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   :秘薬・忘却

氷、氷、砂、氷、氷、氷、氷、砂、氷、砂――――――――。

その場所では氷と砂が激しい攻防を繰り返していた、いや激しいと言うには少し一方的でもあるのだが。

「遅れてるぞ」

大きな砂の塊が華鈴の頭上を襲う。

半瞬遅れて氷がソレを防ぎきって、すぐさま攻撃へと転じる為に先端を針のようにとがらせる。

完全に尖りきる前に砂がそれを削り取る。

「っく!!」

華鈴は力一杯後ろに飛んで間合いをとる。

再砂は余裕を見せるかのように早い追撃などせずに、ゆっくりと歩きながら間合いを詰めていく。

だがその存在感と相手に対する圧迫感は半端ないものでもあった、『八皇』のボス華鈴が眉を寄せるほどに。

「あなたの力少し反則過ぎませんか?そんなに力を保有していながらなんて量の砂を操ってるのかしら?」

「俺が強い?戯れ言だな、一言言っておくと俺は弱い、力で言えばホワイトの1だからな、現実は最下位の分類だ、この量は当然だろう?」

再砂は奇妙な笑みを携えながら歩き続ける。

【っく・・・・・みんなは何やってるのかしら!?早く落として一刻も早くこんな場所離脱したいのに!!】

「ほぉ、仲間がどうしてるのか知りたいのか?教えてやろう、どうせ『地獄の使者』には一人も入れないだろうからな」

再砂は立ち止まり耳に手を当てる。

「・・・・・・やはりな、全員組織の半径一メートル以上はいることが出来てない」

「まさか!彼等は一人でも世界を相手に出来るほどの力を持っているのよ!?そんな二人一組を誰が止めてるって言うのよ!!」

華鈴が狂ったように叫ぶと、再砂はとても楽しそうに笑っている。

「華鈴、そんなの一人しか居ないだろう?しかもお前の目の前にいるじゃないか」

「な!でも距離が在りすぎる!そんな距離を開けて『才気』なんて発動できるわけがない!!」

「例外は常に存在する、俺はその例外に当てはまっただけだ、理解しなくていい、ただ漠然と分かれ、お前等は俺の防御を突破できん!」

再砂は左手をかざす、その手には小さい丸薬のようなものがのっていた。

それを口にかまずに入れる。

「これから俺は本気の手前を出す、早めに逃げる事を勧めるぞ、一個は食った、これで二個目だ・・・・三個目は誰も止めれなくなる」

ゴクリと喉を丸薬が通りすぎる。

「せいぜい守る事に集中するんだな、いくら本気の手前といっても軽くお前等よりは強い」

次の動作は最早目で追えるものでは無かった、華鈴が幾たびの戦いを抜けてその鍛えぬかれた直感を持ち合わせていなければ死んでいただろう。

「ふむ、苦しみながら死ぬことを求めるのか、いいだろう、その願いかなえてやろう、容赦はしない」

華鈴が振り向く瞬間には最早間合いなど微塵もなかった、ただ突き出された正拳が自身の右腕に当たり、その反動を全身で体感する。

あまりに強く殴られた為吹き飛ぶという結果が遅れた、そこを予想していたかのようにもう一方の拳で左腕が握られた。

吹き飛ぶのを止められる、もちろん左腕はにぎりつぶされたようだ。

だが休む間もなく引き寄せられて今度は正拳を腹にめり込まされ、そのままの勢いで地面が割れるほど叩きつけられる。

いや、実際には割れて岩盤がめくり上がっている、そこに容赦なく両足を両足で踏みつぶされる。

ベシャッと嫌な音が足の方から聞こえてきたが気にしている暇はない、悪鬼のような笑みが目の前に迫っている。

脳は防御を働かそうとするが体は動かない、ならばと氷が目の前に強く張られる。

脳はそれで安全を確保したと思うのだろう、だが体は正直だった、回復で少し動くようになった腕を反射的に顔の前に持っていく。

目の前の氷は軽々と砕かれた、ひび割れなどしなかった、悪鬼の拳が当たると一瞬ヒビも入らないまま木っ端微塵だ。

腕に鈍痛、氷のおかげでほんの少し反応が早くなったのがよかった、当たった瞬間腕を振る事で頭への衝撃はなかった。

その代償に腕があらぬ方向に曲がって地面に食い込まされる。

「ほう・・・・・よほど痛めつけられたいのかな?」

悪鬼の笑みは外見だけ見れば天使のようだった、だが中は悪魔のそれだ。

華鈴はこの瞬間は、一閃より目の前の悪鬼、再砂を恐れた、そして死を覚悟して目を固く閉じた。

だが次に来るはずの衝撃が来ない、恐る恐る目を開けると・・・・・・・、目の前には変わらず悪鬼がいた。

「こんにちは」

最後の一撃、このとき華鈴は本当に無意識に目を閉じた。


目の前には気絶してしまっている華鈴の姿があった。

最後の一撃は華鈴をしとめることなく、華鈴のもう一方の腕を地面に食い込ませていた。

再砂にとってこの程度ではこの華鈴は死なないと分かっているからこそここまでしたのだが、少々グロッキーだ。

「まぁいい、さっさと次に行かないといけないな」

目を瞑る、残り時間は限られている、出来るだけ早く敵の全ての位置を把握しておかねばならない。

「二つ目でこのキツさか、一閃がヤメロというわけだ・・・・・!」

再砂は最後の一粒を見る。

他の丸薬とはまったく違わないのに、その存在感はまるで惑星を前にしているようだった。

秘薬『忘却』、一閃が瞬夜に託した三つで一つの丸薬。

その力は一粒で世界を滅ぼし尽くし、二粒で『三界』を滅ぼし、三粒でありとあらゆる『存在』を消し去るほどの力と言われた。

ただ、その代償はとてつもなくデカいという。

三粒目に至っては効果持続が一分程度しかないのだ。

なのに記憶が抹消される。

体が覚えている、とかではない、まったく全て抹消されるのだ。

自分の力も分からないまま敵に追われることになることもある、記憶がないからにげることは出来ない。

しばらくは砂が自動的に外的を殺す為、いわゆる子供のような心で、殺人を目に焼き付けなければならないのだ。

もはや生まれかわりに近い、そしてほとんど発狂してしまうのだ。

この薬について調べたが、まったく情報が皆無だった。

ただ一閃は渡す際にこう言った。

「使うのはいい、だが使った後何もないと思うな、それはお前を何もかもから孤独にする」

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