なりふり構わず
宇宙空間にて六千隻の艦隊が、帝国の兵器工場からやって来た輸送船団と合流して補給を受けていた。
艦隊司令官として参戦したバリス・セラ・カールトン子爵は、輸送船団を率いてきたリバーと名乗る人物と面会していた。
戦艦の中には無駄にスペースを取った豪華な部屋が用意されており、カールトン子爵は上機嫌でリストを確認していた。
空中に浮かぶ電子書類は半透明のホログラムなのだが、受けた補給は様々だ。
その中には機動騎士も含まれていた。
「機動騎士の補充は助かるが、ほとんどがモーヘイブばかりとは味気ないな」
上機嫌ではあるが、チクリと嫌みを言ったのは傲慢さからだった。
相手をしているリバーは、スーツを完璧に着こなした細身の男だ。
カールトン子爵を相手に態度を崩さない。
「確かにモーヘイブばかりではありますが、どれも現行機であるため性能は保証しております。それに、一部ですが第一兵器工場自慢のワイルダーをお持ちしました」
次世代機のワイルダーの話に、カールトン子爵は疑わしい目を向けた。
「バンフィールド家の小僧は嬉々としてネヴァンを使い活躍していたが、このワイルダーの噂はほとんど聞こえてこないぞ」
リアムをバンフィールド家の小僧と呼ぶだけで、リバーは目の前の男が現実を見ないその他大勢の貴族の一人だと判断した。
それでも態度に出さず、セールスマンとして振る舞う。
リバーは胸を張ってワイルダーの活躍を誇る。
「この辺りではネヴァンの名前が売れておりますが、帝国全体を見ればワイルダーの方が有名ですよ。既に各地の戦場で活躍しているのに対して、第三兵器工場のネヴァンはほとんど採用されておりません」
これは事実だった。
だが、各地の戦場で活躍していることと、販売台数がイコールではない。
ワイルダーは第一兵器工場が、第二兵器工場と共同で開発した次世代機だ。
しかし、その後の戦績がよろしくなかった。
第三兵器工場のネヴァンが活躍の陰に隠れていたので、第一兵器工場が各地の戦場に送りつけて実戦データを集めて改修を行っているに過ぎない。
(性能ではネヴァンに劣ってはいない……だが、運が悪すぎた機体だな。バンフィールド家が全面的にバックアップし、大量のデータをフィードバックしたネヴァンはどんどん洗練されていく。差が開くばかりだ)
ネヴァンがここまで活躍できたのは、初期からバンフィールド家が採用して実戦投入を繰り返してきたからだ。
それだけの膨大なデータがあれば、ネヴァンを改修するのも困らなかっただろう。
カールトン子爵は補給物資の話を区切りたいのか、傭兵団の話を振る。
「まぁ、いい。それよりもダリア傭兵団だったか? こちらよりも数を揃えてくるとは何を考えている? これではわしが目立たないではないか」
「いくらバンフィールド家が混乱しているとはいえ、数は多いに越したことはありません。それに、勝てば全ての功績はカールトン子爵のものですよ」
「それもそうだな」
納得したカールトン子爵を前に、リバーは内心で毒づく。
(どこにでもいる無能貴族を焚き付けてはみたが、これで成功すれば御の字だな。問題なのは、あのシレーナがバンフィールド家にこだわりすぎていることか? ……今回はうまく利用できたが、そろそろ切り時か?)
リバーは笑みを浮かべる。
「それに、機動騎士に加えてアレも大量にお持ちしました。存分にお使いください」
カールトン子爵は口を開けて豪快に笑う。
「あの丸っこい玩具か! バンフィールド家も驚くだろうな!」
◇
その頃、ダリア傭兵団の旗艦にもリバーの姿が存在していた。
カールトン子爵を相手にしているリバーも本物ならば、この場にいるリバーも本物だ。
リバーは改修されたキマイラ……かつてはゴールド・ラクーンと呼ばれていた機動騎士を使った大型の何かについて説明をしている。
「あなたがキマイラと呼んでいた機動騎士ですが、コックピットに関してはかなりの高級品でしたので再利用しましたよ」
胴体と頭部を残し、他は失われてしまった。
そんなキマイラだが、下半身に取り付けられたのは機動騎士の足ではなく改修されたビッグ・ボアだった。
ビッグ・ボア……球体状の機動兵器であり、本来は拠点防衛用に開発された。
基地の動力炉に繋いで高出力の光学兵器を扱いつつ、本体自体も頑丈であるため厄介極まりない拠点防衛用兵器だ。
そんなビッグ・ボアをキマイラは失った下半身代わりに取り付けていた。
キマイラ、かつてゴールド・ラクーンと呼ばれた機体は中央ユニットとなり、頭部の上には上半身の別のユニットが取り付けられていた。
禍々しい凶鳥を思わせるくちばしを持った頭部を持つ上半身ユニットの両腕には、機動騎士の物よりも巨大な腕が取り付けられており、そこには様々な武装が用意されていた。
肩から手首にかけて徐々に広がるようなデザインは、まるで翼のようにも見える。
手の方も翼の一部に見えるようなデザインで、両腕と両手を広げたら翼を広げたようにしか見えなかった。
リバーは横目で機体を見上げているシレーナを確認しながら、下半身のビッグ・ボアについて話をする。
「下半身ユニットは以前に死亡した私が乗っていた巨大兵器でしてね。本来は外部エネルギーに頼る構造だったのですが、背面にタンクを取り付けて強引に解決しています。エネルギー消費も激しいので空間魔法で予備のタンクも用意しましたが……コストを考えると頭の痛くなる機体に仕上がってしまいました」
採算度外視で用意された最終形態とでもいうべきキマイラを前に、シレーナは薄ら笑いを浮かべていた。
「こいつなら、あのエマ・ロッドマンも倒せそうね」
リバーはシレーナの言動に違和感を覚えていた。
(私が知っているシレーナであれば、このようなデザインの機動騎士は好まなかったはず。乗ることさえ拒否したでしょうね。それだけ、あの稲妻の騎士に固執しているのか? ……らしくない。いや、危ういな)
エマ・ロッドマンはリバーにとっても因縁のある騎士だ。
自分を殺した騎士としてちゃんと記憶していた。
そして、彼女が活躍している情報もリバーのところに届いている。
「……そのエマ・ロッドマンですが、バンフィールド家の本星でなくこちらに向かっているそうですよ。何でも、今回の作戦では騎士長任命されたとか」
すぐにエマと勝負が出来ると知り、シレーナは最初に目を丸くしたが……すぐに険しい表情に変わった。
「リバー、武器と弾薬をあるだけ買うわ。すぐに用意して、私の傭兵団に配りなさい」
この言葉にリバーは眉根を寄せる。
「あまり予算をかけては、報酬を受け取ってもマイナスになりますよ。それに、噂で聞いたのですが、ダリア傭兵団は今回の戦力を集めるために随分と無茶をしたそうですね?」
シレーナは既に採算度外視で動いており、それもリバーが懸念する点だった。
しかし、シレーナは傭兵としてではなく……意地で動いていた。
「あの娘に……エマ・ロッドマンに勝てないままで終われば、私は私でいられなくなる。あいつに勝つためなら、私は何だってやるわ」
エマ・ロッドマンに執着するシレーナの姿は、リバーには見ていられなかった。
「そうですか。それではご随意に」
◇
メレアの格納庫。
普段はアタランテが固定されている場所には、第三兵器工場から届けられたネヴァン・カスタムの姿があった。
エマのために第三兵器工場が用意した機動騎士で、ネヴァンをエースや上位騎士のために改修したカスタム機だ。
ただ、エマのカスタム機にはネヴァンの特徴である翼のようなバインダーの代わりに、二つのロケットブースターが取り付けられていた。
「アタランテと同じバックパックだ」
ネヴァン・カスタムを前にエマが素直な感想を呟けば、モリーと機体についてあれこれ話をしていた第三兵器工場からやって来たスタッフが顔を向けてくる。
「アタランテのデータを元に開発したブースターですよ。ただ、あのじゃじゃ馬と同じだとは思わないでください。大幅にデチューンしてありますからね」
流石にアタランテの性能を再現するのは難しかったらしい。
モリーが機体の装備についても話をする。
「わざわざ二丁拳銃を用意してくれるなんて、第三兵器工場って凄いわよね」
第三兵器工場のスタッフが笑った。
「そりゃあ、ロッドマン中佐のデータはうちに沢山ありますからね。それに、稲妻の騎士に用意する機体だから気を遣いますよ」
エマは首を傾げた。
「稲妻の騎士?」
「ロッドマン中佐の二つ名は稲妻でしょ? 最近、バンフィールド家以外では、一部で稲妻の騎士って呼ばれているみたいですよ」
「い、稲妻の騎士……安直すぎない? ねぇ、エマちゃん?」
モリーがその呼び方はどうなのかと疑問に思っていたが、当の本人は満更でもない様子だった。
むしろ、照れている。
「あ、あたしが稲妻の騎士……何かいいかも」
モリーは小さくため息を吐いた。
「エマちゃんがそれでいいなら、うちは何も言わないけどさ。……それより、アタランテの方は結局間に合わなかったね」
これにはエマも寂しく感じていた。
共に戦場を駆け抜けてきた半身が、この場にいないのは僅かながら不安だ。
「そうだね。間に合ってくれたら心強かったんだけどね」
第三兵器工場のスタッフが、間に合わなかった理由を話す。
「今回は追加オプションの開発が難航していましてね。パーシー中佐が急いでいますが、もう間に合わないでしょうね」
パーシー……パーシー・パエの名前を聞いて、エマは彼女と過ごした日々を思い出す。
アタランテ開発の責任者であり、一時期はメレアの同乗していた。
「パーシー技術少佐が頑張って間に合わなかったなら、仕方がありませんね」
エマは現状を受け入れて、ネヴァン・カスタムに乗り込んだ。
◇
(馬鹿にして……私はあんたと違って本物の騎士なんだから)
ネヴァン・カスタムに乗り込むエマは離れた場所で見ていたのは、ネヴァンを支給されたヴィクトリアだった。
率いる大隊は別の艦にいるのだが、ネヴァンの調整のためにメレアに来ていた。
ヴィクトリアは悔しさで表情が歪んでいた。
第三兵器工場や、バンフィールド家が自分に期待しているのは理解していた。
今回の作戦でもネヴァンを支給するあたり、ヴィクトリアには目をかけているのだろう。
しかし、それ以上の待遇を受けているのがエマだった。
第三兵器工場はエマのためにカスタムしたネヴァンを用意したのが証拠だ。
何より悔しいのは、バンフィールド家以外から二つ名で呼ばれるようになった点だ。
エマは確実にバンフィールド家を代表する騎士の一人になりつつある。
「すぐに追い抜いてやるんだから」
ヴィクトリアがそう呟くと、少し離れた場所で泣いている男の声がする。
「何で俺ッチが出撃しないといけないんっすか!? もうテストも終わったし、アーマードネヴァンで出る意味はないっしょ!!」
泣いている男の相手をするのは、こちらも第三兵器工場のスタッフらしい。
「テストも終わったので壊す勢いで使ってもらっても構いませんよ」
「壊れたら俺ッチがそれだけ危険ってことじゃないっすか!!」
どうやら泣いている男は騎士らしいのだが、情けなさ過ぎて信じられなかった。
(あいつも騎士? というか、ここで出撃しなかったらあいつと私は同じ扱い? ……それだけは絶対に嫌)
ヴィクトリアが視線を別の方に向けると、何やら大量のヴァローナを前に感動している集団がいた。
「アイン隊長! こんなにもヴァローナが配備されましたよ!」
「壮観ですね、アイン隊長!」
ヴァローナの配備を知って感動している集団のリーダーは、どうやら涙を流しているらしい。
「あぁ、これも地道な活動が評価された成果だろう。確かにヴァローナはネヴァンに劣るが、現時点で考えれば最適解の機動騎士だ。これもお前たちが協力してくれたおかげだ……ありがとう、諸君!」
……ヴィクトリアは意味がわからなかった。
次世代機のネヴァンが配備されて喜ぶのは理解するが、旧式のヴァローナが配備されて歓喜しているパイロットたちの姿は理解に苦しむ。
ヴィクトリアが見ていると、アインと呼ばれた男が気付いたらしい。
「どうかされましたか、少佐殿?」
「現行機とはいってもネヴァンから見て旧式のヴァローナで喜んでいるから、少し気になっただけ――」
言い終わらない内にアインがかぶせるように答えを言う。
「確かにネヴァンに比べて性能が劣るのは理解していますが、ヴァローナは現行機の中でも極めて完成度の高い機動騎士です。生産性、整備性、維持費、戦闘に関わらない重要な部分で、ヴァローナはネヴァンを凌駕していますからね。ネヴァンと比べて劣ったとしても、全体で考えれば優秀なのはヴァローナですよ。喜ぶのもおかしくないと思いますが?」
かぶせてきた上に、長々と説明されたヴィクトリアは思う。
(こいつウゼェ)
と。
天城(´ー`)「そういえば、この頃の旦那様は異世界転移で好き勝手に暴れていましたね。皆さん、ご苦労されたようですよ」
リアム(;゜Д゜)「……ま、巻き込まれただけだし」




