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 私が実質王太子殿下のものになる、って。


 つまりは、そういうこと、を王太子殿下にされる、って事で。


 それは、嫌がっても叫んでも、力任せに押し開かれて受け入れさせられて、身も心も汚される、ってこと。




 夜、ひとり横になったベッドで改めて馬車のなかでの会話を思い出し、エリアーヌは身震いした。


 王太子のものになる。


 それはつまり、エリアーヌの身にゴーチェがそういう意味で触れるということで。


 リュシアンと迎えるであろう初めては、恥ずかしくも嬉しい気持ちのあるエリアーヌだが、その相手がリュシアンではないと考えただけで怖気が奔り、思わずベッドのなかで自分自身を抱き締めるように縮こまった。


 リュシアンでない相手がエリアーヌに口づけし、頬に触れ、そして衣服を暴いて・・・。




 やだやだやだ。


 考えるだけで、気持ち悪い。




 具体的に想像するまでは、そんな力づくでリュシアンの婚約者としての立場を奪われることや、側妃として傀儡扱いされることに憤りを感じていたエリアーヌだが、今ここに至って、漸く襲われること、それ自体に気づき恐怖を覚えた。




 リュシーが全力で守ってくれる、みたいなこと言ってくれたからって、はしゃいでいる場合じゃなかった!




 いや、それは今でも確かに嬉しい。


 嬉しいがしかし、襲われる恐怖の方が上回る。


 もちろん、今この時も扉の向こうに護衛は居る。


 しかし、その護衛もゴーチェの手の内の者かもしれないのだ。


 疑いだしたらきりがないが、それでも可能性を考えずにはいられないし、考えれば考えるほどに恐怖は募っていく。


 


 今、こうしている間にも忍び込んで来たらどうしよう。


 私がリュシーと結婚することに反対なデジレなら、簡単に王太子殿下を入れてしまいそうよね。


 だからといって、私がリュシーの部屋に忍び込むわけにもいかないし。


 ああ、もうリュシー、今すぐここに来て!




 ひとりベッドのなかで丸くなり、神経過敏となったエリアーヌは、風が木を揺らす音にも反応し、眠れない夜を過ごした。








 


 それから数日。


 リュシアンと共に王城内を歩くエリアーヌは、聞こえる微かな物音にも過敏に反応し、特段問題の無いことを確認してほっと安堵の息を吐くも、すぐに再び耳を澄ませ決して警戒を怠ることはしないという状態に陥っていた。




 今のは違った、けど、次もそうとは限らない。




 そう心に定めて、エリアーヌはリュシアンの後ろを歩く。


 今のようにリュシアンとエリアーヌが王城内を歩く時、不用意に使用人が前方を横切ったり、出現したりするような事は無い。


 しかし、使用人がまったく動いていない訳でもなく、時折物音が聞こえたりはする。


 ここ数日で、エリアーヌはそんないつもなら気にも留めないような物音にも敏感に反応するようになってしまっていた。 




 襲う、っていっても私の部屋とは限らないものね。


 移動中の廊下とかで、どこかの部屋に連れ込まれて、とか。


 ああ、でもそのためには白昼堂々王太子殿下が王太子宮から出ないとだから、王城では安心、なのかな?


 でも、王太子殿下の配下の人に後ろから口を塞がれて、リュシーも気づかないうちに王太子宮に運ばれる、とかならありそう。


 後は、食事やお茶、お茶菓子なんかに眠り薬を入れられて、とか。


 本当。


 どこで、どう狙われてもおかしくない気がする。


 絶対、油断しないようにしないと。


 


 そして時間の経過と共に、エリアーヌの心配は日常の至る所に発展し、気が休まる時がなくなってしまった。


 同時に慢性的な睡眠不足となったエリアーヌは身体の不調を覚えるようになり、集中力の欠如を自覚するまでになった。


 


 こんなことじゃ駄目だわ。


 公務には支障をきたさないようにしないと。




 そう気を張っていたエリアーヌは、その日いつもより早く戻れた自室に、リュシアンも共に入ったことに違和感を覚えた。


 寝室ではなく居間の方だとしても、それはとても珍しいことのうえ、リュシアンの様子がどこかおかしい。


 「リュシー。何か判ったの?」


 とうとう動きがあったのか、と人払いされた部屋で囁くように尋ねれば、リュシアンは苦笑と共にエリアーヌをソファへと(いざな)った。


 「リア、ごめん。俺が余計なことを言ったから、気が抜けなくなってしまったんだよね」


 エリアーヌの手を握り、眦を下げて言うリュシアンの手をエリアーヌも握り返す。


 「それは違うわ。言ってくれなかったら、蚊帳の外みたいでいやだもの」


 「でも、必要以上に怖がらせてしまった。もっと言い方を考えればよかった」


 項垂れて言うリュシアンに、エリアーヌは首を横に振った。


 「リュシーが私のことを考えてくれているの、よく判っているから平気よ。というか、私が実感として把握出来てなかったの。でも、それってリュシー以外に触れられるってことなんだ、って実感して想像したら、凄く怖くて気持ち悪くなっちゃったの。だけど、そういう可能性もあるって知っている方が知らないよりずっといいわよ。それに、どんな言い方したって、意味は同じなんだし」


 そう言ってくすりと笑ったエリアーヌの顔色の悪さに、リュシアンは瞳を曇らせる。


 「リア」


 そして愛し気な瞳でエリアーヌの髪を撫で、リュシアンはその身体をソファへと横たえさせた。


 「リュシー!?」


 座るリュシアンの腿に頭を乗せる形になったエリアーヌが驚くも、リュシアンはそっと上着をかけ優しく襟元を叩く。


 「俺が傍に居るから。安心して夕食まで休むといい」


 「でも、それじゃリュシーが休めないじゃない」


 リュシアンこそ疲れているのに、と言うエリアーヌの言葉に、リュシアンは穏やかな笑みを浮かべた。


 「リアの傍に居ると癒されるから、こうしていたい。駄目?」


 「そんな言い方ずるい。リュシー・・・優し過ぎるわ」


 エリアーヌを休ませるために、わざとそんな甘えた言い方をするリュシアンの手を取り、エリアーヌはそっと握った。


 エリアーヌよりもずっと大きく、剣を振るうためごつごつとした厚い皮膚。


 けれど、さらりと清潔なその手に、エリアーヌは堪らない安心を覚える。


 「リュシー、大好き」


 そして、すうっと引き込まれるように眠りについたエリアーヌの頬をそっと撫で、リュシアンはその額に口づけ囁いた。


 「俺も大好きだよ、リア」





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