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   :雷羅

水鏡は自室で考え事をしていた、その内容とは掠れている『紡ぎの糸』総指揮大介との戦いだった。

その最後の一撃、あれだけはどう思い出そうとしても思い出せなかった。

大介の放った渾身の一撃が自分の顔を貫いた、であろうことまでは記憶に残っている。

だが、現在の自分にはそのような外的損傷は見あたらないし、中身だってまったく変わっていないと自分では理解している。

あの時一体何があったのか、それだけがあの戦いの唯一の心残りであった。

「結局俺は勝てたのかな?・・・・・だって逃げ切れてるわけだし・・・・・いや、逃げてるなら負けか・・・」

そんな事を考えていると、ふとあの光景を思い出した。

何にもない世界、そしてそこにいた、少し泥をかぶっている豹。

思えばあれは心残りになっていない、まるで最初から知っているかのような存在であったはずだ。

「豹・・・・・かぁ・・・・・・」

今でも思い出せる、豹のように四肢を使って縦横無尽に駆け回った事を、あの豹と一緒に走っていたと言う事を。

水鏡にとっては全てが曖昧になっているその戦いにおいて、唯一鮮明で、最も意味がわからない個所でもある。

「俺はあんな豹に見覚えはないはずなんだけどなぁ・・・・・」

でも一緒にいて楽しくない事は無かったし、それにどこかとても懐かしい感じがしていたのは確かだ。

でもどこか走ってきたかのように、泥が付いていたし、よくよく思い返してみると息切れしていたようだ。

その時ピリピリと肌を雷が焼く。

「寝むれっていうのか?」

雷がまるで、肯定を表すかのように一度バチッと響く。

「あぁわかったよ、寝ればいいんだろ寝れば!」

水鏡はすぐさま眠りに入る。

夢に入ったのだろうか、周りには見慣れた白の世界ではなく、何匹も豹がいる世界が広がっていた。

「え?こんなにいっぱいいたっけな?」

そういえば前覚める時に増殖したような気がしたが、まさかこのような数にまで増えてしまっていたとわな。

「あら?もう眠ってたのかしら、後何分かは時間かかると思っていたのにね、まぁ早く来てくれて助かるわ~」

一匹言葉を喋る豹が混じっていた、しかも目の前にいて妙に際だって野生の雄々しさを撒き散らしている奴がいる。

「お前があの時の豹か、また・・・・・とてつもなくめんどくさそうな奴だな、おい・・・・・」

「なんだその物言いは、仮にも自分の『才気』ですよ?さっきの言葉は自分の『才気』をけなしているのと同義です、訂正を」

豹は拗ねたような口調だった、それによく見れば、豹の口調に周りの豹たちが賛同するように頷いている。

その可愛らしい姿を見て、ふとこの豹が走っている姿が浮かんできた、それは有り得ないほどの速さで有り得ないことだった。

その豹は目的など無かった、だからただ走り続ける事を目的とした、いつか本当の目的を得る為に。

その豹はだせるはずのない速さで走り続けた、いつか心と体が一致すると願い続けて。

その豹は存在意義がなかった、走る続ける事によって意義がないことを考えないようにした。

その豹は独りだった、仲間の存在など考えた事もなく、その世界にはその豹以外の豹は存在しなかった、する必要がなかった。

その豹は泥だらけだった、洗う必要はない、泥が付き汚れた分だけ走ったという証明になるのだから。

その豹には敵がいない、そもそもそこには敵と呼べるものすらなかった、故にその豹は自分の強さがわからなかった。

その豹は疲れた、だが止まるという事は今までの自分を否定してしまう事だった、だから止まらず走り続けた。

その豹は走り続けた、止まる事が出来なかったから、止まりたくなかったから、目的が欲しかったから、存在してよかったと確かめたかったから。

そしてとうとうその豹は止まる事が出来たのだ、その豹の目の前には自分がいた。

その豹は不安と安心、希望と幻想、浮かれと恐れ、感情を忘れる程走っていた、故にコレは本能だ、そんな気持ちで聞いた。

己が主の名前を、期待はしていないわけがない。

「大空 水鏡、この姿で会うのは初めてだが、そこまで驚いたような顔をされると傷付くな」

ただその時の主の顔が少し自分を戸惑わせた。

「訂正してくださらないんですか?」

ハッと我に返ると、目の前一メートルくらいのところまで豹が近づいていた。

「いや、訂正するよ、こんなに強そうな豹は初めてだ」

「それはお世辞とはっきりわかってしまいますが、まぁけなされるよりはいいので・・・・許します」

「ありがとう・・・・・えっと、名前ある?」

「名前など使う機会がありませんでした、どうしましょうか?」

「そうか・・・・・じゃあ雷羅にしよう、かっこいいだろう?」

「私は個人的には自分を女だと思っていますが、水鏡がそういうならそれでいいです」

雷羅は優しい笑顔を水鏡にむける。

その姿をとても美しいと感じた時、水鏡は現実世界に引き戻された。

「水鏡、寝てる場合じゃないぞ、緊急の用事だ!しかも最悪の自体だ!」

「どうしたっていうんだよいったい?」

水鏡が寝ぼけた声で目の前にいるおこしに来ている彰をみる。

彰は見るからに焦っているようで、いつもの落ち着いた雰囲気はそこには無かった。

「どうした?」

今度は真剣に彰を確認してから言う、それに対して彰がはっきりと伝えようと区切り多く言う。

「いいか良く聞け?あの再砂が、記憶を失って帰ってきたんだ!しかも現在進行で記憶の汚染が確認されている!」

それは『地獄の使者』を根本から覆すような大事件だった。

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