19:何処の誰がこんなヒドイことを……!
そう言ったメラニーは「光魔法、発動。光よ、闇を照らせ」そう言って、格子から手を伸ばした。その手からは碧紫色の光が放たれ、それはサッカーボールぐらいのサイズになり、そのままふわふわと漂っていく。
すると。
私達のいる牢の対面にあった闇が照らされた。
そこもまた牢屋になっており、そこには……。
思わず悲鳴を飲み込む。
同じような牢獄があった。
でもその中には巨大な十字架が設置され、そこにはまるで主と同じように、リサが磔にされている。
まさか釘で手と足をと思ったが、メラニーの光魔法で照らされても、血は見えない。ロープで縛られ、固定されているだけと分かり、少しだけ安堵する。
だが顔は見えず、こちらには頭頂部が向いており、意識はないようだ。しかもコバルトブルーの祭服は脱がされ、ところどころが土で汚れたシュミーズ姿にされている。
何処の誰がこんなヒドイことを……! 怒りがこみ上げた。
「リサをあんな姿にしたのは国の機関の人間なのよね? どうして? 聖女は国にとって尊い存在なのではないの? 私は……セルジュの暗殺未遂があったから、私が狙われるのは仕方ないとしても、なぜリサが?」
「聖女さまはこの国にとって諸刃の剣……いえ、失礼しました。そうですね。シルヴィさまの言う通りです。でも見てください、十字架に磔にされているのです。聖女さまだからそうしたのかもしれません。しかしそれ以前に、地下牢のあんな場所に、人を磔にできるような十字架があることを、不自然に感じませんか? あの十字架は新しいものにはみえません。今回のために用意したのではなく、元々あの牢屋に設置していたもののように思えます」
不吉な思いが胸をよぎる。まさかという思いを口にする。
「メラニー、それはどういうことかしら? リサのように磔にされた人間が、過去にもあの牢屋にいたということ……?」
メラニーは静かに頷くが、私は鳥肌が立っていた。
今のこの状況だけでも恐ろしいのに、過去に同じようなことが起きていたなんて。
国の機関にシリアルキラーがいるということ!?
「聖女さまはあのような状態で、一方のシルヴィさまは口封じの魔法をかけられましたが、ドレスを乱されることもありません。……どうやら犯人の狙いは、聖女さまが第一と思われます。そしてもしかするとセルジュ王太子さまが狙われた暗殺未遂事件。あれは王太子さまを狙ったのではなく、聖女さまを狙ったものかもしれません」
湖に現れた巨大なまず。
あれは確かにセルジュを狙うには弱いと感じていた。
武術の心得がある魔法騎士や警備兵、それにシルウスがあの場にいたのだから。その一方で、確かに女子供であれば、あの巨大なまずに食われかねなかった。
「でもどうしてリサにこだわるのかしら?」
シリアルキラーの好みがどんぴしゃでリサ……聖女だったということか?
確かに清らかな乙女を穢したくなる心理……というのはありそうだ。
「なぜ聖女さまにこだわるのか。その理由はこれで分かるかもしれません。まず、今、聖女さまが磔にされている十字架の用途についてです。アンブロジア魔法王国は歴史が長い国で、過去には熾烈な戦も起きています。今となっては禁じられていますが、昔は拷問なども行われていました。でも、この国は昔から信仰の篤い国です。拷問の手段に十字架を使うことなどありえません。このような地下牢にある十字架、それはおそらく悪魔祓いのために使われたものでしょう」
悪魔祓いって……前世で聞いたことがある。悪魔を祓うエクソシストの存在も聞いたことがある。あのバチカンでさえ悪魔祓いの存在を認めている。
え、ちょっと待って。
「メ、メラニー、悪魔祓いは宗教的な儀式よね? 民間人が見よう見真似でやるものではない。ということは……ここは宗教施設の地下にある牢獄ということ?」
「ええ、そうです、シルヴィさま」
「そ、そんな……。教会にとって聖女は大切な存在でしょう? なぜそんなことを……」
そこで私はイヤな事実を思い出す。
王室の霊廟があるサン・ウエスト大聖堂のガゼボ(東屋)でシルウスはこう言っていた。
――「聖女は教会にとっても国にとっても、その力の強さから貴重な存在。でもソテル教皇にとっては、自分を差し置いてちやほやされると、気に食わないのかもしれませんね」。
でもまさかここまでするもの……?
「シルヴィさま、何か思い当たることがありましたか?」
「……大ありよ、メラニー」
私はソテル教皇のことをメラニーに話して聞かせた。
「なるほど。シルヴィさまの話を聞き、確信できました。私達を誘拐し、この牢獄に閉じ込めた犯人は、ソテル教皇で間違いないですね。教皇であれば、金で人を雇い誘拐や監禁もできますし、教会の地下にあるこのような場所を利用することもできるでしょう」
「聖女を……リサのことをひどい目にあわせる理由は分かる。でもなぜ私まで?」
「教皇の怒りを買うようなことをしていませんか?」
「散々いやらしい目で、胸や体を見られたけど、怒りは……」
いや、ある。
教皇が顔を真っ赤にするようなことを私は言ってしまった。
教皇が主催するお茶会で、『かわいこぶるんじゃないのよ作戦』を決行するために、お皿に黒髪を一本、シルウスが魔法で出現させた。
黒髪と言えばリサ。つまり聖女。
お茶会のお菓子はリサを含めた聖職者が作ったもの。
ここで私がリサに不衛生だと詰め寄り、セルジュがリサを庇い、二人に恋心が芽生えるはずだった。
だがしかし。私より先に教皇がリサに文句を言い、その内容があまりにヒドく感じた。だから思わず私は教皇に反論し、その場をセルジュが収めることになった。
私の反論に教皇は怒っただろうし、恥をかかされたと思ったはずだ。
この出来事をメラニーに話すと……。
「それは……確かに教皇がムッとするものだったとは思います。でもその程度で、この国の王太子の婚約者を誘拐して監禁しますか?」
「そう言われると……。いくら教皇が瞬間湯沸かし器並みに激高しやすいタイプだったとしても、その出来事から日数も経っているし、さすがに怒りも落ち着いているわよね」
「何か他に理由があるのでは?」
他の理由。
教皇と聖女リサと王太子の婚約者である私がつながる理由……。
この三人が揃ったのなんて、王室の霊廟を訪問した時ぐらいしか思い出せない。確かに舞踏会に教皇はリサと来ていたけど、私を含めた三人で会話する機会はなかった。でも理由がなければ、私を誘拐するわけがない。
走馬灯のように異世界で起きた出来事が、頭の中で展開される。
どこかに、なにか点と点を結び付ける事象があったはず。
しばし考え込んだ私は……。
一つの可能性に気づいた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は、明日 10時台 に以下を公開します。
「陰ながら応援していた?」
シルヴィの推理が冴える!?
引き続きよろしくお願い致します!














