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辺境送り

キミラノさんで開催している


「次にくるライトノベル大賞2021」



「毎日一回投票できます」


一日一回星間国家に投票が出来ますね!!


俺は星間国家の悪徳領主! もノミネートされているので、是非とも応援よろしくお願いします!

 惑星ハイドラにある軍港。


 そこにはこれから旅立つ若者たちが、家族や級友たちとの別れを惜しんでいた。


 軍学校を卒業した新米たちが、配属先へと向かうシャトルに乗り込む。


 それを家族が手を振って見送っていた。


 地上から宇宙へと向かい、そこで彼らを受け入れる宇宙戦艦が待機している。


 中には惑星に降下してきた宇宙戦艦に、直接乗り込む者たちもいた。


 それぞれの配属先に旅立つ若者たち。


 そんな様子を待合室で眺めていたエマは、窓に額を押しつけて深いため息を吐く。


 配属先へと向かうために、騎士用の礼服を着用して出発時間を待っている。


 騎士用の待合室にはカウンターが用意され、飲み物や軽食なら無料で用意されていた。


 ウェイターやウェイトレスが、騎士に声をかけ注文を取っている。


 待合室には騎士学校を卒業したばかりの新米騎士たちが多く、美男美女に笑顔を向けられ浮かれている若者たちも多い。


 エマの近くには、そんな様子を見て笑っている同期の騎士【カルア】が立っていた。


 同じように礼服に身を包んでいるが、スレンダーでエマよりも大人の雰囲気を出しているため年上に見える。


「みんな浮かれているわね。まぁ、騎士学校じゃあ教官たちに鍛えられて、遊んでいる暇もなかったから当然かしら?」


「そうだね」


「でも、騎士になればこれから嫌でも異性が寄ってくるのにね」


「――そうだね」


 気のない返事をする友人が気になったカルアは、小さくため息を吐くと慰める。


「落ち込むのも理解できるけどさ。騎士になれただけでも勝ち組だよ。あんたはもっと胸を張った方がいいよ。せっかく騎士になれたのに、そんな顔をしていたら駄目だよ」


「理解してはいるんだけどね」


 騎士になる。


 それはこの世界で成功の象徴でもある。


 エマもカルアも家が特別裕福ではなく、本来なら騎士になれなかった。


 バンフィールド家が騎士を求めていたため、運良く騎士になれたに過ぎない。


 二人が話をしていると、同期の男性騎士がやって来る。


 彼の名前は【ラッセル】。


 代々バンフィールド家で官僚をしていた一族出身だ。


 バンフィールド家では珍しい名門出の若者だった。


「騎士を名乗るには実力不足だから、それを理解してわきまえている君は正しいよ」


 笑顔で近付いてきたラッセルに、カルアは露骨に顔をしかめる。


 面倒な相手が来た、という態度を隠さなかった。


「随分と上から目線なのね」


 ラッセルという騎士は、その他の騎士よりも装色が多い特注の礼服を着用していた。


 彼個人が用意した物ではなく、成績上位者に許される礼服だった。


 礼服を誇らしげに着用するラッセルは、自分以外の騎士たちを見下していた。


「当然だ。上位百名に入った私は、君たちとは違ってエリートだからね」


 上位百名には、中尉階級と一緒に騎士ランク「C」が与えられる。


 卒業時に優秀な成績だった彼らは、バンフィールド家内でエリートコースを歩める存在だ。


 カルアが肩をすくめると、ラッセルから顔を背ける。


「エリート騎士様が何の用よ?」


 ラッセルはカルアではなく、エマを見て意地の悪い笑みを浮かべる。


「もう出会うこともないだろうからね。最後の挨拶だよ。君たちがこれから配属される先は、よくて本星付近だろう? 私のような選ばれた存在は、領主様と一緒に首都星に向かうからね」


 領主様という言葉を聞いて、エマが驚いて目をむく。


「首都星に配属されるの?」


「当然だ。領主様は現在修行中の身だろ? おそばで守るのが選ばれた騎士の勤めだよ」


 バンフィールド家の領主は年若く、現在は一人前と見なされるための修行中だ。


 そのために首都星でしばらく過ごすのだが、その護衛に選ばれたラッセルは間違いなく優秀なのだろう。


 エマは羨ましくなるが、同時に自分の状況を比べて俯く。


 自分の配属先を自慢したかったラッセルが、そんなエマに意地の悪い問いかけをする。


「ところで、エマ君」


 名を呼ばれるが、エマはラッセルが苦手で顔が強ばる。


「な、何?」


「君の配属先を聞かせてくれないか? 出来損ないのDランク騎士が、どのような辺境に配属されるのか気になっていてね」


 出来損ないのDランク騎士、という部分を強調したために待合室にいた騎士たちの視線がエマに集中する。


 その多くは侮蔑的な視線が向けられ、中には憐れんでいる騎士もいた。


 それがエマには辛かった。


 カルアがエマに耳打ちする。


「相手にしないの。あんただって立派な騎士だよ」


 カルアの小声が聞こえたラッセルは、鼻で笑う。


「いいや、Dランクは騎士じゃない。候補生ならまだしも、最終評価がDランクというのは、出来損ないの証だよ。バンフィールド家の騎士団に不要な存在だ」


 不要と言われたエマは、下唇を噛みしめた。


 ラッセルは出発時間が迫っているとアナウンスで聞かされ、二人に背中を見せると去って行く。


「時間のようだ。それでは私はこれで失礼するよ。最後に一つだけ」


 顔だけ振り返ったラッセルが、エマに冷たく言い放つ。


「身を退くのも立派な勇気だ。仲間の足を引っ張る前に、さっさと騎士の資格を返上した方がいい」


 ラッセルはそれだけ言うと待合室を出て行く。


 無礼な態度が目立つラッセルだったが、騎士としては同期の中でも上位の実力者だった。


 カルアがエマの肩に手を置く。


「忘れていいわよ。あいつはただ、あんたを見下したいだけなんだから」


「そ、そうだね」


 無理矢理笑顔を作るが、エマはラッセルの言葉に打ちのめされていた。



 エマが乗ったシャトルには、同じ宇宙戦艦に配属される軍人たちも乗っていた。


 ただ、どうにもおかしい。


(どう見てもだらしない人たちばかりなんですけどぉぉぉ!)


 自分の荷物を抱きしめ、身を縮めて姿勢良く席に座っているエマは冷や汗をかく。


 周囲にいる軍人たちだが、軍服は着崩していた。


 外見にも気を遣わず、無精髭で酒を飲んで眠っている軍人もいる。


(うちの軍隊は規律に厳しいって騎士学校で言っていたのに、現実は違うのかな?)


 強面の軍人たちに囲まれるエマが、到着はまだかと思っているとシャトルが大型艦に近付いていく。


 窓際の席に座っていたエマは、その艦を見て頬を引きつらせた。


(うわぁ)


 シンプルな一枚岩のモノリスを思わせる構造をした艦は、分類上は宇宙空母になる。


 ただ、随分と古い艦だ。


 何しろ二世代は前の代物で、旧バンフィールド家の私設軍が使用していた空母である。


 雑な修理跡が目立っていた旧式艦が、エマの配属先だった。



「エマ・ロッドマン少尉、着任いたしました!」


 緊張しながら敬礼するエマの前には、執務室にある机で電子書類を処理している司令官がいた。


 エマには目も向けず、面倒くさそうに書類を処理している。


 返事を待つエマがしばらく待っていると、小さくため息を吐いて司令官――大佐が背もたれに体を預ける。


「ようこそ、少尉。まさか騎士が配属されるとは夢にも思わなかったよ」


「え、えっと」


 戸惑うエマに、司令官は投げやりな問いかけをする。


「今は騎士不足でどこも取り合いだ。そんな中、左遷先である我が艦【メレア】へ配属されるなんて、少尉は何をやらかしたのかな?」


「――最終試験でDランク評価を受けました」


 正直に答えると、司令官は椅子から立ち上がって背伸びをする。


「我々は護衛艦の到着を待って、惑星エーリアスの調査と治安維持に向かう。少し前まで他領だった場所だ。調査団を引率するのが役目だな」


 旧バークリー家の惑星だったエーリアスは、最近になってバンフィールド家が手に入れた惑星の一つだ。


 その調査と治安維持のために派遣されるのだが――。


「ただし、入植者はゼロ。現地には知的生命体は存在せず、手つかずの惑星だ」


「え、えっと」


 エマが困っていると、司令官が端的に述べる。


「つまり、たいした仕事などないということさ。手に入れたからには、一応は艦隊を派遣するという上の判断だ。全くの無駄だな」


 上層部に対して思うところがある司令官は、新米のエマに軍人らしからぬ命令を出す。


「そういうわけで、君にはメレアの機動騎士大隊の小隊長に就いてもらうが――仕事もないから期待しようがない」


 それはつまり、手柄を立てられないという意味だ。


(う、嘘でしょうぉぉぉ!)


 活躍の機会すら与えられない空母メレアに配属されたエマは、いきなり絶望するのだった。



 メレアの格納庫。


 機動騎士のパーツなどがその辺に置かれ、雑然とした場所になっていた。


 そんな場所で自分が率いる小隊の機体があるハンガーに来たのだが、エマを待っていたのは更に辛い現実だった。


 茶色い短髪だが、もみあげが髭と繋がる中年男性が豪快に笑って出迎える。


 騎士ではない。


 機動騎士乗りと呼ばれるパイロットである彼【ダグ・ウォルッシュ】准尉は、エマの率いる小隊のパイロットだ。


「随分と可愛い少尉さんが来たな」


 鍛えられた体の持ち主で、ただの強面よりはフレンドリーで好感が持てる。


 しかし、騎士であり少尉のエマに可愛い少尉さんとは無礼だった。


「ダグさん失礼すぎない? うちは【モリー・バレル】一等兵よ。小隊付きの整備士ね。でも良かったよ~。怖い人だったらどうしようかと思ったわ」


 赤髪をツインテールにした同年代らしき少女のモリーは、機動騎士の整備士だった。


 軍隊で教育を受けたかも怪しい接し方に、エマの頬が引きつる。


「よ、よろしくお願いします」


「少尉さんかた~い」


 ケラケラ笑うモリーが、最後の一人に視線を向けた。


「あとはクレーマー准尉だけだよ。さっさと挨拶しちゃってよ」


 モリーに急かされたのは、小隊長が着任したのに部品を入れた箱に座って携帯ゲーム機をプレイする若い男だった。


 コントローラーを持ち、眼鏡タイプのモニターでゲームを楽しんでいる男が不機嫌そうにゲームを中断する。


「ラリー・クレーマー准尉。別によろしくしなくてもいいよ。どうせ、すぐにお別れするんだし」


 不吉なことを言い出すラリー准尉に、エマが訂正を求める。


「いきなり不吉なことを言わないでください! あたしは絶対に死にませんし、部下も死なせるつもりはありません!」


 甘い台詞を口にするエマを、ラリーが珍獣でも見るような目で見ていた。


「あ~、ごめん。勘違いさせたみたいだね。死に別れるって意味じゃないよ。どうせすぐにこの部隊は解体されるか、意味もない辺境に送られるって意味さ」


「え? で、でも、何が起こるか分からないのが宇宙ですし」


「辺境に何があるのさ? 僕たちには訓練以外に出撃する機会なんて巡ってこないよ。それに、僕はあと数年もすれば除隊可能だしさ」


 そう言ってゲームを再開するラリーを見て、ダグが頭をかく。


「最近の若い奴らはやる気がなくていけないね。――まぁ、こんな部隊だがよろしく頼むぜ、お嬢ちゃん」


「少尉です! あたしはこれでもれっきとした騎士ですよ!」


 騎士であることを告げると、ラリーがゲームを中断してエマを睨む。


 値踏みするように眺めた後に、ラリーは落胆したようにため息を吐いた。


「その割には貫禄がないよね。まぁ、こんな旧式艦に配属されるくらいだし、騎士としての能力は疑わしいよね」


 エマは呆然と立ち尽くす。


(え? あたしがこの小隊を率いるの?)


11月30日発売の【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】ですが、書籍の予約が開始されています。


9巻からは新章が開幕し、新しいキャラクターたちも登場予定です。


Web版から変更もありますので、未読の読者さんは是非とも購入をご検討ください。

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[良い点] 本編を知ってると、首都星に任官できるエリート(笑)となる点。 [気になる点] 騎士階級が、一番上がAAAで、次がAAって事はたぶん、D(見習い騎士)の次はDD(騎士の最低ランク)で、その上…
[良い点] 面白くなりそうで期待してます。 第三者目線で語られるリアムやこの世界の一般目線の価値観が語られると、より本編のリアムの凄さが際立っていくと思う。 [気になる点] 一般卒業生はCランク? […
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