出来損ないと欠陥機
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戦場で不思議なことが起きていた。
敵プラントを襲撃したはずの部隊が、今は何故か防衛戦を行っている。
自らが攻め込んだ敵基地。
砲台は破壊され、各地から煙が立ち上っていた。
ろくな防衛用の設備もないまま、ゾークと呼ばれる敵量産機を迎え撃つことになった。
『陸戦隊を呼び戻せ!』
『駄目だ。戻ってきたところで、空に逃げれば撃ち落とされるぞ!』
部下たちが乗るネヴァンは、倒れたゾークから奪い取った武器を使用していた。
クローディアの乗るネヴァンも、右腕にガトリングガンを持って近付く敵機を撃破している。
コックピット内で、陸戦隊の指揮官と状況を確認していた。
『外は大変ですね。こっちは幹部数名を拘束しましたよ』
「ならば、貴官らだけでも撤退しろ。捕らえた幹部をクリスティアナ様に届けてくれ」
『そうしたいのは山々ですが、この状況では撃ち落とされますよ』
モニターの一部を拡大すると、小型艇を撃ち落とすために光学兵器の砲台を乗せて自走砲が何台も見える。
あらかじめ準備していた敵に、クローディアは苦々しく思う。
「機動騎士部隊で脅威を排除する」
『本気ですか?』
ネヴァンで突撃して、敵の自走砲を撃破する。
そうすれば陸戦隊は小型艇に乗って逃げられるだろうが、ネヴァンの方は数の暴力を前に破壊されるだろう。
不用意に跳び上がり、プラントの壁を越えて内部に侵入しようとしたゾークをガトリングガンで蜂の巣にしながらクローディアが決断する。
「本気だ。それに、死ぬつもりはない。全部倒してしまえば我々の勝ちだ」
海賊に捕らわれるという意味を理解するクローディアとその部下たちは、最初から掴まるくらいなら死を選ぶ。
その際は一機でも多く道連れに、と考えていた。
陸戦隊の指揮官が呆れつつも、任務を優先するためクローディアの申し出を受け入れようとすると。
『生きて再会したら、秘蔵の酒を振る舞いますよ』
「悪いな。私は下戸だ」
『ハハハ! それなら、大佐に抱えきれないくらいのキャンディーでも届けさせま――ッ』
通信が「プツッ」と音を立てて途切れると、モニターに強制的に切断されたという文字が宇点滅していた。
「おい!」
呼びかけるが答えない陸戦隊。
その直後、プラントの中央部分の広場に亀裂が入った。
隠しハッチだったその場所が開くと、円柱状に空いた穴が出現する。
「地下施設?」
あらかじめ用意されていた地下施設は知っていたが、その下にあるのはプラントの電力供給に関わる施設だったはず。
クローディアが今度は何が起きたのかと警戒していると、リフトで持ち上げられて姿を見せる巨大な兵器が出現した。
丸みを帯びたフォルム。
小さな山のようなそいつは、装甲板に幾つもの目を持っていた。
光学兵器を照射するレンズだが、高出力を扱う物だ。
味方の電子戦機が、敵の情報をスキャンして驚愕していた。
『隊長、あいつ発電機と繋がっています。見えているレンズは、戦艦に搭載する光学兵器ですよ』
ビーム、レーザー、それら光学兵器の全てが、戦艦に積み込まれる物だった。
「わざわざあんな物を用意していただと?」
いっそ海賊船でも持って来れば十分ではないか――とは、クローディアも言わない。
そもそも、海賊船であればクローディアたちが撃墜させていた。
敵は基地その物。
基地と一体化し、常にエネルギーを供給されている状態だ。
電子戦機の解析により、嫌な情報が報告される。
『光学兵器用のフィールドを展開していますね。装甲は――海賊共の粗悪な武器では、とても貫けそうにありません』
外にはゾーク。
内部には大型兵器。
前後を挟まれ、挟撃されることになったクローディアが俯く。
「――私も無能だったか」
『隊長?』
罠に誘い込まれた気分だった。
自分たちをあざ笑う声が聞こえてくる。
『ようこそ、バンフィールド家の皆さん! 私のもてなしはいかがですか?』
笑いながら話しかけてくる声の主は、どうやら大型兵器の中にいるようだ。
その人物が話している間だけは、海賊たちも攻撃の手を緩める。
「お前がここのトップか?」
クローディアが相手から情報を聞き出そうとすれば、律儀にも答えてくれる。
それだけ余裕があるのだろう。
『アドバイザーですよ。ミスターリバーとでもお呼びください』
「随分と手の込んだ真似をする」
できるだけ悔しがるそぶりは見せないように心がけながら、クローディアはリバーとの会話を行っていた。
普段は海賊と取引をしないバンフィールド家の騎士が、話に付き合っているのは異例だろう。
それだけ危機的状況である証拠だった。
リバーもそれを理解していたのか、手を叩いて喜んでいる。
『海賊狩りとして勇名をはせたあなた方に、そこまで言われるとは嬉しいですね。ただ――あなた方はやり過ぎました。海賊たちを狩るだけならば、ここまでする必要はなかったのですけどね』
「何が言いたい?」
『二年前に滅ぼされたバークリー家は、我々にとってもお得意様でした。あなた方は、海賊だけを相手にしているつもりだったかもしれませんが――他にも恨みを買ってしまったのですよ。だから、こうして罠にはまってしまう』
海賊に対して容赦のないバンフィールド家は、知らない内に色んな組織を敵に回していると語る。
だが、それをクローディアは鼻で笑った。
「はっ! 海賊の真似事をする馬鹿を、我々が殺してしまったか? ――それがどうした?」
何の問題がある? そういう態度を取るクローディアに、リバーは少し機嫌を損ねる。
『――この状況で随分と強気ですね。あの小憎たらしいリアムの騎士だけはある。ですが、それもここまで。あの小僧の名声も今日で地に落ちるでしょう』
「どういう意味だ?」
クローディアは敵との会話を録音しながら、目的を探っていた。
リバーは機嫌がいいのか、ペラペラと話をする。
圧倒的に優位な状況にあるのだろうが、まるで危機感がない。
(こいつは何だ? 何かが欠けたような不気味さがあるな)
感覚的にリバーが普通の人間ではないと、クローディアは察してしまう。
『あの小僧の精鋭ともいうべきあなた方が、たかが辺境の海賊に敗北するのです。すぐに首都星に噂は届き、リアムもこの程度だと認識される』
「――お前、まさかそのために?」
『おや? その程度とお考えで? いけませんよ。この事実は後に大きな損失をバンフィールド家に生み出します。そのために我々は、辺境に用意したプラントを一つ失ってもいいと思っているのですからね』
主君の名声を落とすために、わざわざこんな手の込んだことをした。――それを聞いて、クローディアは自分の失態を恥じる。
大型兵器が僅かに動くと、戦闘態勢に入ったようだ。
周囲のゾークたちも攻撃を再開していた。
クローディアは、部下たちに声をかける。
「――全機、覚悟を決めろ」
(私も無能だったか)
◇
プラントから遠く離れた場所。
軽空母レメアは、大気圏からの離脱準備に入っていた。
ブリッジの司令官が、帽子をかぶり直している。
「次から次に仕掛けが出てくるとか、敵は手品師かよ」
オペレーターが、そんな司令官にためらいがちに確認してくる。
「本当に我々だけで離脱していいんですか?」
「俺たちは最初から数に入っていないだろうが。それに、通信障害も酷い。さっさと逃げるのが賢明な判断だ」
「今度こそ、軍をクビになりますね」
「――だな」
敵前逃亡で銃殺刑もあり得るのだが、司令官は覚悟を決めていた。
自分が銃殺刑になっても、部下たちが生き残ればいい、と。
シートに深く腰掛けて、独り言を呟く。
「何百年も軍にしがみついたが、最後は呆気なかったな」
命がけで戦った時期もあるが、何もかも嫌になって今は軍にいるだけ。
司令官はこれで終わりだと思うと、不思議と気分が楽に――ならなかった。
(何で俺はこんなことをしているんだろうな)
味方を見捨てて逃げる上官を嫌悪した頃を思い出す。
そんな自分が、今は同じ事をしている状況が空しくなった。
司令官が自分の人生について考えていると、オペレーターの焦る声が聞こえてくる。
「だから、もう宇宙に出るって伝えただろうが! 何? 調整が終わった? だから何だよ!」
「おい、何を騒いでいるんだ?」
司令官が騒ぐ原因を尋ねると、オペレーターが困った顔を向けてくる。
「うちの騎士様が、調整が終わったから出撃させて欲しいって五月蠅くて」
「欠陥機だろ? 何を考えているんだ」
上から送りつけられた欠陥機の話は、司令官も耳にしていた。
酷いことをすると思っていたが、騎士様――エマは本気のようだ。
モニター越しに司令官を見ている。
『あ、司令! 調整が終わったので、出撃します!』
「――時間切れだ。どうせあいつらは全滅している」
『ラリーさんが確認してくれました。まだ、戦闘が続いているって』
「あの糞ガキ」
ラリーのことを糞ガキ呼ばわりする司令は、エマを説得する。
「お嬢ちゃん。お前もクローディアって騎士とは因縁があるんだろ?」
モニターの向こうでエマが顔を伏せる。
「見捨てたっていいじゃないか。撤退を決めたのは俺だ。お嬢ちゃんの責任じゃない。それに、欠陥機で出撃しなくてすむぞ。いくら出来損ないの騎士だからって、欠陥機を送りつける上は酷いよな。お嬢ちゃんは何も悪くないんだ。だから、無理する必要はない」
『あたしは――』
◇
実験機のコックピット。
操縦桿を握りしめるエマは、欠陥機と呼ばれる機体に自分を重ねる。
「あたしは――出来損ないだって言われてきました」
『だから、ここは――』
司令官が何を言おうとしたのか? エマには関係ない。
「でも、あたしは騎士です! この子も欠陥機じゃありません。あたしが証明してみせます!」
決意が揺るがないと思ったのか、司令官は諦めたようだ。
『そうかい。なら好きにしろ。――俺たちは逃げるぜ』
「――ありがとうございます」
通信が閉じると、開いたハッチからモリーが顔を出していた。
「本気なの?」
「だ、大丈夫。この子と一緒なら頑張れる気がするんだ。それに――【アタランテ】ならやれるから」
実験機のモニターに機体名が浮かび上がり、そこにアタランテと表示されていた。
ネヴァン・カスタム――アタランテ。
名付けられた名前を呼ぶと、アタランテのマスクの下にあるツインアイが光を放つ。
「なら、もう止めない。でも、死なないでよ!」
モリーが放れると、ハッチが閉じる。
外に出たモリーが端末で操作を行うと、アタランテを固定していたリフトが動いて開いたレメアのハッチから機体を外に出した。
吊されたアタランテは、各部のノズルを動かして動作の確認を行う。
モリーが出撃可能を知らせてくる。
『いつでもいいよ!』
「エマ・ロッドマン――アタランテで出撃します」
呟いてペダルを踏み込むとアタランテを固定していたリフトが外れ、空中に放り出される。
落下しながら、背中に積んだブースターが点火されて加速していく。
エマの体はシートに押さえつけられた。
「っ! ――まだまだあああぁぁぁ!!」
欠陥機がレメアから出撃し、敵プラントへと向かった。
エマ(*´∀`)「実験機は浪漫ですよね」
若木ちゃん( ゜д゜)「リアルだと、そういうのより量産機の方が強いのよね」
エマ(*´∀`)「量産機もいいですね。浪漫です」
若木ちゃん( ゜д゜)「ん? それなら、アヴィドみたいなのは?」
エマ(*´∀`)「もちろん、浪漫です!」
若木ちゃん(;゜Д゜)「そ、そう」
若木ちゃん(;゜Д゜)「それはそうと 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】 が 【11月30日】に発売されるわ。電子書籍の予約も開始されたから、みんな買ってね」
エマ(*´∀`)「乙女ゲー世界に転生って浪漫ですよね~」