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ジンコが仕込まれた映像である事を見抜き、はなちゃんが今もサル並みの人類の本質を語った。


「こんな…こんな恐ろしい事は無いわ…。」


ジンコがコーヒーカップを手に取り一口飲んだ

その手はプルプルと震えている。


「確かにそうよね…悪鬼の存在が知られて…。」

「違うわよ真鈴、それだけじゃないわ。

 あの映像は、今見せられた映像はね、決して偶然の産物じゃ無いわ。」

「…。」

「誰かが、しっかりとした意図をもって仕組んだのよ。」


俺達はジンコの言葉を聞いて凍り付いた。

確かにあれは偶然たまたま撮られた映像では無いと俺の頭の片隅で警報が鳴っている。

はっきりとした理由は判らないが…誰かが…。

ジンコが今見た映像の解説を始めた。


「まず一つはね、現場のリポーターがヘルメットと防弾チョッキをすでに着けていたわ。   

 用意が良すぎるわよ。

 それにね、取材なんて大抵はカメラ1台でしょう?

 あの映像はね、とても1台のカメラじゃ捉えられない細かいニュアンスを全部撮りきっていたわ…最低でも3台以上のカメラで同時撮影しながら…まるで細かく計算された映画みたいにね。

 見せたいところ、演出のツボを得たカメラワークだわ。」

「…。」

「キャストまでしっかり決まっている感じよ。

 あの3人の家族、あの幸せそうな家族が全員悪鬼なんて、相当見る人にショックを与えると思うわ。

 そしてあの可愛らしい少女の顔が見る見ると悪鬼の顔に変化して警官に襲い掛かって目を背けたくなるような残忍な事をする場面なんて、あの混乱の中で初めからしっかりと撮っているじゃない?

 わざとらしく画面の隅にライブ映像なんて表示してあるけどね、あれは複数のカメラで同時に撮影しながらその時その時に効果的なカットに切り替える優れた編集者がいないとお目に掛かれない映像よ。」

「ジンコ、テレビ局もグルで悪鬼の存在を明るみに…。」

「圭子さん、テレビ局がどこまで嚙んでいるか判らないわ。

 それにあの音声では局もかなり混乱している感じね…何者かが局の関係者と通じていて勝手に…それも演出かも知れないけど…でも、一部悪鬼の存在を明るみに出して世間に伝えようとする集団みたいな者達がいて、副調整室にいた編集が出来る者が、あと、フロアーディレクターもグルだと思うわ。

 でなきゃあのグロテスクでスプラッター映画顔負けの映像が一部始終、最後までモザイクも無しで全部テレビに流れる訳ないもん。」


明石が口に手を当てて唸った。


「すると…何者か、かなりの地位にいるものも含めた悪鬼の存在を明るみに出そうと考える組織が存在して今回の騒ぎになったと…言う事か…。」

「景行、その可能性は高いわね。

 もう、岩井テレサの組織が調査を始めているとは思うわ。

 しかし、手遅れかも知れないわ…。」


俺は答えを聞きたくなかったが、ジンコに手遅れと言う言葉の事を意味を訊くしか無かった。


「ジンコ、手遅れと言う事は…何を意味するの?」

「彩斗、富士の樹海の騒ぎなどで岩井テレサ達が必死にね…隠し通してきた事がね…今の人類がとてもその現実を受け入れる程成熟していないと判断してずっと隠し通してきた真実が、多くの悪鬼が人類のすぐ隣にいてずっと存在していると言う事実を曝け出そうとした企てが成功したかもしれないわ…。」


真鈴がじっとジンコを見た。


「ジンコ…どうなると思う?…これから…いったい…。」

「真鈴、恐ろしいわ…中世の魔女狩りを遥かに上回る規模での、そして全然統制が取れていない魔女狩りが始まるかも…疑心暗鬼に陥った人類がどんな愚行を起こすか全く判らないわ…。」


はなちゃんが手を上げた。


「やれやれ、ただでさえ吐いて捨てる程の多くの理由で人類は互いにいがみ合って来ておるがの。

 彩斗、お前が四郎や明石、その他の悪鬼メンバーを怖がらない理由は何じゃの?」

「え…そりゃあ…人柄を知っているからだよ…そこらあたりのヘタな人間よりも良い人格者だと思うしね…。」

「そうじゃろうの!

 お前は景行や四郎、圭子や凛やリリー達もその人となりを知っておるから、たとえ悪鬼顔で横に座っていてもちっとも怖くないじゃの!

 それは彩斗が四郎達悪鬼の事を知っておるからじゃの!

 それがの、全く悪鬼の事など知らん人間だとどうなると思うじゃの?」

「そりゃあ、いきなり四郎が悪鬼顔になったりしたら驚いて大変な事になると思うよ。」

「その通りじゃの彩斗!

 お前は四郎達を知っておるから怖がらないじゃの!

 しかし、知らない人だと…四郎達を全く知らない人が四郎達を見たら…良いか? 

 無知は恐怖と疑心暗鬼と憎悪、そして攻撃して排除する気持ちを引っ張り出すじゃの!

 それゆえに人類は武装を放棄できないでおるじゃの!

 国家から一平民まで武装を捨てる事が出来んじゃの!

 そして、およそ今世間に満ち溢れている偏見を見るじゃの!

 大抵は無知でバカな者が声高に叫び、その馬鹿どもを踊らせて何かの利益を得ようとする狡賢い奴らが馬鹿どもを更に煽ると言う構図が出来ておるじゃの!

 バカな奴ほど踊らせやすいからの!面白いようにバカ踊りをするじゃの!」

「…。」

「人類と言うものは随分自分達がご立派になったと勘違いしておるがの、その本質は森の木の上で捕食されるのを恐れてびくびくして隠れている小型のサルと大して変わらんじゃの。

 生存本能と疑心暗鬼で出来ておるじゃの!

 何百年も昔なら苦笑して済むほどの何十万か何百万かの人命が失われる程度の些細な事件で済んでいたじゃの、だが、しかし、今はの、人類が築き上げた文明どころか人類自体の生存さえも、この星の生き物殆どを根絶やしにする事がいともたやすく出来る世界じゃの!

 悪鬼の存在が大々的に明るみに出たら…まだまだ悪鬼の事を理解できない準備不足の人類の前にその存在が曝け出されたら…いったい何が起こるのか…恐ろしい事じゃの。」


圭子さんがこめかみに指を当てて考え込んだ。


「ねえ、はなちゃん、どういう奴らがどんな意図で今回のような事を仕出かしたと思う?」


そう、圭子さんの言葉はその場にいた俺達全員の疑問であり、知りたい事だった。

はなちゃんが首を傾げた。


「さぁのう、どんな奴らがどんな意図で…そしてどこまで準備をして…どの組織にどこまで食い込んでいて…さっぱり判らんじゃの。

 大体今の所は状況証拠を見た、わらわ達の推理憶測の段階じゃの。

 もう少し自体が把握できる材料があれば良いのじゃがの。」


俺達はがっかりした。

そして岩井テレサから電話が来た。

どうやらテレビでの騒ぎをとっくに知って動き出しているらしい。


「彩斗君、死霊屋敷の守りを厳重にね。」

「テレサさん、もしかしたら悪鬼が攻めて来ると?」

「いいえ、彩斗君、もっと深刻で酷い事よ。

 疑心暗鬼に陥った人間達があちこちで怪しいと思った人達を襲い始めるかも知れないわ。」

「…。」

「統制が取れている軍隊でも…それ以上に統制が取れない大勢の暴徒の襲撃ほど恐ろしい事は無いわ…その時は全力で戦わないと仲間を…司や忍達を守り切れないわよ。

 彩斗君、その覚悟はして置いた方が良いわ。

 人間相手にでも容赦無く武器を使用する覚悟をね。

 私達の全ての施設の警戒レベルを1段あげるわ。

 何かあった時、持ちこたえられないと思った時には全員で小田原に逃げて来てね。」


岩井テレサとの通話が終わった俺は俯いて目を閉じた。

あの、昔々読んだ恐ろしいコミック『デビルマン』をまた思い出してしまった。

あの時、飛鳥了、実はサタンはただ一度だけ人類に総攻撃をした後で人類はお互いの疑心暗鬼で同士討ちを行い滅んでしまった。

まるでサタンの作戦の始まりのようなこの出来事。しかし、今の所、誰かが何かを企んでいると言う事以外に俺達は何も判らなかった。


だが、あの事件の影響はその日の夜の内に日本のあちこちで起きた。

家族を悪鬼だと思い込んで殺戮した事件が多数起き、実は警察が全て知っているのに隠しているのではないかと交番や警察署への襲撃事件が数件、そして何故か障碍者施設への襲撃が何件か起きた。

おそらく、動作や顔つきなどが違う事による恐怖と排除の醜い心が表面に噴き出て来たのかも知れない。

そして、幾つかの新興宗教組織への火炎瓶攻撃などや、町中で外国人を袋叩きにして殺したりエトセトラエトセトラ…

平和だった日本がどこかの紛争地帯並みに治安が悪くなり、その影響は当然海外の様々な国へと波及して、世界中あちこちで目を背けたくなるような騒動が起こっている。

俺達はまんじりとせずに夜明けを迎えた。

いかんせん情報が少ないし、何を探れば良いのか思い浮かばない。


夜が明け、加奈が静岡から死霊屋敷に戻って来て大きな情報源を手に入れた。

加奈はあの晩警官達に殺された悪鬼の家族の死霊を連れて来ていた。

加奈が玄関を開けて3人を中に入れた。

3人は怯えた眼で俺達を見ている。


「安心してください。

 俺達はあなた達の事を知っています。

 ここはもう安全ですよ。

 誰もあなた達を怖がったり傷つけようと思ったりしません。」


3人があまりにも哀れに見えた俺はそう言って3人の死霊を暖炉の間にどうぞと言った。

安心した父親と母親が抱き合って泣き崩れ、警官達に散々に撃たれた少女が両親にしがみ付いて激しく泣きはじめた。








続く

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