In your pocket
八月の暑い日。天気は良く快晴で遠くにうっすらと雲が覗く程度の空模様は、三十度を超える気温を与えてくれた。熱波は地面に反射し、大気を焦がす様に感じられた。ひりつく様な熱波は、公園内を通り過ぎる湿気を含んだ風と共に、地面をじっとりと這いまわっていた
住宅街からほど近い自然公園は、周囲二キロの遊歩道を有した程度の大きさであったが、多くの人の憩いの場になっていた。平日の昼間だというのに、人出があるのがその証拠だ。おそらくは、長期休暇を取っている者達がこれからの計画を練るために訪れたり、あるいは最初の遊び場として親子でやってきたり。
公園の中央に設けられた緑の芝生がまぶしい広場には、親子連れが多くいた。赤色のゴムでできたボールは子供の背丈には大きすぎ、転がっていたそのボールに子供は嬉しそうな笑みを浮かべ、全身で勢いを止めるのだった。その様子を父親が嬉しそうに笑って見守り、母親は微笑ましい姿を撮ろうと、デジカメのシャッターを切っていた。
木陰に設置されたベンチには、散歩途中の老人が暑さをしのぐために、一休みをしていた。灰色の帽子をかぶっていたが、流れ出る滝の様な汗に色を濃く変えていた。汗を拭うために鞄から取り出したハンカチは、丁寧に折りたたまれていたが、それを乱雑に広げて使っていた。熱い陽射しは、木漏れ日となっても突き刺す様な痛みに似たちらつきを与えるのだろう、時より顔を顰めていた。
公園内に設けられた遊歩道にはランニング用の青いラインが引かれていた。公園内をぐるりと一周し、全長二キロの道のりを案内してくれる。遊歩道には迫出す様な木々が生い茂り、ちらちらとまぶしい白い光を振り下ろしていた。幾人かのランナーがその光を避けるためにサングラスをし、または帽子をかぶって走行していた。公園内にある人工池――といっても小さい物だが――の傍を通り、木々の合間を抜け、時には芝生の傍を通り、再び人工池の傍まで。自然を眺められる遊歩道として整備されていた。この道のりには、ところどころスタート地点――尤も便宜上のスタート地点は人工池の傍だが――からの距離を示す、ステンレス製の看板が設置されていた。地点ごとに動物の――例えば鳥、リス、犬といったシルエットが形作られていた。
リスのシルエットが形作られた池に近い地点には、大きな椋木とその下に年代物のベンチがあった。もとは真っ赤に彩られていたであろうベンチは、公園の年月をそのまま示す様に所々色は剥げ、背もたれは角が丸まり、ささくれだった木が物悲しい。
一人の男性警備員が見回りのために側を通った。恰幅の良いからだを揺らしながら、青いシャツは汗で濃く色を変えていた。額に浮かべた玉のような汗は、歩くたびに地面へと吸い込まれていった。
警備員の視線は赤いベンチに向かって止まった。
一人の少女が座っているのを見つけたからだ。
平日の昼間に――尤も夏休みであるから――いる事はおかしなことではない。しかしベンチからちょこんと頭が覗いていたため、とても小さい――幼いと思ったのだ。
親が近くにいるのか、と警備員は軽く視線を泳がせて周囲を観察したが、それらしき人影は見当たらない。
再び視線は少女に向いた。
青色の髪にピンク色のメッシュがサイドに入り、ゆっくり流れる風にさらさらと靡いていた。赤い眼鏡がちらりと光った。手元には文庫本の類だろうか、小さい本―本人が小さいため、まるで小さくは思えないが――を持ち、真剣に文字を負っていた。横顔を確認すると、すっとして絵になる印象を受けた。被写体としてこの上なく美しいというものを凝縮した印象を与えたが、強いて言えば幼い外見に似つかわしくない鋭い目つきが気になった。
警備員はその姿から、彼女がうわさの人だということを認識した。そして、何事もなかった様子で、暑さを避けるために日陰を縫う様に巡回に戻っていった。
彼女の名前はシャノア・A・リー。学校でのあだ名は「シャーリー(Sha-lee)」。小学生の時も、高校生になってからも変わらない。
グリーン色の瞳はいつもきつく吊り上げられ、口元には不適な笑みが浮かんでいた。
たった百四十センチの身長は、よく小学生に間違われ、その都度、間髪入れずに彼女の細い足が地団太の様に地面を蹴っ飛ばしていた。
学校でも身長の事はネタにされ、「飛び級してきた生徒」とみられる事が多く、その度に順当に上がってきた彼女のプライドは切り裂かれる様な思いを受けていた。日々の中で小さい事を取り上げられた事で、彼女は毎日苛立ちを感じ、周囲に対して言動がきつくなっていた。そういった言動の所為か、彼女の周りに親しい――本当の意味での――友人は小学生を最後にいなくなっていた。
しかし、彼女は一人である事の寂しさを感じている訳ではなかった。携帯端末のアプリを立ち上げれば多くの人と会話できたし、家に帰ればゴールデンレトリバーのジニーがのっそりと彼女の側にいつもついて回っていた。
その上、学校の授業についても、寝ていても単位はとれていたし、「飛び級だ」と馬鹿にされていても、その陰口をたたく者よりは成績は良かったため、時折、「ざまぁみろ」と心の中で毒ついたりしていた。
学校の生活よりも早く学校の外に飛び出して、自分で生活がしてみたいと思っていたのは確かだったが、何かなりたい職業があるかというとそうでもなかった。
進路を気にする年ではあったが、彼女の父親、グレイ・E・リーは特になにも述べず、「好きにしたらいい」といつも微笑みながら見守っていた。だからと言ってグレイも本当にただ見ているわけでもなかった。
今から一年前、まだシャーリーが高校に入ったばっかりの時、グレイの仕事に使っているパソコンが使えなくなった事があった。スイッチは入るのだが、会社のファイルに接続できない。インターネットは接続されていたが、会社に問い合わせても特に問題ないという。会議の時間が迫る中でどうしたものかとグレイは、思案していたが、シャーリーがやってきてその状況を一目見ると、「ネットワークにエラーがあるのよ」と一言いうと、許可されているIPを「割り出して」会社のネットワークに接続させた。ものの5分で使える様になったことに驚いたグレイだったが、シャーリーは彼の作ったファイルを見て一言付け加えた。「無駄が多いコードよね」と。
グレイはテキサス州にあるRed Rabbit Hood――通称、RRHのプログラマーを務めている。
彼が会議に話そうとしていたことも、今回のプロジェクト、冷蔵庫の物に合わせた冷蔵方法の選択を行うための識別装置のコードの効率性向上を謳ったものだった。最初はコードを一目みただけで「無駄」と指摘してきた彼女の能力を疑いはしたが、「何が」と尋ねた後の彼女の受け答えに、グレイは歓喜した。「色ごとに野菜を識別するなんてナンセンスだわ。鮮度によって色が変わるもの。それこそ形状で区分けするほうがいいじゃない。根菜なのか葉物なのか、そういったところで規格はつくれるものじゃない。特にここ、このコードは本当に無駄になるわ。」シャーリーは画面に映っているコードを人差し指で刺してさも当然の様に口に乗せていた。
グレイは翌月にはシャーリーを自分の会社に入れることを決めていた。当然彼女が嫌がる事がなければという条件は妻から口を酸っぱくして言われていたが。
郊外のRRHのオフィスは、まるで飛行機の格納庫の様な巨大な建物で、中には何百人という職員がせわしなく働いていた。
RRHは比較的新しいソフトウェア会社だったが、開発部門を要し、いずれは一流メーカーに並び立つハードウェアの開発まで行うことを目指していた。特にトーマス・H・ウッドがCEOになると、より活発にハードウェアの開発を行い、ロボット掃除機から医療用ロボットの開発を行うまでになっていた。
成長産業とはいえ、ハードウェアの知識が無ければ手を出しにくいはずではあったが、問題を解決するために、トーマスは思い切って会社をM&Aする事で人材を確保していった。
その中に、トニー・P・グッドソンはいた。トニーは、会社では一匹狼の様に群れるのを嫌い、職場では常に孤立していた。そういった姿と灰色の髪色から「狼」に例えられていた。
しかし、黄色の肌が示すとおり彼はアジア系の出身――両親が台湾――だったから、「黄色い狼」の蔑称で陰口を言われていた。
トニーはとても仕事ができたので、たった二十七歳にしてプロジェクトの管理者になるほどの能力を持っていたが、周囲との軋轢と、本人の技術者でいたいという希望を元に、一室窓際ともいえる開発室が作られていた。
トニーは元々カメラを小型化する事を仕事にしていた。知識と経験を生かして、彼は開発室の最初のプロジェクトに、高機動型ドローンカメラ「ポケット」を創ろうと画策していた。
いつも通りに彼は砂糖が全く入っていない濃い色のコーヒーを自販機で買った。紙コップ式の自動販売機から湯気の立つコーヒーが空調で冷えた体に程よく染みわたっていくのを指先から感じていた。
そのトニーの前にグレイがやってきた。
トニーはいつも通り落ち着いた色のシャツにジーンズというラフな格好だったが、グレイはいつもと違い、スーツを着込んでいた。何か商談か会議でもあったのだろうかと勘繰ったが、社交辞令以上の関係ではないので、聞くのをやめた。
軽い調子でグレイはトニーに挨拶をした。普段から口数は少ないまでも、最低限の挨拶は欠かさないトニーだったから、グレイの大柄な体に圧倒されながらも、小さい声であいさつを返した。
グレイの足元には、彼の腹に届くかという身長の小柄な少女が経っていた。彼女はグレイと違い紺色にショッキングピンクの線が入った様な奇抜な配食のシャツに、よくダメージが入ったジーンズという姿だった。
トニーは社交辞令として口を開いた。「グレイさんのお子さんですか。その、もっと大きい子だと聞いていましたが、妹さんですか?ジュニアスクールの子がいるとは……」
その問いに、グレイはまずいと顔をしかめたが、シャーリーを咎めるよりも早く、彼女の足が地面を鳴らした。乾いた音が響き渡り、幾人かの作業員がびくりと肩を震わせ、何事かとパーテーションから顔を覗かせた。続いて凛とした強い口調が高い声で。音は良く透き通り、一瞬静まり返った会社の中に鈴の音の様に響き渡った。
「何? そのトンチキな質問は。このレティが目に入らないっていう訳? あまつさえ開口一番がそれって、あなたの辞書にはデリカシーの文字はないわけ?」
トニーはその音に驚き、次いで彼女の勢いに押されて身をのけぞらせた。彼の持つカップに物理的に無理な力が加わった。カップからこぼれたコーヒーは彼の指に灼熱の痛みを発生させた。
「アッチ‼――いきなり何言いだすんだよ。あぁ、ジュニアハイスクールだったか? 悪い、思慮が足りなかったよ。君みたいな子供がここに来る事なんてないからな」
トニーの軽い口調の謝罪は、謝罪の体をなさず、むしろシャーリーに油を注ぐ結果になった。しまったとグレイは額に手を当ててかぶりを振った。
再び響き渡る音。今度はトニーの足元から上がった音だった。彼の足ギリギリを狙って打ち鳴らされたシャーリーの蹴りは、空気を圧縮し、強く、高く音を響かせた。
「ふっざけんな! わたしはハイスクールだよ! あったまくるなぁ。しかも、今日からここの社員だよまったく。どこに目つけてんだ? ここに社員証ぶら下げてるだろう。あんたがトニーだろう? 父から聞いてるよ、今日からあんたのところの場末の開発室を盛り上げるために回されたプログラマーだよ!」
シャーリーが指さすところには、RRHの社員を示すプラスチックのカードが写真付きでぶら下がっていた。
トニーは一瞬血の気が引いた。なぜだか知らないが、あるいは、長年の経験からか、この子供に逆らってはいけないという気がしてならなかった。
しかし謝罪の言葉を載せる事はできないでいた。時が止まった様に立ち止まったトニーは、手に持っていたカップを落とした。
最悪の出会いであったが、トニーとシャーリーは仕事を介して、互いの能力を認める事になった。
数ある開発室の中で爪弾きにされているトニーにとっては待望の部下だったし、そもそも一人で何でもこなしていたのだから、社内の評価も絶妙に微妙だった。
トニーはハードウェア開発については一流だったが、効率的なプログラムや、奇抜な操作を要求する複雑なコードを組めるほどプログラミングに長けてはいなかった。しかし、会社としては彼以上の能力を持つ者がいないということを理由に、ほこりっぽい開発室の一室に閉じ込め、好き勝手にさせるのが吉だと結論付けていた。
だが、シャーリーが出入りするようになると、彼の作る乱雑なソフトウェアを彼女は嬉々として修正し、加筆し、最適化した。
始めはもっさりとした動きだった「ポケット」が、機敏に動きまわる様はトニーの普段は眠そうに細められている目を立ちどころに開かせるには十分だった。
ポケットはドローンではあるが通常のものと形状が違っていた。球体の、しかもたった5センチメートルの大きさの物で、自在に動きまわるものだった。
稼働時間は15分と短いが、設置する通称、休息ポイントまたはタワー――実際には円柱のタワーの様な形状をしていて、充電がなくなると自動でタワーの下段に転がり込む様に入り、勝手に充電をした。
休息ポイントの中には5体のポケットが格納できた。飛行時間を延長させるためには機敏な動きが重要であると同時に、不要な電力供給を制限する機能が必要だった。五台でローテーションを組み、撮影ポイントに自動的次の機体が戻るという設定も必要だった。
その機構を構想、設計、作成しえたトニーの能力にシャーリーは驚きを隠せなかった。驚きのあまりトニーの背中をばんばんと力の限り叩いて「すげー!」と子供じみた――実際子供ではあるが――感嘆の言葉を述べた。始めはたった5分の稼働で限界だったが、無駄になっていたカメラへの電力供給を見直したり、ブレードの回転アルゴリズムを調整することで解消していった。
トニーは喜んで、シャーリーの仕事っぷりを評価した。その際には決まって彼女の好きだったブドウのフレーバーの青々としたガムを奢ってあげていた。
ディグ・オリバー・ホルトにとってみれば、シャーリーの存在は目の上のたんこぶになっていた。
恰幅の良い腹に顎に乱雑な髭を蓄え、片手にはいつもコークのペットボトルを携えていた。少しでも姿に気を付ければ万人受けする姿になりそうではあったが、自身の姿に執着のないディグにとっては、どうでもいいことだった。だから、仕事に行くにも一度もスーツに袖は通したことなく、すり切れた3Lのジーンズが作業着であるようにぴっちりと体になじませていた。
開発室――といっても薄い壁で区切られただけの簡素なしつらえではあったが、第1から第5まである開発室の中で、ディグのいる第5開発室は一番の稼ぎ頭になっていた。
彼もプログラマーではあったが、違うプロジェクトを行っていたし、場所も違う。しかし、若くよく目立つシャーリーは、最初こそトニーへのあたりで驚きがあったにせよ、多くのスタッフの中にうまく溶け込んでいた。特に多くの女性スタッフからは、話題の中心になるほどの人気を博していた。当然、受け答えもはきはきと、元気がよく、それでいて愛嬌のあるシャーリーの佇まいは仕事においても頼りにされるに十分なポテンシャルを持っていた。彼女も周りからの注文――あるいは質問を気にする様子もなくさらりと回答していった。
ディグは、彼女がくるまではプログラムの事であれば社内の中で随一といっていいほどのギークであったから、長々と――またはねちっこく鼻を高くして講釈を述べるのが通例だった。細やかな優越感を浸るには十分な機会を得ていたが、すべてをかっさらっていったシャーリーの事は彼のグランドキャニオン並みのプライドをずたずたにするには十分すぎた。
ディグの嫉妬心は給湯器の沸点を超えた音の様に電子的に音を立てることはなかったが、ぐつぐつと煮え切った腹の内をぶちまけたいと思うほど、歪みきっていた。
プロジェクトリーダーのエルヴィス・O・ブルーがディグの嫉妬心に気づき声をかけたのは、なにも彼のことに同情したからだけではなかった。
「ディグ――あまりみっともない真似はするなよ? うちには君の能力が必要な案件が山積みなんだ。たった一人の子供に醜い嫉妬を燃やして、自分の仕事をおろそかにする様では、子供じゃぁないか。」
エルヴィスの立場では、ディグが何かへまをしでかす事の方が、プロジェクト全体を停滞させる危険性をはらんでいたから、頭の痛い問題が増えたといつも以上に濃く入れ、渋みのました紅茶を良薬の様にがぶ飲みしていた。
ディグは憮然とした表情で画面に向き合っていた。
オープンソースではなかったが、社内であれば誰でもアクセスできるところにポケットのソースコードがあった。ディグはすぐさまそれに目を通した。トニーとシャーリーの仕事っぷりに難癖をつけてやろうという思惑の元、共有ストレージに格納されているコードをエクリプスに流し込んで表示させた。
中身を覗いた時、脳裏に浮かんだのは「誰が手がけたのか」という疑問だった。次に浮かんだのは「何人でやったのか」。完成度をあげるための試行錯誤のコメントアウトの数々を読み解いていけば、何をしようとしていたのか理解できた。教科書に載るほどの丁寧さで組み上げられあコードは、ある種、プログラマーにとってみれば手本の様なものだった。作成速度をあげるために、緻密にわたる注釈や、検証用のブロックなどをわざわざ残して置いたりするのは「稚拙」だとディグは思っていた。
当然、複雑にコードを積み上げるために指数関数的に膨れ上がる分岐条件を、自身の得意とする――あるいは一番書きやすいコードで書くことが当たり前であった。
しかし、このコードは違った。積み上げられた条件が「見やすい」ように整地され、そのためにわざわざ遠まわしな分岐条件を使うなどの細工がほどこされていた。だが、データの肥大化を防ぐために、細かく細分化されたスクリプトの完成度の高さからディグでも粗を見つける事ができなかった。
ディグは苛立っていた。自分より20近くも下の子供に追いつかれ、「追い越され」た事に。
苦い思いを飲み込むために、コーラをいっきに煽った。
エルヴィスの元に一つのメールがやってきたのは、頭痛薬代わりに渋い紅茶を飲みほしたときだった。
差出人には、トーマスの名前が記載され、今先ほど飲み干した紅茶が逆流するような錯覚をエルヴィスに与えた。メールの内容は、トニーのプロジェクトの後任になってほしいという物で、トーマスらしく几帳面に宛名と差出人を文面に書かれてはいたが、本文には装飾の類が全く見当たらない簡素な一文だけだった。あまりにも簡素すぎるので、最初は誰かの冗談かとも思い、疲れた目を二、三度こすった。クリアになった視界に映るのは変わらぬ文面であった。落胆と共に一体何を考えているのかという気持ちが胸にじんわりと湧き上がってきたが、その勘定をそのまま入れなおした薄味の紅茶と共に嚥下した。
エルヴィスにとってみればトーマスよりもトニーの事の方が、何度か仕事を一緒にした仲であるから、よく知っていた。彼をないがしろにする気など微塵もなかった。
エルヴィスは悩んだ。錆色した壁面を何度も視線で往復し、自分のデスクの上にある鉛筆を不必要にデスクの端から端に転がしてみたりもした。
結果は変わらない、と自身に言い聞かせるため、机にしまったエラーコインの1オーストラリアドル硬貨を取り出して、親指ではじいて表――表しかないが――を出してみたりした。理由も、根拠もわからぬままの文面は、指示書というにはあまりのも不足しているものだった。エルヴィスとしては、ディグの件も安定していない中で、火種になりそうなトニーの件を――特にシャーリーが押しかけてこないとも限らないため――二つ返事で引き受けるにはリスキーだった。
結果、答えは自身の痛む胃を抑えながら、返す文面に「No」をやんわりと記載した。
ディグは歓喜していた。あの目障りなシャーリーが作っていたものが事業凍結になったのを知ったからだ。
なんでもトニーがCEOの方針に意見をしたらしい、ということも伝わってきた。
トニーの一匹狼ぶりも拍車がかかったと多くの職員はその噂話に尾ひれ、背びれをつけて語り合っていたが、「事業凍結」というのは間違いない事実のようだった。
普段ではめったに話に加わらないディグも上機嫌に同僚の噂話に加わっていた。
最初は声を抑えていた彼だったが、次第にその熱量は上がっていった。
「ほらみたことかよ。あいつが何を作ったかなんてどうでもいいけど、会社の金を使ってお遊びをしているだけだったんじゃないのかってね。じゃなければ社長の言葉だって素直に聞くだろうさ。--そうだろう? なにも全部聞けってわけでもないじゃないか。事業凍結にするっていう事は有用性なんてものと乖離したお遊びをしていただけだって。そりゃ、あんな子供をメインプログラマーにしているんだ。学校の授業の延長程度はできるだろうが、ジュニアハイスクールにも行ってないような子供が作れるものってなんだい? よくで犬と戯れるマシンでもつくってたんだろうけどな。トニーもトニーだよ。大した事ないじゃないか。あいつがあの開発室に入って何年になる? もう3年だよ。何一つ形にできずにしているじゃないか。もうあいつも年齢なんだ。アイデアなんて枯れてるのさ。昔トニーが作った片手用キーボードには笑わせてもらったけど、それくらいしかインパクトはなかったな。マウスとセットでグロッグよろしくハンドガンになるのは面白かったけどな。しかも装弾数――一発。どこのデリンジャーだよ。」
ディグは笑いながら自席に戻った。その後ろ姿をエルヴィスは頭痛を抑える様に額を抑えて見送った。
トニーは激怒していた。当然、シャーリーもそれは同様だった。
トニーの怒りはすさまじく湧き上がるマグマの様な熱量が、開発室であふれていた。椅子を蹴っ飛ばしたり、机をひっくり返したりは序の口で、倒れた机の天板にマイナスドライバーを何度も突き刺したりした。途中で楽しくなったのか、壊す事に取りつかれた様子で机をバラバラに分解して粗大ごみとしてまとめる程だった。
シャーリーはその怒りを理解していた。彼の目的はポケットを使って縦横無尽にスポーツ観戦をしあかっただけに他ならない。多くのファンにとってみれば、選手と同じ目線でスポーツを観戦する事ができる事は、どんな上等な酒を一緒にしようとも得られない興奮があったからだ。ジャッジマンの額につけられたライブカメラの映像ではブレがおおきくまたいざというときに、映像が思いの方向に動かないという点が嫌だった。簡単に、しかも手軽にそのライブ映像を楽しむためのツールとしてポケットを開発し、来年のスーパーボールにはぜひ導入したいとおもっていたほどだった。
その技術を、「軍事利用してほしい」とCEOから打診されたのだ。トニーとしても勝手に使われる分に構わないと思っていたが、軍用となると機密保持の問題がでてきた。
技術確立されていないそれを民間利用するにはかなりハードルがあがるものだった。特にシャーリーの作ったプログラムについては、利用できなくなるものだった。
トニーはあの機敏な動きをさせるプログラム無しには民間利用であっても使えないと思っていた。それほどの出来であったにもかかわらずブラックボックス化するというのは、シャーリーという才能を隠す事になるとわかっていた。彼にはそれはできないと思っていた。作った者の名前すら隠す事になるのは、「その者に十分な対価」があってしかるべきと思っていたからだ。
対価はたったの百ドル。そんな額のために、――尤も額だけでなく、トーマスの上から目線も気に入らなかったようだが――やっているのではないと、啖呵を切った。
翌日には、事業凍結――資金はもう使えないという正式な通知がトニーに届いた。
監査室長のヴァイオレット・S・マクドナルドのもとに、激怒したシャノア・A・リーがトニー・P・グッドソンを伴ってやってきたのは、あまりにも唐突だった。
コーヒーでも淹れようと席から立ちあがった瞬間に、扉がけたたましく開かれた。木造の扉が開かれると同時に、後付けで申し訳なさそうノックがなされ、シャーリーの怒りに満ち溢れた顔が現れた。
事情を確認するまでもなく、何かトラブルがあったのだというのはわかったが、矢継ぎ早にマシンガンの様に話すシャーリーの言葉によって圧倒されてしまった。
「まったく、トーマスも適当なことをするものね。わたしに何の相談もなしに状況を変えるなんて。まったく何を考えているの? 何か聞いてない? 聞いてるわけないわよね。あの無口は隣の部屋にこもりっぱなしでちっとも社員の前には出てこないもの。あぁ、本当に何を考えてるの? そんなに目先のお金が大事? ポケットは映像を一気に変える優れものだって! 今にはすぐお金になるものじゃない。そんなの分かってる。でも、十年の間は他に追従を許さない特許になる。これはわたしが作ったんだもん間違いない。どうすればいいのかな? 目先の利益だけで考えてはいけないってわかってないのかしら」
ヴァイオレットはコーヒーを淹れに行く事をあきらめ、小さくため息をついた後、扉を閉める様に促した。ばつの悪そうなトニーがそっと扉を閉めた。
ヴァイオレットにしてみればトーマスに関する件をどうこうする権限も権利を持ってはいなかった。ただ彼とは長く仕事をしていた仲で、RRHが設立される前に行っていた事業のパートナーでもあった。
今でこそ彼女の頭には白いものが多くあったが、当時は紫色に艶やかな色を誇った髪と鋭く切れる頭とその気品さから、レイニーブルーに例えられていた。
RRHになってから少しづつ意見の対立が多くなっていた。トーマスにとってみれば彼女の言動、影響力は衰えるどころか社員との関係性もあり益々増していたものだから、嫌な――嫌味でなく――存在になっているのはあきらかだった。監査部門に彼女を追いやるのも、経営方針に口出しさせないための措置だった。
そんな折、グレイが面白半分に連れてきた彼の娘の事は気にかけていた。面白半分だろうがそうでなかろうが、利になればそれでいいとヴァイオレットは思っていた。
特に停滞していた開発部門の起爆剤になるのであれば――特にディグのライバル心に火が付けば――と思っていた。尤も人事権もない彼女にとってみれば、棚ぼたな状況ではああったが。
その目論見は諮らずしも成功せしめたが、それが悪い意味で表出している状況になっているのも彼女は承知していた。
痛いのは頭痛ではなく、自身の目が吊り上がっているためか、とこめかみを少し指でほぐしながら、ヴァイオレットは思案した。
この場で彼らを諫めるのはたやすいが、ディグにも悪影響がでたままで、会社にとっても悪影響が出かねないと考えた。
彼女は、この場に彼らが来たのも一つの何等かの契機なのだろうと考える事にした。
喚き散らすように言葉を発するシャーリーを手で静止し、デスクに靜に座ると、メモ帳にさっと何かを走り書きをした。
一枚切り取り、四つ折りにするとトニーに手渡した。
「それを、エルヴィスにもっていきなさい。何かあるのなら、私の所に来るように申し添えてね。言いたい事は山ほどあるんでしょうけど、今は我慢をしなさい。悪いようにはならないから、――ほら、行った行った。」
しっしと手で追い払われる様に二人は追い出された。憮然とした表情のシャーリーは、一度歯をむき出しにして「いじわる!」と一言投じた。
エルヴィスの前にやってきたトニーは、萎れた葉物の様にくしゃくしゃになったメモを手渡した。
その場にシャーリーの姿はなく、エルヴィスは安堵のため息をついた。
トニーから手渡されたメモを受け取ると、彼は一読し、目を見開いた。ヴァイオレットの名前が入っているそのメモの内容をどうするか、一瞬の思考の後にびりびりに破いた。
トニーがどうしたのかという驚きの視線を彼に向けたが、口から出てきたのは回答ではなかった。
「あー。ディグ。少しいいか?」すまなそうに声のトーンは低く、しかし向けれた先はトニーではなくディグだった。「少し手伝ってほしい案件がでたんだが、今、君の状況は悪くはないよな。昨日見た進捗具合なら、そうだな……一週間くらい時間を取れそうじゃないか。あぁなに、緊急というやつで、ヘルプに入ってほしいんだ。あそこには君ほどの速度で組めるやつは居ないのだからさ。――どこだって? 第四開発室、トニーの所だよ。そういやな顔をするなよ。君の手腕に期待しているんだ。ヴァイオレット女史からの要望でもあるんだ。当然拒否権はあるよ。だけど、そうだなぁ君の手腕を彼女――シャーリーに見せるいい機会だとおもうんだけどな」
トニーは目を見開いて、エルヴィスを見た。非難するような視線も込められていたがエルヴィスは無視した。
ただ、状況を飲み込めないと、彼らは動かないのは分かっていた。
「簡単な事だよ。トニー。君のつくったおもちゃに、おもちゃ以上の価値を見出せない様にしてやればいいんだ。おもちゃはおもちゃである事を認めさせてやればいい。そのためにレイニーブルーはこういうことをやったらどうかと提案してきたんだ。」
エルヴィスは勤務状況を記載しているホワイトボードまでくると、黒のマジックをとると、小さい文字で一言書いた。
RRH――Red Rabbit Hoodの名前には逸話がある。ヴァイオレットとトーマスが共にその会社を立ち上げた時、最初は小さいおもちゃのプログラムを組んでいた。ただ音に反応してウサギのぬいぐるみが手にもったシンバルを叩くという物だったが、それだけでは大した売り物にはならない。そこで、ヴァイオレットは一つの提案をした。「おもちゃはおもちゃらしく。そしていたずらをするの」
トーマスは一つのいたずらをそのウサギに施した。可愛らしさを表現するものなどいくらでもあったから、そのウサギがホラーに近い存在に成れるのであれば、もしかしたらヒットするのではないかと考えた。そこで、音を聞くとシンバルを叩きつけたり、代わりに「I’ll eat you!」と叫ぶ音を入れたり、ウサギの皮を被った「狼」にしてしまおうと考えた。
出来上がったおもちゃは全米でヒットした。その奇抜な――一見すると可愛らしい狼がウサギのフードを被っているものだったが――デザインと、なんとも皮肉の効いた受け答えをする事から、コアなファンが付くまでになった。
この出来事を契機に、トーマスとヴァイオレットは会社の名称をRRHに変更した。
シャーリーはディグの姿を見つけると口をあんぐりと開けた。「なんで、こいつがいるんだよ」
頭をかきむしるシャーリーに、にやついたディグは特に言葉をかけず、その姿を眺めていた。ディグいつも通りにコーラを一口飲んだ。嬉しそうに笑みをこぼした。
「ま、聞けよ。当然、俺もそう思ったさ。彼は――良くも悪くも今は俺らのチームメンバーだ。過去のことは気にするな。どんな状況であっても、トーマスに意趣返しをしていいっていうなら、俺はやるさ。」
なんだよ、と口をとがらせるシャーリー。しかしトニーは言葉を多くは語らない。
マイナスドライバーが突き刺さったままになっているホワイトボードの前にくると、トニーはそこに一言書いた。TRICK。それは魔法の言葉。
RRHにおいては「いたずらしていい」という合図になっていた。その言葉が使われるのは、このところほとんどなかった。それも当然、その「指令」を出すのはたった一人。「ヴァイオレット」に他ならない。彼女が監査部門に異動してから早五年。社内では全くその様相は無くなっていたのをトニーは思い出していた。
トニーは、彼が入社した時、新人に「いたずら」をするために、ケーキに大量のタバスコが入れられたスポンジが使われていたことがあったなと苦笑しながら思い出した。
当然ディグにとってもそれは「最大の楽しみ」だったから、こんな指令がでて楽しまないわけにはいかなかった。
「つまりさ、俺たちは監視するカメラをつくっちまったんだ。だからそれにトーマスは目を付けた。俺は作ったものが、戦争の道具にされる事について何も感じてはいない。それはほら、シャーリーもそうだろう? 好きにさせてくれるなら好きに使えばいいってさ。でも使うときに機密になっちまう。何もかもブラックボックスになったものなんて商品で売り出しできるかね。だからこう考えよう。これから一週間の間にこいつをグレードダウンさせる。それも、おもちゃレベルに。ただ動きが遅くなったとかじゃない。おもちゃにしかできないことをやらせるんだ。――何ができるって? そんなの今から考えるんだよ。さ、いがみ合っている時間なんてないぞ。さっさとトーマスの鼻をへし折ってやるんだからさ」
腑に落ちないシャーリーは口を尖らせたままだった。しかし椅子にちょこんと座ると、いつもの様にデスクトップPCのスイッチを入れた。
その様子をみて、トニーは小さくうなずいた。
第四開発室にトーマスがやってきたのは、午後4時を回るころだった。メールでの再三の催促にも応えないトニーに対して、しびれを切らしてやってきた。
いつもであれば供回りのグレッグ・L・フェースなども従えてくるのだろうが、今日は一人でやってきた。
トーマスの前に並べられたのは、開発途中だったドローン、給電装置にソフトウェアが納められたDVD。視線を向けるのは頬を膨らましたシャーリー、電子タバコをふかしているトニー、なぜか見学にきたエルヴィスに、ガムを噛んでいるディグ、驚いた表情のグレイの5人。開発の中止を決定してから一週間。いうことを聞かずにいたトニーがとうとう観念して、物一式を机に並べさせたのか今から5分前。
あまりに言うことを聞かないので、トーマスは珍しく感情を露わにしてトニーを叱りつけた。
あまりにも珍しい光景だったため、エルヴィスがパーテーションから頭を覗かせ、次いでディグがにやついた笑みを浮かべてやってきた。
シャーリーは涙目になっていたこともあり、騒ぎを聞きつけたグレイがやってくるのも当然であった。トーマスは騒ぎが大きくなることを嫌い、手短に二人に告げた。
「これは没収だ。君らが命令を無視してこの一週間何をしていたのかは知らないが、その程度で済むのを安堵しろ。本当であれば首を切られても仕方がないことなんだぞ」
しかし、トニーは「少しいいですか」と前置きをして、トーマスに言葉をかけた。
彼は急なトニーの言葉に少しむっとした表情をしたが、一応は上司である手前、部下の言葉に耳を傾けるべく、鷹揚に頷いた。
「こいつは、貴方が求める様な物ではないですよ。ただのおもちゃ。カメラで任意の物を追い求めるなんて事はできなくて、ただこの給電装置の周りをクルクル回る程度の物なんですよ。今年のクリスマスには販売しようかと思ってはいましたがね。あまりに開発人員がないので、来年になりそうだ。その折に、軍事転用をしたいなんて――まぁ大層なことじゃないですか。でもこいつは、子供が見て喜ぶ程度の能力しかないから、俺は断ったんだですよ。それを――いまさら持って行ってなににするんです? 郡に提出しても、『あぁ、おもちゃを持ってきたんだ』って笑われますよ。うちの会社でそんなことをしてごらんなさい。ただでさえ業績が誰かの所為で怪しくなっているっていうのに、本当に信用を失ってしまいます」
トーマスは怒りを押し殺しながら――額にスジは浮かんでいたが――静かに告げた。
「嘘をいうな。それは成果を隠そうとしているのか? それに何の意味がある。時間をいくら稼いでも状況はかわらないぞ」
トニーは、とぼけた調子で左右の手のひらを天井に向け、手を肩あたりまでもっていき、頭を左右に振った。
「嘘な訳ないじゃないですか――いいですか」トニーは給電装置のスイッチを入れた。「こいつは、自立するんじゃなくて、ただの有線装置ですよ。今時、有線。――ほらみてくださいよ。で、ただこのタワーを周回するだけで、カメラも前の物とぶつからない様に距離を測るだけ。ほらタワーも山に見えるでしょう? こいつは山をイメージ。白い雪をかぶるんですよ」
言われてみれば、ポケットは雑な――針金のような線――線でつながれ、ふらふらと宮殿装置の周りをまわるだけだった。
「嘘をつけ」トーマスの口調は強くなった。「何を隠そうとしているのか――」トーマスは指を指す。先週までは自立して浮かんでいたそれは給電装置から延びる細いケーブルによって繋がれて浮遊していた。
「こいつに何をした!」
声を張り上げたトーマスはタワーを覗きこんだ。
誰かが「あっ」というという言葉を発した。
途端、あふれるのは白い泡。泡沫はかなりの勢いをもってトーマスの顔にぶつかった。
それだけではない、どれほどその泡が入っていたのか、両手で防ごうとしてその指の隙間からあふれ出てくる泡はトーマスの服を汚した。
「なんだこれは――なんだこれは!」
「TRICK」そう機械は電子音声で繰り返し呟いた。壊れたおもちゃの様に単純に、軽快に。
ケタケタと笑い声が響いた。それはシャーリーの声だった。
ディグは大きな腹を抱えて笑っていたが、必死に声を抑えていた。
トニーは声を上げないまでもにやりとした笑みを浮かべていた。
「貴様ら――」
トーマスは泡だらけのこぶしを振り上げた。
「何ですか、騒がしい」その場に現れたのはヴァイオレット。紫色の髪が揺れていた。あきれたような視線をトーマスに向けた。
その視線を見て、トーマスは拳を下げた。
「――一体なにを遊んでいるのかしら。トーマス。確かにおもちゃ産業への進出はあなたが凍結していましたよね。許可が下りたという事かしら?」
「こ、こいつらが――」
泡だらけの手でトニー達を指さしトーマスは言葉を述べようとした。しかし、ヴァイオレットはくすりともせず一言で遮った。
「あなたの負けよ。」
ディグはトニーの肩を叩いて席に戻ろうとした。
その巨大な背中が後ろから何かに引かれた様な感触を得た。シャツを何かにひっかけたのかと思い振り返ると、そこにはシャーリーがいた。
「ディグ、貴方中々の腕前ね。モーションセンサーなんてあまり触った事なかったのに、貴方は即座に組んでしまったものね。特にコンプレッサーを隠して有線でタワーにつなげておくなんて考えもしなかった物。――手品とかってこういうものの積み上げなんでしょうね。――御礼だから。」
シャーリーはジーンズのポケットの中から取り出した新品のガムをディグに渡した。
それから、トニーに向き直り、
「RRHもいいところね。で? 次はなにするの――室長」
稚拙な文章ですがお付き合いいただきありがとうございました。