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レポート:魔法学園パルトゥクス


「これが、パルトゥクス学院……。この時代の学び舎か」


 年季の入ったレンガの堀、石畳……。歴史ある建物であることは間違いなさそうだった。


 見た所、かなりしっかりとした学校という感じだ。魔法についても、期待できる。

 錬金術とはどう違うのだろうか。そもそも、この時代の錬金術はどこまで行ったのだろう。


「行こう、エヴァ。……エヴァ?」


 何やら、エヴァは立ち止まってどこかを見ている。


『……あぁ、いえ。お気になさらず。少し考え事をしておりました。では、行きましょう。マスター』


「あ、あぁ」


 その態度に少し疑問は感じたが、とりあえず今は進むことにした。

 門をくぐってみると。


「――いやはや」


 視覚的には、まずその空間の広さと色鮮やかさに驚かされる。


 広大な中庭に、城のような校舎。

 この学院だけで、街で見かけた家々がいったいいくつ入るのだろうか。

 中庭もよく手入れされており、建物にはきらびやかな装飾が施されている。


「まぁ、気合が入っていることだけは間違いなさそうだ」


 この時代の生徒というのはこんな城のような場所で勉強するのか。

 俺の時代は、良くも悪くも最低限というか……あくまで機能美のみを追求したような無骨で簡素な建物だったので、さすがにギャップを感じる。


「君たち、ちょっと待ちたまえ」


 声を聞き振り返る。

 長く伸びた灰色の髪。そして鋭い金色の瞳。

 おちついた紺色のブレザーに、清涼感のある青いスカート。その胸元には、4つの光が象られた金のバッジ。

 この学園の女子学生――だろうか?


「ここの生徒ではないね。なにかご用かな?」


「ああ、この学校の入学試験を受けようと思って来たんだが」


「なるほど、受験生というわけだ」


「あぁ、そうなんだが。……そのバッジ」


 少女のつけるバッジはディーノスがつけていたものと似ている。

 もしかして、あれが。


「ん? このバッジがなにか?」


「それが、階級章――なのか? 魔導協会からもらえるっていう」


「あぁ、そうだが。……その珍しげな顔。その感じ、どうやら君は遠い所から来たようだね」


「まぁ、そんなところだ。」


 それはもう、時間を超えて来たわけだから、遠いところではある。

 ただ、さすがに面識もない相手に「過去から来た」なんて言えないので、その事実は胸の奥にしまっておいた。


 魔導協会、錬金術連合のようなものか。どうやら、ローカルなものではなく、そこそこ規模が大きな組織らしい。

 魔法……謎が多い。俺のいない間に生まれた新たな技術。


「魔法とは――なんだ?」


「……むむ」


 少女が答えに窮する。


「シンプルだが、難しい質問だ。なんと答えればいいものなのか。君は、料理をする時、火をどうする? まさか、火打石で起こしたりはしないだろう?」


「錬金術で炎の元素を導いて元素反応によって、発火させる。まぁ、こんな感じに―――」


 炎の元素を集め、発火させる。

 その瞬間。


「なっ……!?」


 少女からただならぬ声が発せられ、何事かと思い見ると。

 少女の右手につけられていた小手から青い火花が飛び散っている。

 

「どうした!?」


「……いや、すまない。防御用の術式が誤作動した、らしい。高位の魔法にだけ反応するようにしていたはずなんだが」


 少女は、訝しげな表情小手をいじっている。

 どうやら、先程の火花は持ち主を守ろうと結界を発動しようとしたものだったらしい。

 それほど、強めに発動したつもりはなかったので、おそらく本人の言う通り誤作動なのだろうとは思うが。


「質問に戻らなくてはね。火のマナを呼び出して、反応させ発火させる。この一連の動きが『そもそも魔法』と呼ばれるもの、という説明が手っ取り早い。これで答えになっているだろうか?」


「……なるほど?」


 なるほど、先ほどのディーノスのことを考えれば、火のマナは火の元素と言い換えることはできる。

 基礎的な原理は変わらないと見るべきか。


「しかし、錬金術とは。ずいぶんと古めかしい言葉を使っているのだね。君の国は」


「ふ、古めかしい?」


「……すまない。きょうび錬金術という言葉を聞くのは歴史の授業か、おとぎ話くらいのものでね」


「錬金術がおとぎ話……? それは――」


「あっ、あの! すみませんッ!」


 突然、背後から大きな声が飛んできた。

 何事かと振り向くと、そこには息も絶え絶えといった調子の少女。


「こ、これ、出したくて……まだ、間に合い……ますか?」


 青みがかった薄い紫の色の髪――が、乱れてすごいことになってしまっている。


「あ、あぁ願書か。大丈夫、間に合うよ」


「すみません、助かります――。気がついたら、事務所が締まりそうな時間で――急いできて」


「事務所は明日もやってるから、日を改めても良かったのに。君は、真面目だね。ふふっ、乱れた髪を直しなさい」


 遅れてきた少女が触って髪を直すが、後ろの髪だけちょっとハネている。

 願書、入学願書か。


 ――ん? 願書……? 


 そういえば、俺はそんなもの持ってない、ぞ?


 しかし、願書がないと入学試験が受けられない。

 これは、かなりまずいんじゃなかろうか。


「すみません、こんなみっともない格好で」


「……後ろも少し」


「えっ、あっ、はい!」


 少女があわてて、後ろも直した。

 今度はしっかりと直っている。


「この願書は、あとで事務所の方に届けておくよ。お疲れ様。今日は帰ってゆっくりするといい」


「あっ、ありがとうございます……! で、では失礼いたします!」


 そういって、遅れてきた少女はどこかへと去っていった。

 なんだか、危なっかしいというか、なんというか。


 ――さて、俺はどうしたものかな。


「で、そういえば君も……おや、もうひとりはどこに?」


「え?」


 そういえば、さっきからエヴァの姿がない。

 やけに静かだなと思っていたが、どこに……?

 あたりを見回していると。


『申し訳ありません、忘れ物を取りに行っておりました』


 その声と共に死角現れるエヴァ。

 手に、なにか持っているようだが――。



『入学願書です。これで問題ないですか?』



 ――えっ?


「うん、内容に漏れもない。問題ないよ。君は、受験はしないのかな?」


『えぇ、家庭の方の事情もありますので……』


「そうか。大変な暮らしをしているらしい。兄を通わせるために、給仕の仕事に勤しむ妹、か。なんとも世知辛いね」


 どこからともなく出てきた入学願書にうろたえていると、勝手に家族模様が形成されていた。

 ……エヴァはそもそも、俺が作ったゴーレムで、そもそも給仕メイドではない。メイドの格好をフリをしているだけのなんちゃってメイドだ。

 しかし、上手いこと関係性を説明する自信がなかったので口をつぐむことにする。


「アルバール・フォンテスター。それが君の名前か」


「ん? あ、あぁ」


「――神と同じ名前とは、なかなか大それている」


「え?」


「いや、すまない。なんでもない」


 神と同じ名前……?

 アルバール・フォンテスターが?

 疑問に思っていると、少女が近づいてくる。


「君の目はいわゆる、物事を知ろうとする目だ。まっすぐとした、それでいて興味に爛々と輝く目だ」


 その金色の瞳が妖しくこちらを覗き込む。


「――君は普通ではないね。興味がある」


 ニッと制服の少女の口角が上がったかと思うと。


「ま、それじゃ。これを届けに行くとしよう。アルバール」


「……アルフでいい」


「では、アルフ。ああ、そうそう。私の名前はヴァイオラだ。一応覚えておいてくれると嬉しい。次に会う時は制服を着て話せることを願っているよ」


 そういってヴァイオラは校舎の方へ向かっていった。


 いろいろと不可解なことはある。

 おとぎ話とされた錬金術。神の名前。そして、魔法。

 知りたいこと、知らなければならないことは山ほどあるが。


 それよりもまず、一番に知りたいことは。


「エヴァ、あの願書はどこから湧いてきた?」


 いつの間にか現れたあの願書のことだった。


『それは――歩きがてらお話いたします』


 いたずらっぽい表情を浮かべるエヴァ。

 こうして、俺たちは学園を出ることにした。




最後に広告の下にある「☆☆☆☆☆」で応援よろしくお願いいたします……!

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