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   :苦難の楚良

小屋から少し離れた所で楚良は紗代を待ちかまえていた。

よく見れば手を血がにじむほど強く握りしめられていて、目だけは苦痛を訴えていた。

「母上・・・・・・・俺はどうしてもあの女に付いて行かなくちゃいけないんですか?」

小さいがはっきりと伝える、言外には行きたくないという想いを込めて。

「あの女なんて言っちゃ駄目でしょ?ちゃんと角理ちゃんって言うのよ」

紗代は息子の言葉を律儀に注意するが、楚良はそんなこと無視する。

「あんな女と一緒に居ても意味ない!どうせ旅立つくらいなら一人がいいし・・・・・旅立つ気なんてさらさらないです!」

「そんなこと言わないの、そろそろ自立してもらわないと母心配で心配で・・・・・それに、嫌ではないでしょう?」

紗代がニヤニヤしながら、イヤラシい視線を楚良に送る。

楚良は顔を真っ赤っかにしている。

「母上!どういう意味ですか!それに、今はそんな話しじゃないでしょ!!」

「あら?すきじゃなかったのかしら?私の思い違いだったかなぁー・・・・・」

「そこまでして俺をどこかにやりたいのですか!母上!」

「う~ん・・・・そうでもないんだけどね、じゃあゲームしようよ楚良ちゃん」

紗代は名案を思いついたかのように手を合わせる。

「これから楚良ちゃんが諦めるまで私を本気で殴りなさい、その拳が一階でも私に辿り着ければ楚良ちゃんの勝ちよ」

「そんなの母上の不利が明白じゃないですか、そんな勝負受けるわけにはいきません」

「そう、なら角理ちゃんに付いていくという事でいいかしら?そもそも母は負ける勝負は基本的にしないわよ」

紗代は楽しそうに両手を広げて楚良を挑発している。

「もちろん母は攻撃なんてしないわよ、母はここに立っているから何が何でもその拳を私に届かせるか・・・・・」

悩むようなポーズをとって、最も相手に最も有利と思える条件を付け加える。

「母をこの場所から移動させるかのどちらかよ、ね、これなら悪くない条件だと思わないかしら?」

「母上が不利すぎますが・・・・・考え無しというわけじゃないと知っているので受けます」

楚良は地を集めて、拳を強化する。

「条件を確認するよ?母上をその場所から移動させればいいんだよね?」

「そうよ、それか私にその拳を当てる事かのどちらかよ」

二人の間合いはおおよそ十メートル程度、この距離で強力な地の『才気』を持っている楚良に勝てるものは少ないだろう。

条件の一、移動させるという事は地面そのものをなくせば移動させる事が出来る、こんなこと楚良に容易い。

条件の二、紗代に攻撃を与える、これはいくら楚良でもかなえる事は難しいだろう、ならばやることは一つしかない。

「割れろ!!」

楚良の怒声と共に地面にひびが入り、それは一直線に紗代の立っている場所にむかう。

「やはりそう来ましたね、でも楚良ちゃん?ちょっと甘いんじゃない?相手は母よ?」

楽しそうな声で挑発する紗代、ひび割れは紗代の半径一メートルを境に止まる。

だが楚良もそんなことで決まるとは思っていない、故に全力でもって紗代の間合いをつめ、目一杯引いた拳を突き出す。

紗代は変わらず、ただ立っている、しかも余裕の笑みを残したままである。

ドゴッと嫌な音がしたが紗代の体からの音ではない。

楚良の拳は紗代の半径一メートル、ひび割れが止まった位置の上で止まっていた、音は周りの地面が完全にひび割れた音だ。

「っく・・・・!」

苦痛を漏らして足場が安定している所まで後退する楚良、紗代はその様子を愉快気に眺めているだけだ。

勝てない、それはあまりにも分かりきった事でもあった。

自分の相手は常日頃から父である大我が受け持っていた。

その大我に一度訪ねた事があったのだ。

「父上と母上はどちらが強いのでしょうか?」

そんな質問だった。

驚いた顔を見せた大我、その顔はそんなこともわからないのか、といっているようでもあった。

「楚良、俺がそこまで強いように見えるのか?」

「うん、でも母上が戦っている所なんてみたことないからどっちかなっと思って」

「なるほど、そういう訳か・・・・・・楚良一つ言っておく、あいつが本気で怒った時は自分の身を案じてとりあえず逃げるんだ」

小さい楚良は何故っと首を傾げていた。

「あいつの本気は洒落にならん、周りにいるだけで被害を被るからな・・・・後もうわかっていると思うが、俺は彼奴より数段弱い」

「数段って、どれくらい?」

「そうだな・・・・・俺が結婚した時は俺はあいつに攻撃を当てる事が出来ないくらいに・・・・・ハハッ!」

その意味がようやく分かった気がする。

周りが被害を被るのは地震の『才気』の煽りからであって紗代本人が何かしたわけでは決してない。

『才気』を使えば使うほど不利になると考えた方が良さそうだ。

楚良は今更ながら奥歯を噛み締める。

戦いたくない相手だが、例え自分が本気になった所で遊ばれるほどの相手、いったいどれだけの苦痛か。

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