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縦ロールの人

 バンフィールド家の屋敷に到着する頃には、もう夕方になっていた。


 屋敷には何度か出入りしていたが、それだけでも違和感があった。


 張り詰めたような緊張感が、エマにも伝わってくるためだ。


 働いている使用人たちは何かを警戒し、エマが通りかかると一瞬驚くもバンフィールド家の騎士服を見て安堵していた。


(本当に何か事件が起きているのは間違いないのかも)


 佐官教育を受けている自分を呼び出す際に緊急事態と言っていたのもあり、エマは緊張したまま指定されている部屋へと向かっていた。


(とにかく急がないと)


 端末を使って命令を出せばいいのに、わざわざ呼び出したというのは秘匿性の高い任務を言い渡される可能性も高い。


 エマが歩く速度を上げる……のだが、端末を操作して屋敷の地図を表示して冷や汗をかく。


(というか、建物が大きすぎて中が迷路だよ!? え? ここで間違っていないよね? やっぱり、さっきの階段は使わない方がよかったのかな?)


 ナビが示すとおりに歩いてはいたが、慣れない巨大な屋敷はどこも同じに見えて不安になってきていた。


 すると、廊下の窓際に立って外を眺めている女性が立っていた。


 白いブラウスにロングスカートという出で立ちの女性は、質の良い物を着用しているが余所行きの恰好には見えなかった。


 普段着なのだろうか? そうなると、屋敷に住んでいる人なのかもしれない。


(どこかで見たことがあるような……でも違うかな?)


 一番特徴的なのは、彼女の髪型だ。


 夕日に照らされてキラキラ輝く長い金髪は、縦ロールにされている。


 その一つ一つが大きくて、軍隊生活では見慣れないだけに目が奪われる。


 よく見れば、スタイルのとても良い女性だ。


 すらりとした手脚……腰回りも細い。


 それなのに胸とお尻、特に胸が大きかった。


 自分の胸に視線を落としたエマは、少しばかり胸をわけてほしいと思った。……代わりに太ももとやお尻のお肉はお裾分けするから、と。


 そんなことを考えながら軽く会釈をして通り過ぎようとしていると、女性の方から話しかけてくる。


「……あなた、マリーが言っていた女性騎士さんよね? 確か……エマ。エマ・ロッドマン」


 女性は気落ちした様子ながらも、エマには微笑みを向けてくる。


 痛々しい姿にエマは、何かあったのかと心配しながら念のため敬礼をした。


 何しろ、相手はマリー……マリー・マリアンの知り合いである可能性が高い。


「マリー閣下のお知り合いの方でしたか。これは大変失礼しました」


 女性はクスクスと笑う。


「畏まらないで良いのよ。有望な騎士がいると楽しそうに話していたから、あなたのことを一方的に知ってしまったの。まさか、ここで出会えるとは思っていなかったわ」


「……恐縮です」


 マリーに有望な騎士と評されたのは嬉しいが、同時に辛い特訓の日々を思い出して複雑な気分になった。


 エマはマリーに対して感謝しているが、何故か特訓していた頃の記憶は曖昧だ。とにかく苦しくて、毎日が辛かったことだけは覚えている。


 あの特訓があったから強くなれたとは思うが、もう一度経験したいかと言われたら悩ましいところである。


「マリー閣下とは親しいのですか?」


 相手がマリーのことを気安く呼ぶので、もしや高官か高官の関係者なのでは? とエマは探りを入れるような質問をしてしまった。


 女性はどこか陰のある笑みを見せていた。……無理をして笑っているように見える。


「マリーはわたくしを大事にしてくれるとっても優しくていい人よ」


「え!? あ、いえ……マリー閣下はお優しいですが、同時に厳しい人でもあります。多くの方は荒々しく危険だと言うので驚きました」


「そうなの? わたくしには本当に優しいお姉さんみたいな人よ」


 女性はそう言うと、笑みを消して俯いてしまう。


「……ダー……伯爵様が行方不明になったのだけど、その後は何か情報は手に入ったかしら?」


「……え? リアム様が行方不明……あの噂は本当なんですか!?」


 衝撃的な事実を聞かされてエマが驚けば、女性は困った顔をする。


 どうやら、エマが事情を知っていると思い込んでいたらしい。


「ごめんなさい。今の話はするべきではありませんでしたね」


 謝罪してくる女性にエマが非常事態に混乱していると、赤い瞳の女性がやって来る。


 メイドロボット……両肩を露出し、そこには刻印が見える。


 人の姿をしているが、人工知能を搭載したロボットであると明確に示していた。


「ロゼッタ様、そろそろお部屋にお戻りください」


「……天城? そうね。そうしましょうか」


 ポニーテールを揺らして歩み寄ってくるメイドロボの天城は、何度か見掛けた量産型とは違っていた。


 エマを前に深く頭を下げて言う。


「失礼いたします。……それから、あなたが向かわれるべき部屋は、この廊下を進んだ先にありますよ」


 頭を上げると、エマがここに来た理由を思い出させてきた。


 エマがこの場にいる事情を知っているらしいのは気にかかるが、急がなければならないと思い出して深く頭を下げる。


「そうでした! それでは失礼します!」


 慌ただしくエマは駆け出した。


 そんなエマに女性……ロゼッタは小さく手を振っていた。



 エマがやって来たのは、どうやら空き部屋を急遽利用した作戦室のような場所だった。


 机を並べ、騎士や軍人たちが慌ただしく情報を処理している。


 通信でやり取りをしている軍人もいるのだが、随分と声を荒げていた。


「ですから、何度も説明している通り進展はありませんよ!」


「そちらがバンフィールド領に侵入している理由を説明頂きたい!」


「宇宙海賊の規模は? ……すぐに増援を派遣します」


 本来であればちゃんとした部署で処理するようなクレームから、増援の派遣までを行っている部屋の様子にエマは危機感を煽られる。


 何かが起きているのは理解していたが、自分が想定していたよりも事は大きくなっていた。


 何よりも、エマにとって一番の問題は……リアムだ。


(領主様が行方不明になった噂はほぼほぼ確実……あたしも捜索に加わりたいけど、そのために呼び出されたのかな?)


 リアム捜索、あるいは救出に参加したいと思って部屋の奥へと進む。


 そこにはもう一部屋が用意されており、エマが到着すると秘書官らしき人物が中にいる重役に確認を取っていた。


 許可を得た秘書官がエマに入るよう促したので、ドアを開けて中に入った。


「エマ・ロッドマン少佐です。お呼びと伺いましたが……騎士長!?」


 挨拶をするエマだったが、部屋の中で待っていたと思われる重役を前に素を出してしまった。


 目の前にいたのは【クラウス・セラ・モント】だ。


 連合王国との戦いでは総大将代理を務め、現在のバンフィールド家では一番の出世株で次期筆頭騎士なのでは? と噂されている人物だ。


 エマは連合王国との戦争でもそうだが、第七兵器工場に向かう任務でも一緒になったので顔見知りだった。


 最初に出会った頃は中佐だったのに、今では閣下……将官となっている偉い人だ。


 それなのに、クラウスはエマの態度を見て僅かに苦笑していた。


「随分と活躍しているようだが、中身はあの頃のままのようだな」


「し、失礼しました」


「いや、いい。無礼な態度は気を付けるべきだが、君があの頃と変わらない姿を見て少し安心もした。それはそうと、佐官教育を受けている最中の君には悪いと思うが、当家は現在かなり逼迫した状況に追い込まれている」


 クラウスは椅子に座ったまま自身の端末に触れると、部屋の壁にバンフィールド領の簡略した地図が表示された。


 そして、実際は遠く離れている恒星系の地図も表示された。


 エマはその恒星系に惑星を持つ子爵家の名前を呟く。


「カールトン子爵家の領地ですよね?」


「……そうだ」


 クラウスは普段と変わらない表情をしているが、言葉はやや苦々しいものを含んでいた。


「バリス・セラ・カールトン子爵は、バンフィールド家を頼っている寄子である貴族だ。しかし、こちらの状況を察知して軍事行動を開始した」


 子爵家のある惑星から小規模な艦隊が出撃し、バンフィールド領を目指していた。


 エマの視線は険しくなる。


「海賊行為ですか?」


 貴族が宇宙海賊を名乗り、他家の領地で好き勝手に暴れ回ることは帝国では珍しくない。


 何しろ海賊貴族という存在がまかり通っていた程だ。


 嫌悪感を示すエマに、クラウスは自体はもっと深刻であると告げる。


「いや、当家の乗っ取りを画策しているらしい」


「……は? いえ、でも乗っ取りなんて」


 そんな無茶な話があるのか? 疑うエマに、クラウスは表情を崩さずに腕組みをしながら言う。


「当家の非常時に救援に駆け付け、そのまま居座り実効支配するつもりでいるらしい。カールトン子爵には娘がいるから、次のバンフィールド伯爵に嫁がせて外戚として実権を握る思惑だそうだ。……これを実行する程に愚かなのか、追い詰められているのかのどちらかだな」


 カールトン子爵だが、かつてバンフィールド家を支える十二家の一つ……などと勝手に名乗り、リアムの怒りに触れて支援を減らされていた。


 そのために困窮しているのは間違いないようだが、だからといって今回の作戦はあまりにも無謀が過ぎる。


 既にバンフィールド家は敵戦力の情報を握っており、その数は多くても三千隻。


 どれも数世代遅れの旧式ばかりで、満足に整備すらしていない。


 ただ、バンフィールド家はカールトン子爵に関わっている余裕がないらしい。


「貴官は悪いが、この場で中佐へ昇進してもらう。そのまま討伐艦隊に加わってもらうが、今回は騎士長を任せたい」


「あ、あたしが騎士長ですか!?」


 騎士長、それは騎士たちをまとめる役割だが、非常に曖昧でもある立場だ。


 作戦に加わる全機動騎士部隊を率いる立場になるため、騎士ばかりか一般パイロットも率いることになる。


 クラウスはバンフィールド家の厳しい状況について話をする。


「今は非常時で一人でも有能な騎士が欲しくてね。君には苦労をかけることになるから、部隊編制については私が全力で協力させてもらう」


 エマは部隊編制の前に一つ確認する。


「それって、領主様が行方不明と関係しているんですよね?」


「どこで聞いた?」


「噂も出回っているんですけど、このお屋敷で縦ロールの凄い女性がいて……あっ」


 秘密にしておかないといけなかったと思い出し、何とか話を濁そうとするが手遅れだった。


 クラウスは何とも言えない顔をしていた。


「……それはロゼッタ様だな」


「様? 騎士長……クラウス閣下が敬称を付けて呼ぶような人なんですね」


 実は凄い人物だったのでは? そう思っているエマに、クラウスは真顔で言う。


「ロゼッタ・セレ・クラウディア様だ。リアム様の婚約者だが知らなかったのかね?」


 エマの中で全てが繋がり、同時に冷や汗が吹き出した。


「あの人がリアム様の婚約者様だったんですか!!」


クラウス(´ヘ`;)「人手不足で教育中の騎士まで駆りだしています。せめて、あの人たちがまともに仕事をしてくれていたら……はぁ、胃が痛い」


ティア(゜∀゜)「この機に乗じてマリー、ぶっ殺す!」

マリー(゜∀゜)「このタイミングでミンチぶっ殺す!」

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― 新着の感想 ―
頼れるのはクラウスしかおらん クラウスしか勝たん
ティアとマリーがいたらまだ楽だったのでしょうけどね。 なんでクラウスはこの状況を乗り越えることができたのか、本当不思議です。
実際あの二人が主力部隊をいくつも引っこ抜いて内ゲバしてたから……それなければエマの手借りる必要もなかったのでは?
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