キマイラ
俺は星間国家の悪徳領主! は 最新7巻 が好評発売中です!
今回はWeb版を修正しつつ、10万字を加筆したので楽しんで頂けるはず!
是非とも確認して頂けたらと思います。
ダリア傭兵団に攻撃を受けたのは、パトリスが乗る輸送船だった。
船長やクルーたちの怒号が聞こえる中、パトリスは攻撃を仕掛けてきた傭兵団を見ていた。
モニターに映る機動騎士の姿に、眉根を潜める。
「よりにもよって、攻撃してきたのがダリア傭兵団とは運がないわね」
横でパトリスの話を聞いていた船長も同意する。
「名のある傭兵団ですからね。襲撃してきた反乱軍よりも厄介ですよ」
統一政府時代に鍛えられた反乱軍の軍隊も厄介ではあるが、それ以上に各地で暴れ回って来た名のある傭兵団は手強いとパトリスたちは理解していた。
護衛の機動騎士たちが時間を稼いでいるが、ゴールドラクーンを前に次々に撃破されていく。
宇宙空間で幻影を作り出し、レーダーすら誤魔化す厄介な機動騎士だ。
シルエットから鈍い重装甲の機体に見えるが、第七兵器工場が次世代機として開発した性能は伊達ではない。
加えて、ゴールドラクーンはリアムの予備機に、と製造されている。
その他の量産機と違って改修されているため、性能は二割から三割は違うだろう。
次々に護衛機が破壊されていく光景を見ながら、焦りを募らせているとブリッジのオペレーターが僅かに弾んだ声で知らせてくる。
「護衛艦隊より軽空母が接近してきます!」
接近してくる味方の軽空母を目視で確認すると、パトリスは胸をなで下ろす。
「これで時間を稼げるわね」
ただ、同時に思う。
(軽空母一隻か。ダリア傭兵団が相手となると、心許ないわね。彼らが時間を稼いでいる間に、本体が救援に来てくれるといいのだけど)
商人として頭の中で冷静に分析するパトリスは、軽空母一隻の戦力ではダリア傭兵団を抑えるのは難しいと考えていた。
◇
輸送船を救援するため出撃したダグは、コックピットの中で焦っていた。
「こいつら手練れかよ!」
小型に分類される脚部を取り払った敵機動騎士たちは、自分たちが乗っているラクーンよりも性能は劣っているように見える。
しかし、パイロットの技量が違った。
戦い慣れた敵パイロットたち。
その中には、騎士と同等の実力を持つ者たちもいる。
ビームガトリングガンを持たせたラクーンで戦うダグは、ちょこまかと動き回る敵機を捉えられずにいた。
(機体性能じゃない。俺の実力不足か)
ダグも教育カプセルを使用し、ラクーンの操縦方法は頭に叩き込まれている。
肉体もその際に強化されているのだが――日々の怠惰な生活が、それらを駄目にしていた。
教育カプセルの効果は大きいが、使わない知識は忘れていき、トレーニングをしなければ肉体は鈍る。
そのため、ラクーンの性能を十全に発揮できていない。
それはダグだけではなかった。
『当たらない!? モリー、設定が甘いんじゃないのか!!』
ライフルを構えているラクーンに乗るラリーが、オペレーターをしているモリーに文句を言っていた。
それに対してモリーが言い返す。
『ラリーが調整で手を抜くからでしょ! そもそも、稼働時間が少なすぎるのよ!』
起動騎士にはパイロットをサポートする機能がある。
パイロット個人のデータを収集し、調整していく機能だ。
乗れば乗るだけ、パイロットと機体の相性は増していく。
しかし、訓練や調整に手を抜いていたメレアのパイロットたちは、ここに来て機体の操縦に苦労していた。
これが格下の相手であれば性能で押し切れたのだが、相手は経験豊富なダリア傭兵団だ。
出撃した七小隊の全機が、ラクーンの性能を出し切れていなかった。
長年、起動騎士に乗って戦ってきたパイロットたちだ。
何が原因なのか全員が察していた。
ダグもその一人だ。
(俺はこんなに腕が錆び付いていたのか)
どこかで自信があった。
何百年とパイロットとして積み上げた経験が、今も残っていると――しかし、蓋を開ければ、そこには何もなかった。
積み上げた努力も、培った経験も、腐っていた期間に駄目になっていた。
頭の中でエマの声が聞こえた気がする。
(日頃の訓練を軽視していると、腕が落ちますからね! ――か。小娘が何を言うのかと思っていたが、まさにその通りだったな)
今までは機体のせいにできたが、ラクーンという最新鋭の機体に乗れば嫌でも理解させられる。
そして、金色の機体がダグの乗るラクーンに近付いてきた。
「こいつは盗まれた奴か!」
ガトリングガンをゴールドラクーンに似合わない左腕で弾かれ、接触されたことで通信回線が開く。
どうやら、盗まれた云々を聞かれてしまったらしい。
『もしかして、あの戦場にいたのかしら?』
「ちっ!」
舌打ちしながら、敵を振りほどこうとするが機体性能が違った。
敵パイロットは綺麗な女性だったが、酷く冷たい目をしている。
『あのアタランテのパイロットもいるのかしら? 教えてくれない? それとも、あなたを殺せば出てくるのかしらね?』
自分たちは役に立たないと言って出撃させなかったエマを思い浮かべるダグは、吐き捨てるように言う。
「俺を殺しても無意味だぜ」
(俺たちのような一般兵を下に見ている。昔の上官や上層部と同じだ。あいつが助けに来るわけがない)
自分たちを見捨てたエマが、助けに来ることはない。
シレーナは黙ってゴールドラクーンの左腕を振り上げ、コックピットに突き刺そうとする。
その光景をダグは見ていた。
(ここで終わりか。余計な意地を張ったばかりに――)
昔を思い出して意地を張った事を後悔するも、心はどこかスッキリしていた。
(――だが、悪くなかったかもな。お嬢ちゃん――迷惑をかけたな)
正義感が強くて付き合うのは面倒な隊長を思い出した。
すると、隊長の声が聞こえてくる。
『あたしの仲間は殺させません!』
◇
メレアに帰還する予定だったエマだが、状況を知ると救援に駆けつけた。
ダグの機体と争っているゴールドラクーンを見つけると、アタランテで蹴り飛ばす。
その際に回線が開き、シレーナがそのまま通信を繋げた状態にする。
『久しぶりね、会いたかったわよ』
「やっぱりあなたでしたか」
アタランテが二丁拳銃を構えると、ゴールドラクーンが左腕を振り上げて襲いかかってくる。
加速するゴールドラクーンが、左腕を振り回してきた。
雑な攻撃に見えているが、一発でももらえばアタランテにもダメージが入る威力である。
その攻撃を二丁拳銃で受け流しつつ、二人は会話をする。
「その機体はバンフィールド家の物です。返してもらいますよ」
『外見以外は気に入っているの。欲しければ奪い返すか、私を殺すしかないわよ』
ゴールドラクーンの蹴りを二丁拳銃で受け止めるが、威力を殺しきれずに吹き飛ばされる。
エマはコックピット内で冷や汗をかく。
(やっぱり強い。それに、エネルギー残量が心許ない。残弾数だって残り数発――それに、もうオーバーロードは使えない)
過負荷状態で暴れ回ったアタランテは、現在はクールタイムに入っていた。
無理に過負荷状態へ移行すれば、内部から壊れてしまう。
(包囲を突破する際に無茶をしたから)
切り札のない状態で戦うには、シレーナは厳しい相手だとエマも理解している。
それはシレーナも同じようだ。
『あらあら? 切り札を使わないの? いえ、使えないのかしらね? 随分と無茶をしたみたいね』
アタランテの外観を見て、激戦を終えたばかりと気付かれてしまったようだ。
ろくな補給と整備を受けていないと見て、ゴールドラクーンが襲いかかってくる。
『残念だわ。切り札を使ったあなたを倒したかったのに』
「っ!」
◇
アタランテとゴールドラクーンが戦っている。
その光景を見ていたラリーは、エマに叫ぶ。
「どうして切り札を使わないんだ!」
疑問に答えるのは、小隊のオペレーターを行っているモリーだ。
『無茶を言わないでよ! 何度も使える機能じゃないのよ。そもそも、補給だってまともに受けていないんだから』
一瞬、ラリーは「それくらいしておけよ」と頭をよぎるが、すぐに気が付く。
「――僕たちのためか? あいつ、なんでそんな状態でこの場に来るんだよ!?」
自分たちを見下す傲慢な騎士――それが、今は自分たちを助けるために、無茶をして敵と戦っている。
混乱していると、ラリーのラクーンに近付いてくる機体があった。
ヨームの乗るネヴァンだ。
『戦場で止まるなんて死にたいのかい? それなら、ライフルと残弾は俺の方で預からせてもらうよ』
ラクーンの武器をネヴァンが奪い取ると、同じバンフィールド家の機体であるためすぐにロックが解除される。
そして、補給と整備を受けていないヨームのネヴァンが、敵機を撃破しはじめる。
(つ、強い。それよりも、こいつら何なんだよ。なんでこいつらまで、僕たちを助けるんだ!?)
この場にいるのはヨームだけではない。
ラッセルの姿もあった。
動けなくなったラクーンから武器を譲り受け、そのままダリア傭兵団の小型起動騎士と戦っている。
『ヨームはそのまま味方の救助を優先! シャルメル! この状況だ。特別手当度外視で戦ってもらうぞ!』
ラッセルが言うと、シャルは嫌そうな声を出しながらも命令を聞いていた。
『はい、はい。言わなくても戦いますよ~。それに、輸送船を落としたら僕の評価も下がっちゃいますし~』
シャルが相手をするのは、騎士が乗っていると思われる起動騎士だ。
ラクーンから受け取った戦斧で敵に襲いかかっている。
ラッセルの方は、二人に指示を出しながら戦場を指揮しつつ戦っていた。
『損傷した機体は下がれ!』
言われて、ラリーはダグの機体を回収しに向かう。
「ダグ! 武器がないなら一緒に下がろう!」
『――あ、あぁ』
呆気にとられているダグの声を聞いて、無事を確認したラリーは胸をなで下ろした。
そして、戦場を離れながらアタランテとゴールドラクーンの戦いを見る。
「あいつ、あのまま敵のエースと戦うつもりなのか」
無茶だ、と思っていた。
すぐにメレアに戻り、武器を手に入れたら救援に向かわなければ、とも。
しかし、アタランテは――ゴールドラクーンと対等に戦っていた。
◇
(何なのよ、この小娘は!!)
ゴールドラクーン――キマイラのコックピットで、シレーナは焦りを感じていた。
以前は調整不足のキマイラでアタランテと戦っていた。
しかし、今は調整を終えている。
幾度か実戦にも使用し、キマイラは自分の手足のように動かせている。
それなのに、過負荷状態へ移行しないアタランテを撃破できずにいた。
右腕に持っていたアサルトライフルの銃口を向けると、アタランテが即座に反応する。
(動きが変わった?)
自信を付けたような動きを見て、シレーナは「敵も経験を積んできている」と察して気持ちを切り替える。
(遊んでいるつもりはなかったけど、どこかで見下していたわね)
集中してアタランテに迫るキマイラは、幻影を作り出す。
視界とレーダーから一瞬消えたキマイラは、アタランテに向かって左腕を槍のように突き刺す。
アタランテは避けきれずにいたが、それでも胸部装甲を僅かに削っただけに終わった。
一瞬、このまま削りきろうと考えたシレーナだったが。
「このままなぶり殺しに――しまった!?」
気付いた時には遅かった。
胸部装甲を僅かに削ったアタランテだが、接近してきたキマイラの左腕に拳銃のブレードを突き刺して引き金を引く。
肘関節を破壊され、左腕が使えなくなったキマイラは強引に後ろへと下がった。
しかし、アタランテが離れない。
下がった分だけ前に出て、そして二丁拳銃で斬りかかってくる。
「ちぃっ!」
前に出てキマイラの分厚い胸部装甲で防いだ。
タイミングを外されたアタランテだが、持っていた拳銃は急造だったのかブレード部分の留め具が壊れてしまう。
これで片方の拳銃を使えなくした。
シレーナは冷や汗をかく。
(倒せる。倒せるけど――時間がかかりすぎる)
このままでは輸送船の拿捕、あるいは破壊が出来ない。
撤退を考えていると、味方から通信が入る。
相手はミゲラだった。
『何をしているの! 速く私を助けなさい!』
悲壮感漂う声に、シレーナは一瞬だが怒鳴りつけたくなった。
周辺にいる敵味方関係なく発された通信だ。
これでは、旗艦の位置を教えているようなものである。
「ここまで愚物だったなんて!」
吐き捨てるように言うと、部下の一人が慌てていた。
『た、大変です! 友軍の艦艇が次々に破壊されていきます!』
「なっ!?」
シレーナが慌ててレーダーを確認すると、友軍の艦艇――反乱軍の艦艇が、今この瞬間も次々に破壊されている。
レーダーから友軍の色が消えていた。
すると、今度は敵が敵味方関係なく話しかけてくる。
『速く助けた方がいいのは賛成ですわね。でないと――このマリー・マリアンが大将の首を頂いてしまいますわよ』
ブライアン(´;ω;`)「辛いと言わないとブライアンじゃない! と言われて辛いです」
若木ちゃん(;゜Д゜)「それよりあちしは、苗木ちゃんの存在を知らない読者が増え始めていることに危機感を覚えるわ。みんな――【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】って作品を知っているわよね? この作品を知っているなら読んでいるわよね!? 絶対に読んで、あちし苗木ちゃんを知って!! 書籍だと あのせか【あの乙女ゲーは俺たちに厳しい世界です】 も発売しているから!!」
ブライアン(´・ω・`)「俺は星間国家の悪徳領主! 本編の応援もよろしくお願いいたしますぞ。一人称がブレブレの植物に関しては……どうでもいいですね」




