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完結●悪役令嬢ただし断罪後のハピエン確約で異世界召喚!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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12/30

11:並々ならぬ決意

 遂にリサにグラスの中身をぶちまける!

 が。

 右手を見ると、グラスがない。


 なんで!?


 リサが私のグラスを持っていた。


「あぶなかった、シルヴィ。助かったよ」


 エリックが空のグラスを掲げる。


「ありがとうございます、シルヴィさま。おかげで濡れずにすみました!」


 右手に自身のグラスを、左手に私のグラスを持ったリサが、笑顔で私を見た。



 どうしてダメなのか?

 今日はドレスもメイクも悪役令嬢にしたのに。

 あと、少しだったのに。


「シルヴィ、顔を上げてください。君が頑張ってくれているのはよく分かります。また次、頑張りましょう」


「……セルジュ」


「大丈夫。まだ時間はありますし、チャンスはありますから」


 セルジュの言葉が胸に染み、泣けてくる。


 舞踏会が行われているホールを後にし、部屋まで送ってくれたセルジュは……。暗い顔をしている私を、優しいセルジュは放っておくことなどしない。私の部屋に入り、ソファに並んで座ると、励ましの言葉をかけてくれた。


「シルヴィ、泣かないで」


「……!」


 優しく。

 まるで壊れ物を扱うように、包み込むように。

 セルジュの胸の中に抱き寄せられた。

 爽やかな石鹸の香りがする……。

 清廉なイメージのセルジュの香りに、さらに涙が誘われる。


 私がちゃんと悪役令嬢を演じないと、セルジュは死んでしまうのに。


「大丈夫ですよ、シルヴィ」


 優しく背中を撫でられると、ますます涙が止まらない。


 結局。


 それからの15分は、セルジュの胸の中で泣き続けた。


 するとメイクが大変なことになり、泣き止むと同時に私はバスルームへ飛び込んだ。セルジュはそんな私のためにメラニーを呼んでくれた。おかげで私はそのまますぐ入浴ができた。入浴を終えると、部屋にはセルジュの姿はなく、代わりにメッセージカードが届いている。


 ――愛するシルヴィ、君のことを信じているから。

   泣かないで。今日はゆっくり休んで。


 なんてセルジュは優しいのだろう。

 再び涙腺が緩みそうになるが、「泣かないで」とセルジュは言っている。


 そうだ。泣いても何も変わらない。

 泣くのではなく、成果を出すのだ。

 なんとしても悪役令嬢としてリサに嫌がらせをする。


 そう誓い、休むことにした。



 人間には向き、不向きというのがあるのだと思う。

 そして私は……なぜか悪役令嬢に向いていない。


 『どうせ安物だからいいわよね作戦』から一週間。


 毎日の妃教育は恐ろしいほど順調だ。

 その一方で……。

 『パンがないならお菓子を食べればいいわよ作戦』

 『花よりお菓子作戦』

 『なんで同じドレスなのよ作戦』etc……。


 ことごとくすべての作戦が上手くいかない。

 そして今日。

 休日である今日は、宮殿内にある湖で、ボート遊びをすることなっていた。


 王太子主催のボート遊びということで、相応の人数が集まる。もちろんリサのことも招待し、出席することになっていた。


 本日の作戦。

 それは『あらあ、ごめんあそばせドボン作戦』。


 つまり、ボートからリサを突き落とすという、これまでにない作戦だ。


 リサが泳げるかどうか分からないが、セルジュもランディも泳ぎが得意なので、すぐに飛び込む手はずとなっている。万が一の時は、シルウスが魔法で対処する。


 今日こそはなんとしても成功させる。


 というか、もし今日成功しなかったら。

 私はセルジュに伝えるつもりだった。

 悪役令嬢は私に無理だと。申し訳ないが辞退したいと。別の誰かを召喚して欲しいと。それで王宮から追い出されても仕方がない。一応オゾン家の人間なのだから、帰る家はある。


 でも。

 今日の作戦の成功を諦めた訳ではない。自分ができるベストを尽くすつもりだ。


 軽快に動けるようにしたい。

 その想いから、今日はミルキーピンクに白い水玉のブラウス、白い麻のプリーツスカートを合わせた。ウエストにはチャコールグレーのコルセット風ベルト。日傘は邪魔になるのでキャノティエを被ることにした。


 朝食の席で私の装いを見たセルジュは、まるで私の服装に合わせるかのように、わざわざ着替えてから部屋に迎えに来てくれた。


 ライトブルーのシャツに、白のジレ(ベスト)、センタープレスされた白のズボン。シャツは腕まくりして、スポーティな感じがする。


「行こう、シルヴィ」


 軽やかな装いだが、エスコートをすることは忘れない。


「今日案内する湖は、とても透明度が高く、美しい湖だよ、シルヴィ」


 私を連れて歩くセルジュは、大天使のような美しい笑顔で話しかけてくれる。


 何度やっても悪役令嬢として成功しない私を、セルジュは一切責めない。むしろ失敗すればするほど、優しくなっていくように感じている。


きっと気を使ってくれているのだと思う。


 セルジュの優しさを感じる度に、申し訳ないという気持ちと、次こそは必ずということで頑張ってきたが……。


 今日こそは決着をつけよう。


 湖につくと、そこには既に多くの人が集まっていて、いくつかのボートが湖上に出ている。まずは湖を見てみると……。セルジュが言う通り、透明度が高い。手前は浅いので、底までハッキリ見えている。


「おはようございます、セルジュさま、シルヴィさま」


 声に振り返ると、ランディとシルウスがいた。


 ランディはきっとセルジュに指定されたのだろう。湖遊びでは事故が起きるかもしれない。その場合、すぐ飛び込めるよう、軽装にしろと。だから白いシャツにインディゴ色のズボンと、軍服ではない。でも腰にはしっかり剣を帯びている。


 シルウスはいつも通り、濃い紫のローブ、その下には白シャツに濃い紫のジレ(ベスト)、ライトパープルのスーツの上下だ。


「セルジュ王太子さま、シルヴィさま」


 リサ!


 輝くような笑顔のリサは、私と同じ、白のブラウスにベージュのフレアスカート、ストローハットという装いだ。ストローハットには造花ではなく、生花が飾られている。


 ことごとく作戦が失敗することで、私は何度もリサのピンチを救うことになり、今や親友も同然になっていた。


「宮殿内の湖で遊べるなんて光栄です。今日は二人ほど友人を連れてきてしまったのですが、大丈夫ですか?」


 リサの背後を見ると、三つ編みの少女と眼鏡の少女がいた。

 どちらも15歳ぐらいに見える。


「ええ、問題ないわ。ボートは二人乗りだから、騎士と一緒に乗せるようにしましょう」


 私の言葉にリサは嬉しそうに「ありがとうございます!」と返事をする。


 そう。

 ボートは二人乗り。

 シルヴィは学校を卒業するまで地方都市で過ごした。自然に恵まれたその地で、ボート遊びも散々していたということで、ちゃんとボートも漕げる。だから私はリサとボートに乗ることができる。


 リサが連れてきた二人の友人を騎士にまかせ、セルジュはランディと共にボートを出す。私もそれに続き、ボートを出し、リサと共に漕ぎ出す。


 シルウスは岸辺で皆の様子を見守っている。


「シルヴィ、聖女さま!」


 ボートを漕ぎ出すと、こちらへ手を振る人物がいる。


 ウォーターグリーンのシャツに、ターコイズグリーンのジレ(ベスト)、同色のズボンという装いのこの人物は……エリックだ。


 エリックは一人でボートに乗っている。


「リサの友達の一人は、エリックにのせてもらっても良かったかもしれないわね」


 そう言ってリサを見ると……。


 え、頬が赤い!?


 リサの目線の先にはエリックがいる。


 まさかと思うが。

 本当にまさかと思うが。

 リサはエリックに心惹かれている……!?


 なんだかんだで作戦決行の現場に、エリックがいる機会も多かった。そしてさりげないアシストをしていることも……度々あった。アシスト……それは作戦が失敗になる方へのアシストだが。それはつまり、リサのピンチを救うことにつながっているわけで……。


 リサの中でエリックの好感度が上がっているのでは?

 どうしよう。

 リサがエリックを好きになってしまったら……。


 いや、大丈夫。


 私は手に持っているオールをぎゅっと握りしめる。


 今日でその気持ちを覆す。


 いまだエリックを見ているリサに、心の中で語り掛ける。


 リサ、ごめんなさいね。

 あなたのこと、湖に落とす。


 私はボードを漕ぎながら周囲を伺う。


 セルジュは私の目線に気づき、静かに頷く。

 いつでもいいと口を動かし教えてくれる。


 一方のエリックは、私達がいるところより少し離れた場所にいる。こちらへ向かってボートを漕いでいるが、間に合わないはず。つまり、エリックがリサを助けることはない。


 ならば今だろう。


 私はボートのバランスを崩そうと、オールを持ち上げたのだが。


 透明度が高く、底が見えるはずだった湖の湖面が、黒っぽくなっていることに気づいた。


 雨雲でも急速に広がった?

 空を見ると、そこに広がるのは晴天の青空。


 ではこの湖の水の状態は何!?

お読みいただき、ありがとうございます!

次回は、明日 11時台 に以下を公開します。

「絶対絶命。だけど役目を果たせたかな?」


なんだかピンチな状況に!


引き続きよろしくお願い致します!

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