宇宙戦闘
カールトン子爵の艦隊を迎え撃つため出撃したバンフィールド家の艦隊は、艦艇の質という面で優れているため先に敵艦隊をレーダーで捕捉した。
このまま敵艦隊に奇襲攻撃、を仕掛けられれば戦いは楽に終わるだろう。
しかし、バンフィールド家に奇襲は選べない。
何故ならカールトン子爵家は、バンフィールド家の寄子である。
これが無関係の貴族なら宇宙海賊と判断して先制攻撃を仕掛けてやった。
何しろ見るからに戦う気があり、困っている様子もない。
傭兵団まで引き連れて、無断でバンフィールド家の本星を目指しているのに、だ。
付き合いがあるために、念のために領内侵犯をした理由を尋ねなければならない。
パイロットスーツに着替えたエマたちは、控え室にて待機をしていた。
このまま相手が引き下がってくれればいいのに、と淡い期待をしながら司令官と敵司令官であるカールトン子爵のやり取りを見守っている。
エマの近くに立っていたラリーが、忌々しそうに呟く。
「領主様が行方不明になったくらいで、あちこちから敵が攻めてくるんだから嫌になるよね」
現状に不満をこぼすラリーにエマは言う。
「存在するだけで価値があるのが領主様ですよ」
「それ、隊長の領主様贔屓じゃないの?」
雑談をしている二人に、腕を組んだダグが視線を向けてくる。
「そろそろだぞ」
壁に埋め込まれたモニターが起動し、司令官の顔が映し出された。
『カールトン子爵家の艦隊とお見受けします。既にこの宙域はバンフィールド家が預かる場所であり、あなた方は無断で侵入されている。このまま引き返すか、正式な手続きを行うことをお勧めするが?』
司令官も敵が引き下がるとは思っていないが、先制攻撃をすればカールトン子爵家が難癖を付けてくる可能性もある。
仕方がないから警告しているに過ぎない。
対する敵司令官は、予想通りカールトン子爵だった。
実質的な司令官は別にいるだろうが、敵艦隊を代表する人物として出てきたのだろう。
『バンフィールド家を支える十二家の一角を担うこのバリス・セラ・カールトンが、リアム様不在のバンフィールド家を守るためにハイドラを目指しているのだ。貴様らは大人しく我々をエスコートすればよい』
バンフィールド家を支える十二家……寄子の中でも男爵家以上の領主たちが名乗っていた。
司令官は目を細めていた。
『バンフィールド家はそのような役職を定めていません。もう一度言います。……引き返しなさい』
司令官の態度にカールトン子爵は不機嫌になると、言動が荒々しくなる。
『貴族であるわしに何たる無礼な物言いか! バンフィールド家の小僧は家臣もろくに教育できていないようだな!』
これを聞いて司令官は小さなため息を吐くと、視線を険しくした。
『今の言葉は聞き捨てなりませんね。それでは、こちらはあなた方を敵として対処するまでです。……総員、戦闘配置』
司令官の言葉を聞いて、周囲ではパイロットたちがヘルメットをかぶり待機室から出て行く。
エマも地面を蹴って飛ぶように部屋を出て行くと、並んだのはラリーだ。
「領主様は存在するだけで価値があるんでしたっけ? 僕にはそれだけの価値があるようには思えませんけどね」
エマは抗議したかったが、カールトン子爵を見た後では強くも言えなかった。
だが、領主様への不敬な発言は許せないので注意する。
「不敬ですね、ラリー准尉。戻ったら腕立て伏せとスクワットを五百回ずつするように」
「げっ!?」
重めの罰を受けたラリーがしまった、という顔をすると後ろからやって来たダグが頭を軽めに叩いた。
「馬鹿なことを言っていないでさっさと機体に乗れ」
「……わかっているさ」
壁を掴んで腕の力を使って進行方向へ進む力を増したラリーが、二人の前を行く。
ダグは困った顔をしながらエマに言う。
「相変わらず口の悪い奴です」
「そうですね。罰を受けるとわかっているのに言うんですから、筋金入りですよ」
エマも呆れてはいるが、それでも出会った頃と比べれば改善が見られた。
ダグは苦笑しながら言う。
「この機会に昔の熱意を取り戻して欲しいんですけどね。……あいつ、真面目にやれば俺なんかよりも優秀な男ですから」
ダグはラリーに期待しているらしい。
それはエマも同じだ。
「ラリー准尉の狙撃の腕はあたしも頼りにしていますよ。もちろん、ダグ准尉も頼りにしています。あなたの経験には何度も助けられてきましたからね」
「そいつは嬉しい褒め言葉ですね」
話している間に格納庫に到着した二人は、自分の機体の方へと向かう。
エマがネヴァン・カスタムのコックピットに到着すると、整備兵用の宇宙服を着用しているモリーが近付いてくる。
「エマちゃん、この子のアシストは切ってアタランテの調整を引き継いだけど無茶はさせないでね。アタランテほど頑丈じゃないんだから」
アタランテは第三兵器工場のネヴァンがベースになっているため、設定の引き継ぎなどはスムーズに行われたらしい。
「わかっているよ。本当なら実機を動かして感覚を掴みたかったけどね」
時間不足を嘆いていると、モリーが親指を立ててウインクをした。
「エマちゃんならぶっつけ本番でやれるって! 何しろ操縦に関しては天才だし」
「あたしが天才?」
「第三のスタッフが言っていたよ。こんなピーキーな機動騎士を乗りこなせるのは、エマちゃんくらいだろうって」
「初めて言われたかも……」
天才と呼ばれても実感がわかないエマだったが、そろそろ時間が迫っていた。
「……モリー、ありがとう」
「うん! ちゃんと戻って来てね!」
モリーが離れたのでコックピットのハッチを閉じたエマは、暗くなったコックピットで深呼吸をした。
その間にモニターが起動して周囲の景色を映し出して明るくなると、エマは真剣な表情をしていた。
「……各機、これより作戦の再確認をします。あたしたち機動騎士部隊は二手に分れて作戦に臨みます。一つはカールトン子爵率いる敵艦隊の旗艦を狙う部隊です。もう一つは傭兵団の動きを封じる部隊です」
モニターには中隊長以上の騎士やパイロットたちの顔が映し出され、騎士長であるエマの言葉を聞いていた。
「傭兵団の数が多いため、大半はそちらに回ってもらいます。大隊長の指示に従い行動してください」
少数精鋭でカールトン子爵の乗る旗艦を撃破、あるいは拿捕して捕える……捕えれば最良だが、状況的に難しければ撃破するしかない。
エマが大隊長たちの顔に視線を巡らせると、緊張している者がほとんどだった。
この規模の戦闘に参加したことがないだろうケイを始め、大隊の指揮に不安が残る者も多いらしい。
その中にはカルアも含まれていた。
何しろ、敵の数の方が多いのだから仕方がない。
エマは一度目を閉じ、それから口を開く。
「大半には傭兵団の相手をさせて、あたしたちが手柄を上げる形になってしまいますが恨まないように」
少数で二千隻の相手をするエマたちの方が厳しいのに、軽口を叩く姿を見て半分くらいのパイロットたちは緊張が解けていた。
『今度の騎士長殿は欲張りすぎですね』
『違いない』
『こちらは傭兵団相手に楽をさせてもらうとしましょう』
エマは内心で冗談がもっと上手ければよかったな、と思いつつ僅かに苦笑した。
そのタイミングで命令が出る。
『機動騎士部隊は出撃準備! 交戦距離に入ります!』
エマは表情を引き締めた。
(後は出撃するまでメレアが沈まないことを祈るだけ……)
◇
両艦隊による光線の撃ち合いが開始されると、メレアのブリッジではティムが声を張り上げていた。
かつてのやる気のない態度は消え去り、ブリッジクルーに檄を飛ばす。
「この程度の撃ち合いでビビるんじゃねーぞ! この距離なら直撃しても防御フィールドが守ってくれる! メレアの役目は機動騎士部隊を無事に発艦させることだ! 敵の奴らに特大のプレゼントをくれやれ!」
特大のプレゼントとは、メレアが保有する機動騎士部隊を指している。
敵に大損害を与えてくれると、ティムが信じての言葉だった。
メレアには機動騎士部隊のサポートとして配属されたアリスンは、今は副長としてブリッジで戦闘指揮を執っている。
「有効射程に入るまでは敵に当てるよりも、味方に当てないように気を付けなさい! 光学兵器減退ミサイルの発射準備はどうなっているの!?」
揺れる艦内で五月蠅いティムの声に負けないように、アリスンも自然と声量が大きくなっていた。
「全発射口、準備出来ています!」
返ってきた答えに、アリスンは言う。
「機動騎士の出撃タイミング前には全部発射して!」
「あれ、高額で貴重なんですけど!? 本当に全部使うつもりですか!?」
「請求書や諸々の責任なんて全てロッドマンのアホに叩き付けてやるわよ! 私を引っ張って来たことを後悔させてやる!!」
私怨混じりのアリスンの命令は実行に移され、機動騎士が出撃するタイミングに合わせて盛大にミサイルが発射された。
ティムが口を大きく開けて笑う。
「俺のひ孫はいかしてるなっ!」
「ひ孫言うな! 私はあんたがひい爺さんだなんて、認めてないからね!」
光学兵器の威力を減退させる攪乱幕が広がり、機動騎士ばかりか周囲の味方艦の支援も行う。
すると、メレアのハッチが開いて続々と機動騎士が出撃する。
先頭を行くのはネヴァン・カスタムに乗るエマだった。
機動騎士部隊が出撃して敵艦隊に襲いかかると、敵も機動騎士部隊を出撃させる。
だが、その様子を見てティムがニヤリと笑った。
「おいおい、お遊戯レベルじゃねーかよ……そんな隙を見せたら、うちの連中が全部食い散らかすぞ」
敵艦隊の練度は高くなく、出撃すら手間取っていた。
そんな状態でエマたちの前に出てしまえば、どうなるかなどハッキリしている。
エマが指示を出すと、ラクーンを使用する中隊が反応して散開した。
出撃に戸惑い、まとまらない敵機動騎士部隊を次々に撃破していく。
その際、敵艦のハッチを破壊するなどこれ以上の出撃を防いでいた。
アリスンはその様子に腹を立てる。
「こっちを気遣っているつもり? いいから、さっさと作戦を実行しなさいよね!」
さっさと敵旗艦を探し出し、撃破すればいいのにメレアの邪魔になりそうな敵艦にダメージを与えていくのはエマの判断だろう。
アリスンは腹を立てているため声が大きくなる。
「被弾した敵艦を優先的に狙いなさい!」
その間に小隊単位で散開していた中隊は、再びまとまり敵艦隊の中を縫うように進んでいく。
中隊の動きはアリスンから見ても練度が非常に高く、かつての左遷策の部隊とは思えなかった。
「これが、あのロッドマンが鍛えた機動騎士部隊、ね……悪くはないわね。けど……」
そこから先をアリスンは言葉にはしなかった。
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