21:人心掌握が上手い?
教皇は私の代わりに悪役令嬢のようにふるまい、かつ、その手柄を譲ってくれようとしているのでは?
そう思ったのだけど。
「シルヴィさま、教皇は君が思うような人物ではありません。今回の騒動の首謀者として君を犯人に仕立て上げようとしている――というのは、正しいでしょう。でもそれはセルジュさまのため、国民や国のためにそうするのではないのです。セルジュさまと聖女が結ばれるためのお膳立てのための行動ではない。教皇は自分自身のために動いているだけです」
シルウスの言葉は、さっき私が考えたことをバッサリ否定している。
「それにシルヴィさま、君に被せようとしている罪は、聖女の誘拐・監禁に加え、殺害も含まれます。さすがにこれはやりすぎでは? 聖女とセルジュさまが結ばれないと、この国の安泰は約束されないのに。その聖女を殺害するなど、あり得ませんよね?」
リサを殺害……? まさか、そんな。
衝撃で全身が凍り付く。
「実はね、シルヴィさま。教皇が聖女のことを快く思っていないと分かった時点から、セルジュさまの指示で僕は動いていました。教皇の身辺調査を改めて行ったのです。その結果、とんでもないことが分かりました。教皇は魔力が強くないのに、予言が驚くほどの的中率。それには裏がありました。そして真に予知の力を持つ聖女のことを、消し去りたいと考えていると分かったのです」
驚きの情報をシルウスが明かすので、私はもう黙って聞いていることしかできない。
「教皇は……実に巧みに動きました。人間の心理をうまくついています。予言を始めたのは、教会で作ったお菓子の販売が軌道に乗ってから。その時、ソテルの手元にはとんでもない金額のお金が集まりました。そして教会に来る信者相手に、まず予言を始めます。一般市民に授ける予言なんて小さなもの。その予言が的中するよう、ソテルは手を回しました。例えば、『東の方角に午前5時に向かうと、金貨が入った袋が見つかるでしょう』そんな予言を授けたら、こっそりその場所に金貨を入れた小袋をおいておく。こうやって小さな予言が当たるという積み重ねを続けることで、ソテルの予言は当たるという噂が広まる。そうなるとあとはもう簡単です」
「簡単……? 予言を当てるために、これまで以上に動かないといけなくなるのでは?」
なんとか言葉を絞り出したが、あっさり首を振られてしまう。
「シルヴィさま、むしろ逆です。ソテル司祭の予言は当たるという噂が広まり、信じてしまう心が、予言を的中させることにつながる。例えば、『新しい事業をやるつもりなら、金曜日の夜にレストランに行き、そこで知り合った男性に相談してみるといい』と予言したとしましょう。その予言を与えられた相手は、金曜日の夜にレストランに行き、無意識のうちに事業を相談できる男性を探してしまう。そしてコイツだと思う相手に思い切って話しかけます。それをきっかけに話しが盛り上がる。そうなればソテル司祭の予言はこれまた当たったことになります」
なるほど……!
人間の心理をうまくついているとシルウスは言ったが、まさにその通りだ。
「司教となり、貴族や国の機関に対して予言をするようになると、ますますその効果は高まります。年頃の令嬢を持つ貴族に『真紅のドレスを着て舞踏会に行けば、婿となる男性と出会える』と予言されれば、その貴族は娘のために真紅のドレスを調達します。しかもあのソテル司教が予言したドレス。これを着ればいい男性に会えると、貴族は娘に言い聞かせたはずです。娘だってソテル司教の噂は知っている。そのドレスを着れば自然と気持ちが上向きになります。普段は壁の花だった令嬢が積極的に微笑み、ダンスに応じれば、それは自然と男性も引き寄せられるでしょう」
人間なんて気持ち一つでいくらでも変われる。
ソテルはただ後押しをしてあげただけに思えるが……。
「今の話だけだと、貴族も令嬢もハッピーだから、いいのではと思えるでしょう。でも裏でお金が動いていたのです。その貴族の家には、なぜか予言をもらった翌日に、真紅のドレスを売り込むドレス屋が現れた。しかもえらい高価なドレスなのに、貴族も令嬢もそれを気に入り買ってしまうのです」
タイミングよく予言に登場する真紅のドレスを売る人物が現れれば、普通なら疑いそうなものだが……。
教皇による心理操作で、もうそのドレスを買わずにはいられなくなっていたのだろう。
ある意味商売上手、なのかもしれない。
だがそれならば商売をやるべきで、教皇の座は辞すべきだ。
そこでシルウスはチラリと取り出した懐中時計を見て、また話を再開する。
「貴族の間でソテル司教の予言が当たると広まれば、自然と国の機関も彼を頼るようになります。治水計画がどうもうまくいかない。工事は春までに終わるかと相談されれば、ソテル司教が『春までには必ず終わります。無事、春までに終わったら、全員に祝い酒と報奨金を配るといいでしょう』と予言する。すると現場の士気は一気に高まります。あのソテル司教がそう予言したのなら、この工事は今度こそうまくいく。しかも祝い酒と報奨金もでるならやるしかない、と」
なんて巧みなのだろう。これでは騙されていると気付けないのでは……?
「ある意味、人心掌握が上手いとも言えますが、その一方で予言を与える度に高額なお金を要求し、効果が定かではない壺や護符を高額販売しています。商売上手ですが、教皇がやっていいことではないですよね」
「シルウス、理解できました。やがて教皇という立場になってからは、国政に対しても予言するようになった。戦の勝敗の行方もある意味、ソテル教皇が左右するほどになったのでは?」
私の問いにシルウスはクスリと笑う。正解ということだ。
だから私は話を続ける。
「でもその予言で士気が高まり、戦に勝利したのも事実。だからこそ、王族に対してまで予言を提起するようになったのですね。でも教皇の予言は、根拠のない適当なもので、魔力も使っていない。でもそこに主の言葉を伝え、本当に予知ができる聖女が現れてしまった。もし教皇が『東に行くべきです』と予言したことに、聖女が『西に行くべきと主が告げています』となってしまえば、大変なことになってしまう。これまで教皇を信じていた人も、聖女が西というなら西だろうと、一気に聖女へと傾く。そうなれば教皇の予言は当たらないとなり、その地位が危うくなると恐れた……という訳ですね。そこで聖女殺害を企てたと」
シルウスがパチパチと拍手をする。
「その通りです、シルヴィさま。素晴らしい読みです。さて。それでは僕達も動きましょう。まずは聖女のところへ行きましょうか」
「はい」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は、明日 10時台 に以下を公開します。
「忘れていい?」
薄気味悪い地下牢から脱出!
引き続きよろしくお願い致します!














