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レポート:この時代に根ざすもの


 空から見た時はちんまりとした町並みだと思っていたが、こうして実際に歩いて見ると建物同士の密度はそこそこ高く小さな町並みという感じもしない。

 一つ一つの建物は決して派手ではないが、こうして並んでいるとそこそこ様になっている。


 ……む。


 と、そこで足が止まる。目に入ったのは、一軒の家。

 石の煙突から黒い煙が伸び、窓の向こうからは、カン! と金属を打ち付ける音がする。

 そして扉の上にかかる看板には。


「バーゼット魔法工務店」


『マスター? ……あぁ、なるほど』


「ちょっと、見ていく」


 ……これは見ないわけにはいかない。

 吸い込まれるように、扉の取っ手に手をかけ、一気に開け放つ。



 ――これは、あぁ。


 棚の上に陳列された器械(マテリアル)の数々。

 小さな店だからか、数はそれほど多くはないが、この空気は同じだ。


 俺はマテリアルショップが大好きだった。

 並んだ商品にいったいどんな錬金術が使われているのか、ああでもないこうでもないと考えて、思考する時間が好きなのだ。


「見たこともない器械(マテリアル)ばかりだ……」


 商品棚に吸いよせらせていく。

 色とりどりの宝石がはめ込められた器械たち。

 仮面のような形をしたもの、本のような形をしたもの、天秤のような形をしたもの……。

 と、そこで気づいてしまった。


「――この宝石、もしかして元素結晶か?」


『そのようです』


 元素結晶とは自然界で特定条件下で結晶化した元素のことである。

 透き通った色ガラスのような外見は、見た目にはとても綺麗だが、不純物を大きく含んでおり、導力にするにはあまりに効率が悪い。

 一度、分解して純度の高い元素に抽出して再生成してやっとスタート時点、という感じだ。


 物心ついたころにはこういった元素結晶でよく工作して遊んだものだが……。

 それが、まさか店に並んでいるとは。


「よく、売り物になるな……これで」


 未来らしかぬ原始的な品にさすがに眉をひそめる。

 値段は、7000シルヴと書いてある。この時代の相場がどれほどのものかはわからないのが予想以上の桁の多さに驚いてしまった。

 これくらい、その辺からパーツ拾って適当にくっつければできるのだから、値段は二桁程度低くても良いように思う。

 まぁ、7000シルヴというのは皆ポンポンと出すような金額なのかもしれないが。


「おお、いらっしゃい。変わった格好してるね、遠くから来たのかい?」


「ん? あ、あぁ」


 しげしげと眺めていると後ろから低い声が聞こえてきた。

 煤まみれの壮年の男が、カウンターに立っている。


「気に入った魔道具があったら、試してもいいぞ」


 魔道具……? 

 この時代では、器械をそう呼ぶのか。魔法に変わったのだから、それくらい違いがあってもなんら不思議ではないが……。


「なぁ、魔道具はここにあるのが全部か?」


「へへっ、坊主良いタイミングだったな。ほれ、コイツを見ろ」


 そういって、店主であろう男は奥から剣を持ち出してきた。


「コイツは、良質なミスリルソードだ。そしてほれ、このでっけえ炎の魔晶石! コイツを手に入れるのには苦労したんだぜぇ?」


「魔晶石……」


 ここではそう呼ぶらしい。


「ああ、向こうの大陸で取れた一級品さ。たまたま流れ込んでてな。本当にラッキーだった!」


 柄の部分には、こぶし大の炎の元素結晶がはめ込まれている。

 ……たしかに大きいが、こんなに大きいものだとくっつけるのにも苦労するだろうに。

 それにこの程度の大きさではな。大体、元素結晶ではあまり喜べるものも喜べないと言うか。


 だが、この店主がこれだけ息を荒げるのだから、一応触らせてもらうだけもらうのはアリかもしれない。


『試すのですか?』


「あぁ、気になる。その剣、触らせてもらっていいか?」


「お! お前、炎適正か。坊主は、本当に何から何までラッキーだな。じゃ、ほれ」


 店主が物欲しげに手を出してくる。

 ……何の手だ? これ?


「いや、まだ買うかはどうかは……」


「あ? バッカ、階級章だよ。一応、これだけグレードが高いとな、七級くらいないと不安なんだよ」


「階級章ってもしかして……あのバッジのことか?」


「まぁ、そうさな。まぁ、別にあれ以外でも階級を示せれば問題ねぇけど」


 エヴァと顔を見合わせる。

 エヴァは小さく首を振ってみせる。当然ではあるが。


「その、言いにくいんだが、持ってない」


 そう言うなり店主の顔色が一気に変わる。


「……なんだよ、冷やかしか。期待して損した」


「この国では、あれか? その階級章が、基準になっているのか?」


 恥を忍んで聞いてみる。

 転生した都合、持っているはずもない俺に何の落ち度もないのはたしかだが、まぁ郷に入っては郷に従え、ということにしておく。

 

「……お前、本当にどこから来たんだ? 階級章で見るのはもうほとんどの国がそうだろ。階級章ないと魔法関係なんかほぼアウトだぞ」


 階級社会。

 しかも、多くの国が同じ基準にしていると?

 時代が――時代が変わっている。言葉だけではない、仕組みも。

 魔法は、少なくとも俺の時代に通ずるものがあったとはいえ、この仕組みは知らない。

 ……本当に、どれだけの時間が経ったんだ?


「お前、本当に何も知らないって顔してるな。……仕方ねぇ、知らないようじゃイジメられるだろうから、教えてやる」


「あ、ありがとう。……イジめられる、か」


 これほどわかりやすい表現もないな。


「階級章っていうのは、魔導協会が制定した魔導師としての質を文字通り階級に分けたもんだ。一級から十級の十段階で分けられてる」


「そんなにあるのか」


「とりあえず、雑に分類するとこうだ。

十級から九級は、悪いこと言わんから魔法はやめとけ。

八級から七級は、そこそこできるやつらだ。

六級から五級は、エリートだ。頭を下げろ。

四級から三級は、化け物だ、絶対に手を出すな!

二級から一級は神だ。姿を見たらまず跪け!」


「……なるほど」


 ディーノスはエリートということらしい。

 五級がエリート……あれでか?


「なぁ、五級ってそんなにすごいのか? さっき街で五級のディーノスとかいう男を見たんだが……」


「お、おまえっ! 様をつけろ、様を! ディーノス様は五級魔導師でらっしゃる! お前ごときが勝てる相手じゃないぞ!」


「はぁ」


 信じがたい。

 悪いがアレにやられる未来は想像できないな……。

 うーん、どういう基準なんだ? 魔導師の質を測る方法に問題があるように思えるが……。


「しかもアレは厄介なことに、魔導協会本部から来てらっしゃるからな……。横暴なのはたしかだが、うん」


「まぁ、なんとなくわかった。ところで、その階級章を手に入れるにはどうすればいいんだ?」


「年に何回か、魔導協会監修のもと、大々的に試験が行われる。それを受験すりゃいい。近いやつだと……学園の入試と提携してるやつだな」


「入試と提携しているというと、もしかして入学試験さえすれば、階級章がもらえるということか?」


「そうだな。坊主が受験するかどうかは知らんがな。パルトゥクスは昔から魔導協会と提携してる。受験費も驚きのタダよ」


「タダ! それはいいな!」


 これはありがたい。昔の通貨が使えるかどうかも定かでない今、金を使わずに受けられるというのは実にありがたい。

 これはいい情報だ、この店に来て一番の収穫といえる。


「その学院……とやらはどこにあるんだ?」


「パルトゥクス学院? どこも、何も……ちょいと道に出て視線を上げりゃ見えんだろ」


「……時計塔?」


「そう。アレぜーんぶ学院だ。アレを目印にすりゃ迷うことねぇだろ」


 そうか、飛行してる時に見えたアレが……。


「なるほど、ありがとう。助かった」


「今度来る時は、ぜひウチの商品買ってけよな」


「まぁ、また来る機会があったら。エヴァ、行こう」


『はい。お邪魔しました』


 エヴァが店主にペコリとお礼をする。


 店を出て、視線を上げてみると。なるほど、たしかに時計塔が見える。


 階級章はもとより、学院というのも興味がある。

 この時代にはどんな常識や技術があって、どんな歴史をたどってきたのか?


 それに答えるのが学校というものなのだから。


「行くぞ、エヴァ。向かうのは、あの時計塔。――学院だ!」


 高くそびえる時計塔を目印に、俺たちは学院へと向かうのだった。




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