:始動、風神と大山
疾風と梨理は二人そろって苛立ちを顔中で表していた。
そろそろあってもおかしくない戦いの匂いというものが『地獄の使者』からまったくもって感じられないのだ。
「おっかしいなぁ~・・・・・そろそろ粉塵のひとつくらいあがってもおかしくないはずなんだけどなぁ~、疾風はどう思う?」
梨理は隣にいる疾風に聞く。
「ん・・・・・?そうだな、少しおかしいかな・・・・・風に聞こう」
疾風は目を閉じて耳を澄ませる、っと突然ゾッとしたように顔を青くした。
「どうしたの!?」
「いや・・・・・風に耳を貸したんだが、おかしな事にあそこには何も無いと言ってるんだ、しかもその後には・・・・・」
思い出して気分を悪くしたのか頭を抑えながらうずくまる疾風。
梨理は近くに寄り添って、自然の治癒をかける。
「ありがと梨理・・・・・何かに例える事が出来ない恐怖を感じた・・・・・こんなの一閃以来だよ」
「そうなんだ・・・・・じゃあ仲間が危ないね、合図があるまで待機だけどこれも一応合図でしょ!」
「ああそうだな、こんなのが相手の中にいるとわかっちゃ早く手を打たないと手遅れになる!」
そんな二人の前の地面から砂が持ち上がって巨大な人型を模した戦士が姿を現した。
それは大きく斧を振り上げた状態で現れて、気づいた頃にはその斧を振り下ろしている。
「梨理危ない!!」
疾風は咄嗟に突風の防壁を発動して砂の巨兵の斧を止めようとする。
しかしそれはまるでなにもないかのように簡単に突風の防壁を突破してみせたのだ。
疾風はすばやく次の行動に映る、即ち梨理を抱き寄せて巨兵の攻撃範囲からの離脱。
反応が早かった為疾風達はギリギリのところで回避に成功していた、おそらくはこれまでの経験があった故だろう。
だが、それがなければ死んでいた。
「乱暴な攻撃だな、これを打倒しなければ前には進めないということか・・・・・」
「疾風~もう降ろして良いよ~ていうかちょっと苦しいんだけど」
疾風の腕の中で梨理がうなり声をあげていた。
ハッと気づいて素早くかつ優しくおろす疾風、もちろんのことその心臓はバクバクと脈打っている。
梨理は疾風の頭を軽く小突く。
「はい集中集中!ちゃっちゃと終わらせて助けに行かなきゃいけないんだから!」
小突かれた疾風はすぐに精神統一して、目の前の敵を睨み付ける。
目の前の巨兵はまるで小動物でも見るかのように二人を見下している、だが手加減などするわけもなく、大きな体で斧を構える。
その周りの砂が持ち上がって今度は二匹の大蛇の姿が現れる。
「こいつは少々厄介だな、援護頼んだぞ、梨理」
「任せといて!疾風は何も相手を倒す事だけ考えてればいいんだから!」
疾風が拳を握るとその拳を包み込むように木が生えて拳を守り、さらにはその近辺にだけ突風を纏わせて破壊力を上げる。
準備が出来た途端に消える疾風、大蛇が動いて、声が響く。
「反応出来た事は褒めてやろう、だがそれだけでは甘いと言わざるを得ない!」
疾風の放った拳は圧倒的だった、当たった瞬間にぎゅうぎゅうに凝縮された砂にひびを入れる。
そして後を追うかのように通る鎌鼬が砂の大蛇を悉く切り刻んでいく。
またしても疾風の姿が消えるが、今度は梨理の隣で現れる。
「一匹目終了?」
「そんな甘いわけないだろう?敢えて力をあまり使わないようにしてるんだ、だがさっきの一撃で強さが分かった、これからが本番だ」
見ると切り刻まれた大蛇は再生して肌の色を砂色から灰色へと変えていた。
「見るからに高度が違うな・・・・・・・梨理、さっきの倍の装備を頼む」
「了解!」
疾風の拳を守っていたナックルの上にさらに木がまとわりついていき、押し固められて堅さをあげる。
っと、拳の周りの突風が押し固められて、綺麗な球に変化する。
それを梨理に渡す疾風。
「持ってろ、護身用だ・・・・・まぁ威力としては最大級のやつだが、危なくなったら使え」
「心配してくれてありがとう、でも平気だよ・・・・・だって疾風が戦ってくれるんでしょう!」
梨理の満面の笑みは疾風には効果抜群のようで、耳まで真っ赤にした疾風は気恥ずかしそうに目を背ける。
だが次に敵に目を向ける時にはその迷いなど吹き飛ばして、真剣に敵を見据えていた。
「始めようか、俺達の戦いを・・・・・・・・・・俺と戦ってくれるな?」
これはあくまで確認の為の行為、答えなど一つしかない、だが聞く事で心持ちが違う。
梨理もそれは理解しているの、だからこそ出来る限りの本音を乗せて、
「はい、後ろは任せていてください完璧に守ってみせます、その代わり、あなたに私の命運を預けます」
梨理の真っ直ぐな声に疾風は頷くだけで答える。
「行くぞ!!!!」
『八皇』の時の中でも最速を誇っていた疾風と最良の援護をする梨理の戦いが始まった。