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人間に転生した黒猫と精霊は闇王子に復讐する

始まりは精霊うさぎと黒猫です。

 (く、苦しい…)

 美しく滑らかな黒い毛が揺蕩う。

 ダイナは藻掻いた。藻掻くたびに恐ろしい味の液体が口や鼻から入ってくる。

 (苦しいよ…サーチェ…)

 サーチェ!!

 サーチェはハッと振り向いた。神聖なる森の奥、緑の精霊王様が統べる泉に空の月が映り煌々と照っている。

 ダイナ…?

 嫌な胸騒ぎがした。堪らずサーチェは声を上げる。

 「聖なる泉の精霊アクアマリン様!私の声が聞こえますでしょうか!」

 「どうしたサーチェ。」

 呼びかけた声がまだ余韻を残している間に泉の精霊アクアマリンが姿を表した。足首まである淡く美しい碧色の髪、紺碧の瞳をしたを持つ女神アクアマリンはすでにサーチェが知りたいことを知っているかのようにどこか憂いた表情をしている。

 「私の大切な友が…今苦しみながら我が名を呼んだのです!お願いです!我が友になにが起きているのか見せてくださいませ!」

 アクアマリンの美しい顔が悲しみに歪んだ。サーチェはそれを見てダイナの身に起きていることが世にも悍ましいことであることを悟ったがここで怯むわけにはいかない。

 「どうか、どうか見せてくださいませ!」

 サーチェの必死な声に女神アクアマリンは指ですいすいと泉からいくばくかの水を浮かび上がらせると大きな水鏡を作った。そこに映し出されたのは……

 「ダイナ!!」

 悲痛な叫び声が夜の森に響き渡った。こんな、こんな、酷い…あまりにも酷い…

 「サーチェ。」

 アクアマリンがハラハラと涙を零しながら声をかける。

 「これを精霊王様のところへ持っていきなさい。すべてをご覧になれば精霊王様がお前になにか使命を与えるだろう。さあ、お行き。」

 サーチェはコクコクと頷くと涙を流しながらペコリと頭を下げ、アクアマリンから受け取った水鏡を持って精霊王のもとへ向かった。

 サーチェは白銀の毛に紅い瞳をしたうさぎの姿をしている精霊だ。一方、今苦しんでいるダイナは全身真っ黒な毛をした普通の猫である。

 サーチェは精霊王のもとへと走りながらダイナとの出会いを思い出す。そう、あのときもこんなふうに美しい満月の夜だった。

 ダイナの瞳は今宵の月のように金色で漆黒の毛に覆われた美しい肢体は滑らかでサーチェは初めて見る"猫"という生き物に興味津々だった。

 普段は入れないこの神聖な森にダイナが入れたのは年老いた聖女が使いとして寄越したからだった。

 この聖女は聖なる力が非常に強く人間でありながら精霊王と交流がある稀有な存在だ。

 若い頃はこちらに転移魔法などを使って遊びに来ていたが年老いた今はこうして自分の使いを森に寄越すようになっていた。

 サーチェは黒い生き物を見たことがなかったので最初はずいぶん驚いた。

 長いしっぽがフリフリしている様子が最初はなんとも不思議で聖女の使いになるくらいだからなにか魔法なのかと思ったが単なるしっぽだと言われてもっと驚いた。

 ダイナが笑いながらからかうようにさらにしっぽをフリフリさせる。

 精霊王様の話によるとこの聖女ーナターシャーはあまりにも力が強いため、穢れ多き人間界では早逝の憂き目に遭うところを空の精霊王がずいぶん前に召し上げて匿っていると聞いた。

 匿っている、と言えば聞こえは良いが実は空の精霊王がナターシャを愛したためにサッサッとかっさらったというのが本当のところらしい。

 サーチェ自身は会ったことがないが今人間界にいる聖女は平凡な力の持ち主なんだそうだ。

 そんな平凡聖女が数代続き、それを空から見守りつつ強い聖なる力を注いできたが、そこは人間の体である。

 いかに精霊王の加護があろうと精霊のように永遠は得られない。

 命が尽きる日がそう遠くないらしい。

 ダイナ、ダイナ。

 お前をどうしてやることもできないのか?

 ダイナ、ダイナ。

 「精霊王様!森の精霊王ユグドラシル様!」

 サーチェが声を上げると辺りが眩い光に包まれる。

 「どうした、サーチェ?」

 ああ、精霊王だ…ユグドラシル様……

 この水鏡を視てください、そしてダイナになにが起こっているのかを……

 「これは……!」

 ユグドラシルが片手で口元を覆った。

 そこに映し出されていたのは白ワインでいっぱいの水槽に落とし込まれ、溺れ、藻掻き苦しむ黒い猫、ダイナの姿だった。

 「なんということを……!」

 サーチェの目から涙がボロボロ溢れる。

 ああ、ダイナ、ダイナ…。

 「空の精霊王、クーカイよ!これはなんとしたことだ!聖女は、ナターシャはいかがしたのだ!」

 呼びかけに答えるようにクーカイの悲痛な声が響く。

 ナターシャは…ナターシャは人間としての命を終えようとしている……

 「なんだと!?」

 ユグドラシルの怒号が響く。

 ナターシャはダイナを呼び寄せたいと言ったのに私がモタモタしている間に邪悪な人間にダイナが捕まってしまったのだ…

 すまない…本当にすまない…私にしてやれることはこれだけだ…

 その言葉と共に水鏡の中でグッタリしていたダイナの姿が消えたかと思うとユグドラシルとサーチェのにダイナの魂が現れた。

 「ダイナ…」

 サーチェの目から涙が溢れる。

 (サーチェ…会いたかった…)

 「怖かったよね、苦しかったよね、助けられなくてごめん、ごめんね…」

 (サーチェ…泣かないで。)

 クーカイの悲痛な声が響く。

 ナターシャも保ってあと数刻…すまぬ、ダイナ…あたら苦しい思いをさせてしまった…

 「クーカイよ!ナターシャは人間の殻を脱ぎ捨てれば精霊となるであろう!しかし今まさに生まれ変わるそのときにその聖なる力が弱まり邪悪な人間が現れたということが!?」

 いつの時代にも邪悪な人間はいたが、それはナターシャの聖なる力によって発現せずにいたのだ。

 ユグドラシルは眉間に皺を寄せて何事か考えていたが、ふとその視線をサーチェへ向けた。

 「クーカイよ!そちらへダイナの魂とサーチェを送る!」

 なんと…?

 「ナターシャ殿には我の考えていることがわかるであろう!」

 その言葉と共にダイナの魂とサーチェは空の精霊王、クーカイの前にいた。

 ここは…。

 サーチェは息を飲んだ。

 サーチェが空の精霊王のもとに来たのはこれが初めてだ。

 空の精霊王クーカイは1人の人間の手を握っていた。

 ダイナがナターシャ様!と叫びながら駆けていく。

 サーチェもその後を追って駆けていく。

 この方がナターシャ様…!

 サーチェは息を飲んだ。ナターシャがそんなサーチェに気づき微笑んだ。

 ダイナはそんなナターシャにピッタリと寄り添いポロポロと涙を零した。

 「ああ、ダイナ。可哀想なことをしてしまったわね…」

 ダイナがフルフルと首を振る。

 ナターシャは見た目こそ若いが人間の年齢でいうと400歳は超えているという。

 長い白銀の髪にダイナと同じ金色の瞳をした美しい聖女。

 地上に弱い聖女しか生まれなかったためにその聖なる力を降らせ地上を護ってきた人。

 その聖なる力が弱まり人間の邪悪に蝕まれ儚くなろうとしている、人間。

 甘えるダイナを撫でる優しい手、慈しみ深い眼差し。

 「サーチェ。」

 ナターシャがサーチェを呼んだ。

 「ダイナは今日、死んでしまったけれど人間に生まれ変わることが決まっています。そこで、ね、サーチェ。」

 あなたも一緒に転生して欲しい……聖女として。

 サーチェはあまりの驚きに瞠目した。

 ダイナのそばにいてあげて。

 二度とダイナが受けたような仕打ちをする人間が現れないように。

 聖女として。

 「ナターシャはこのまま人としての生を終える。そうしたらサーチェ、ダイナと共に地上で力を尽くして欲しい。」

 「お言葉ですがクーカイ様」

 サーチェがキッと顔を上げる。

 私はダイナにこんな仕打ちをした者達を決して許せません。

 必ず復讐したいと思います。

 そんな私に聖女なんて無理です。

 人間に転生するのはかまわない。

 そう、ダイナを殺した者達を決して許さない。絶対に。

 そのとき、地上からユグドラシルの声が轟いた。

 復讐せよ!

 同時に救うのだ!

 お前は精霊だ!

 聖女として転生できるのはお前しかおらぬ!!

 復讐せよ。復讐せよ。復讐せよ。

 同時に…救う?

 そうだ、ダイナのような目にあわせてなるものか!

 「ナターシャ様、このサーチェ、あなた様に成り代わり聖女として転生すること、承知致しました。」

 (ありがとう、サーチェ)

 ナターシャの人としての命が尽きた。

 その瞬間、サーチェとダイナは人間として転生するべく地上におろされたのだった。




 目を開ける。

 あまりの眩しさにパチパチと瞬きを繰り返すと周囲から人間の声が聞こえた。

 たくさんの喜びの声だ。

 天井から下がったシャンデリアが無数の光を煌めかせている。

 何事かと首を動かすとそこにはたくさんの人間に囲まれた白銀の髪に紅の瞳をした人間の雄と淡いラベンダー色の髪に紅い瞳の雌、人間になったサーチェの両親、がいた。

  (サーチェ、大丈夫かい?)

 見上げると森の精霊イトがいた。

 (イト、どうしたの?)

 精霊王様の命令でサーチェの守護精霊になったイトに問いかける。ほかにも精霊のときに仲の良かったレイやミラもいる。

 (ダイナは…ダイナは大丈夫?)

 (ダイナにも守護精霊がついてるから大丈夫だよ。)

 「一人でなにをお話してるのかしら?」

 クスクス笑いながら人間の雌が嬉しそうに言葉を紡ぐ。

 そして愛しくてたまらぬと行った様子で私に出を伸べてきた。

 あれ?立ち上がれない?動けない?

 (サーチェ。君は今人間の赤ん坊という状態だから立つこともできないんだよ。)

 なんだって!?

 人間の赤ん坊は生まれてこれだけ日にちが経ってもすぐ立ち上がることすらできないのか!

 (立って歩き回れるようになるには数年かかるけどそれが人間なんだ。)

 なんだと!?

 こんな無防備な状態で立つこともままならずにどうしろというのだ。

 サーチェは頭を抱えた…くてもできなかったので四肢をバタバタ動かした。

 寝返りさえうてぬ…。

 ダイナも今頃こうしているんだろうか。

 ああ、でもダイナはまだ人間の近くで暮らしていた時間が長いから色々わかってるのかな?

 リリス・アナスタシア・フランジウム。

 それが人間として生まれたサーチェに与えられた名前だった。

 (ここは公爵という人間の間では高い身分の家でサーチェは待ち望まれたお姫様なんだよ。盛大に祝われて当たり前なんだ。護衛は僕らに任せてしばらくお休み。人間の赤ん坊はたくさん眠らないとダメなんだ。)

 そうなのか。

 そういえば猛烈に眠い。

 ウグッウグッと声にならない声を上げていると優しさに溢れた歌声が聞こえてくる。

 おやすみ、私の愛しい子。虹色のユニコーンに乗って夢の世界で遊びなさい。 

 これがサーチェの人間の母だよ、というイトの声が遠くなる。

 そうして私はいつの間にか眠ってしまったのだった。

 その頃。

 男児誕生に湧く王宮にあってギリギリと奥歯を噛み締めつつもそれをおくびにも出さずに微笑みを浮かべる少年の姿があった。

 コーベル・トルトリア・ナイーセリア。

 このまま男児が生まれなければ王位に就いたはずであったのに。

 5歳にして野心に燃えるコーベルは生まれたばかりの赤ん坊を殺すことで頭をいっぱいにしながら笑顔を浮かべる。

 殺す。 

 必ず殺す。 

 王になるのは俺だ。

 そうしてベッドを覗き込む。

 黒い髪に金の瞳。

 自分のそれよりもずっと濃い黄金の瞳。 

 覗き込まれたダイナはコーベルの顔をジッと見返した。

 ダイナは人間の赤ん坊がいかに無力か知っていた。知っていたが、睨みつけずにはいられない。

 殺す。

 必ず殺す。

 僕を殺したくせに微笑みを浮かべながらこちらを見ているこの人間を。

 邪悪な心でいっぱいなこの人間を。

 ダイナはコーベルを見つめる。

 コーベルから溢れる殺気に気づかぬわけがない。

 守護精霊達が陣を組み警戒を強める。

 殺す。

 必ず殺す。

 はからずも同じ思いを抱えながら二人は睨み合った。

  

 2 復讐するは我にあり


 それから五年の月日が経った。

 ダイナ、こと、イーゼル・アインクラッド・ナイーセリアは黄金の瞳を輝かせながら今日開かれるお茶会に胸を躍らせていた。

 今日のお茶会にはサーチェことリリス・アナスタシア・フランジウムが招待されていて、二人の婚約が発表される。

 五年経ってもまだ小さい人間の体に辟易しながらもそれでも自分の足で立って歩き駆けることができるのはとても嬉しい。

 リリス・アナスタシア・フランジウム。

 生きる伝説、神に愛された聖女として広く国境を超えてその名を知られている少女。

 ナターシャは人としての命を終え光の精霊となった。そしてサーチェがこの世に生まれると人々の前にその神々しい姿を現し、赤ん坊であるサーチェに聖なる光を注ぎ込んだのだ。

 そのあまりの聖美なる光景に居合わせた人々は皆自然膝をつき頭を垂れ、手を組んで祈ったという。中には感動を抑えきれず嗚咽を漏らす者もあったという。

 その話はあっという間に王国中に広まった。

 だからこそ、王位継承順位第一位であるイーゼル・アインクラッド・ナイーセリアとの婚約が定められていたのである。まだ10歳のコーベル・トルトリア・ナイーセリアにはそれを阻止する力が皆無であった。

それがコーベルの歪んだ心をより歪ませていることに皆気づいているが見て見ぬフリをしている。

 呪いの王子が王位に就かなくて良かった!

 そんなみんなの心の声が聞こえてくるようだ。

 コーベルは思う。

 なにがあろうと王妃は決まってる。しかし、王はまだ決定したわけじゃない。

 暗い思いを抱えながらコーベルは一人微笑んだ。




コーベルがイーゼルの兄であるにも関わらず王位継承権第一位になれない理由。

 それはひとえに母にある。コーベルとイーゼルの父であり国王が孕ませたのはよりによって王妃ソフィアリアの侍女マリーアだった。ソフィアリアは激怒したが王は仕方がなかったのだと繰り返すばかり。

 そちらの侍女が、マリーアが色目を使ってきたからつい、と口走ったのが運の尽きである。

 王は知らなかったのだ。

 自分が手を出したマリーアが王妃ソフィアリアの乳姉妹であることを。そして婚礼を控えた身であったことを。

 王の嘘は離婚、ひいては王国へソフィアリアの故国、強大な帝国が攻め込んでの戦争に発展しかねないほどの過ちだった。

 マリーアは蹂躙され辱められたことをすぐにソフィアリアに言えなかった。

 二人の間にまだ子供がいなかったからだ。

 いくら不条理なことをされたとはいえ、あの男ー王ーがもし子供がいないことを言い訳にしたらと思うとつい口が重くなったのだ。それが最悪の選択だと気づいたのはよりによってソフィアリアの前で悪阻の症状が出たことで露呈した。

 ソフィアリアは隣国の帝国の中でも祝福に特化した一族の出身だ。その中でも飛び抜けて力が強かった彼女はその力を買われて王国に嫁ぎ王妃になった。皮肉なことに祝福を持つが故にマリーアの神に見離されたような悲しみに満ちた不調にもすぐ気づいたのだ。

 一方、マリーアがソフィアリアの側にずっと侍っていたのはマリーアが闇、呪術師の一族でありソフィアリアにかけられるありとあらゆるそうした攻撃を解呪し、場合によっては跳ね返すことで攻撃することができるからだ。

 伴侶として決まっていたのは光の浄化の一族、ランバース・フランジ・キャラメリゼ。光と闇が1つになってこそ最強の護りとなるため、なにより二人が愛し合っているから決まった婚約だった。

 それなのに。

 あの男が踏みにじった。 

 しかし、腐っていても王の子。そしてなにより闇の子である。 

 マリーアが妊娠していることが知れると腹の中の子など殺してしまえという意見もあった。しかし万が一そうした場合、いくら胎内の子とはいえ呪術師一族の血を引く子。なにかしらの呪いが発動する可能性もある。

 母があのマリーアだから。

 どんな力を持っているや知れぬ。

 勇者の末裔たる王の権威は失墜し、権力は王妃に傾いた。しかし王を蟄居させたり廃位してしまっては帝国が王国を乗っ取るためにマリーアが王を誘惑したという戯言がまかり通ってしまうため、王は王として君臨させるしかなかった。

 まだ自らの子を授かっていないソフィアリアは婚姻の際、王に授けた祝福を取り上げることもできない。

 そんなヒリヒリとした緊張感が続く日々の中で。

 マリーアはひっそりと胎内で子を育み、いよいよ出産のときを迎えていた。

 王妃ソフィアリアはマリーアに付きっきりでその出産を見守った。

 「ソフィ……ソフィ……」

 「ここにいるわ、マリーア。しっかり手を握っているわ。わかる?」

 「……治癒しないで……」

 「マ……!」

 「お願い、ソフィ。この子を残していくのがわがままなことはわかっているわ。でも、でも私は……」

 死んでしまいたいの。

 その言葉をマリーアはグッと飲み込んだ。

 「マリーア、そんなこと言わないで……お願い。」

 マリーアの命がどんどん流れていくのがわかる。

 「ランバースと帝国で暮せばいいわ。私は、大丈夫だから。」

 「ソフィ……」

 「マリーア。あなたはなにも心配することはないわ。ランバースもこのことは知っている。その上で彼もあなた無しでは生きていけないと言っているのよ。だからお願い、生きて!あなたの妹のリーアが代わりに来てくれると言っているし、あなたはなんにも心配しなくていいのよ。大丈夫よ。大丈夫。」

 ソフィアリアは涙をポロポロ零しながら懇願した。

 「私は必ず男児を生むわ。そしてその子をなんとしても王位に就ける。なんにも心配しないで。」

 「ソフ……ああっ!ああああっ!!」

 「セントヒール!!」

 眩い光がマリーアを包み込む。

 痛みが引いていく。

 体中に温かな力が満ちていく。

 その瞬間、コーベルはこの世に生まれ落ちた。王族としての祝福を受けぬままに。

 王、勇者の血と闇の血を併せ持った赤ん坊。

 コーベルと名付けられるとすぐに乳母の手に預けられ、与えられた離宮に移された。

 誰が訪うわけでもない離宮。

 必要なこと以外は話さない侍女や召使い、護衛達に囲まれて。

 コーベルは愛に溢れ見守られるイーゼルを見て衝撃を受けた。

 自分の瞳より濃い黄金の瞳を持った弟。

 満面の笑顔を浮かべながら心から喜んでいる召使い達。

 翌年には妹ーアクエリアス・ファルファレ・ナイーセリアーも生まれた。そのときも王宮内は喜びに満ち溢れ誰もが笑顔を浮かべていた。

 そんなことをつらつら思い出しながら強く拳を握りしめる。

 イーゼルが婚約する。

 (どんな手を使ってでも王位を奪ってやる…)

 コーベルは胸の中でひとりごちた。







お酒に漬けて溺れさせる、という虐待は本当にあったそうです。

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