:皇と地獄の砂
華鈴は一人で向かっていた。
耳に手を当てて通信機のボタンをオンにする。
《みんな聞こえるか?》
言うと目の前にある組織『地獄の使者』の周りでそれぞれの反応が返ってくる。
雷が二本一個所であがる、鋭美が目に見えない『才気』を持っている『道敷大神』の分まであげているのだ。
次に違う場所で大きな岩が打ち上げられた、臼が打ち上げたものだ。
その近くで水が天に伸びている、木根のものだろう。
そこから『地獄の使者』を挟んで正反対の位置で風が目に見えるように葉を巻き上げている、疾風だ。
その風の中に何本か大きな木が混じっている、梨理が疾風に打ち上げて貰っている。
そう、この通信機は一方通行、華鈴からのみつかえるものだ。
《でゎ、これより目の前の障害物を排除します、個々の最重要ターゲットを優先すること》
華鈴は氷を使い視点を絞っている、その先には空中に立ってこちらを見ている再砂の姿が見えている。
《鋭美の『グングニル』の発動とともに攻め込むわよ、合わせて、五・・・・四・・・・三・・・・》
通信機を降ろして戦闘態勢を整える、足に力を精一杯篭めて次のダッシュを目前に控える。
世界が一瞬光で包まれた、鋭美の『グングニル』の発動されたときのモノだ。
華鈴は踏み出した、距離など関係なく、完全に詰めた、大概のものならばこれで手傷の一つを負う。
そんな悪魔じみた攻撃を苦になく受け止めた再砂。
「この場所に手を出したのが駄目だったな!お前は此処で死ね!」
「あなたにはここで退場して貰いましょう、少し力を持ちすぎたようですわ」
華鈴が手を前に突き出す、触れたモノを一瞬で凍らせる魔の手だ。
再砂は軽くソレを躱して、砂により大きく距離を離し、違う場所に目を向け、手を上げる。
好機と思い踏み込んだ華鈴は何かに当たり急停止せざる終えなくなる。
そうなれば好機は再砂のものだ。
躊躇うことなく華鈴の懐に正拳突きをかます、拳は深く腹にめり込み突き飛ばす。
「ぐっ!・・・・・何かいつもと違いますわね、何をしたんですか?」
「何でもねぇよ、ただ砂を愛しただけだ、俺にとっては少し親愛を深めただけだけどな・・・・おっと」
再砂は慌てたように手を上げる。
「何をしているのかしら?私との戦闘の最中に他のものを見るなんてとても無礼ですわね」
「戦闘中という意味においては俺の行動は正しいがな、俺は決してお前一人と戦ってるわけじゃねぇし・・・ふっ!」
また手を上げる再砂。
華鈴の体は何かに阻まれてなかなか自由に動く事が出来ない。
「さきほどから何かに邪魔されている気がしますが・・・・何なのかな?」
「それを教えてやるほど俺は優しくねぇ、どうしても知りたくば俺が口を滑らすのを待つ事だ」
上げた手を妙な動きで振り回す再砂、それを両手で行っている為どう考えても隙が出来るはずだ。
なのに再砂からそれは感じられない、全ての隙が意図的に見せられていて何か反撃させられる雰囲気を醸し出している。
「かかってこないのか?今の俺は格好の餌食だと思うんだがな」
「そんな手には乗りませんわ」
華鈴は後ろに下がって氷を飛ばす。
さきの言葉がホントであれ嘘であれ、充分な距離をとって戦えば大丈夫とふんだからである。
再砂は手を奇妙に動かしたまま移動してそれを躱していき、組織に落ちようとしたモノは例外なくぶちこわした。
「簡単には組織にいれないというわけね・・・・・・・・ん!?」
華鈴は異変に気が付いた。
『地獄の使者』の中に気絶者はいるが、死亡者がいない。
それに加えて『グングニル』が通った痕跡が全くないのだ。
「再砂!あなたいったい何をしたの!?」
「俺か?俺は言いつけを守っているだけさ、この組織、ここに居る人々、そして俺自身・・・・全てを守れと言われたからな」
奇妙な手の動きは止まる気配がない。
華鈴はもう一つ奇妙な点に気が付いた。
今頃ならば『地獄の使者』に入り、個々の最重要目的を達する為に組織内を破壊して回っている『七皇』の姿が見えないのだ。
それぞれ時間差で攻めていく為、今は鋭美と『道敷大神』が攻め込んでいるはずなのだが。
「まさか・・・!?あなたが戦っている相手って全ての『七皇』!?」
「どうした?それがそんなにすごい事なのか?俺にしてみればこんなこと朝飯前だぜ?」
「・・・・・・・貴様!」
「どうした華鈴、お上品な物言いじゃ無くなってるぞ?」
不敵に笑っている再砂の姿は、華鈴を余計に怒らせる。