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   :動き出す皇

ごくごく普通の大国の大通りに二人はいた。


「何か嫌な感じだな、これでは任務以外の時にも動きづらくなる、まったく厄介な野郎がいるもんだ」


デカくがっしりとした体格の大男はうなだれるように言った。


「でも、騒ぎを起こさない限りは平気だからいい、って思ってるんでしょ、フフフ、私もあなたがいるだけで嬉しいわ」


隣にいる大男まではいかないが充分なデカさの女がうなだれている男の腕に腕を絡める。


この二人はその大きな体を器用に操って、人混みをかき分けていく。


着いた場所はこの辺りで一番人気がある店だ。


だが、二人は入る前に少し嫌な感じを覚えた。


同時に店の扉から一組のカップルが出てくる、それも普通の状態で周りに殺意をばらまいているようなやつだった。


そいつらが行って警戒を解いた、二人の前に焦げた肌の女性が現れた。


「なんだったんだろ・・・・・おや、これはこれは『ワダツミ』と『ガイア』じゃない、良く来たね、さぁ入った入った!」


「へ~い」「ハイハイ」


ゴクゴク一般の店の中の奥の席にそれぞれが目立った様相の面々がそろい踏みしていた。


髪の毛は金、銀、赤、緑、茶、灰、一人はフードを深く被っているため判断出来ない。


外装は確かに目立っているのに、誰一人として、彼等に注意を払うものはいない。


彼等の内の誰かが意図的に自分たちを認識させないようにしているようだ。


「よくきてくれました、まずは礼を言いますわ、『八皇』の諸君」


「ん?やはり彼奴はこないのだな」


「フン!来ようがどうせまた女におぼれて役に立たないさ、いない方がいい」


銀、衛宮 華鈴の礼。


緑、『風神』大平 疾風が一人の抜けオチを確認するかのように続く。


茶、『大山』干葉 梨理がその一人をけなすように続いた。


「そんなこと言わなくて良い梨理、それと今の彼には女におぼれるようなことは絶対にないと思うな」


金、大野 鋭美が少しムッとしたような表情で反論する。


「ハハハ!鋭美、まだ彼奴のことが好きなのか!?そろそろ諦めろよ!」


赤髪で大笑いをしているのは『地震』の穂蔵 臼だ。


隣では『海鮫』の穂蔵 木根が抑えるように・・・・締めつけていた。


「臼!そんないいかたないじゃん!この乙女心が臼には理解できないのかなぁー!?」


「ちょ!木根!・・・止まる!血が・・・止まる!!」


臼がヒューヒューと息を吐きながら木根の腕を放そうともがいている。


「そういえば最近俺らを潰そうとしてる組織が出来たらしいな、それはどうする?」


疾風は木根と臼をはやし立てながら、不真面目な顔でまじめな意見を出す。


「その手の話はあまりしないほうがいいでしょ、どうせまたそこの馬鹿夫婦の意見が絶対に分かれるんだから」


梨理は仲が良いのか悪いのかといったふうに木根と臼を苦笑いで見ている。


好き放題言いまくっている仲間に対して木根は、


「うるさいなー!これでも仲は良いほうなんだよ!・・・まぁあなた達みたいな独り身さん達に理解は出来ないでしょうが!」


「・・・・!!!・・・!!・!・・・・・・・!!・・・・!」


声になっていない声が木根の手のほうから聞こえてくる。


そこには泡をふいている臼がかなり本気にもがいていた。


「木根、僕はそんな小さいことより仲間が減りそうで心配だな・・・そろそろ臼を離してあげて」


「そうね、そろそろマジでヤバいかも」


軽い口調で言って、最後に本気で握って、そして臼を解放した。


ゼーゼーと言いながら臼は荒い呼吸を繰り返し、木根を睨み付ける。


「テンメェー!!」


「止めなさい『ワダツミ』『ガイア』、痴話喧嘩はよそでやってちょうだい」


「「痴話じゃない!!」」


「そう、どうでもいいわよ、話が進まないじゃない」


華鈴は適当に話を再開する。


「今日ここに集まってもらったのはなんでかわかるかな?」


「どっかに攻める、もしくわ何かの工作をするんでしょ、それくらいでしか集まらないもの」


『ワダツミ』がそう答える、さっきまでのふざけた空気は薄くなっている。


「そう、今日は攻めるほうよ、敵は『悪魔の正義』の内部組織『正義の槍』よ」


「随分と局所的に攻めるんだな、どうしてだ?」


「それにどうしてその組織なのかもついでに聞きたいわね」


疾風の質問に梨理が付け加える。


「そうね、どうしてかって言われれば、『グングニル』の威力がどれほど『彼』を補えるかって検証」


「そう、『彼』の先攻があったからこそ僕達は優位にことを進めることが出来たんだ」


「何故その組織かって言われると、強い部類で楽に倒せる範囲ならどこでもよかったの、そこのところは・・・」


「俺が視た、相手がどのような手を使おうとも、俺達に負けはないと、俺はそういう風に視た」


「と、いうわけよ、まさか『正義』の『道敷大神』の予測が外れるとは私は思ってないからね、反論があれば聞くわよ」


誰も何も言わない、反論は無いようだ。


「っで、正確な時間は?俺にも準備ってもんがある、できるだけ正確に頼む」


「そうだな・・・明日の日が沈むのと同時刻にしようか、いいな」


そう言って『道敷大神』はその店を出ていった。


それに続いて『八皇』がどんどん出ていく。


最後に残ったのは華鈴だけだ、そして言い忘れたようにつぶやく。


「そうだ、『八皇』を『七皇』に変えるっていうの忘れたな・・・まぁいいか」


そして最後に店を出ていった。







「ねぇ臼・・・気付いてる?」


「何がだ、お前が後ろに手を当てて俺を影ながらに虐めていること・・・いで!いたた!やめっ!いた!」


臼の背中は不自然に反っている。


背中の服の下からミシミシと変な音が聞こえてくる。


「痛いって!ちょ!やめ!」


「気付いてる?」


「あぁ!気付いてるよ!いてっ!後ろの・・・あいたたた!後を付けてるヤツだろ、気付いてるよ、マッタク!」


臼は背中をさすりながら、メンドくさそうに言う。


「臼が悪い!・・・この後をつけてるやつなんだけどね・・・・殺っちゃう?あの距離で一度も私達を逃してないし、後で厄介そうだもん」


この二人の家は人里離れた山の中にある、故にその往き道は山道や障害物が多い地形となっている。


しかもこちらからは視線しか感じない、少なくとも目視出来ない範囲を維持し続けている。


こうすれば敵から攻撃をうけることは無い、こちらからの攻撃も出来ないわけだが。


この二人にはその常識は通用しない。


「殺るのはマズいだろ、せめてビビらせる程度にして逃げ切ろう、あまり目立つ動きはしないほうがいい」


「そうね、じゃあこんなのは?・・・突然大量の水が一気に落ちてくる、良い案でしょ!」


「目視出来ない上にそんな局所的な攻撃は無茶だ、やめとけ」


自分の考えが否定されムッとした木根は、挑戦的な物言いで、


「へぇー・・・じゃあ臼には何か考えがあるんだ?」


「あるぜ、ここをどこだとおもってる?大地は俺のテリトリーだぜ?少々びびらせるくらいすぐにできるさ!」


臼は不敵に笑って真下を一度、ドンッと蹴る。


遠方よりその二人を付けている者は何が起こったかも知らずに気付いていないという仮定の下、尾行を続ける。


そして臼が蹴った場所でズボッと落とし穴にはまるのであった。


それも一度入り込んだときは柔らかいが抜こうとすると堅くなるような細工がしこまれたものであった。







鋭美は昔を思い出すかのようにその場所を遠い目で眺めていた。


「まだ・・・彼を諦めきれないのかしら?」


後ろから同じように遠い目でその場所を眺めている華鈴。


「そうだよ、僕は彼がすきだったんだ、そんな簡単に諦められるわけがないよ・・・でも安心して任務はこなすから」


「そこは心配してないわよ、あなたの責任の強さは分かっているつもりよ」


「ありがと・・・それにしてもここにはいまだに生命の欠片すら現れないね」


眺める先は辺り一面の焼土、草木はくっきりと境目が分かるようにとぎれ、そこは円のような形を表していた。


「彼の『才気』がそうさせたのかしら・・・?」


そう、ここはかつて『阿修羅』と呼ばれた男の暴走が止まった地でもある。


そして、栄華を極めていた『八皇』が世の中から姿を見せた最後の土地とも言える。


「そういえば聞いたかしら?最近何処ぞの組織が我らを捜しているらしいってこと」


「聞いてたよ、でもいいんじゃないほっといても、どうせ伝説を信じるお馬鹿さんだよ、気にしたら負け」


「その組織はねこう名乗ってるそうよ」


華鈴はそこで一拍おいて、


「『天罰』・・・『八皇』に変わり世界を平和に導く組織って掲げてるらしいわ、あ、今は『七皇』か」


どうでもいいよそんなの・・・、そう言って鋭美は話を戻す。


「『天罰』か、生意気な事をしてくれるね、それで?その組織に対してはどんな対応を見せればいいのかしら?」


「邪魔するようなら殺しても構わない、出来れば生け捕りにして何か情報をひきだしたいんだけど」


「オッケ!それならやる気が出る・・・・・・・ん?ボスはどこか行くの?」


「フフフ、私はねこの世で一番諦めることが嫌いなのよ」


華鈴は不敵な笑いを漏らす。


鋭美は何か分かったかのように納得する。


「無理だと思うけどな~」


「いいえ、今度は彼じゃない、彼の周りを揺さぶってみるのよ、最善が出来なければ次善を・・・それが私のモットーなのよ!」


鋭美はそんな華鈴を見て、やはり『七皇』に戻ってきて良かったと実感した。


なにせ解散した後はフリーの戦争屋でしかも力をセーブしていなくてはならないため何度も死にかけた。


同じ力がいないと周り全てを敵に回すはめになるからだ。


「そうなの、ガンバってねボス、いや・・・『セクメト』」


「任しておきなさい『グングニル』、私は本当にあきらめが悪いのよ」


それと、と付け足すように華鈴は、


「アナタはちゃんと準備してなさい、明日の日の入りまでにはしっかりともどってくるから」


そう言って『地獄の使者』がある方向に突っ走っていく。


それを確認した鋭美は手を上にかざす。


「さて、これからが僕のみせどころだね、明日の日の入りまでにどのくらいこれを増幅させることが出来るか・・・」


鋭美の手からすこしづつ光が発せられている。







『正義の槍』から反撃を喰らわない位置に突如大きな山が現れたことに気付く者はいない。


そうして千葉 梨理は敵本拠地を攻撃するのに最も適した土地にいともたやすく大規模な要塞を築きあげたのである。


「こんなもんかな・・・・・・・」


もう誰がどう見ても完全な『山』にまだ納得いかないのか、首を傾げて歩き回る梨理だった。


そこに疾風が一番乗りにくる。


「終わったかー、梨理ーーー?」


疾風が梨理の肩を叩くと、ヒャゥ、と可愛らしく飛び跳ねて、疾風の方に振り返る。


その振り返りざまにかまされた強力なパンチを疾風はすんでの所で手で受け止め、そして反撃のためその手を思い切り振り上げる。


強い風と共に振り上げられた梨理はあたふたと空中でもがく。


そして、風が一瞬を通り抜けて、梨理を地面に抑えつける。


「いきなりなんだよ!ビックリしただろ!」


抑えつけた状態で疾風はいう。


「ゴメン・・・でも、後ろからいきなり手をかける疾風も悪いんだよ?」


「あぁそうだな、悪かった、今度から気を付けるよ」


そう言って梨理を解放する疾風、そして、目の前の山に目を向け、感嘆の声をあげる。


「すごいな!今回はいつにもましてすごいものをつくったな!」


「まぁね、今回は『八皇』再生祝いと新『八皇』の初戦だからね!気合いを入れてとうぜん!」


梨理はそう言ってあまりない胸を大きく反らせる。


それを見た疾風が、


「そんなに反らすとあんまりない胸が強調されるぞ」


「あの~・・・怒って良い?」


鬼のような形相で睨み付ける梨理。


笑いながらそれを受け流す疾風、そして梨理の不意をつき、その胸をなぞる。


「きゃ!ちょっ!やめなさいっ!!」


軽く飛び退き、自分の胸を隠すような仕草をする。


これまた笑う疾風。


「隠すようなものなんてないくせに何隠してんだか!」


「うるさいよ!!私は今忙しいんだ!からかいにきただけなら帰ってよ!!」


梨理は声を張り上げて、プイッとそっぽ向いてしまった。


今度慌てたのは疾風だった。


「ああ!ゴメンゴメン!ゴメンなさいって!ちょっとした冗談だろ、気にするなよ!」


「むーーー・・・」


それを無視して、梨理は何かを入念に調べている。


「・・・・・・・・わかったよ、はぁ~・・・何が欲しい?」


それを聞いた途端に嬉しそうに振り返る梨理。


「いいの!?じゃぁね~・・・『インデペンデンス』の特製団子がいい!あれってなかなか手に入らないんだよ・・・」


「そんなものを俺に頼まないでくれよ・・・おれは待つのが嫌いなんだけどな・・・まぁ仕方ないから買ってきてやる」


「アハハ!私をからかった罰だ!せいぜい1時間ほどならんでなさい!」


快活に笑う梨理、深い・・・本当に深い溜息をつく疾風。


「っで?もう出来たのか?」


疾風は己の目的を思い出して聞く。


「う~ん、確かに出来てるんだけどね・・・もうちょっと複雑にしようかなと、後外観に少し違和感があるかな・・・」


ふ~ん、と疾風はしばらく梨理の作った要塞に目を向けしばらく眺めるが、


「・・・どこに違和感があるんだ?」


「普通の人には分からないはず、木の『才気』の派生型なら気付く程度だけど、いないわけないでしょ」


そう言って、またその山に見える要塞の周りを見に行くと歩いて言った。


「さて・・・敵陣に乗り込むような行為はあんまりしたくなかったなぁ~・・・」


もう一度深い溜息をした後、疾風は風に混じるように消えた。

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