勇者と魔王の決戦を映画館のライブビューイングで応援しよう
同僚が最近ライブビューイングにハマってるらしく、一度でいいから観てくれと、この映画館に連れてこられた。
何でも異世界に渡った人間が、勇者と魔王の戦いをリアルタイムで配信し、映画館で応援上映しているそうだ。地球人、商魂たくましい。
『強化!強化ッ! 激強化ァッ! これが俺の剣だァッ!!』
「フウッ! フウッ!」
怒髪天を衝く様な髪型に精悍な顔立ちの勇者は、鍛え上げられた体と剣技で攻め立てる。大剣を振るいながら身体強化を重ねる姿は、まるで激しいロックのライブを体現しているかの様だ。
『月の導きに、炎の言の葉を重ね、清廉なる君に我が口づけを』
「フーッ! フッフーゥ!」
腰まで伸びた長髪に美麗な顔立ちの魔王は、妖艶な体躯と魔術で攻防を組み立てる。魔術書から紡ぎだされる多重の詠唱は、まるでムーディな朗読劇を見せられているかの様だ。
さすが応援上映だけあって、フウッとかハイッとか技に対する劇場内の合いの手が完璧だ。
また、勇者が攻撃すると劇場のペンライトは黄色に、魔王が攻撃するとペンライトは赤に変わる。色の切り替えもバッチリだ。
しかしよく合いの手合わせれるな、さっきの技なんて目で追えなかったぞ。
激しい攻防が続き、満身創痍になった双方に背水の陰りが。揺れていた覇気がその眼光に集まった刹那、
『奥義 【雷鳴剣】!!』「ウーッ! ハイッ!」
『秘術 【蜜月の業火】!!』「ウーッ! ハイッ!」
双方の大技がぶつかり合い、スクリーンが光で埋め尽くされていく。劇場は「ハイッ! ハイッ!」という合いの手でボルテージも最高潮だ。
眩い光が収まった先には、称えあい握手をする勇者と魔王だった。精魂尽き果て、引き分けといった様子だ。
『配信、そしてライブビューイングで応援してくれたみんな~! ありがとう!』
『そして現地に来てくれたそなたらにも感謝する』
おい、あの激しい戦いの現地組が居るんかい。そして二人ともウィンクとか入っててファンサが凄い。
『本当にありがとうな!』
『そなたらにまた会える事を楽しみにしている』
手を振りながら二人は荒野を去っていった。ん? いや、またがあるのこの決戦。結構な激闘だったよ?
すすり泣きが聞こえる劇場、誰かともなく上がるペンライト。
「アンコール! アンコール!」
『アンコールありがとう!』
『そなたらのアンコール感謝する』
いやいや、即再戦かい!
こうして異世界と地球の平和は守られていくのだった?うん、またちょっと見たいかも……。
この短編の同じ世界観の短編を追加で書きました。ページ一番上の異世界ライブビューイングシリーズから見る事が出来ますので、是非そちらもご覧くださいませ。次の演目は聖女の祈りです。