11部開始前、若宮加奈について少し語らせて頂きます。
吸血鬼ですが、何か? 第11部 地平の彼方編を始める前に 加奈メモリアル1
第11部 地平の彼方編を始めるにあたって、若宮 加奈と言う勇敢な戦士で尚且つ海のように深い愛情を持った女性の事を覚えていて欲しいです。
11部を始める前に少しお時間を頂けたらと思います。
第10部 予兆編最終話で若宮加奈がショットガンの銃弾を至近距離から心臓に受けて死亡しました。
享年20歳です。
些かどころかとても速すぎる人生の終わりを迎えました。
加奈は、若宮加奈は私自身もとても思い入れが深いキャラクターでした。
加奈の人物像の構築はとても頭を悩ませ、かつ楽しく行わせて頂きました。
何人かの読者の方からのリクエストもあり、加奈が初登場する所から死亡するまでを少し振り返りたいと思います。
初登場 第4部 人間編 23話より
『ひだまり』ウェイトレスとして働く加奈は最初から一癖ありそうな雰囲気でした。
以下抜粋
四郎を先頭に俺達は店に入った。
聞く人をリラックスさせるようなボサノヴァがほど良い音量で流れ、奥行きがある店内はイギリス調の落ち着いた雰囲気の内装だった。
4人程の客、2人組の主婦らしき女性と、1人づつサラリーマン風の男性客がいた。
ミニスカートにメイド風姿の若いウェイトレスがいらっしゃいませ!と俺達の前に来た。
アイドルのような可愛いウエィトレスが屈託が無く無邪気な可愛い笑顔で尋ねた。
「お客様は3人様ですか?」
「はい、あの、明石さんに言われて…」
俺が答えるとカウンターから60代くらいの小太りのマスターが顔を出した。
「ああ、窺っておりますよ。
加奈ちゃん、奥の個室に案内してあげて。」
「はい、こちらへどうぞ。」
俺達は加奈ちゃんと呼ばれたウェイトレスに案内されて店内奥の扉の先の個室に案内された。
丸い大きなテーブルに8つの椅子が置いてあった。
加奈ちゃんがメニューを置いた。
「今お水とお絞りを持ってまいります。」
加奈ちゃんが部屋を出てドアが閉まった。
俺達は顔を見合わせ、室内を見回した。
油断無い鋭い目つきで室内を見ていた四郎は少し緊張を解いた。
「うむ、どうやら罠に掛けようと言う事は無いらしいな。」
「でも四郎、悪鬼って…」
真鈴が尋ねようとした時に、お盆に水を乗せたマスターが入って来た。
「いま、明石さんから連絡があって準備に少し時間がかかるからお待ち下さいとの事です。
ご注文が決まったらテーブルのベルを振ってくださいね。
すぐに伺います。」
俺達の前に水を置きながらマスターは温和そうな笑顔で言った。
ただ、マスターが歩くたびに左足を引きずっているのが判った。
マスターが個室から出ると四郎が小声で俺達に告げた。
「悪鬼はあのマスターだ。」
「え?」
「本当に?」
「うむ、間違い無いな。
悪鬼になってからか人間の時からか判らんが左足が無いな、義足をつけていると思う。
さて、君らは何を頼む?
このメニューのチーズケーキは旨そうだな。」
「あのウェイトレスはマスターが悪鬼って知ってるのかしら?」
真鈴が尋ねるとはなちゃんが片手を上げて答えた。
「あの若い娘は人間であるが…あのスカートの中の足元を締めるベルト…」
「はなちゃん、ガーターベルトの事?」
「何と呼ぶか良く判らんがそのベルトに突き刺す事に使いやすそうなナイフを仕込んでおるぞ。
片足に1本づつな。
おそらくあのマスターの正体も知っているかも知れん。」
「それにな彩斗、真鈴、店内に飾ってあるバトルアクスやサーベルなどの武器はレプリカなんかじゃないぞ。
すべて本物だ。」
「怪しい所だな…俺はチーズケーキとアメリカンコーヒー。」
「何よ彩斗、余裕見せてるじゃないの。
私はモンブランと…たまにはミルクティーかな?
はなちゃんそれで良い?」
「わらわは構わんぞ。」
「うむ、われもチーズケーキとミルフィーユ、そしてブルーマウンテンにしよう。」
俺がテーブルのベルを手に取って振ると、は~いと声が聞こえて愛くるしい笑顔でいながらスカートの中に凶悪な武器を隠し持つ加奈ちゃんがやってきて俺達の注文を受ると笑顔で会釈して個室を出て行った。
抜粋終わり
以下 第4部 人間編 26話より抜粋
明石がテーブルのベルを鳴らした。
は~いと声がして加奈ちゃんが個室に入って来た。
「加奈ちゃん、マスターを呼んでもらえるかな?
それと、加奈ちゃんが手が空いたら加奈ちゃんも一度ここに来て欲しいのだけど。」
「わっかりました~!」
加奈ちゃんが笑顔で敬礼をして個室を出て行った。
明石が苦笑いを浮かべて加奈ちゃんの後ろ姿を見た。
「まぁ、あの通りの子だけれど、かなり辛い境遇を生き抜いてきた子だ。
判ると思うが彼女は人間だが、ナイフとサーベルを使わせると怖いぞ。
もう、立派な戦士だ。
実は君らが言う悪鬼も何体か仕留めている、強いよ。
俺はあまり彼女に戦わせたくは無いのだが…。」
「加奈ちゃんならば彩斗と真鈴が5人づつ、10人いっぺんに掛かって行ってもあっさり返り討ちにしそうじゃな。」
はなちゃんの言葉に俺と真鈴は驚いた。
「ええ~!そうなのはなちゃん!」
「まじか…見かけによらないね!」
「うむ、あの子はかなり鍛えているぞ。
修羅場もいくつか潜り抜けているだろうからな。」
四郎が頷きながら言った。
抜粋終わり
何気に戦士の雰囲気を持つ加奈はとても人懐こく明るい、人を虜にするような女性でした。
加奈はその嫌味無き朗らかさと親密さで彩斗達をあっという間に虜にして親友の様に溶け合います。
幾つもの激戦を渡りぬいた古強者の兵士が新しい仲間と直ぐに溶け合い、あっという間に強いチームを作り上げるような部分を加奈は持っていました。
以下 第4部 人間編 27話より抜粋
喜朗は俺達に今後ともよろしくとお辞儀をして個室を出て行った。
入れ替わりに加奈ちゃんが入って来た。
「こちらが若宮加奈さん、俺達は加奈ちゃんと呼んでいる。」
明石が加奈ちゃんを紹介して俺達は四郎から順に自己紹介をした。
「どうも初めまして。
北斗…拳四郎です。
四郎とよんでください。」
「四郎さんですね!
初めまして!加奈です!
拳四郎の方がかっこ良いじゃないですか~!
四郎さんで良いんですか~?
でも、渋い感じで素敵ですね~!
強そう~!かっこいい~!
でも実は優しそう~!
よろしくお願いしま~す!」
「う、うむ、こちらこそよろしくお願いする。」
加奈ちゃんが飛び跳ねそうなテンションで四郎に挨拶した。
はっきり言って四郎は照れていた。
次に真鈴が自己紹介した。
「初めまして、咲田真鈴と言います。
大学3年で法律を勉強しています。
加奈ちゃん、よろしくね。」
「きゃ~真鈴さんね!
法律を勉強するなんて頭が良いんですね~!
大学3年生なら私よりお姉さんかしら?
私20歳なんですよ。」
「あ、私はそろそろ22歳になるわ。」
「きゃ~お姉さんですね!
シャープだけど凛々しくてエレガントな感じな方ですね!
よろしくお願いしま~す!」
加奈ちゃんが両手を差し出して真鈴の手を握った。
まるでキャバクラ嬢かアイドルのような握手だが、加奈ちゃんの屈託が無い笑顔は素敵だった。
真鈴は顔を赤くして加奈ちゃんの手を握っている。
「真鈴さんの手って柔らかくてお肌すべすべで素敵~!」
「ええ、そんな事無いわよ~!」
真鈴が謙遜しながら非常にデレデレとした表情になった。
真鈴が椅子に座らせていたはなちゃんが手を上げた。
「加奈ちゃんとやらよろしゅうの。
わらわははなちゃんと呼んでくれ。」
加奈ちゃんは一瞬固まり、はなちゃんを見つめた。
「…ふわぁ~!可愛い可愛い可愛い!
はなちゃんね、可愛いしユニークな服ね~!
大好き~!よろしくね~!」
「うむ、いや、あの、よよよろしくお願いするの。」
はなちゃんが差し出した手を加奈ちゃんが握って頬ずりした。
「うわぁ~良い手触り!
はなちゃん、良い匂いがするね~!
こちらこそよろしく~!」
気のせいかはなちゃんの顔が赤くなっている気がする。
海千山千で1000年以上も存在する神の端くれとなりつつあるはなちゃんでさえ加奈ちゃんの虜になったようだ。
「はじめまして、吉岡彩斗です。
加奈ちゃん、よろしくお願いします。」
「彩斗さんですね!
加奈です!
よろしくお願いしま~す!」
加奈ちゃんは笑顔で俺に挨拶すると明石の方を向いた。
「明石さん、皆さん素敵ですね!」
明石が加奈に答えた。
「うん、この人たちは信用できると思う。
俺達も仲間が増えれば安心だしな。
加奈ちゃんはこう見えて中々大変な事を潜り抜けて来て…」
「やだなぁ~明石さん!
加奈の苦労話なんて大した事無いですよ~暗い話は無し無し!
それじゃ私仕事に戻ります!
これからどうぞよろしく~!」
加奈ちゃんは俺達にびっと敬礼をして笑顔で個室を出て行った。
「あの子も色々と辛い事を抱え込んでいてね。
あまり昔の事を話されるのは嫌らしいんだよ。
そういう事で加奈ちゃんの過去の話は今は勘弁してくれ。」
「いやいや大丈夫じゃぞ景行。
重い物を抱えているかも知れぬが良い子じゃないかの。」
はなちゃんが明石に言い、俺達は同意の印に頷いた。
だが、俺は少しだけ引っかかった。
加奈ちゃんの俺に対する挨拶は四郎や真鈴、はなちゃんに対する挨拶よりも断然…断然薄いと言うか…四郎達に比べて俺は何もこれと言った言葉を掛けてもらえなかった。
これはやはり加奈ちゃんは男をいやいや女も含めて直感で人を見抜く事が出来るのかも知れない。
俺が少しだけエッチな心で加奈ちゃんを見てしまったからかも知れないし、もしかしたら加奈ちゃんは俺が生まれてから2回と4分の1しかエッチをしていなくてはなちゃんから指摘されるまで俺とエッチをした女性はみんな不機嫌になってしまった事や…鮭!そう!鮭に比べても大したことが無い性体験でしかも冬の道端で俺は2回と4分の1はエッチしてるけど童貞の男達と段ボールに詰められて10円のところ5円でも誰も買ってくれなくて真鈴なんかは絶対に高値がついても飛ぶように売れるのに俺は10円でも売れなくて5円に値下げしても…
テーブルの下で四郎が俺の足を蹴った。
「彩斗、今はそれを止めろ。」
四郎が小声で俺に言った。
抜粋終わり
…彩斗の思考暴走はともかく、加奈はあっという間に彩斗達にも溶け込みます。
しかし、加奈はその壮絶な過去により、自らの体を鍛えに鍛え上げていて、彩斗達の想像以上の戦力を持っています。
ワイバーン人間メンバー最強の女の子でした。
以下 第5部 接触編 1話より抜粋
「彩斗さん、真鈴さん、腹ごなしにナイフトレーニングしませんか?
私、もう少し身体を動かしたいんだけど…」
加奈ちゃんの申し出に四郎が反応した。
「おお!それは良い事だと思うぞ!
彩斗、真鈴、屋根裏で加奈ちゃんに相手をしてもらうと良いな!
その後にシャワーで汗を流して午前のハイキングに行こうじゃないか。
加奈ちゃん、20分ほど彩斗達の相手をしてもらえるかな?」
「はい、喜んで!」
俺達は屋根裏に上がった。
四郎は加奈ちゃんにも紙の棒を用意した。
「いつもはわれが彩斗や真鈴にナイフを教えているのだが、たまには違うスタイルの戦い方を知るのも良いと思うぞ。」
紙の棒を手に取った加奈ちゃんは紙の棒、つまりナイフを握った手の甲を前方に出す、変則的な構えを取った。
最初は真鈴が相手をする。
2人は紙の棒を構えてじりじりと円を描いた。
「ほう、加奈ちゃんの構えは珍しいな。」
「四郎、あれはククリナイフを使う時の構えを加奈が改良した構えなんだよ。
ククリナイフは振り下ろした時には刃先に力が集中して斬撃の威力が高まるからな。
加奈はまるで自分の腕を鞭のようにしなやかに動かすから相手はククリナイフの刃が自分のどこを狙ってくるか判っていても中々避けきれる物じゃないぞ。
それに体の筋力に自信がある悪鬼はククリナイフの刃を避けるよりもその刃を受け止めて加奈の身体を捕まえようとする傾向があるんだが、加奈が予備動作無しで全力で振り下ろすククリナイフは大抵の悪鬼の前腕部なら簡単に斬り落としてしまう威力があるんだ。
加奈の華奢に見える外見に騙されるんだな。」
俺は地下室で四郎が狼人の市蔵と演じた死闘を思い出した。
あの時も四郎が繰り出した両手でのナイフ攻撃を市蔵は両掌でナイフの刃を受け止め、刃が刺さるのも構わずにナイフごと四郎の手を掴んで四郎を捕まえた事を思い出した。
確かにあの局面で明石が言うような加奈ちゃんが繰り出すククリナイフの斬撃力があるとすれば、市蔵の掌はすっぱりと真っ二つに切り裂かれていただろう。
加奈ちゃんが腰を落とし紙の棒を持った手首をしなやかに回転させた。
なるほど確かに腕全体鞭のようにしなる感じがする。
そしてまた驚いたのが加奈ちゃんの体の柔らかさと瞬発力だった。
いきなり腰を地面すれすれまで落としたと思った瞬間、足の反発力でへびがくねくねと滑るように滑らかな螺旋軌道を描いて伸びて来た紙の棒が真鈴の腕を叩いた。
「うわ!なんだあれ!」
その素早さに俺は声を上げてしまった。
そして加奈ちゃんは軽く叩いたように見えたのだがスピードが段違いに早かったので真鈴の腕がパーン!と物凄い音を立て、真鈴が紙の棒を取り落とした。
四郎が全力を出した時の圧倒的な速さとは違い、加奈ちゃんの動きの速さは人を惑わせまごつかせる異様さを感じさせる速さだった。
「あ!ごめんなさい!
真鈴さん、大丈夫?痛くなかったですか?」
「私は大丈夫よ!
でも、凄いスピードね~!
さぁ、もう一度よ!」
床に落ちた紙の棒を拾いながら真鈴は自分に気合を掛けるように声を上げた。
『ひだまり』ではなちゃんが俺や真鈴が10人がかりでも加奈ちゃんには簡単に負けると言っていたのを思い出した。
真鈴は加奈ちゃんが繰り出す攻撃に数秒と持たず腕を叩かれた。
さらに厄介なのは加奈ちゃんは上下の広い範囲から攻撃を繰り出せることだった。
まるで屋根裏の床がトランポリンのように弾んでいるのじゃないと思うくらい加奈ちゃんは高く速く跳ぶ。
床すれすれから頭の頭頂部まで様々な高さで紙の棒が襲ってくる。
「真鈴、1人じゃ無理だ!
彩斗!お前も行け!」
四郎が叫び、俺と真鈴とで加奈ちゃんと対決する事になった。
…俺と真鈴は四郎以上に無様にダンスを踊らされてついに屋根裏の床に這いつくばった。
「はぁ、良い運動になりました!
真鈴さん!彩斗さん!ありがとうございます!
またよろしくお願いします!」
「こちら…こそ…です。」
「ありが…とう…ございました。」
元気が良い加奈ちゃんのお礼の言葉に床に這いつくばった俺と真鈴は息も絶え絶えに情けない返事しか出来なかった。
「ふぅ~!私も汗かいちゃった!」
戦闘服の上着を脱いで上半身の汗をタオルで拭く加奈ちゃんのTシャツが一瞬捲れた時に、加奈ちゃんの左肩から背中を斜めに右腰の辺りまで一直線に走る古傷が見えた。
後ろからもろに袈裟懸け、普通なら即死してしまう程の傷に見えた。
抜粋終わり
ククリナイフ使いの加奈。
ククリナイフを持たせたら凄く恐ろしい存在で尚且つ、加奈の壮絶な過去が垣間見れる場面でした。
そして、加奈は質が悪い悪鬼には全く情け容赦なく、ある意味で戦闘に恋い焦がれ、悪鬼の血を流す事に喜びさえ覚える一面もありました。
彩斗達にとっては非常に頼もしい存在です。
以下 第5部 接触編 30話より
以下抜粋
「彩斗!
その調子!雑魚の数を確実に減らすよ!
あたしが壊すからあんたが止めを刺して!
雑魚共来い!
あたしが相手だ!」
四郎と景行の勢いに恐れていた雑魚の悪鬼達が新しく出現した与しやすそうな相手を見つけわらわらと近寄って来た。
しかし悪鬼とは言えその年数は新しくまだまだ『若い』奴らでこれと言った武器も持っていないので加奈からしたら用心さえすれば倒しやすい相手なのだろうか。
一番最初に加奈に襲い掛かった悪鬼は両手首をククリナイフで斬り飛ばされ悲鳴を上げて転がり、俺がルージュの槍で止めを刺した。
それを見た雑魚の悪鬼は警戒して無防備に襲い掛かる事をしなくなり、加奈と俺を遠巻きに囲み徐々に包囲の輪を詰める作戦に出た。
「ちっ、一辺に掛かられると面倒だね。
こいつら馬鹿だけど全く脳みそが無い訳じゃないよ。」
加奈がククリナイフとマチェットを両手に構えながら目が忙しく動いて周りを観察している。
「彩斗、あたしの2時方向、まだあの若い男がうずくまってる所判る?」
確かに加奈が言った方向に引きづりだされてきた若い男がまだその場にうずくまっている。
「ちっ、いくらでも逃げられたのに…気絶でもしてるかな?
彩斗、2時方向にいるデブの奴を倒してあの男の方に行くよ!
あそこまで行ったらあの男を背に戦おう!
後ろが地下に通じる廊下だからいよいよヤバくなったら地下に逃げてはなちゃんと合流するよ!」
「判った!」
俺が答えた途端、加奈が雄叫びを上げて2時方向にいる太った大柄な悪鬼の脳天にククリナイフを振り下ろし、更にマチェットを男の脇腹に斬り付けた。
そのまま太った悪鬼を押しながら囲みを突破してうずくまる若い男のところまで行き、加奈が斬り付けた太った男の体を振り回して追いかけてくる悪鬼の群れに向かって蹴りつけた。
その時太った悪鬼の腹に食い込んだマチェットが脂肪の塊から抜けなくなって加奈は手を離さざるを得なくなった。
「ちっ、喜朗おじに怒られるな。
後で回収しないと。」
俺達はうずくまる男を背に悪鬼の群れと対峙した。
加奈は太ももからダガーナイフを抜いてククリナイフを構えた手の横でダガーナイフを持った手を蛇のように怪し気にくねらせた。
「彩斗、その男はどう?
自力で逃げられそう?」
加奈が悪鬼の群れを睨みながら尋ねた。
「駄目だこの姿勢のまま気絶してるよ!」
「しょうがないね、ちょっと邪魔だからもっと隅の方に片付けてくれる?
俺はルージュの槍を構えながら男の腕を掴んで広間の端へ引きずって行った。
その間に加奈は襲い掛かって来た1匹の悪鬼を即死させもう1匹の片足を膝から斬り飛ばした。
足を切断されて唸り声を上げる悪鬼の右目にはいつの間に放ったのか加奈の腕のバンドに止めていた小振りな投げナイフが根元まで刺さっていた。
狭まりつつあった雑魚の悪鬼の包囲網が少し広がった。
「きゃはは!
おいでよ~!
遊んであげるからさ~!」
返り血を浴びて凄惨な顔になった加奈がダガーナイフを持つ手をくねらせながら悪鬼達を挑発した。
…長くなりそうなので何編かに分けます。
どうぞお付き合いくだされば加奈も喜ぶと思います。
登場人物に入れ込み過ぎた駄目駄目な作者より。