:京の想い
朝早く水鏡は起きた、まだ京は寝ているようで可愛い寝顔を見せていた。
その顔を見ながら和むと同時に寂しい気持ちになった。
もう明日からはこの笑顔とは会えなくなると思うと、寂しくて寂しくて仕方がなかった。
服を着て、まだ光り続けている体に感謝して、一度京の額にキスをしてから立ち上がる。
分かっていた事だ、関係を深くしてしまえば傷も深くなってしまう。
だが、それがわかっていても水鏡は京と関係を持ちたかった、自分がいたという証拠を何よりも大切な人に残しておきたかった。
水鏡はその想いを残したまま、この場を立ち去ろうとするが、それは自分の服を握る京によって止められる。
「もう行っちゃうの?まだ残れるでしょう?」
「もう行かないといけない、いまでも俺の事を待っている人がいるから、俺はもうこれ以上あいつを待たしたくない」
「私以外の女?」
「お前以外の唯一人の女だ、生まれた時から俺の為に生き続けてくれていたな・・・・・俺は何人もあいつを待たしてしまったから」
水鏡の顔が悔しそうに歪み、京は微妙な表情になる。
「なら私は我慢するわ、この体に残るあなたの想いで我慢する事にしましょう」
「・・・・・ごめんな、京、本当はもっと一緒にいたかったんだけど、どうやら俺の運命はそれを許してくれそうにない」
悲しそうな声につられて、京の目に涙が浮かぶ。
「いいのよ、気にしてないわ・・・・・あなたとつながれて良かった、あなたはやっぱり最高ね」
「ありがとう、京・・・・・じゃあ俺はもう行くから、また来世があればね」
「―――――――――うん、また来世」
京が服から手を離した瞬間水鏡の体はどこかへ消え去った。
挙動の一つ一つすべてが雷速に位置するようになってしまったので当然といえば当然なのだが、見方に寄れば、惜しむ事なし、ともとれる。
京は水鏡の服を掴んでいた手を握ったり撫でたりする。
「久しぶりだよ、私に涙を流させた男は・・・・・何時以来かな」
遥か昔に自分を愛で、自分を抱き、自分を吸血鬼にした男が思い浮かんだ。
今思えばこの時からかもしれない、自分が一閃についてきて初めて一閃以外に目をとめた存在。
「そうか、深く考えればすぐに気が付いてたんだろうな・・・・・彼が私のところに帰って来てくれてたんだって事に」
彼の最終目的は死ぬ事だった、ならどんな手段であれ死のうとしたのだろう。
彼ほどの強大な吸血鬼はそうはいなかった、強大で最高であったがゆえに死ねなかった彼は死んだのだ。
それでも義理堅い彼の事だ、私の事を愛する為にもう一度戻って来てくれたんだろう。
「あれから何年も月日が経っているから、一体どれだけ輪廻転生を繰り返したかは知らないけど、きっとまた会えると信じて」
そう考えるとこれが輪廻転生の最後の世界になるのだろうか。
彼の最終目標を伸ばしてまで生きてきた意味ももうない、ならば後は達するだけなのだろう。
だが京は追う事はしなかった、彼にはいまは待ち人がいるのだろうから、自分が行ってそれを邪魔する訳にはいかない。
「コレで最後でしょうね水鏡・・・・・いや、オルタ・・・・・」
京はまたベッドに横になった、そんな気分では無かったのだが、寝る以外に何も考えれなかった。
「私はいつまでも生き続ける、彼との想いを胸に秘めて・・・・・」