:砂利の悪魔と正義の皇
その辺りだけはまるで夏のような光が差していた。
もちろん自然の光ではないのだが、それでも強い光だった。
「『道敷大神』!?こいつら少し強くなってないか!?」
「そうだな」
鋭美の攻撃はその全てが一撃で敵を葬る事を主とした必殺だった。
だがその攻撃を直に受けてさえ、砂の巨兵と大蛇はビクともせず、もくもくと二人を殺しにかかっていた。
「鋭美、下がって溜めろ、そろそろ品切れだろ」
『道敷大神』の言葉に反応してすぐさま後退する鋭美。
それを追撃するようにせまる大蛇を、『道敷大神』の拳が襲う。
いくら攻撃力は低いといっても組織内でのこと、普通の者達よりは数倍強い。
大蛇の表皮が少しへこんみ、その大蛇が目的を変えて『道敷大神』のところに向かってきた。
それを軽々と躱し、すぐに体勢を整え、状況を把握しようとする。
【鋭美来るまでおおよそ十分くらいか、その間この強敵を相手に一対三とは、まったくもって厄介だな】
負ける気はしない、自立操縦型なので動きが単調で読みやすいからである、当たれば重傷は間違いないが。
敵同士の相打ちを狙う事も容易い。
そんな事を思っていると、何かが途切れたように、砂の巨兵と大蛇の動きはとまってしまった。
「『道敷大神』~これはどういうことか、僕に分かるように説明してくれ~」
「無理だ、なぜなら俺にもわからん」
「それは、こいつらを操っていた本人がきたからこいつらの役目が終わった、ただそれだけのことにすぎない」
崩れた砂が山になっている、その上に先ほどまで華鈴と戦っていた再砂が立っていた。
その顔には愉悦のようなものが浮かんでいたが、二人はそんなこと見ている余裕がなかった。
二人の考えはただこれだけ、それを鋭美が言う。
「あなたを止める役は華鈴だったんだけど、どうしてあなたはここにいるんですか?」
「簡単だろう、華鈴が破れただけだ、今頃は地面に張り付きながら生死の境を行ったり来たりしているはずだ」
当然の事のように言われる。
「あなたにそんな力があるなんて僕には到底思えませんが?」
「どう思うかは個人の勝手だ、だがその考えは捨てた方がいいぞ、分かりやすく言えば俺は一閃くらいの力があると自負している」
「そんなに強いのか、ならば華鈴が負けた事も頷けるな、それでそのお前が一体ここに何しに来たんだ?」
「愚問だな、俺がここに来た理由は一つしかないだろう?もちろんお前等を殺す為にきたんだ」
「ならこんな無意味な会話をする意味があるのか?」
「あるだろ、いくら俺でも雑魚を殺す趣味はない、お前等にとってのこの時間は逃げる為のものだったんだ、もう逃がさないが」
凶悪な再砂の笑みが二人を射抜く。
鋭美は心底嫌そうに眉を寄せ、『道敷大神』は相変わらずの無表情で再砂を睨み付けている。
「話はこの辺で良いな、言い訳は作られたくないからハッキリと言うぞ、俺は今からお前達を殺す」
その言葉の迫力だけでみても再砂の異常性がハッキリと分かった。
そして不思議に思った、何故あんなやつを、初めは弱いと感じたのか・・・・・。
咄嗟に後ろに飛んだ。
何か来た訳じゃない、ただ無意識に後ろに後退をせまられただけだ。
「鋭美、俺が足止めする、お前は華鈴を見てきてくれないか?」
「止めれる自信あるの・・・・あれ、半端無いよ?」
「少しくらいは時間稼ぎになるだろう、華鈴が居ればもう一度立て直す事が出来る・・・・・・・いけ!」
鋭美は頷いて、雷となって駆けていった。
再砂は気にした様子もなく目の前の『道敷大神』を見据えていた。
「驚いたな、俺はお前が追いかけると読んでいたのだが、ククク・・・・」
「おぃおぃ、そんな冗談はなしにしとこうぜ、どうせ読んでたんだろう?」
「俺の『才気』は適用範囲がデカすぎてな、本気を出せばおそらくは味方の方が先に狂ってしまう、『七皇』だって例外じゃない」
『道敷大神』はがっかりと全身で表している。
その姿がオモシロかったのか再砂は笑っている。
「では俺に本気を見せてくれるのか?それは嬉しい限りだな」
「あぁ、本気でいかせて貰うさ、気を付けろよ、長引くほどおれに有利に変わっていくからな」
「いわれなくとも本気でいくさ、気をつけろよ、俺はもう背後だ」
『道敷大神』は振り向くことなく回し蹴りを放つ。
それを再砂は受け止めて投げ飛ばそうとするが、その動作は中断された、同時に『道敷大神』の体が溶けるように消える。
「・・・・・・幻影か、早いからとかではないな、ただ単に頭の認識に直接干渉しているのか」
「あぁそうだ、俺にはコレしかないからな、ただこれも度が過ぎれば最強の武器になる、生きたまま死ぬ恐怖をしるがいい」
『道敷大神』の『才気』が全面に展開される。
「再砂、『砂利』だ」
「それもいいかもしれんな、『道敷大神』、『正義』だ」
二つの以上は静かな衝突を開始した。
鋭美が見たものは圧倒的なまで惨劇の後に過ぎなかった。
「これって・・・・いったいここで何があったっていうのよ?」
ある場所を中心に地面がめくり上がっている、しかもその外にもかなりの距離をヒビが走っていた、
その中心の場所、華鈴が目も当てられないような状態で倒れていた、どちらかというと地面に磔にされていた。
両手が地面に不自然な格好でめり込んでいて、さらに両足も軽く足跡がついて地面にめり込んでいる。
その惨劇を起こしたものは誰だか分かっている、言うまでもなく再砂だった。
「っく!やりすぎでしょ!?」
鋭美は素早く華鈴に近寄って息を確認する、まだ微かに息はあった。
鋭美は神経を集中させて雷を落として、両手両足を傷つけないように地面から出した。
「とりあえず要塞まで戻っとこう、えっと・・・・」
鋭美は華鈴の体を探って、通信機を手にした。
《みんな聞こえると思うけど端的に伝えるよ、まず初めに作戦は失敗!すぐさま要塞に戻ってきて!》
それだけ言って、華鈴を担いだまま疾走する鋭美。