を自ら煽って来た政治家どもの自業自得ともいえるけどね。

 これを聞いた人達の殆どが、ああ!あいつらならこんな事を絶対に言うはずだ!と信じるでしょうね。

 このまま事態が進めば世界のどこかの国が信じられない馬鹿げたことを始めるかも知れないわ。

 決して大げさじゃなくて人類滅亡の危機かも。

 現にほかの国では支援者たちに毒を配って集団自殺を呼び掛けた大物政治家までいるのよ。

 そんな正気の沙汰じゃ無い事が実行されたと言う事は一定の支持層がいると言う事よ。

 日本でもこれを機会に障碍者や在日外国人を別物、悪鬼だと決めつけて攻撃する気が触れた集団まで出て来ているわ。」

「…テレサ、政府は何か対策は考えているの?」

「彩斗君、世界の何か国は悪鬼の存在を公式に認めてしまっているわ。

 見当はずれの宗教観で悪魔の襲来だとか地獄の門が開いたとか、普通なら気が触れたとしか思えない事を政府が公式発表する国まで出て来ているのよ。

 もっとも今はごく少数の国だけどね。

 日本はアメリカやその他の民主国家と足並みを合わせてね、謎の集団が人体実験をして、いわゆる怪人を作り出したと言う事でその集団を特定して壊滅させるために動いていると言う事にしたそうよ。

 実際にその集団に怪人にされた人達は世界でもごく少数だと発表しているわ。

 日本国内でも数十人規模だとね。

 笑っちゃうんだけど、実際は日本国内だけでも別物、悪鬼は何万人もいるのにね。」

「なんですかそれは…まるで仮面ライダー抜きのショッカーが出現した世界みたいじゃないですか。」

「あら、彩斗君、もう知っているの?

 日本政府はその集団をショッカーと命名したわよ。」

「…。」

「ともかく政府の対応を見守る事しか出来ないわね私達は。

 可能な限り事態収拾に協力はするけど…。」


ジンコが岩井テレサに尋ねた。


「テレサ、あの、対立する組織は…人間を支配しようとする組織は…。」

「ジンコ、あの組織も今は動かないわ。

 まだまだ時期尚早だとね。

 彼らもこんな事態は望んでいないわ。

 事態収拾に政府と協力する事になったわ。

 もっとも今、別物、悪鬼と人類が全面戦争しても到底勝ち目は無いし、下手をするとこの星を道連れに両方滅亡するかもしれないもの。」


そこまで言った時に岩井テレサが頼んだ食事がやって来た。

よほど腹が空いていたのか、目の前に並んだ大量の料理を岩井テレサは貪り食べた。

カフェのテレビのニュースではミサイルをやたらにぶっぱなす、かなり評判が悪い某独裁国家の出先機関に数千人の暴徒が押し寄せて中に入り込んで、放火や略奪、職員をリンチにしたりと暴虐の限りを犯していた。

警官達も積極的に鎮圧せず傍観しているように見えた。

中国人民解放軍がその国との国境に機甲師団を主力とした侵攻編成の軍を集めていて、その独裁国家は日本の騒ぎなどに構っていられないようだとアナウンサーが伝えていた。


第3次世界大戦と言う言葉が、人類滅亡と言う言葉が、俺の今までの人生で一番リアルに感じた。







続く

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