26:いろいろな妄想
これで一件落着と思えたが。
自分がこの後どうなるのかと疑問が生じた。
「ねえ、シルウス。もう悪役令嬢は不要ですよね? 私は悪役令嬢になるために召喚された。ということはお役目御免……。当然、セルジュの婚約者でいる必要もない。ということは……私はオゾン家に戻ることに……?」
悪役令嬢としての役目を果たしていたら、シルウス、ランディ、エリックのいずれかと結ばれる……ということもあったかもしれない。でも悪役令嬢になることなく、事態は収まった。だったら私が王宮を去り、それでようやくすべて解決のはず。
一瞬路頭に迷うかと思ったが、オゾン家という帰る場所があることを思い出せて良かった。
「さあ、それはどうでしょう」
「え……」
「それを決めるのはセルジュさまです」
「……確かに」
「でもシルヴィさま、面白いことを教えてあげます」
シルウスはまるで子供のような顔つきになる。
それは悪戯を思いつき、楽しくて仕方ないという表情だ。
「え、何ですか!?」
すると対面に座るシルウスが、突然前のめりになり、私の腕を掴んで自身の方へ引き寄せる。風にそよぐフリージアのような甘い香りを感じられるぐらい、シルウスが近い。このままキスをしようと思えばできる距離感なのに。私の心臓は無反応だ。
「シルヴィさま、キスの経験は?」
「!?」
「前世でのことは答えなくていいですよ。ここに召喚されてから、誰かとキスをしましたか?」
「し、していません!」
「そうでしょうね。ではどうですか? この国で初めてのキスを僕とする。そう想像してドキドキしますか?」
シルウスとキスをする!?
それを想像する!?
というかキスは……もし今、キスをするなら、それはシルヴィにとって初めてのキスだ。相手が誰であれ、当然ドキドキするハズ。しかもシルウスのような甘いマスクの美青年とのキスだったら、心臓は破裂寸前に……なっていない!?
心臓はピクリとも反応していない。
なんで!? おかしい。私……不感症?
呆然とする私を見てクスリと笑うと、シルウスは私の腕を離し、体を元の位置に戻した。
「シルヴィさまは、僕にときめきませんよね?」
「……、どうして分かるのですか?」
「君には魔法がかけられています」
「魔法?」
「そう。特別な魔法が。その魔法をかけることができる人間は、限られています。誰でもかけられるわけではない」
「そんな……」
なんてヒドイ魔法だ。
キスをされそうになってドキドキできないなんて……。
「誰がなんのためにその魔法をかけたのか。君だったらすぐその答えに辿り着くハズですよ」
「え、シルウスは犯人が分かっているのですか!?」
「犯人……。そう言わないであげてください、シルヴィさま。苦肉の策だったのだと思います」
なぜシルウスが犯人を擁護するか理解できない。
こうなったら犯人を見つけ出し、解除してもらわなければ。もし解除してもらえなければ、どうしたってこの後の人生は味気ないものになりそうだ。
「シルヴィさまは鋭いところもありますが、自分のこととなると驚くほど鈍感ですね。仕方ない。これは最大のヒントです」
「なんですか!?」
「人間の召喚というのは、とても高度な魔法です。消費する魔力も多く、強い魔力が必要。よって人生で一度しかできません。ただ、召喚される人間の年齢や容姿については、ある程度召喚者の希望が通ると言われています。でも性格についてはコントロールできません。ただ容姿はまさに理想の姿。これで性格が好みと一致していたら……」
「一致していたら?」
「一致していたらってシルヴィさま。これはものすごいヒントだと思うのですが?」
何の何に対するヒントなのかさえ分からない。それに外は既に暗いし、馬車の中は間接照明で薄暗いし、なんだか眠くなってきた。
馬車はとにかく乗り心地が悪いと前世では聞いていたけど……。
この国の馬車はめちゃくちゃ乗り心地がいい。あと、誘拐され監禁され、自分では気づかなかったが、疲れていたのだろう。
だから。
気付けば眠りに落ちていた。
◇
「シルヴィさま、到着しましたよ」
シルウスの甘い声で目覚めた。
こんな甘い声で囁かれると思わず、ありもしない未来を妄想してしまう。
もし私が悪役令嬢を演じ切り、断罪後にシルウスと結ばれたとして。こんな甘い声で目覚めを促されても、ベッドからすぐに起きるのは無理な気がする。
妄想は乙女ゲーをしている時には毎度のことだった。久々にこんな妄想をしてしまうのは……この先、私は王宮を出て、オゾン家に戻る確率が高いからだ。
乙女ゲーにいそうなイケメンに囲まれた日々は、終わりを告げる。
そんなことを思いながら、ゆっくり目を開けて驚く。
シルウスは対面の席に座っていたはずなのに。いつの間にか私の隣に移動していた。つまり、私はシルウスの肩にもたれ居眠りをしていた……。
「シ、シルウス、ごめんなさい。私、図々しくも」
シルウスの指が私の唇を押さえる。
「君が断罪されていたら。婚約破棄された君の新しい恋人候補は僕でした。でも断罪の場は失われてしまった。……それは嬉しいような、悲しいような。複雑ですね」
「シ、シルウス、何を言っているのですか!?」
「さあ、シルヴィさま、降りてください。さすがに僕が抱きかかえて部屋まで運んだと知ったら、焼きもちをやかれそうですからね」
そう言うなりシルウスが追い立てるので、私は慌てて馬車を降りる。するとそこにはメラニーがいた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は、本日 13時台 に以下を公開します。
「本当は……」
メラニーの思いがけない指摘にビックリ。
引き続きよろしくお願い致します!














