:地獄の雷
「そんな馬鹿な・・・・・・」
鋭美はその場にものすごく不愉快な顔をして立っていた。
見つめる先には、全身から眩い光を放っている男と、その横で当然のように佇んでいる女。
【不愉快だね・・・・・・・・僕の『グングニル』を止めるばかりか、その後に余裕そうな格好を見せられるのは】
その二人に向かって攻撃を放つ、いくら溜がないといっても、もとから普通の数倍は強い攻撃、簡単に弾けるやつはいない。
その攻撃を女の方がいとも容易く片手で軌道を上に反らせた。
男の目が此方を捕らえた。
間合いは一瞬で詰められて、鋭美の前に男、水鏡が立っていた、やはり体は光っている。
「この力・・・・・・『八皇』で間違いないな?」
「そうだよ、僕は『八皇』、『絶対必中』『グングニル』『雷神』の鋭美だよ」
「名乗りか・・・・・・『地獄の使者』、『覇光』『雷人』の水鏡だ」
「『雷人』か、なら僕には勝てない事がわかるかな?こっちはさらに上の『雷神』だよ?」
「勝てる勝てないはそんなことでは決まらない、それに、俺はこんなところで負けるわけにはいかないからな」
またしても鋭美が不愉快そうな顔をする。
そして、普通なら必殺ともいえるそれを、水鏡の横にいる女がいとも容易く片手ではじき飛ばした。
そして、にこりと笑顔を鋭美に向けてくる。
それが、鋭美には腹が立って仕方なかった。
もう後の事は考えずに本当に今自分に溜まっている全ての『才気』を解放して予備も何もかもを詰め込んで水鏡に放った。
だがしかし、それを以てしてまでも女はなんなく片手で握りつぶしてしまった。
「これは一体どういうことかな?なにか特殊な薬でも使ってないと納得できないね」
「さぁ、俺にもわからん、説明してくれ雷羅」
水鏡はそう言って隣に立っている女を見た。
「そうね、普通の雷の『才気』を1としましょう、あなたの一回に放てる力は10です」
その事実に少し驚く、水鏡。
当然だ、自分ではそれほど強いとは思っていなかったのだから。
「ちなみにこの方はおおよそ50といった感じかしらね、二人に共通するのはそれを溜める事が出来ると言う事」
「そうなのか?俺はそんな事気付いてなかったが・・・・・」
「無意識に使わない部分を回していたのよ、一秒平均75くらいほどかしら、ちなみにそっちのやつは確実に100前後くらい」
「そこでも勝ってはいないのか・・・・・・・」
水鏡は少し落ち込んでいるようだが肝心な事に気が付いていない。
鋭美が心底不愉快そうな声で雷羅に聞く。
「そんな力の差が有りながらなんで君たちのほうが勝っているのかな?」
「あなたの力、結構あるわよね、一日で大抵の奴が適わないくらいにも、でもね、予備を残して毎回使い切っている、それが敗因よ」
「それでも十日分は残しているんだよ?」
「たった十日でしょう?あなた、マスターが一体いつから自分の『才気』を溜始めたか知っていますか?」
「俺が溜始めた時期?・・・・・・俺はそんなことすら知らなかったから始めた記憶もないぞ?」
何気ない水鏡の一言で、鋭美の顔が有り得ないほどに歪んだ。
それをみて、口の端を吊り上げるようにして笑う雷羅。
「あなたの予想通りですよ、マスターは生まれた瞬間からその力を蓄え始めたの」
水鏡の溜められている力の総量は五億くらい、対する鋭美は四億くらい。
一億といっても、その差は雷からすれば大きいとは言えないほどのものだ。
だがそれがもし・・・・・・・。
「常に『情』を発動しているからこそ、その力が発揮できたのでしょう?あなたは、でもマスターは違う、マスターは五億にさらに百倍」
「ということは俺のいまの力は五百億か?」
「いいえマスター、私は一回の防御で十億消費しています、だから正確には四百五十億です」
無駄使いもいいところ、鋭美の一回の攻撃はせいぜい強くとも一億程度、それを毎回十億で粉砕しているというのだ。
鋭美はこの時初めて恐怖というものを感じた。
「ぃゃ・・・・・・・・・・」
それはあなりに強すぎるもののため、それに満たされた心が逃げ場を求めてはき出される。
「っというわけだ、すまないな鋭美とやら、丸腰の相手にトドメを刺すのは気が引けるが、『八皇』ならば仕方ないだろ」
ガタガタと震えている鋭美を余所に、雷羅が飛び上がる。
周りから雷雲が集まってきた。
「雷の『八皇』、負けは初めてか?」
「ぁ・・・・・・ぁぁ・・・・・・・」
「そうか」
躊躇い無く、水鏡が手を下ろしたように見えた。
雷雲がひとかたまりに集まり、空から、のこる内の百億もの力を注ぎ込まれた雷がおちる。
「―――――――『地獄の雷』」
世界をまた、今度は違う者が発した光によって埋め尽くされた。