18:頼もしいメラニー
「シルヴィさま、気づきましたか?」
メラニーの声にゆっくり瞼を開ける。
薄暗くじめじめとした気配と、鼻をつく刺激臭。
瞬時に悪寒が走り、覚醒する。
……!
目を必死に動かすと、私をのぞきこみ、心配そうな表情を浮かべるメラニーと目が合う。足元に目を向けようとすると、手錠をかけられた両手が、お腹の上にあることに気づく。
驚愕し、メラニーを見ると、自身の両手を胸元へ移動させる。私と同じように手錠をかけられていた。
再度足元の方向を見ると、そこにはごつごつとした岩壁が見える。続けて右手を見ると、鉄製の格子が見えた。
なんとなく状況を理解する。
『リサとセルジュの吊り橋効果作戦』で、私はリサを誘拐し、監禁するつもりでいた。それは街にある宿で。だがどうやら私とメラニーが誘拐され、監禁されているようだ。
メラニーの背後を確認し、さらに頭上も見たが、窓は見当たらない。だからここは地下牢なのだろう。
その時。
カサカサという音に私は飛び起きる。
悲鳴をあげたつもりだが、声が響くことはない。
口は動いている。でも声が出ていない。
いや、多分、薬か魔法で声を封じられている。
素早く自分が寝かされていたと思われる場所に視線を走らせた。
床……というかごつごつとした岩のような状態の場所に、薄っぺらいござのようなものが敷かれており、そこに寝かされていたのだと気付く。
先ほどのカサカサの正体は虫だと思う。
どんな虫かは……想像したくもない。
「シルヴィさま、声は魔法で封じられています。これから私が解除しますが、もし誰かがきても、話せないフリをしてくださいね」
私のそばで両膝をついていたメラニーが顔を上げ、立ち上がった。
ちらりと格子の外を見ると、誰もいない。
見張りはいない、ということか。
というか、通路を挟んだ向こう側にも牢屋があるが、そちらは真っ暗だ。私達がいる牢屋にはかろうじて天井にランプが一つだけ灯されているのに。
「シルヴィさま、よろしいですか?」
メラニーの声に視線を戻し、すぐに頷く。
するとメラニーは手を私に向けた。
自分がかけた魔法は簡単に解除できる。
でも他人がかけた魔法を強制的に解除するには、相応の魔力が必要だ。
つまりそれができる魔法使いは、基本的に強い魔力を持つ者。でも強い魔力を持つ者は、いわばピラミッドの頂点近くにいる者だ。大多数がピラミッドの底辺を占める。つまり、魔力はそこまで強くない。ゆえに街には他人にかけられた魔法を解くための「解術屋」がある。
解除、できるのかしら? メラニーに?
そこまでの魔力があるとは思えないのだけど……。
私の口元に、メラニーの手から放たれた碧紫色の光が届いた。
まぶしさに目をつむる。
ほんのり口元に温かさを感じ……。
「どうですか、シルヴィさま?」
「……あ、あ、あ、うん。出る。声が出るわ、メラニー」
「良かったです」
「ありがとう。助かったわ。メラニーは予想していたより魔力が強いのね」
「そうでもないですよ、シルヴィさま。私の魔力などたいしたことないとわかっていたから、私達を誘拐した者も、シルヴィさまにしか口封じの魔法をかけなかったのですから」
「なるほど」
メラニーは、今度は手錠へと目を落とす。
「シルヴィさまの魔法で、私の手錠をはずしていただけませんか?」
「分かったわ」
なんの魔法を使うか考える。
メラニーに傷つけるわけにいかないから、切断や炎を使う魔法は止めよう。
ならばこれだ。
「腐食魔法、発動。手錠よ、錆びなさい」
右手、左手の順で手錠の一部を腐食させる。
錆びてボロボロになった手錠は簡単に外すことができた。
今度はメラニーが、私の手錠にも同じ魔法を使う。
これで手錠がなくなり、両手は自由だ。
「ねえ、メラニー、今の状況は?」
「はい、ご説明します。座りますか?」
メラニーの言葉にチラッとごつごつした岩の床に目をやる。
絶対に虫が……いる。
「ああ、シルヴィさまは虫が苦手でしたね。では少し清めますか」
ござのようなものを手で持ち上げたメラニーが呪文を唱えると。パラパラと音がして、ごつごつとした岩の床に白い粒が転がった。さらにさっぱりとしたレモンの香りが漂う。
すると、カサカサという身の毛もよだつ音が一斉にして、私は嫌悪感で膝が震え、泣きそうになる。
「もう大丈夫ですよ、シルヴィさま。ソルトは唯一あの黒い虫が食べない物。そしてシトロネラールはあの虫が嫌う香りですから。もう近寄ってきませんよ」
近寄ってはこないけど、いるわけだ。
離れた場所に……。
でも今は文句など言っていられない。
状況を確認しないと。
元に戻されたござのようなものの上に、メラニーと二人で腰を下ろす。
「まず、私が目覚めたのは20分ほど前です。その時点で見張りはいませんでした。シルヴィさまのバッグも私のバッグも手元にはなかったのですが、身に着けていた懐中時計はそのままだったので、時間は確認できました」
メラニーが懐中時計を取り出し、時間を見せてくれる。今は16時過ぎだ。
「私達がさらわれたのは15時になる目前。あの場から馬車で40分前後移動したと思われます。そうなるとここは、まだギリギリ王都かと。そして見ての通り、地下牢ですが、天井までの高さ、通路の先に見える階段から察するに、地下深い場所ではないようです」
その言葉に頭上や通路の先に見える階段へ目をやる。
「でも行き交う馬車や自転車の振動などが、一切関知されません。この地下牢の上は往来があるような場所ではないのでしょうね。王都ではあるものの、往来がないような静かな場所。でも地下牢なんて、ただの民家の床下になんかあるものではありません。このような牢があるとなると、国に関連する施設の地下になります。となると、犯人は国の機関に属する者。しかも狙われたのは、どうも聖女とシルヴィさま。しかもあの場に私達がいると知った者による犯行です」
メラニーの言葉にぽかんとする。
私より20分前に起きたばかりで、そこまで事態を掴んでいることに。
ただの侍女だと思っていた。メラニーのことを。
いや、セルジュがメラニーは元騎士だと言っていた。
元騎士ってこんなに勘が鋭いの……?
思わず感心してしまうが、今、とんでもない情報がもたらされた気がする。
狙われたのはリサと私で、しかもあの場に私達がいると知っていたと言わなかったか?
それ以前に……。
「ねえ、リサもさらわれたってどうして分かったの?」
「それは……見た方が早いと思います」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は、本日 12時台 に以下を公開します。
「何処の誰がこんなヒドイことを……!」
犯人はもしやあの人……!?
引き続きよろしくお願い致します!
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既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
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