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   :人ならざる戦い

戦いが始まってすぐ、紅葉の体を何かが包み込み、懐かしいモノを形成した。

『天使』、人ならざるモノにして、神の御使い、かつての自分の『存在』、そして今の最も反対の存在。


一秒――――――――――――。

天の上の炎、純白の炎は、あたりを包み込み、膨大な熱量質量を伴って一閃を取り囲む。

炎による戦場の設定。

概ね自分にとって都合のいいように戦場を設定し、相手がそれから逃げられなくする炎の壁の内側の世界。

一閃は抗おうとはしない、そこまでされてもまだ一閃にとってこれはまだ余裕の範囲であり。

自分の強さを理解できていない愚か者だと、心のどこかで笑ってさえいる感じだ。

決められた戦場の形はまったくの平地、隠れる場所すらなく、盾にするものもない。

ただ、自分と相手、紅葉と一閃だけが立っている平原ができあがった。

二人とも何も喋らない、汚れていても神聖さだけはかねそろえる二つの『存在』に言葉など要らなかった。

ただ紅葉が純白の炎ほ体中に纏って、その炎を大きくすること。

そして、それに答えるかのように真紅の炎を腕に纏わせる。

曰く、行くぞ・・・・・!と。


二秒――――――――――――。

交錯は刹那よりも短く、打ち合いは数回に及んだ。

もはやこの戦いに人間の理などない遠く及ばない。

純白の炎塊はその炎の一片たりとも漏らさずに、真紅の炎に突進した。

それに対して行われた反撃は単純明快、ただその凶悪な力をふんだんに使って、圧倒すること。

衝突と同時に混じり合う紅と白の炎、そのなかで紅の炎、真紅の炎は白の炎を凌駕して、はじき出した。

だが一瞬離れた炎はすぐにまた重なる。

紅葉が何もない虚空で、何らかの推進力を得て、食らいついてきたのである。

一閃としてはこれは予想の範囲内にギリギリ収まる、故にその推進力の元を絶つ為に紅葉の背中を狙う。

だが簡単にそれを許すはずもなく、身を翻して純白の炎を纏った蹴りが一閃に向かって放たれる。

真紅の炎を纏った手でガードして、素早くその足を乱暴に掴む。

が、今度は同じく純白の炎を纏ったもう一方の足が襲いかかる、その速さは、およそ二倍強。

ガードは間に合わずに、一閃はもろにそれを食らう事となる。

紅と白の炎は今度こそ一度目の分離を果たした。

一閃は何度か転がった後、体勢を持ち直して傷つけられた場所を手で拭い、紅葉を睨みつける。

紅葉は余裕の笑みを浮かべて、さらにその『存在』をデカくする。

その背中には『天使』を連想させる白銀の翼が三対六枚生えていた。

そして不敵に手を揃えて前にだし、二、三回挑発するように曲げる。

曰く、かかってこい・・・・・!と。


三秒――――――――――――。

甘んじて挑発にノル事にした一閃は、炎を全面広範囲に展開して、自身の領域を確立する。

その中に身を投じて、真紅の炎を握る。

すると炎が質量を持ち、その形は槍を形作る、一閃はそれを何本も紅葉に向けて放った。

獄炎の塊が、灼熱の風と共に一直線にかつあらゆる方向から紅葉に襲いかかる。

だがこれでもまだ一閃は足りないと感じた、もっと強く、もっと圧倒的に勝つ為に次の布石を用意する。

手の中には一閃の強靱な精神力によって押し固められた炎球、もはやそれ自体が一惑星の質量に匹敵するほどだ。

だが、今回は質量は無い、ただ量子を決してくっつけることなく押し固めている、非常に不安定な球だ。

一閃は完成したそれを見て笑みを零し、紅葉の行動を観察する。

曰く、俺は本気だ・・・・・!と。


四秒――――――――――――。

数本の獄炎の真紅の槍があらゆる方向から襲いかかってきた。

触るだけで、その『存在』自体を灰に帰して、その纏う灼熱ですら掠っただけで大火傷をするという魔槍。

触れる事は出来ない、さらには完全な攻撃範囲が広すぎる、避ける事は・・・・・・・出来ない。

紅葉はそう決断を下して、それをもとに最善の行動を模索し、実行する。

避ける事は出来ない、全ての方向・・・・・ならば迎撃して穴を作れば良いだけの事。

純白の炎を固めて、一閃には劣るスピードであるがほんの刹那で質量のある、純白の三本の槍を作る。

それを同時に一閃から全くの方向から襲いかかろうとする一本に投げつける。

真紅の一本に対して純白の三本がぶつかり合った。

だが相殺、一体どれほのど精神をつぎ込まれた代物なのか。

紅葉は空いた隙間を通って、外に飛び出る。

残った槍は先ほどまで紅葉がいたところに突き刺さり、爆炎をまき散らしている。

もう一度純白の槍を三本ほど作り出し、牽制の為に一閃がいるであろう方向に渾身の力で投げ飛ばす。

純白の槍は爆炎を薙ぎ払って飛ぶ。

だがその向こうには誰もいなかった。

ハッとしてしゃがむ紅葉。

だがそれが仇となり背中を足で押さえつけられる。

同時に背中から何かが無くなるような感覚が襲ってきた。

曰く、口ほどにもない・・・・・!と。


五秒――――――――――――。

翼が消し去られた、『天界』一を誇る『天使』のそれのはずなのに、だ。

一閃の勝ち誇ったような顔が目に見える、そして、その後の悔しそうな顔も。

翼が消えた事により、主から新たに強力な翼を授かり顕現する。

一瞬で行ったその行為は、一閃に大きな隙を与える、その一瞬を見逃してやる謂われは、無い。

無いのだが紅葉は攻撃しなかった、攻撃するよりも先にするべき事があったからである。

全神経を外側から内側に流し込む、さらにはそれを体の一部分に強制的に持っていく。

心が真っ白に洗われていくような感覚が、紅葉を襲い抗うことなくその力に己の全てを委ねる。

力の源となるべきものの『存在』は分かっているから、抗う理由はない。

その身は『天使』によって作られた『天使』の所有物であり『天使』によって生死を決められるのだから。

そこに一切の私情は入り込む余地はない、入れようと思った所で代替物である紅葉に拒否権はない。

心に確固たる確信を持って、『何か』があることがわかり、その『何か』が溢れ出ると自分が無くなる事も分かるが、抗えない。

紅葉はフト思った、抗えないと考える『自分』とは一体誰の事なのか、そしてそれを許容する自分は、一体。

その考えすらも心の奥底に強制的に沈められて、紅葉の専心は一閃を妥当する事に向けられる。

紅葉は両手を広げて小さく告げる。

「神に似たるものは誰か」

途端、全身を高密度の炎が体を新たに取り巻いていく。

一閃はその紅葉の姿を見て懐かしくも、『天使』だったころの部下を思い出し、顔中で嬉しさを表した。

さらには、油断していた心を一瞬で締め上げ、構えを但し、殺気を充満させる。

曰く、これで対等だ・・・・・!と。


六秒――――――――――――。

【いい感じに『存在』を上げてきたな・・・・・・嬉しい限りだ、これなら俺も本気が出せるかな・・・・?】

溜息をつく、紅葉の成長には目を見張るモノがある、それは認めよう。

だが、この場合によってはまったくもって厄介なものでしかない。

「高き館の主」

言いたくもない言葉を言い、微かに違うと思う。

【だが、あいつの相手としてならこれでいいのか、『天使』に粛正される『悪魔』だよな、まぁ逆は・・・あってもいいか】

口の端を歪めて奇妙に笑い、背中に意識を集中させる。

かつて主に貰い受けた純白の四対八本の翼は、今となっては全て黒く濁って恐怖をかき立てるようになっている。

刮目、同時に溢れ出す憎悪の炎。

包まれた真紅の炎から真っ黒な炎を纏っている、何か、がそこから出てくる。

全身から溢れ出すような『存在』をまき散らして超絶かつ恍惚な目を以て紅葉を単純に射抜く。

ただそれだけの行為なのだ、だが『天使』を圧倒した、絶対的な差でもって戦うと誓う目を向けた。

『天使』は刹那で体勢を持ち直して、一直線に『悪魔』に突撃する、純白の炎とともに。

刹那よりも早い未知の領域で、間合いは詰められた。

『天使』は純白の炎を固めて作った光り輝く長い剣を上から下に振り下ろす、その剣は聖剣と呼ぶに相応しい気配を宿していた。

一閃は同じ領域に立って同じように炎を固めて剣を作る、ただその炎は今までの真紅ではなく漆黒になっていた。

剣の形は歪曲がりくねった剣身とギザギザで痛めつける事を目的とした刃、そこにあるのはまさしく魔剣、聖剣と同等の気配を放っている。

その剣を一閃はあくまで防御の手段として使った、振るうことなく、ただ敵の攻撃を受ける為だけに。

剣と剣が混じり合う時、光と闇はその『存在』をかけて、反発しあい、そして一部で混ざり合う。

これはたがいの『存在』が切っても切れない関係で在るのと同時に、全く対照的である由縁からだ。

『天使』は苦しそうな顔をする、対して一閃はどこまでも愉快気にその様子を観察している。

曰く、まだ何か足りないだろう・・・・・!と。


七秒――――――――――――。

一閃の楽しそうで不敵な笑顔をみて、『天使』は最後の切り札の投入を決定する。

純白の世界、その世界に長い時間掛けて閉じこめてきた己の『才気』を使う。

全方向逃げ場はない、どこかを切り開けばなんとかなるというレベルを超している、どこを突破しても、絶対次がある。

故に付けた名を『永遠の牢獄』、一閃にダメージを与えあわよくば殺す為だけに研ぎ澄まされた『天使』の一撃。

純白の炎の到達は発している本人にしかわからない、元から白だった世界からの純白の攻撃などわかるはずがなかった。

現に一閃は何かを感じているようで周りをきょろきょろしているが、何かわからなかったよで、楽しそうな笑顔を引っ込めた。

『天使』はそれが堪らなく嬉しくて、余計に興奮して強くなる、余計に自分の『存在』を紅葉に委託しようとしていく。

つばぜり合いのまま、両者は一歩も引かずにらみ合うハメになる、もちろん紅葉のほうが優勢だ。

ギリギリと迫られるごとに紅葉の力があがっていることがわかる。

――――――だが、まだだ。

一閃は集中して耐える事に専念する、まだ倒れるわけにはいかないから。

また少し『悪魔』としての自分を用いて、均衡する状態まで立ち直らせる。

反動だ、あまりに強すぎる力を保有している為、自身の高揚感をおさえる事が出来なくなり、自然と顔は綻ぶ。

『天使』はさらに苛立ちを覚えて、未知の領域の速さで以て鍔迫り合いから離脱する。

至近距離まで迫った『永遠の監獄』を閉じる、途端一閃の姿は何かに呑み込まれるように消えた。

時折黒い炎がちらつくが、長くは続かない、すぐ何かが呑み込んでしまう。

逃げれるわけがない、いわばこの世界そのものが『天使』が研鑽し続けた炎の集まりなのだ。

そうやすやすとかいくぐられては困るのだ。

『天使』は一閃は助からないと踏み、すぐさま次の行動に移る。

『自分』を完全にこの『自分』に移し替える事、それこそが最後で一番重要なこうどうだからである。

まず、下準備として、複雑な図を書いていく、指がなぞられる度に世界に蒼い線が刻み込まれる。

紅葉の体は『自分』の器を受け入れる事が出来た唯一の人間だ、こんなことで死なせるわけにはいかない。

だからこそ、限界ギリギリの十秒という間で『自分』を顕現させて、さらには戻す必要があった。

一閃が自由な状態であったならばコレは妨害される、故に一閃が手が出せない状況でこれを行う必要があった。

今回の目的は一閃を傷つける事、これ以上は不要だ、すぐさま離脱しないといけない。

幸い一閃は紅葉を殺さない、これは嬉しい誤算だったと『天使』は思った。

式は完成した、これで完全に委託してすぐに戻る事が出来る、一、二撃くらい放つ余裕も出てくるはずだ。

『天使』は万全に仕組まれた策の中で一人わらっていた。

一閃の生死は不明だ。

曰く、まだわからない・・・・・!と。


八秒――――――――――――。

紅葉がビクビクと痙攣して、白目を剥く、だが死なないだけマシであろう、『天使』を受け入れるならば本来人間では役不足なのだから。

次の瞬間痙攣は止まる、そこには『天使』がいるだけとなった。

『天使』は無表情で手を『永遠の監獄』が発動している場所にかざす。

手から今までのどの炎よりも強力な一撃が放たれた。

放たれた一発は辺りに取り残されている炎と融合して、さらにデカくなっていき、到達するころには一メートルはある球となっていた。

爆発は見えなかった、爆発しただろう。

次は自身を『天界』へと返すことをしなければならない、よって注意が一瞬それた。

振り返ればそこには、何もなかった、書いておいた蒼い線も見あたらない、周りを見るがそうだといえるものはなくなっていた。

その時だった、今までに感じた事の無いほどの殺気を感じたのは。

振り向くとそこにはボロボロにはなっていてなお凛然と佇む一閃の姿があった。

まるで、お前の攻撃なんて聞いていないとでもいうかのように、お前では俺を弱らせる事は出来ないというように。

『天使』としての何かが『天使』から外れた、そこにいるのはただの『傀儡師』となっていた。

『それ』は気が動転してしまっていて、逃げる、という最重要項目を忘れ去っているみたいだった。

そうなっているのならば簡単だ、一閃は前に出た。

迎撃する為に未知の速さで攻撃が繰り出される、それを苦になくすべて叩き落としてさらに前に、手には凶悪な漆黒の炎がある。

『それ』はさらに攻撃の速さをあげていく、いつもの調子ならもう少し考えて攻撃していただろう、だがいまは出来ない。

一閃はそこをついて、まばらに中途半端な攻撃を全て叩き落としていく。

そして、盛大に振りかぶって漆黒の炎を放った。

炎は刹那で『それ』を通り過ぎた、そこに残ったのは紅葉だった。

曰く、殺したのは『天使』だ・・・・・!と。


九秒――――――――――――。

体から『天使』が抜けた紅葉が力無く倒れようとしたところで一閃は紅葉を抱える。

曰く、もう大丈夫・・・・・!と。


十秒――――――――――――。

一閃が合図するとともに『間』から『現世』へと場所は戻ってしまった。

同時に紅葉のなかから完全に『天使』の気配が消えていく。

曰く、これで終わり・・・・・!と。

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