:動き出す槍
「この会議に意味はあるのかしら?」
「すいませんがボス、俺達に聞くなと言って良いですか?」
『悪魔の槍』の本部の会議室に、組織員全員が集まっていた。
この発言は、ボスの大井 雲明と副隊長である西城 三津のものだ。
『悪魔の槍』はほとんどどの組織にも繋がりはなく、愛の命令、ボスに付いていく、己の友の頼みなどで動き、組織としての強制力はない。
組織員一人一人が他の隊での猛者にして、すべてが己が信念により動くため誰を殺そうが止まらない。
一度放たれた矢は到達点にまで行くまでの妨害は全て排除し進んでいく『悪魔の槍』の悪の一面。
だが、妨害にならなければ傷最小の傷で通り抜け、悪と判断しなければ誰の命令も聞かない正義の一面。
それが『悪魔の正義』の最も凶悪で、その性格が現れ、無関係で、独立した組織と呼ばれる『悪魔の槍』だ。
そのため、会議は行われるが参加は自由であり、来ても騒いだり、酒を飲んだり、喧嘩をしたりと、会議になっているのは一部。
一応会議は一番広いボス、雲明の部屋で行われるが、理由は他の場所だと雲明が来ないからである。
大体の作戦・・・というより成功の条件を提示するのは副隊長二人のしごとである。
「まぁ任す、頼むよ三津・・・・・・・私は寝る」
「一応ボスだろ!・・・・・・って寝るのはや!!」
三津が瞬き一つしている間に雲明は寝てしまった。
戦場では考えられないボスの行動は組織員達にとってはもう当たり前のこととして認識されているため、誰も驚かない。
「はぁーまぁいいや、みんな聞いてくれ、一応何処までが目標か聞いとかないと永遠に戦うハメになるぞ」
みんな静かになる、一応永遠に戦うなんて皆したくないから。
「いいか、今回の目標は『八皇』の殲滅、これには一つの途中目標が入る、それは『八皇』の捜索だ」
どこかからの野次が飛ぶ、
「『八皇』なんているのかよ!!いないヤツなんて探せないぞ!!」
笑いが起こる、
「いもしない組織と戦うなんてまっぴらだぞ!ハーッハッハッハ!」
笑いは止まらない、
「誰がそんな組織と組んだんだよ!笑えるぜ!傑作だ!!」
一人、その命を無駄にした。
その発言をした男はこの部屋の真ん中にいて、みんなの中で死んだ、いや、殺された。
いつの間にか隣の雲明は起きあがり、手を前に出している。
シンと静まりかえっている。
「私だが・・・・他に文句あるやつはいるか?」
誰もが首を横に振る。
「そうか、続けてくれ三津、私は寝る」
次の瞬間にはもうすでに寝てしまった雲明を見て、ようやく何人かが死んだ友を運び出していく。
それを確認した三津は、
「さて続けたいんだがいいか?いや、続けさせて貰う反論は聞かない、俺も死にたくはないからな」
三津は前の方にいる仲間に神を渡す。
それが皆に行き渡ったのを確認してから続ける。
「それには『八皇』の八人の『才気』とその力を分かりやすく示したものだそうだが、これより強いと考えて欲しいらしい」
紙には、
『零度』、敵意がある発動では大国を必ず滅ぼす力、敵意がなければ最強の盾となる、オールラウンド型。
『雷神』、一直線上の攻撃力は最強を誇り、一瞬にして一直線上のを刻むことが出来る、先攻一直超遠距離型。
『地震』、最強の硬度を持ち、一撃のスピードは遅いが破壊力は最強、後攻殲滅型。
『海鮫』、『地震』と同じ硬度を持ち、一撃は少し弱いが範囲は最大、後攻超遠距離型。
『正義』、絶対予知能力を持ち、外れることは限りなく零に近い、戦場では心理面に何らかの形で攻め込む、後方支援型。
『風神』、絶対回避不可能の攻撃がある、攻撃力はこの中では最弱だが、最も多くの国を滅ぼしたとされる、後方近距離型。
『大山』、行く先々に大国保有以上の要塞を一瞬で築き上げる、常に内部が変わるため侵入不可の砦、要塞。
『獄炎』、最凶最悪の破壊力を誇り、暴走すれば世界が崩壊の危機に直面する、先攻全範囲超遠距離型。
注意、この値は最低を推測したものであり、最高は計りしれない。
このような最強集団の最強の『才気』が結構細かく載っていた。
「これはどの程度信頼出来るものなんですか?これを見る限りでは我々に勝ち目など無いように見えますが・・・」
「信頼は出来る確かな筋の情報だ、そして持ってきたやつはこう言った、使い方しだいで勝てる、とな」
もう既に何人かは部屋を出ているようだ、それが、目的の為か、サボる為かは気にしない。
最後に三津は締める。
「ボスは頼りないが、出来ないことは受け入れない、この意味がわかるな、皆、ボスを失望させるなよ!」
「お前もな!三津!」
「任せとけ!!」
「行くぞ!誰か援護だ!まずは情報収集に行くぞ!」
皆それぞれがいろいろな目的を持って、長い戦場へと向かって行った。
「では雲明様、私はこれにて・・・」
最後に三津がその部屋を出て扉を閉める。
「それで?話って何かしら?」
この辺りでは一番有名なフードショップのVIPルームに三人のいかにも猛者達が机を囲んで座っていた。
「まさか、私までばれていたのね」
あまり感情は出ていないがなんとなく悔しがっているのが分かる。
「瞑、あれがどういう仕組みか分からないのか?」
今此処には愛と皇、それからいつの間にか瞑が加わっていた。
「・・・皇には分かるの?」
「へぇ、是非聞かせて、私も一応興味がある、あってるかどうかってことでね」
愛と瞑は皇を見る、皇は事も無げに言う。
「振動、もしくは音・・・・だろ、違うか?」
「あら、よく分かったわね、さっきのは音よ、でもあそこでは振動も出来る」
「あぁなるほど、気配とかどうとかの問題じゃないのね、つまり増えたものが何かって事ね」
瞑はようやく理解したようだ。
「そういつもとは違う音の反響で私はそこに何がある、もしくはいるかが分かるの」
「結構な訓練だろ、そんなことはどうでもいいんだが、本題に移るぞ、何人か部下が欲しい、それも優秀な」
「あら?『悪魔の槍』には屈強の戦士ばっかりがいるハズなんだけど・・・それじゃあダメかしら?」
「『八皇』相手にあれだけでは足りない、戦力の無駄遣いだ、まだまだ欲しいんだが」
口では頼む素振りだが、皇はゆっくりと食事を口に運んでいる、それもキチンと健康管理の行き届いた食べ方だった。
「なるほど、それでね・・・ところで『紡ぎの糸』のほうはどうなったのかしら?」
「それは問題ない、万事上手くいくように進めているからな」
瞑が話に割り込んでくる。
「どうして『紡ぎの糸』のことをって皇は聞かないんですか?」
「お前こそ下調べが足りないぞ瞑」
「あなたは調べ過ぎだと思うけどね、皇ちゃん・・・話は終わりかしら?なら私は仕事に戻らないといけないんだけど」
愛は席を立ち、確認を二人にとる。
「無いようね、じゃ、会計は済ましてるから、ごゆっくり」
愛はその部屋を後にした。
「なかなかやるやつだな、愛ってやつはよ」
「そうね、もう少しで読みとれたのに失敗よ」
二人はそんな会話をして、机の上のご飯を全て食べ終えた後、その店を後にした。