姫騎士
【10月25日発売予定!】俺は星間国家の悪徳領主! 9巻
今回もメロンブックス様よりメロンブックス限定版を発売して頂けることになりました。
今回のタペストリーでは「ニアス」の肌色多めのイラストが楽しめますので、店舗さんや通販サイトなどで予約をして頂けると確実に手に入ります。
他にも特典が用意されていますので、詳しくはオーバーラップ文庫様のHPで確認して頂けると確実かと思います。
クローディアに連れられたエマが向かった場所は、瓦礫の山となった都市だった。
黒い煙が至るところで立ち上り、あちこちで火も残っている。
救助に来たバンフィールド家の兵士たちが、至る所で避難所を用意していた。
「……酷い光景ですね」
クローディアの後ろを歩くエマは、泣きたい気持ちになる。
しかし、クローディアは許さなかった。
「胸を張れ。貴官が最悪を回避させたから、この程度で済んでいる」
「こうなる前に守りたかったです」
「理解しての発言か?」
立ち止まったクローディアが振り返って問い掛けてくるが、その視線は険しかった。
成長したと思ったかつての教え子が、甘い考えを捨てきれずにいると思ったのだろう。
だが、エマはクローディアを見据えて答える。
「はい」
短く、それでいて強い意志を感じさせる返答に、クローディアは苦笑した。
「随分とわがままになったものだな。もう少し謙虚な方が私としては好みだが、あいつらに毒されたか?」
毒されたと言うが、クローディアの表情は責めるようなものではなかった。
あいつら――マリー・セラ・マリアンたちのことだろう。
「短い期間でしたが、随分と鍛えられました」
「毒されすぎるなよ」
二人が荒廃した都市を歩いていると、広場と思われる場所に到着した。
そこではバンフィールド家の騎士たちが、都市の代表者たちと話をしていた。
代表者たちは困惑している。
「我々にこの惑星を捨てろと言われるのですか!?」
バンフィールド家が出した結論は、どうやら住んでいる惑星からの退去らしい。
眼鏡をかけた生真面目そうな男性騎士は、淡々と代表者たちに説明する。
「この惑星は帝国領です。領主や代官は配置されていませんが、言ってしまえば帝国の直轄地と同じ扱いです。あなた方は、帝国の直轄地に不法滞在している状況になりますね」
この惑星で暮らすのは違法であると言われ、代表者たちは憤慨していた。
「ふざけるな! 我々が開発して住めるようになった惑星だぞ!」
「それでも帝国の所有物です」
違う代表者が泣き付くように言う。
「また放浪の旅なんて続けられないわ。帝国に属するように手続きしていただけないかしら?」
「無理です」
男性騎士の冷たい対応を見て、エマが何かを言いかけるがクローディアが先に口を開く。
「同情心から助けに入るなら止めておけ。そもそも、この惑星は人が住むには条件が厳しすぎる。帝国に属するとなれば、領主を配置するか、代官を派遣する必要があるが……こんな惑星を支配したところで利益は得られない。最悪、帝国はこの惑星を焼き払って何もなかったことにするだろうな」
「そんな!?」
我慢できずに声を出してしまったエマだったが、クローディアが寂しそうな顔を代表者たちに向けていたので口を閉じた。
「人の命が軽く扱われるのが帝国の現状だ。……本当に嫌になるな」
クローディアが何を見せたかったのか、エマは何となくだが察した。
自分の行動の結果、何が起きているのか見せたかったのだろう。
エマは俯いて手を握りしめる。
「あたしのしたことは間違っていたのでしょうか?」
自分の自己満足に過ぎなかったのではないか?
クローディアに問い掛けると、本人は困った顔をして答えを濁す。
「間違いだ、と断言できるほど私も人間性を捨てたつもりはない。だが、軽率だったのは事実だな。上官としては貴官の扱いは厳しくするべきだと思っている」
「……はい」
「だが……人として、一人の騎士としては、貴官の行動には敬意を払おう」
話が一区切り付くと、クローディアがエマに一つ頼み事をする。
「それはそうと、この惑星の住人を移住させる必要が出てきた。ロッドマン大尉、貴官の母艦であるメレアにも移送を手伝ってもらうぞ」
「え? よろしいのですか? だってあたしは……」
自分は捕らえられないのか? 任務を言い渡されるとは思わず困惑していると、クローディアが笑みを浮かべながら言う。
「人手不足の我が軍に、貴官を遊ばせている余裕はないよ」
◇
リーゼントスタイルを取り戻したティムがメレアのブリッジに戻ると、そこには古参のクルーたちがからかうために待ち構えていた。
「司令、随分といかした髪型だな。でも、昔より髪の毛の量が減ったんじゃないか?」
ダグがそう言って整髪料を投げて来るので、ティムは受け取ってリーゼントを整える。
「髪の毛の話はお互い様だろうが」
古参の一人である【ジェシカ】というパイロットは、腕を組みながら胡散臭そうにティムを見ていた。
「それにしても、どうして急にやる気を出したのさ?」
ジェシカの問い掛けにティムは、心変わりをした理由を話す。
「あの騎士様――いや、大尉が思い出させてくれたのさ。俺の中にもまだ、反骨精神ってやつが残っているんだってな」
ティムが昔の自分を取り戻した原因はエマだった。
命令に背いて我を通したことはこれまでにもあったが、今回ばかりは事情が違う。
下手をしなくても厳罰が待つような状況で、それでも意地を示して見せた。
ティムにしても昔は同じだった。
旧軍時代、役に立たない上層部に反発して前線で命を張ってきたのだ。
「大尉はあれだな。お上品な騎士様だと思っていたが、根性があるじゃないか。そんな奴の前で、いつまでも腐抜けているのが馬鹿らしくなったのさ」
ダグとジェシカは顔を見合わせると、互いに頭を振っていた。
「ひねくれ者の間違いだろうに」
「言えてるね」
二人の反応にティムは顔を赤らめると、ふて腐れるように司令官の席に座った。
「それよりも、さっさと住人の受け入れ準備を急げよ。……監督官殿はどこだ?」
ブリッジにアリスンの姿はなかった。
◇
「いくらメレアが軽空母だからって、移送する住人を受け入れるスペースなんてないっていうのにさ。上は本当に勝手だよ」
荷物を持って通路を歩くラリーは、格納庫を目指していた。
部屋にある荷物を一時的に格納庫に移動させ、住人の部屋を用意するためだ。
ラリーが格納庫に来ると、見慣れない女性騎士が格納庫の様子を見下ろしていた。
「誰?」
首を傾げたラリーに気付いたのか、女性騎士が振り返ってくる。
ストレートロングの金髪をマントのように広がり、緑色の瞳が宝石のような輝きを放っていた。
きめ細かい綺麗な肌は染み一つなく、本当に女性騎士か疑わしい。
どこそのお姫様にも見えるが、着ているのは騎士服で、帯剣しているので騎士だろう。
「メレアのクルーの方ね?」
「あ、はい」
大荷物を持っているラリーに、敬礼は不要と手で制しつつ女性騎士は言う。
「住人の受け入れはいつ頃始まるのかしら?」
「そろそろだと聞いていますよ」
(おかげでこっちは大忙しだけどさ。それにしても……うちの隊長よりも雰囲気がある人だな。絵に描いたような女性騎士って感じだ)
彼女の放つ雰囲気に、ラリーも普段の口の悪さは表に出て来なかった。
ラリーが視界の隅にメレアに乗り込む住人たちを発見する。
「着たみたいですよ」
女性騎士がそちらにバッと振り返ると、手すり掴まり前のめりになった。
その表情は喜び、安堵……そして、物悲しげなものに移り変わっていく。
最後には涙を流す女性騎士を見て、ラリーはどうすればいいのかとオロオロするばかりだ。
「え? あの……もしかして、お知り合いか誰かがいるんですか?」
すると、女性騎士は指で涙を拭う。
「個人的な知り合いはいないと思うわ。けれど、同じ故郷出身の人たちが生きているというだけで、少しは救われた気分になるのよ。いいえ、言い訳ね。一度見捨てる決断をした私には、本来ならば喜ぶ資格すらないのに」
ラリーは何が言いたいのか理解できなかったが、とりあえず言っておくことに。
「事情はよくわかりませんけど、会える内に会っていた方がいいと思いますけどね」
「……ここで無事を確認できただけで十分よ」
ラリーは仕事もあるためこの場を離れるが、女性騎士は乗り込んでくる住人をずっと見つめていた。
そのため、ラリーはお節介と……騎士に対する反発心から、行動を起こしてしまう。
(焦れったいな。さっさと会えばいいんだよ)
下に降りたラリーは、住人たちに声をかける。
「おい、あんたらの同郷らしい騎士が来ているぞ。誰か知り合いはいないのか?」
声をかけられた住人たちが、ラリーの指し示す方向を見た。
「ミスティリア出身の騎士がいるのかい? そいつは……ま、まさか」
一人が気付くと、ザワザワと住人たちが騒がしくなってくる。
その中には老婆がいて、涙を流していた。
「……クリスティアナ様」
どうやら有名人だったらしく、住人たち全員が女性騎士の名前を呟いていた。
女性騎士は慌てて艦内に逃げ込んでいくが、ラリーは次に彼女が何をするのか容易に想像が付いた。
(結構高位の騎士っぽいし、小型艇で乗り込んだのかな? そうなると……)
住人たちが逃げ去ってしまった女性騎士に残念がっていたので、ラリーは言う。
「あんたら、あっちの通路を行けば先回りできるぞ。あの人を追いかけるなら早くしな」
「ありがとうございます!」
住人たちが駆け出していくのを見て、ラリーはちっぽけな仕返しをしてやったと満足する。
しかし、ここで一つ思い出すのだった。
「……あれ? クリスティアナって確か」
何度か映像で見たことのある騎士の姿を、ラリーもようやく思い出すのだった。
◇
クリスティアナが小型艇に戻ろうとすると、そこには故郷――ミスティリアの住人たちが先回りをして待っていた。
代表者として一人の老婆が前に出てくる。
「クリスティアナ様!」
名前を呼ばれたクリスティアナは、住人たちに合せる顔がないと俯いた。
「……まだ、私のことを忘れずにいてくれたのね」
老婆はクリスティアナに近付き、そして目の前でうずくまって嗚咽を漏らす。
「ご無事で……本当にご無事で何よりでございます」
まるで土下座をしているような姿に、慌ててクリスティアナは老婆を抱き起こす。
「何をしているの!」
ずっと心残りだった。
バンフィールド家に仕える前、クリスティアナはある惑星で姫騎士と呼ばれる存在だった。
王族出身ながら騎士となる道を選び、何度も故郷の惑星ミスティリアを守ってきた。
そんなクリスティアナも、味方の裏切りによりゴアズ海賊団に罠にはめられ捕らえられてしまった。
バンフィールド家の当主に拾われるまで、クリスティアナは過酷な日々を過ごす子になった。
それでも、故郷の人々のことを忘れたことはない。
「私のために泣く必要はないのよ。責められても仕方がないわ。だから、様子だけを見て帰ろうと思っていたのに……」
しかし、自分の帽子を握りしめた髭を生やした男性が、涙ながらにクリスティアナに言う。
「姫騎士様がゴアズに捕らえられたと聞いた日から、ずっと心配しておりました。ですが、こうして無事な姿を見られただけで、我々は……」
大の大人が涙を流している光景を、まだ小さな子供たちは不思議そうに見ている。
クリスティアナは老婆を両手で抱き締め、そして涙を流す。
「クリスティアナ・レタ・ローズブレイアの名にかけて誓いましょう。あなたたちが、今度こそ安心して暮らせる移住先に送り届けます。どうか、この私に償いをさせて……」
故郷を守ることは果たせなかったクリスティアナだが、こうして生き残ったミスティリアの出身者たちを助ける機会を得られた。
レタ、という使わなくなったミドルネームを出したのは、過去の償いのためだ。
「今後は……今度こそは……守ってみせるから」
◇
クローディアと別れたエマが、メレアに戻ってくるとアリスンが待ち構えていた。
「やってくれたわね、ロッドマン大尉」
酷く冷たい視線を向けられたエマだが、それだけのことをしたという自覚もあって受け入れる。
「申し訳ありませんでした、監督官殿」
敬礼を行うが、アリスンはエマに近付いて右手を振り上げ――そのまま平手打ちを行った。
乾いた音が辺りに響き渡ると、周囲にいたメレアのクルーたちの視線を集める。
何人かがこちらに向かってこようとしたが、エマが目で制した。
エマはアリスンの顔を見据える。
「罰は受ける覚悟です」
「当然よ! 本隊が来てくれたから助かっただけで、下手をすれば正規軍と争うことになって私たちは全滅していた可能性もあるのよ!」
エマの勝手な行動に、メレアのクルーは巻き込まれてしまった。
アリスンの怒りも当然である。
「あたしの独断です」
「えぇ、報告書にもしっかり書いておくのね。まったく、本当にどうしてこんな――」
アリスンが上司への報告に頭を悩ませていると、そこにクローディアを連れたクリスティアナが現われる。
少々目元が赤くなっているが、エマの前でにこやかに手を振っていた。
「エマ・ロッドマン大尉ね? クローディアからも話は聞いているわ」
「クリスティアナ中将……し、失礼しました!」
慌ててエマが敬礼すると、アリスンも振り返って敬礼を行った。
アリスンはクリスティアナがこの場にいることに驚きつつも、今回の一件について礼を言う。
「本隊の助けがなければ、我々は危ないところでした。助けて頂き感謝しております」
クローディアは黙ったままだが、クリスティアナの方は相手をしてくれるらしい。
胸の下で腕を組み、微笑みを崩さずに言う。
「禁止されている略奪行為をしていた艦隊を発見したので当然だわ。それはそうと、ロッドマン大尉を修正していたようだけど、何かあったの?」
「はっ! 独断で帝国正規軍と戦闘を行いました。下手をすれば帝国の敗北にも繋がる重大な――」
アリスンが当たり前の話をしようとすると、クリスティアナの斜め後ろで控えていたクローディアが鋭い視線を向けていた。
「ロッドマン大尉は重大な違反行為を取り締まったに過ぎない。修正の必要はない」
「……は? し、しかし、現在の我々は!」
連合王国との戦争の最中だ。
エマの行動で帝国軍が分裂する可能性すらあった。
だが、クローディアはそれを危険と判断した様子がない。
クリスティアナも同様だった。
「あなた……以前にリアム様の副官候補に選ばれていたわね? こちらでも随分と活躍していると聞いているわよ」
副官候補という言葉にエマは反応する。
(アリスン大尉ってそんなに凄い人だったんだ)
褒められたアリスンも心なしか誇らしげに胸を張っているように見えた。
「ありがとうございます。今はこの艦の監督官を任されています」
ただ、クリスティアナは笑みを消して言う。
「でも、視野が狭いわね」
「……え?」
「今回の対外戦の意味をはき違えているわ。この戦場だけを見るなら、あなたの意見は正しいわよ。けれど、今回正しかったのはロッドマン大尉の方ね」
「いや、そんな!?」
困惑するアリスンに対して、クリスティアナは一応のフォローをする。
「あなたは状況をよく見ているわ。優秀であると私も認めましょう。けれど、全体を見通せるほどではなかった。それだけの話なのよ」
「全体?」
困惑しているアリスンだったが、クリスティアナもクローディアも答えを言うつもりはないらしい。
エマの方はアリスンよりも状況を理解しておらず、最初から困惑していた。
「え? あ、あたしの行動が正しかったんですか? でも、あれ!?」
間違っていると思っていたのに、上層部が正しいと判断した。
これで混乱しないはずがない。
その姿にクローディアは呆れていたが、クリスティアナはクスクスと笑っている。
「今回に限った話よ。次に同じ事をやっても通用するとは思わないように」
「は、はい」
未だに状況を理解できていないエマを、クリスティアナは優しい顔で見つめていた。
戸惑うエマにクリスティアナは言う。
「エーリアスの一件から注目はしていたけれど、まさかここまで上がってくるとは予想外でした」
惑星エーリアス……エマが最初に派遣された惑星だ。
「それって……」
クリスティアナは去って行きながら、最後にエマに声をかけた。
「頑張りなさい、ロッドマン“少佐”」
二人が去ると、いきなり昇進を言い渡されたエマは――数十秒後にハッとする。
「え? もしかして、あたしって出世したの!? もしかして間違や冗談とか?」
遅れて気付くエマの鈍さに、アリスンは歯痒かったようだ。
「間違いでもなく、冗談でもないわよ。上にコネを持っているのは知っていたけれど、本当にとんでもないわね。あなた、どうして技術試験隊になんて残っているのよ」
腹立たしいのか、アリスンの声は普段よりも大きかった。
エマもムッとして言い返す。
「メレアはいい部隊ですから!」
「他を知らないだけでしょうに! そもそも、こんな状況を作り出して置いて、どうして私よりも先に少佐に昇進するのよ! 本当に苛々させるわね」
アリスンに言われたい放題だったエマだが、新米の頃から比べれば図太くなっていた。
エマはわざとらしく口元に手を当てて、アリスンを嘲笑う態度を取る。
「あたしなんかが先に出世してしまったごめんなさい、アリスン大尉殿」
大尉殿、という部分をわざとらしく強調させた。
アリスンは上官になってしまったエマを前に、握りしめた手を震わせる。
「……思っていたよりもいい性格をしているわね。もう少し可愛げがあった方がいいと思うわよ」
言われたエマは真顔で言い返す。
「それはこっちの台詞ですから」
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リアム( ´_ゝ`)「……俺もこんな有能な部下がほしかった」
ティア(≧∀≦)「リアム様のお望みの姫騎士ティアはこちらにおりますよ!」
リアム( ´_ゝ`)「ほしかったなぁ……」
ティアヽ(´∀`。ヽ)「リアム様!?」
リアム( ´_ゝ`)「……」
※本日で四章は終わりとなります。
四章はいかがだったでしょうか? 感想欄にコメントを残して頂ければ嬉しいです。
また、下部より評価をもらえるとモチベーションにも繋がるので是非ともご利用ください。
今回は本編【俺は星間国家の悪徳領主! 9巻】の宣伝よりも【新作】【フェアリー・バレット ―機巧少女と偽獣兵士― 1巻】の宣伝が多くなってしまいましたね。
近い内に本編の更新もしたいところですが、年内は厳しい状況ですので春までに投稿を再開できればいいかな? とは考えております。
更新再開をする時には告知もしますので、その時はよろしくお願いいたします。
それでは、今後とも応援よろしくです!!




