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完結●悪役令嬢ただし断罪後のハピエン確約で異世界召喚!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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16/30

15:現状分析不可能

 こうなったら。


 分かりにくく遠回しな方法ではなく、直接的な手段に出るしかないのではないか?


 直接的な手段。

 そう。

 乙女ゲーの悪役令嬢がやること。

 ヒロインの誘拐だ。


 平日の日中、セルジュは執務に追われている。そして平日の夜の舞踏会ぐらいしか、リサに絡むチャンスはないのに、それも難しくなってしまった。


 先日のアフタヌーンティーのように、セルジュに無理に時間を捻出してもらい、作戦失敗では本当に申し訳ないし、時間の無駄だ。それに休みの日を待っていては、あっという間に時間が過ぎてしまう。


 だから。


 セルジュが執務中に私がリサを誘拐する。

 誘拐……というか、監禁?

 王都にある宿に閉じ込め、セルジュに色目を使っている気がすると文句を言う。その一方で、セルジュの執務終了時間にあわせ、連絡をいれる。リサを監禁している宿の名前と部屋番号を伝え、セルジュにリサを救出してもらう。


 これなら文句なしで悪役令嬢になれる。


 誘拐された上に監禁されるという怖い目にあったリサは、きっと恐怖で心が震えているはずだ。そこにセルジュが駆け付ければ、いわゆる吊り橋効果で絶対に恋に落ちるはず……!


 私はこの『リサとセルジュの吊り橋効果作戦』を秘密裡に実行したいと思っていた。


 何せみんな忙しいのだから。余計な手を煩わせたくない。何より、リサは私のことを信頼しているから、呼び出せばどこにだってくるはず。それに私は女性なのだから、宿の部屋に連れ込んだところで、警戒なんてされない。


 宿の部屋で薬入りのお茶を飲ませ、眠らせてしまえばいい。


 眠るまでの間に、適当な文句をリサに聞かせればいいだろう。そしてあとはセルジュに連絡し、到着を待つだけだ。


 これぐらいなら私にでも絶対できる。


 ただ。


 街へ出るなら、外出の許可と供の一人はつけないといけないだろう。そして今、私はその許可をセルジュにとりつけるつもりだった。


「あ、セルジュ、待ってください」


 舞踏会にちょっとだけ顔を出し、それを終えて部屋まで送り届けてくれたセルジュを呼び止めた。


「あ、あの……せっかくドレスアップしました。ドレスを脱いで入浴をして寝るだけではもったいなくて……。少し、おしゃべりでもしたいな、と」


 どんなことであれ、何かをお願いし、聞いてもらいたい場合、いきなり本題突入は失敗しかねない。場の雰囲気を温め、相手を寛がせる必要がある。奇しくもモラハラDV夫のおかげで私が学習したことだが、これは世間一般にも通用するもの。


そのため今日のドレスは、私にしては珍しく、アンティークグリーンのものを選んでいる。グリーンには心を寛がせ、穏やかにする効果があると言われているからだ。


「……ごめんよ、シルヴィ。今まで、頭が回らなかった。確かに私に比べ、シルヴィは身支度に時間がかかりますよね。せっかくそんなに美しく着飾ったのに、もう脱いでしまうのは、確かに勿体ないことです。いいですよ、少しおしゃべりをしましょう」


 フロスティブルーの燕尾服を着たセルジュは、優しく微笑む。そして扉の外で待機するランディに声をかけ、私のところへ戻ってきた。


「では座ろうか、シルヴィ」


 テーブルと椅子の方へ向かおうとしたセルジュに待ったをかける。


「セルジュ、こちらのソファに座りませんか? 私、ドレスですし、ソファの方がその、少しだけ楽なので」


 今日の私のドレスは、マーメイドドレス。

 正直、椅子に座ろうが、ソファに座ろうが、大差はない。でも椅子に座るとセルジュとは、対面で向き合うことになる。基本的に相手と寛いで会話したいなら、対面で着席するより、横並びか斜めが好ましい。これは大学の心理学の授業で学んだことだ。ソファであれば、必然的に横並びで座ることができる。


 異世界に来て、3週間以上経つが、王室の霊廟に行った時以外、宮殿の外へ出たことがない。別に宮殿に閉じ込められているわけではない。単純に妃教育に追われ、悪役令嬢を演じるために奔走した結果、宮殿の外へ行くことなど思いつくこともなかっただけだ。


 だから今回、秘密裡に行うリサ誘拐&監禁を実行するため、私は初めて外出することになる。そしてその外出の許可をセルジュからもらうのだ。できればスムーズにOKと言ってもらいたいと思っていた。


 ゆえに。


 少しでもセルジュが寛いでくれるよう、横並びで座ることができるソファを選んだ。そしておしゃべりをしてセルジュがリラックスしたところで、外出の件を持ち出そうと思っていた。


 こうしてソファに並んで座ったのだが。


 チラリと横に座るセルジュを見ると、心なしか頬がほんのりピンク色に思える。私の視線に気づいたセルジュが少しだけ慌てたように微笑む。


「シルヴィの隣に座るって久しぶりだから、少し緊張してしまうね」

「!?」


 寛いでもらうためにソファを選んだのに!


「エスコートしている時よりも距離が近いから、シルヴィのつけている香水も感じます……。バラのようなみずみずしく甘い香りがしますね」


 そう言うとさりげなくセルジュが私の手を握った。


 握った手を起点に、私の肌はセルジュの腕に触れ、ただ隣に座ったつもりだったのに、互いの脚や太股も触れ合っていることに気づいた。寛ぐためにただ隣に座りたいだけで、こんなに密着する必要はないのだけど。


 あと手をなぜつなぐのだろう……?


 思わず見上げると、セルジュの顔が思いのほか近くて、心臓が飛び跳ねる。


 ヤバい。

 私まで緊張してきた。


「セルジュ王太子さま、シルヴィさま、失礼いたします」


 メラニーの声が聞こえ、ドアがノックされる。


「ああ、入ってくれて構わない」


 セルジュはそう答えながら、握っていた手をゆっくりとはなし、脚を組んだ。


 その瞬間、一気に密着が減り、思わずホッとする。


 部屋に入ってきたメラニーの手にはトレンチがあり、ティーポットとティーカップが載せられていた。


 どうやらランディに一声かけた時に、お茶をもってくるようにセルジュが頼んでくれたようだ。


 こういう気遣いができるセルジュって、ホント素晴らしいと思う。


 用意された紅茶は、柑橘系の香りがしている。多分、オレンジピール、オレンジブロッサム、レモングラスなどのブレンドティーだろう。


「このブレンドティーはセルジュの好みのものですか?」


「うん。すっきりして、香りもさっぱりしているから、気に入っていますよ。シルヴィの好みに合うといいのですが」


「もう香りから気に入っています!」


 セルジュは嬉しそうに瞳を細める。


「少し甘くしたいなら、ハチミツもいれるといいですよ」


 私に蜂蜜の入った瓶を渡すセルジュの表情に、緊張感はない。


 これはいい傾向。


 自分の好みのブレンドティーを飲めば、リラックスすること間違いなしだ。この紅茶を楽しみながらおしゃべりをして、そこで外出の話を出せば……。


 絶対に許可をもらえる!


 メラニーが注いでくれたブレンドティーを、早速口に運ぶ。ふーっと息をふきかけ、口に含むと……。


 ああ、本当にさっぱりして美味しい。


 メラニーが部屋を出て行くと、私はセルジュとおしゃべりを始めた。


 私がどんな子供時代を過ごしたのかと尋ねると、セルジュは自身の子供時代から始まり、学生時代まで、様々な話をしてくれた。


 子供の頃はかなり腕白で、護衛の騎士を巻いて、妹や弟たちと街へ抜け出していたこと。街ではガキ大将と喧嘩したり、パン屋の年上のお姉さんに憧れたりしたこと。


 学生時代は学校の勉強に加え、王太子となるため、魔力を強化するため、さらには肉体を鍛えるために、大忙しの日々を送っていたこと。


 繰り返される婚約と破棄で、一時、自分の婚約者が誰であるか分からなくなったこと。三日で婚約破棄された話や、50歳も年上の未亡人の女王と婚約させられそうになった話など、朝食や昼食の席では話さないようなことを、沢山話してくれた。


 いろいろと聞かせてくれたセルジュに対し、私は何も話すことがない。この異世界に来てからのシルヴィの18年間の人生は、セルジュが作り上げてくれていた。だから当然すべてセルジュは把握している。かといって前世のしょうもない私の人生について話す気にはなれない。


 ……あ。


 ふと思いついてしまった。

 これは名案だ。もしもの時にこれができれば絶対に役に立つ。


「セルジュ、召喚について少し尋ねてもいいですか?」

「うん。私で答えられることでしたら」


 召喚は……予想はついていたが難易度がかなり高い魔法なのだろう。それでも一塁の望みをかけ、尋ねる。


「私は、シルヴィは、魔力がそれなりに強いのですよね?」

「うん」

「ということは私も召喚はできますか?」

「召喚か……。そうだね。霊獣や魔獣はできますよ」

「人間は……?」

「それは……難しい……でしょうね」


 セルジュが困った顔をしている。

 それでも尋ねずにはいられない。


「その、訓練とか練習をすれば、できるようになる可能性は……?」

「シルヴィ」


 そう言ったセルジュの手が私の頬に触れる。


「人間の召喚は、一生に一度しかできないと言いましたよね?」

「はい」

「魔力もとても消費します。体にかかる負担も大きい。だからシルヴィには……難しいと思います」


そこでふうっと息をはいたセルジュは……。


「そんな質問を突然したということは……。私はもう人間の召喚をできない。私の代わりに悪役令嬢を演じられる人間を、召喚しようと考えているのでは?」


 図星だ。

 なんで分かった!? いや分かるか。


「ねえ、シルヴィ。私は君を信じています。悪役令嬢を演じるならシルヴィでいい。いや君じゃないと私はイヤです。シルヴィの代わりなんて必要ない。君でいいと思っています」


 何が起きたか分からなかった。

 気付いたらセルジュの胸の中に抱きしめられていた。


 なぜ今、抱きしめる……?


 現状分析不可能と脳が悲鳴をあげている。

お読みいただき、ありがとうございます!

次回は、明日 7時台 に以下を公開します。

「タイトルサプライズ」


タイトルは明日、明らかに。

たまにこのパターンあります。


引き続きよろしくお願い致します!

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