第十二章:森の入り口
名乗った瞬間から勝負は始まるのです!
少し話を遡り、角理が駆けていったところまで戻そう。
「まったく、人使いが荒すぎる・・・・・・・・しかもそれを聞いてる私って・・・・」
嫌気がさして、がっくりとうなだれる角理。
そして行き先を思い出しただけでもその嫌さが倍増した。
「この森の向こうか~・・・・・・・・この森は危険区域なんだから通り抜け出来ないし、かといって一日で行くには此処を通らないと」
一閃が言う事は此処を通れと行っていることと同じだ。
「はぁ・・・・・・・仕方ない、よね・・・・・」
角理はゆっくりとその中に足を踏み入れた。
辺りから程良い寒さの空気が角理の体を吹き付ける。
「ャダ・・・・・怖い・・・・・・何か出そう・・・・・」
「じゃあ入ってくんな、出てけよ」
突然目の前に真上から男の子が現れた。
「ヒャウッ!!!!!!!!」
角理は突拍子もない声をあげながらしりもちをつき、上から木の蔓にぶら下がっている男の子を見据える。
男の子は蔓から下りて、もの凄く不機嫌な顔をして近づいてくる。
「こんなことでいちいち驚くなよったく!っで、世間一般に言う危険地域にそんな気持ちで入るとはどういうことだ?」
男の子は困り顔をさらに険しくして、まだ腰が抜けてる角理を見下す。
「・・・・・・・・・・・・・・・アホだな」
ボソッとそんな事を呟く。
角理は尻餅をついたままの状態で精一杯男の子を睨み付ける。
「うるさいわねぇ!!私だってこんなとこ通りたくなかったわよぅ!!あんたみたいな子供と違って大人の・・・・!」
「楚良だ」
男の子は角理が言い終わる前に名乗る。
角理は少し驚き、楚良を凝視する。
「あんたじゃない・・・・俺には母上から貰った楚良という名があるんだ」
「そうなの・・・・・・って、どうでもいいわよ!!」
「後、念のため拘束させてもらったからな、これ以上先に入られても困るし、俺の事を話されるのも困るから」
言うが早いが大地が抉れて角理を後ろ手に捉え、埋める。
「え!?ちょっと!私には用事がぁ・・・・・むぐぅ!」
楚良は角理を足で地面に縫いつけた。
そしてすこしぐりぐりとする。
「関係ないな、俺の顔を見た時点でお前はもうここから出る事も入る事も出来ない」
「むぐうう!!」
「そうだな、ちょっとした慈悲だ・・・・・」
おもむろにおさえていた足を離して、その足を角理の顔の前に持っていく。
「・・・・・・・・・・・・っふ」
「勝ち誇ってんじゃ無いわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
差し出された足を『白雷』を付けた歯でかみつく角理。
森の中に叫び声が響いた。
「また楚良の奴が過ぎた遊びをしてるな」
「そうかしら?今回のは少々何か違う気がするわ、きっと良い事よ」
湖の真ん中に建てられた小屋では大我と紗代が仲良くお茶を啜っていた。
周りは深く霧がかかっている森があり、それを成しているのはもちろん紗代である。
大我は地面の揺れを感じ、楚良が何かしていることは知っているが、何をしているかまでは範囲外である。
一方紗代は浮かんでいる水蒸気、小さな海の粒全てに干渉しているため、何をしているかまでわかるようだった。
「どうなってるんだ?」
「角理って何か用事で入ってきた女の子に淫らな悪戯・・・・もとい制裁を加えてるわ」
「何!?俺も行きたい!」
水に飲まれる大我。
「逆の立場で再現してあげましょうか?」
大我は目が笑っていない紗代を見て震え上がっていた。
「言ってみただけ・・・・冗談だって」
おそるおそる言うと簡単に紗代は解放してくれた。
「こっちも冗談よ、そんなこと言う人は私は好きだけどね・・・・・楚良に悪影響なの、気を付けてね、パパ」
「・・・・・・・わかった」
大我はお茶の代わりを取ってくる為に小屋の中に入る。
紗代は依然としてお茶を啜っているが、その目は歓喜の中にあるようだった。
【息子の力が、私には堪らなく楽しみ、あの子ははやがて一組織を束ねられるほどの強者になれる!】
それはこれからの未来の断片の一部を知る者の不安が払拭された事を意味する。
そして、『七皇』と同じ存在にして世界を観察する事にまわったものの唯一の不安の消滅。
いや、もうこの『存在』にとってはそれだけではないだろうが・・・。
「・・・・・・・・・・・お茶、無くなった」
紗代もお茶を補給するために小屋の中に入っていった。
「いってえええええええ!!!!!」
楚良は噛まれた足を手でさすりながら角理を力一杯睨み付ける。
これまでの角理なら、この程度の殺意を向けられた時点で気絶にはいたらないものの、動けなくはなっただろう。
だが、今回は何故か普通に話して自分の無事を確認できるくらいの余裕があった。
すかさず『白雷』を肌から放って、地を呪縛から解放される。
「ふぅ・・・・・逃げますか~」
角理は何故か落ち着いた様子で言う、少しでも優位に立ったのが良かったのか、顔は微笑。
対する楚良は一発出し抜かれただけで、相当ご立腹なようだ、腕に力を溜めて後ろに引く。
「馬鹿にするなああああああ!!!!!!」
思いっきり前に突きだした。
見えない拳は空を飛び、角理に直撃した。
角理は吹っ飛んで森の中心、湖の真ん中まで飛んでいってしまった。
「・・・・・・やっちゃった、母上に怒られそうだな・・・」
そう言って角理を飛ばした方を見る。
「フフフ、それにしても俺って結構成長してるんじゃないか、これって」