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 そして迎えた聖女の誕生パーティ。


 それは、近頃正式に婚約した王太子ゴーチェと聖女アイ、第二王子リュシアンとオードラン公爵令嬢エリアーヌの披露目の場でもあった。


 しかして今回の縁組は、元々王太子の婚約者だったエリアーヌがその婚約を解消され、第二王子と婚約し直したものとあって、数々の嫌味や当てこすりを言われるだろうと覚悟していたのに反し、むしろ、これから大公と大公妃となって国王を支える存在となるふたりに期待している、自分達も必ず力になる、とまで言われ、虚を突かれたようになりながらも、エリアーヌはほっと安堵の息を吐いた。


 そして何より、今のエリアーヌの隣には正式な婚約者となったリュシアンがいる。


 心強いその存在に堪らない安心感を覚え、生き生きと輝くエリアーヌは誰よりも美しく、凛と佇むリュシアンと並ぶそのふたりの姿は絵物語のように美しくありながら、政務においては双璧と称されるふたりでもあり、貴族達は次代への期待に胸を高鳴らせた。


 そんな風にリュシアンとエリアーヌが貴族達に囲まれ、様々な話をしている間も、王太子と聖女は王族が座る場所から下りて来ることは無い。


 尤も、パーティの始めに聖女が足を怪我していることが公表されているので、そのための措置と表面はされている。


 しかしてそれが、礼儀作法もダンスも眉を顰めるほどに未熟な聖女のための対策だということは、今日招かれた全員が承知していることではあるのだけれど。




 本当に一瞬で広まったのよね。


 この二年、聖女は隠れた素晴らしい才能を持っている、なんて褒め称える風潮さえあったのに。




 聖女アイが来てから、婚約者であるゴーチェに放棄された形となっていたエリアーヌだが、聖女が来たのだから仕方ない、というような扱いを随所で受けて来た。


 故にこの夜会前、意味深に笑う国王と王妃から、聖女に関して秘匿して来たことを流出させるので安心していい、ということ、しかしてそれは、リュシアンとエリアーヌの立場により一層の重みをもたせてしまうことでもある、と言われるも、半信半疑のうえ、いきなりは難しいと思っていたのだが。




 恐るべし、王家の情報操作。




 今日のこの雰囲気は、それあってこそのものであるのだろう、と、エリアーヌは微笑みながら内心恐ろしくも思っていた。


 「リア。何か余計なことを考えている?」


 そんなエリアーヌの表情を読み取ったリュシアンが、何気なくエリアーヌの手から空になったグラスを受け取り囁く。


 「え?表情に出ていた?」


 大丈夫なつもりだった、とエリアーヌが焦るも、リュシアンは余裕の表情で笑った。


 「大丈夫。判るのは俺くらいだから。で、何を考えていたんだい?」


 「王家の情報操作凄いなあ、って」


 ついでに、細かな自分の表情の変化を読み取ってしまうリュシアンを凄いと思ったエリアーヌだが、それは心に留めておく。


 「ああ、そのことか。今までが不当だったんだ。これから、もっとやり易くなるよ」


 給仕に空のグラスを渡し、そう言ってにやりと笑った後、一瞬で王子然とした表情に切り替えたリュシアンが、エリアーヌへと手を差し出した。


 「エリアーヌ嬢。私と、踊っていただけますか?」


 「はい、リュシアン殿下。喜んで」


 ダンスを申し込み、受ける。


 ふたりのその所作の美しさに、周りからどよめきとため息が漏れる。


 本来、ファーストダンスは本日の主役である聖女とその婚約者の王太子が務めるべきであるのだが、聖女はダンスを踊れない。


 怪我など無くても踊れないことは既にして周知の事実だが、今日は怪我をして踊れない、という大義名分のもと踊らない聖女と王太子に代わり、エリアーヌとリュシアンがその役を務める。


 このパーティでふたりの婚約も披露なのだから、という一応の理由付けはあるものの、それは当初、聖女の誕生祝及び王太子と聖女の婚約披露のつけたり、のような扱いのものだった筈が、いつのまにか、エリアーヌとリュシアンが主役のような立場となっている。


 そのことを王太子と聖女がどう思っているのか、エリアーヌとしては気になるところではあるが、今は役目を果たしながら最大限楽しんでしまおう、というリュシアンの言葉に頷き、手に手を取ってフロアの中央へと進み出る。


 「婚約して初めてのダンス、だね、リア」


 「そうね。それで次の初めては、結婚して初めて、になるのかしら」


 そんなたわいもないことを幸せそうに話し、微笑み合いながら華麗にステップを踏むふたりを、周囲は感嘆の声と共に見守る。


 「本当にお似合いですわ」


 「一幅の絵のようだな」


 「一時はどうなることかと思ったが、これならば大丈夫だろう」


 「この国も安泰、ということでしょうか」


 「そうだな。第二王子殿下とオードラン公爵令嬢がいてくださるなら問題無いだろう」


 「両陛下もいらっしゃいますしね」


 「ああ。もう安心だ」


 聞こえて来る声は王太子と聖女のことを度外視していて、それが少し不安ではあるものの、王家やオードラン公爵家に対する不満は無いように感じられる。


 そのことに、エリアーヌは安堵の笑みを浮かべた。


 「もっと大変な雰囲気になるかと身構えていたけれど。本当にみんな祝福してくれていて、嬉しい」


 そんなエリアーヌを愛し気に見つめ、リュシアンは目を細める。


 「ああ。それにしても、今日のリアは本当に特別綺麗だ。誰にも見せないように隠したいような、自慢して歩きたいような、複雑な気分だよ」


 苦笑するリュシアンの瞳を見つめ、エリアーヌはその手に導かれるように綺麗にターンを決めた。


 瞬間、ドレスの裾がふわりと美しい円を描き、柔らかな布がしゃらりと揺れる。


 「リュシーが贈ってくれた、ドレスや装飾品のお蔭よ。本当に素敵だし、自分に似合っている、って思えるから自信も持てるの。リュシーってば凄いわ。本当にありがとう」


 きらきらと瞳を輝かせるエリアーヌは、リュシアンの贔屓目を抜きにしても魅力に溢れ、周囲の視線を独占している。


 それが、リュシアンには誇らしくも疎ましい。


 「リアの事は、俺が誰より見ているし、知っているからな。まあ、それは当然だし、俺が贈ったドレスや装飾品でリアが輝くのは嬉しい。嬉しい、けど」


 「けど?」


 「心配だ」


 首を傾げたエリアーヌに答えたリュシアンの目は真剣で、そんな心配要らないのに、とエリアーヌが笑ってしまうほど。


 そしてそろそろ一曲目が、つまりはエリアーヌとリュシアンだけのダンスの時間が終わろうとする頃、リュシアンは、王族の席で真顔を崩さないままこちらを凝視している兄と、その隣で動こうとしては止められ、不満を隠そうともせずむくれた顔で座っている聖女を見、眉を顰める。




 まさかあの女、下りて来たりはしないよな?


 兄上、それだけは阻止してください。


 頼みますよ。




 折角、和やかな雰囲気で進行しているパーティを乱すことだけはしないでくれ、と、リュシアンは切に願った。


 この夜会は、確かに聖女の誕生日を祝うものではあるけれど、招いているのはこの国の(まつりごと)を王家と共に担う貴族なのだから。


 そしてもちろん、エリアーヌとの時間も邪魔されたくない、とリュシアンは思う。


 あの聖女が下りてくれば、まず間違いなく問題を起こす。


 そうなれば、エリアーヌと自分が事態の収拾に動かなければならなくなる。


 そんな面倒はごめんだ、と、リュシアンは心底思う。


 「リュシー。もうすぐ、曲が終わってしまうわね」


 その時聞こえた、エリアーヌの寂しげな声。


 「おや?リアは、一曲しか俺と踊らないつもりなの?」


 そんな寂しい思いはさせない、第一俺だってもっとリアと踊っていたい、と、リュシアンが囁けば、エリアーヌの表情が一瞬で明るくなった。


 そんなエリアーヌに自分こそが幸せな気持ちになりながら、リュシアンがそのきゅっと締まった腰に両手を当てれば、エリアーヌも了解したように両手をリュシアンの腰に添える。


 「リア」


 「リュシー」


 そしてその囁き合いを合図のように、エリアーヌの身体をふわりと浮かせたリュシアンは、そのままくるくるとその場で回転し、喝采のなか、ファーストダンスを締めくくった。




 

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