貴族の存在価値
ネヴァン・カスタムのコックピットの中で、エマは実機の感触を確かめていた。
「シミュレーターと同じで操縦は問題ない……それなら!」
事前に行ったシミュレーターの感触とほぼ変わらず、問題ないと判断すると即座にライフルを構えて加速していく。
速度が増せば体にかかる荷重も増すが、アタランテと比べれば少ない。
むしろ、物足りなさを感じていた。
「……やっぱり、加速力が足りない」
フットペダルを踏み込んでも、アタランテのような反応は返ってこない。
そんな中でもエマのネヴァン・カスタムは、自分たちの進行方向に出てきた敵機動騎士を正確にライフルの射撃で貫いていた。
敵機からの反撃も当然あるのだが、エマは回転などを加えた不規則な動きをさせつつ回避している。
そんな動きを外から見ていたのは、ラクーンに乗る僚機のラリーだ。
ラリーの乗る白いカスタムされたラクーンは、機体の全長よりも少し短い大型ライフルを構えている。
バックパックに円盤形のレーダードームも懸架しており、狙撃に特化した構成にしていた。
『あまり無茶な動きをしていると空中分解するぞ、隊長!』
同じ第三小隊に所属するもう一機の白いラクーンは、ダグの乗る愛機だ。
ガトリングガンを装着させて、両肩などにはミサイルポッドを懸架していた。
光学兵器や実弾をばらまく役割を担っており、こちらに近付いてくる敵機に牽制を行っていた。
『ラリー、隊長殿よりも自分のことを優先しろ! ほら、敵さんが待ち構えていやがるぞ!』
エマたち機動騎士部隊が突き進んでいるのは、敵艦隊の陣形の中だ。
敵もエマたちの狙いが旗艦を狙った速攻戦術であると気付き、機動騎士部隊を配置して防衛に当てていた。
待ち構えていたのは、現行型のモーヘイブが配備された機動騎士大隊である。
百機以上の機動騎士が、エマたち技術試験隊に所属するラクーン中隊を待ち構えていた。
射程に入り次第、狙撃する構えを見せていたのでエマは操縦桿を強く握り、フットペダルを限界まで踏み込んだ。
「先行します。あたしが空けた穴を利用して突破してください」
命令を出す前に動いていたエマに、ラリーが慌てた声を出す。
『またかよ! 本当に脳筋みたいな戦い方しか出来ないな!』
エマを単独で突撃させるわけにもいかないと、ラリーのラクーンも加速する。
少し遅れて重武装のダグのラクーンが追いかけてくる。
『後ろの連中のために錯乱幕を散布しておいてやるか』
ダグのラクーンがミサイルを数発だけ発射すると、それらはすぐに破裂して光学兵器を減退させる物質を散布した。
ただ、敵はエマたちが有効射程に入る前に射撃を開始する。
これを見てダグは苦々しい反応をする。
『有効射程外から狙撃……腕自慢ってわけじゃないな。こいつら、相当混乱しているみたいですぜ』
練度不足を感じ取ったのだろう。
かつての自分たちを見ているような気分になったのだろう。
「……押し通ります。無駄に撃破して弾薬を消費しないように」
メレアのクルーたちを見てきたエマには、目の前の敵が今回の戦いに巻き込まれた被害者に見えた。
見逃すことは出来ないが、作戦目標を考えれば無駄に相手をする必要もない。
加速したネヴァン・カスタムが最初に敵機動騎士に接触すると、左腕に装着していたシールドの鋭い先端部分で敵機の頭部を刈り取った。
周囲のモーヘイブたちが、味方に当たるのを気にせず肉薄したエマのネヴァン・カスタムに銃口を向ける。
エマがライフルを手放すと、サイドバインダーに取り付けたホルスターから拳銃型の射撃武器を引き抜いて周囲のモーヘイブを撃ち抜いた。
三機のモーヘイブが瞬く間に撃破されると、他の敵機は動揺して動きを鈍らせる。
エマはそのまま回転するように射撃を行い、次々とモーヘイブを撃破して敵大隊の戦意を刈り取ってしまった。
そんなエマに一気のモーヘイブが、戦斧型の近接武器を振りかざして斬りかかってくる。
左腕のシールドで受け止めたエマのネヴァン・カスタムとの間に、接触したことで通信回線が開かれ敵パイロットの声が聞こえてくる。
『ふざけやがって! バンフィールドと戦争するなんてこっちは聞いてなかったんだっ!』
敵パイロットは泣き叫んでいるようだ。
他のモーヘイブと動きが違っており、優秀なパイロットらしい。
エマは眉根を寄せて言う。
「それならさっさと降伏しなさい!」
『ははっ! 降伏したら処刑だ。俺たちは進むしかねーんだよ!! だから、お前が死んでくれよ!』
「……それは出来ません」
斧を振り回すモーヘイブの攻撃を盾で弾いたネヴァン・カスタムは、右手の拳銃を敵コックピットに向けて引き金を引いた。
モーヘイブが爆発する。
大隊で一番頼りになるパイロットが戦死したためか、他のモーヘイブたちの動きが更に動揺していた。
アタフタしていたモーヘイブの一機に、ダグのラクーンが蹴りをお見舞いした。
『戦場で止まるな、馬鹿野郎! さっさと帰れ!』
蹴飛ばされて吹き飛んだモーヘイブを見て、ラリーはダグに皮肉を言う。
『お優しいことで』
二人の会話が聞こえている間に、遅れてラクーン中隊がやって来てモーヘイブたちを叩き始めた。
エマは二丁拳銃をホルスターに仕舞うと、漂っていたライフルを拾って右手に構える。
「優先するのは敵旗艦です。この部隊は放置して構いません!」
エマが先行すると、ラクーン中隊が敵機を無視して追いかけてくる。
命令を出せば即座に従って合流するラクーン中隊は、エマの指示に完全に従う優秀な部隊に仕上がっていた。
エマはコックピットの中で周囲に視線を巡らせつつ、この状況について考えていた。
(敵の練度は低い。それに、艦隊からの反撃も思ったほどじゃない。それに、この敵部隊の配置……敵旗艦の位置が簡単に割り出せてしまう)
露骨に守りの厚い部分があるため、むしろ罠ではないかと不安になる程だった。
しかし、敵の練度を見てエマは確信する。
(……あそこだ)
敵の配置をレーダーで確認したエマは、ネヴァン・カスタムのカメラが捕えた大きく派手な戦艦に狙いを定める。
貴族の中には、むしろ大半の貴族たちは、自分が乗る乗艦を派手に飾り立てる傾向にあった。
自分の居場所を教えているようなものだが、本来の貴族たちは滅多に戦場に出て来ない。
バンフィールド家の方が例外だ。
エマは目標とする敵艦をタップすると、旗下の中隊に共有する。
「……敵旗艦と思われる戦艦を発見しました」
共有された情報にラリーが噛みつく。
『目立ちすぎる! 偽物の可能性だってあるだろ!』
しかし、長く軍隊生活をしているダグは、エマの意見に賛同する。
『いや、こいつらの練度と、カールトン子爵だったか? あいつの様子を見ていると、間違いじゃないと思うぜ』
『本当だろうな!? 間違っていたら、敵艦隊の中で補給も整備も受けられず孤立することになるんだぞ!!』
ラリーの懸念も仕方がないと思いながらも、エマは自分の感覚を信じた。
「全機、あたしに付いてきてください!」
ラリーの恨み言が聞こえてくる。
『外れだったら恨みますからね、隊長!』
◇
その頃、メレアに残ったヴァローナ隊とアーマードネヴァンは母艦の防衛を行っていた。
コックピットから状況を把握する【アイン・木村】は、カールトン子爵の艦隊を相手にする自分たちよりも傭兵団の相手をしている味方艦隊が苦戦しているのを気にかけていた。
「傭兵団にしてはやたら攻勢をかけてくるな」
良くも悪くも傭兵というのは戦争を商売と考えており、無駄に命を散らすことを避けている。
旗色が悪くなれば即座に撤退するし、優勢になっても契約次第では動こうとしない。
必死に戦うこともあるが、それは珍しい事例だ。
そんな傭兵団が、今回は珍しく真剣に戦っている。
バンフィールド家の艦隊を相手に、数の利を生かして損害を無視して攻勢をかけているようにしか見えなかった。
近付いてくるモーヘイブの一機を撃破したアインは、味方が押されているのを心配する。
「規模も大きいから有名な傭兵団か? ……ロッドマン中佐が敵旗艦を撃破してくれれば、状況も変わると思うが……」
周囲を気にかけているアインに、リックのアーマードネヴァンが近付いてくる。
『どうしたっすか、木村っち?』
「……リック少尉、あなたは騎士だが、自分の方が階級は上だと忘れないで欲しいな」
『そういう堅苦しいのは苦ってっすね』
軽口を叩いているリックだったが、使い慣れたアーマードネヴァンで最低限の動きで敵機を撃破していた。
「傭兵団の動きが気になる。味方が押されているようだから、ロッドマン中佐の活躍に期待したいと思っていたところだ」
『あ~、それは確かに! パイセンがさっさと敵の貴族様を倒してくれれば、傭兵団も引き下がってくれるっすね!』
「そうだな」
(そうだ。引き下がるはずだ……)
僅かな不安を感じながらも、アインはメレアの防衛に専念する。
中尉として小隊を率いる自分には、それしか出来ないからだ。
◇
カールトン子爵は焦っていた。
周囲に怒鳴り散らし、現状を受け入れようとしない。
「何故こちらの機動騎士部隊が次々に撃破され、敵の侵入を許した! すぐそこまで敵が迫っているではないか!!」
不甲斐ない味方のせいで自分が負けてしまうと焦っているカールトン子爵に、実質的に指揮を執っている副司令官が説明する。
「バンフィールド家の軍隊が精強であるのは、事前に何度も説明致しました。こちらとは兵器の質も、そして兵士の練度も違うのです」
正論を言われたカールトン子爵は、ダリア傭兵団に文句を言う。
「傭兵共はどうした! 数だけは揃っているのだから、こちらに救援を回すように命令を出せ!」
「……既に何度も出しましたが、あちらも精一杯だと回答するばかりで戦力を割くつもりはないようです」
「高い金を払っているのに役に立たない傭兵共が!」
副司令官はカールトン子爵の狼狽ぶりを見て、もう諦めの境地に達していた。
ブリッジクルーたちも苦々しい顔をしている。
こんな奴のために自分たちはバンフィールド家と戦わされているのか、と。
通信士がハッとした顔をして、それから振り返って叫ぶ。
「敵機動騎士中隊が接近!」
副司令官が命令を出す前に、カールトン子爵が切り札である機動騎士部隊の出撃を命じる。
「ワイルダーだ! ワイルダーを配備したわしの騎士団に相手をさせろ!」
騎士が乗る機動騎士部隊を出撃させろという命令は、即座に実行される。
旗艦から次々とワイルダーが出撃し、接近してくる敵機動騎士中隊に襲いかかった。
しかし、先行するネヴァンと思われる機体に次々に撃破されていく。
その様子にカールトン子爵は叫ぶ。
「リバー!! あの嘘吐きが!! ネヴァンなどワイルダーの敵ではないと言っていたではないか!! ビッグ・ボアはどうした!?」
リバーが持ち込んだ大型兵器ビッグ・ボアだが、モニターに映し出されると敵機動騎士中隊に集中砲火を浴び、その間に先陣を切るネヴァンタイプが止めを刺していた。
次々に撃破されるビッグ・ボアを前に、カールトン子爵は震えていた。
「こいつらはば、化け物か……」
副司令官が軍帽を深くかぶり、冷たく言い放つ。
「ろくな戦闘経験もない騎士が、バンフィールド家の騎士に勝てるはずもないでしょ。そもそも、あなたがバンフィールド伯に並ぼうというのが無謀だったのですよ」
「き、貴様!!」
部下の物言いに拳銃を手に取ろうとするカールトン子爵だったが、それよりも先にネヴァンが戦艦のブリッジに迫っていた。
拳銃型の射撃武器を構え、銃口を向けて降伏勧告を行ってくる。
『カールトン子爵ですね? 勝敗は決しました。降伏しなさい』
まだ幼さを感じる声に、カールトン子爵はネヴァンに拳銃を向けて発砲する。
もう正常な判断が出来ていなかった。
「わしはこんなところで終わる男ではない! バンフィールドに変わって伯爵、いや公爵になり! 帝国で栄華を極めてやるのだ! 邪魔などさせるものか!!」
気が付けば副司令官がブリッジクルーたちを退避させており、もうカールトン子爵しか残っていなかった。
相手の騎士はカールトン子爵の未来を想像したのか、悲しそうに呟く。
『……残念です』
機動騎士が拳銃の引き金を引くと同時に、カールトン子爵はこの世から消え去った。
リアム(# ゜Д゜)「……この惨状を見ていると、ティアとマリーの罪って重い。重くない? やっぱ、筆頭騎士はクラウスしかいねーわ」
天城(´ー`)「クラウス殿の評価を更に上昇修正、と……」
クラウス( ;∀;)「周りがドンドン出世レースから爆速でリタイアするせいで、結果的に残った自分が筆頭騎士候補に……辛いです」




