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過ぎ去りし日のおもひで

作者: 忌み人

 昔から病気がちで入院する事が多くてさ

そのときも風邪をこじらせたかなんかで肺炎になって入院したんだろう。

でもいつもの小児科病棟は患者がいっぱいってことで

内科病棟へ入院する事になったらしいんだ。

 

 入院して点滴やら検査やらいっぱいされてたんだけどさ

ほら、熱がすごくてうなされるって言うの?

あんまり覚えてなかったんだけど、いつも眼が合う人がいたんだよね。

検査のときも、点滴のときも。

いつも笑っている感じで、こっちを見つめてる。

年は同じぐらいで髪型もよく似た短髪。

 

 入院して2〜3日で熱が下がってある程度元気になると

ベッドの上にじっとしていられなくなり、その人を探してた。

その人は隣の部屋で、同じように病棟がふさがっていてこっちに入院したらしい。

すぐに仲良くなってゲームを貸したり漫画を借りたりして遊んでた。

 

 後姿もよく似てるらしくて、看護婦さんもよく間違えてた。

それで調子に乗った二人はたまにパジャマもベッドも替わって夜寝たりして看護婦さんを困らせてた。

そんなこんなで2週間程度で退院となったんだけど、せっかく仲良くなったんだからって

たまにせがんで連れてってもらってお見舞いにいってた。

 

 2ヶ月ぐらい過ぎた辺りかな

お見舞いに行ったら布団をかぶって泣いてる。

どうしたのか聞くと、家で飼っている犬が死んだそうだ。

でも、今は退院できないから死んだ犬に会えないって泣くんだ。

 

 新しくできた友達にどうにか力になってやれないか考えた。

それで考え付いたのは入れ替わる事だった。

ちょっと前まで看護婦さんも間違えてたくらいだし、今日はずっと布団の中にこもってて点滴もしてなかった。

ちょっと家に戻って犬の顔を見たら戻ってくるからって事で話はついた。

パジャマと服を交換してお見舞いのお菓子とジュースを持って布団にこもる。

それを確認して外に出る。

 

 しばらくして看護婦さんがやってきてなんか話をしていった。

「今日**だ、痛***の注*****から、*****くれる?」

何を言ってるか聞こえなかったので、そのままにしてたら、

布団の傍まで看護婦さんが寄ってきて、

「このままだと、痛くなっちゃうよ?さぁ、腕を出して」

と言われたので、何か注射を打つんだなってことは理解できた。

 

友達のためだと思い、黙って左手を出すと

「今日は左手でいいの?」

と言われ、何となくバレたような気がして左手をベッドに何回も叩きつけ、早くしろという意思を見せると

看護婦さんも「わかったわ。」と言ってくれた。

針を刺されたときに思わず声が出そうになるのを何とかこらえ、点滴が繋がった。

看護婦さんが部屋を出る間際に何か言ったが聞こえなかった。

 

 そしてそのまま寝てしまった。

 

目が覚めるとベッドに寝かされてるのがわかった。

その瞬間バレたと思ったら目の前に泣いてる親の顔。

その奥に困った顔の先生。

ぼうっとした意識の中でよかったよかったとだけ聞こえたのを覚えてる。

 

 打たれた点滴に痛み止めが結構な量入っていて、慣れていない人間にはすごくよく効いてしまって

呼吸が止まることもあるという。

いつまでたっても戻ってこないことを訝しげに思った親が病棟に→ベッドサイドにはいない→念のためにと布団を剥がしてみたら、息も絶え絶えの状態で発見されたらしい。

その後いろんな検査をされて、後遺症が無い事を確認してから取り調べが始まった。

 

 そこからが大変だった。

まず、何であそこに寝ていたのかから問い詰められ

どうやって抜け出させたのかとか、いっぱい聞かれてそのたびに怒られた。

警察も来ていろいろ聞かれた。

友達がどこに行くといってたかとか。

 

 友達は見つからなかった。

 病院も警察も必死で探したけど見つからずじまいだった。

 

 実際は家で犬が死んだどころか、この辺に家も無い事を知らされた。

あの時泣いていたのは何でなのかわからないが、病院から抜け出したかったのかもしれない。

この狭い空間から広い世界に飛び出したかったのかもしれない。

そう思うと、正直に言ってくれればよかったのにといまでも時々思う。

結局友達は今も見つかっていない。

その後その病院で働いている人が教えてくれた。

20年以上前のホントのようなウソの話でした。


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