:水鏡、死期迫る
雷羅は目の前に横たえている大傷を受けながらに生きている鋭美を見ている。
その姿は悲惨なものだ、両足は完全に消されていて、片手は最低永久麻痺だろう。
さらには強制的に蓄積可能領域を無理矢理こじ開けて、蓄積を不可能にしている、さらには『才気』を妨害出来るようにしている。
おそろか鋭美の『才気』は最高でもレッドラインの1くらいまで落ちるだろう、一回打ち砕いた事により『情』は発動出来なくなっている。
目を覚まさなければ気付きはしないが、おそろく長期に渡る精神障害ないし記憶障害に陥るだろう。
「やはり優しいのですね、マスター水鏡・・・・・でも、確かにあなたに殺しは似合わないです」
だが死んではいないのだ、生かされている、鋭美は水鏡によって生かされているのだ。
「その呼び方はもう止めてくれ、マスターは付けないでいてくれると助かる、その言い方はあまり好きじゃない」
「・・・・・水鏡様、自分の体について分かっているかしら?」
「そうだな、とりあえず分かる範囲で聞いておこう、どのくらい毎でどれくらいだ?」
水鏡は自分の状態を理解して簡潔にそう言い、雷羅はその意味をこれまた簡潔に答える。
「一時間毎に10億、人間を構成するんだからこれで当然なんだけど、いくら溜めても此方の蓄積が間に合わないんだよ」
「そうか、保って一日半くらいか?なぁに、それだけあれば十分さ、俺の未練なんてただの一つしかないんだからな」
「未練?水鏡様は『地獄の使者』を『八皇』守り抜いた、これで未来で『地獄の使者』の名は轟く、これで満足ではありませんか?」
雷羅は驚いたような声で聞く。
水鏡は少し照れたように頭を掻いてから、その胸の内を明かした。
「好きな奴がいるんだ、どうせ死ぬんだったら想いだけは残しておきたい」
「うぅ、私の前で他の女の事はあんまり言わないで欲しいんですが・・・・・嫉妬しちゃいます」
雷羅はツンケンした態度になっているが、水鏡はそんな雷羅の髪に手を入れて優しく梳く。
擽ったそうに身をくねらせる。
「ごめんごめん、でもハッキリさせとかないといけないしな・・・・・大丈夫、俺は絶対に戻ってくる、だからここで待っていてくれ」
「――――――――――――・・・・・・・・・命令であるなら従うまでです、水鏡様」
「ありがとう雷羅、安心しろ、俺の最後を見届けるのは雷羅、君だけの特権だから」
「今だけはこう呼ばせてください、マスター水鏡、ありがとう」
そんな雷羅を一度だけ見つめてから、一際強く一回撫でると水鏡は消えた、おそらく愛する人の元に行ったのだろう。
雷羅は一度だけ撫でられた髪を触れて、遠い空を眺めた。