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なくしたくないもの

作者: アニィ
掲載日:2020/10/13


 目が覚めた。妻がいた。


「もう、髭も伸びっぱなしじゃない。髪……は、うん。薄い。今日はお休み? でももう、そろそろ起きないとね」


 瞳を刺す眩い日差しと、子供をあやすような妻の笑顔。お昼か……ちょっと眠りすぎていたようだ。

 寝ぼけた頭が、まだ覚醒しきっていない。


「……なんでいるの?」


 だからか。素っ頓狂な声が出ていた。

 きっと表情も、今までにないくらいおとぼけていたのだろう。


 妻は少しだけ笑うと、


「妻がいちゃいけない理由、ありますか?」


「……いや、ないな」


 確かに。夫婦が同じ家に住み、寝坊助を起こす。この日常は特別ではなく、珍しくもなく、ありふれたワンシーンでしかない。


 妻の正論でようやく脳みそが動き始めた。Tシャツにトランクスなんておっさんスタイルで寝呆けていた俺に、妻が着替えを選ぶ。楽しそうに選ばれた服は、まるで恋人とデートにでも出かけるかのような、持ち合わせ限界ギリギリの時間まで考えられたオシャレなコーディネートだ。


「映画に行きましょう」


 そして、唐突に。

 妻に提案される。


「行きたかったんだよね、映画。ほら、これ観ない?」


 スマホで最寄りの映画館の上映スケジュールを表示し、少女漫画原作の実写映画を所望する。

 正直に言ってしまうと、俺自身は少女漫画に興味はない。ただ、たまたま目にしたドラマや映画の原作が少女漫画だった経験はあり、そう考えると捨てたものではないのではと考えを改め始めている。


「ま、俺はなんでもいいが」


 そういえば。妻は出会った時から、少女漫画が好きだったっけ。妻のオススメの漫画を俺は照れくささを理由に読まず、逆に俺のオススメを妻は楽しそうに読んでくれた。

 おもしろかった、と。続きを貸してくれ、と。


 高校でひとめぼれして、もう何年も妻一筋だ……なんて。改めて思うと、こっ恥ずかしいことこの上ない。

 ついぞ、妻のオススメの少女漫画は読まなかったんだったっけ。なんてタイトルだったかも思い出せない。


「奢りね!」


「なんでそうな……まぁ、そうなるか」


「ね。ありがと、愛してるよあなた」


「都合のいい口だこと」


 いつの世も、アッシー君とメッシー君が蔓延る。

 とまでは言わないが、男性の役割はさほど大きく変化していないと俺は思っている。愛する人のためだ、出せる限りは奢ってやりたいなんてちっちゃなプライドだってある。

 男女差別ではない。区別、役割分担。


 見栄っ張りな男と、それを立ててくれる妻。

 両者ともに、ただそれは自分のためと、愛する相手のために。それを差別だなんて揶揄されてはたまったものではない。……と、なんだか柄にもないことを考えているな。


「化粧はいいのか?」


「えー、しなきゃブサイクって言いたいの? 傷つくなぁ」


「お前がいいならいいんだけどさ」


 別に、すっぴんでもブサイクだなんて思わない。ちょっと幼気だけど、十二分に可愛い。どんな妻でも、俺は生涯愛し続けるだろう。

 ただ、化粧は女性の身だしなみだとも言う。服を着るようなものだと言う。ならば俺はともかく、妻自身が化粧をしたいのではないか。女性の気持ちはわからないが、そう思っただけだった。


「……なんて、ね。ナチュラルメイクだけどちゃんと最低限はしてるんだなこれが。妻の顔の変化くらい、ちゃんと気づいてください!」


「……長いこと、ちゃんと見てなかったし」


「見たくなくてなら傷つくけど、見てたら照れるからって理由なら許してあげましょう」


「……後者で」


「はい、許しました! あ、もう上映時間きちゃう。早く行こ?」


 なんだか上機嫌な妻に急かされ、財布とスマホだけジーンズのポケットにねじ込んで俺は家を出た。

 夏の日差しが痛いくらいに降り注ぐ。今日は猛暑日らしい。



  ******



「本日は丸一日、私に付き合ってもらいます」


 車を出してすぐ、助手席の妻は言った。


「と言っても、あなたがねぼすけなおかげで半日しかないけどね」


「悪かったよ。今日の支払いは俺が持つから」


「無論、そのつもりです! ……うそうそ、冗談。そんなに気にしないでね、そもそも約束してたわけではないんだし」


 財布にいくら入っていたか。

 後でこっそり、ATMに寄ろう。


「あー、上映時間に間に合わなかった……次は2時間後だってさ」


 少し道が混んでいたおかげで、予定していた時間に到着できなかった。

 だがちょうどいい。寝起きですぐに引っ張り出された身としては、昼食のひとつも取りたいところで。


「じゃあ、あの洋食屋さんでいいんじゃない? 評判は知らないけど」


 隣接したいくつかの店舗から、妻が指定する。

 特に文句もない。ひとまず、次の上映のチケットだけ購入して、店に向かう。昼時で混んでいたが、少しの待ち時間で席に案内された。


 オーダーし、食事を待つ。

 家族や友人、恋人たちが各々の話題で談笑する中、俺達は静かに料理に舌鼓をうった。想像していたよりもずっと美味しい料理が出て、驚いたのかもしれない。


「まだ時間あるし、服でも見ていかない?」


 と、妻が提案する。女性は服を欲しがるものだな、なんてつくづく思う。

 どうしてそんなにも服が必要なのだろう?

 普段着に2着。外出用に1着。仕事着とその着替え、正装。精々6着もあれば十分ではないだろうか。


 服が増えれば場所も取るし、いざ着る際のコーディネートにだって時間を浪費する。

 なにより、布切れにかける人件費なのか素材なのか、やたらと高いものが多い。これがネックだ。


 なんて、興味なさげな表情が妻にバレたのだろうか。


「あなたのためです! さっきクローゼット見たけど、ろくな服がなかったじゃない。しかも乱雑に収納されたままだったし……」


「えぇ!?」


 まさか俺のためだなんて思いもよらず、意外そうな表情をしてしまったのかため息をつかれる。

 服なんてもう何年も買っていない。流行りに興味ないし、ある服で十分だったから。


 結局、何着かの服を買わされた。

 一度車に戻って荷物を置く頃にはちょうどいい頃合いになっていたので、飲み物と軽食を手に俺達は映画を嗜んだ。




 映画の内容は、少女漫画原作でありながら『命』がテーマになった群像劇だった。

 3人の主人公とその大切な人。亡くしてしまった命、亡くなりそうな命、守りたい命。三者三様に厳しい境遇に置かれ、けれど何を考えて何を得るために生きるのか。


「いろいろ、考えさせられる話だったね」


 映画館をあとにして、車内。

 少しだけ瞳を潤ませながら、妻は言った。


「……あぁ」


 雰囲気に飲まれているのか、やや淡白な返事をしてしまう。


「原作は、読んだことあるのか?」


「……うん。当時はただいい話だなー、泣けるなー、って思ってただけだったけど、やっぱり大人になって観ると感性も考え方も変わってくるもんだね」


「昔はピーマンが嫌いだったんだ。ベタだけど。でも今は食べられる。成長って、そういうものなのだろう」


「感動の話をピーマンの話にすり替えちゃう? 相変わらずですねぇ」


 いい例えが思い浮かばなかったんだ。俺は小説家でも漫画家でもない。気の利いたセリフひとつ、言えやしない。

 助手席で笑う妻を不満そうに一瞥すると、追加でもう一度笑われた。


「夕飯はパスタです」


「また唐突だな」


「さっき行き過ぎたから。Uターンして」


「また横暴だな……」


 今の俺は言われるがまま。

 特に文句もないし、要望に沿うとしましょうか。……妻の敬語癖が移ったかな。


「さてここで問題です! 私の好きなパスタはなんでしょう!」


 店に入り席に着くなり、唐突なクイズタイム。

 なんだっけ……と悩むこと数秒。


「カルボナーラ」


 と端的に口にした。


「さっすが私の旦那。よく出来ました」


 なぜか得意気に胸を張る妻に、肩をすくめて答えた。

 無難で有名な好みで助かったよ、ほんと。



  ******



 時刻は20時を経過した。三度、車内。

 そろそろ帰宅しようかと考えたが、念のため妻に確認してみたところ。


「ふふふ、きっと聞いてくれると思ったよ。まだ『丸一日』は終わってないからね。…………最後に、行きたいところがあるんだ」


「あんまり遠いところへは行けないぞ。明日は仕事なんだ、体調に響く」


「サービス業の店長さんは辛いねー。休みは少ないし、仕事量は多いしストレスも溜まりそう」


「おまけに、給料も安い。ただもう、いまさら転職するにも年齢がネックだからな。安月給でもやっていけてるんだ、必要ないだろうし」


「必要……そうだね、必要、ないよね」


 歯切れが悪い。

 なにか思うところがあるのだろうが、こちらから言及するのも気が引ける。そういえばどこか、元気もなくなってきているようだ。


「ほれ、どこ行きたいんだ? この際だ、どこへでも連れて行ってやる」


「おおー、たまに男らしい。いいの? 仕事に差し支えても」


「気合いでなんとかしてやるさ。数年ぶりのオールだってしてもいい」


 他ならぬ最愛の妻のためだ。男ってのは、そういうもんだろ?

 それに。


「……俺だって、楽しいし帰りたくないんだよ」


 ぼそっと漏らした似合わない言葉は、聞こえてないのか聞かなかったのか。

 妻は何も言わなかった。


「星見丘展望台公園。覚えてる? 付き合い始めの頃、それと……」


 それと。

 妻は言葉を飲み込んだ。俺は何も、言えなかった。


「行ったじゃないですか。街中から外れてて、最低限の明かりしかなくて。絶好の天体観測スポットだって、あなたが教えてくれて」


「ああ、そうだ。このあたりで、あの公園ほど星がキレイに見える場所はない。断言できる。……行こう。そんなに遠くもないし、まだ間に合う」


 言うが早いか、ウインカーをカッチンカッチンと鳴らしながら、目的地に向けて車は右折した。

 街を外れ、やや細い道を通り、ぐんぐん進む。舗装されていない、デコボコ道で揺られる道中での会話はほとんどない。

 無言でも居心地がいい、どれだけ道が荒れていようと、行く先に壁があろうと、彼女となら一緒に過ごしていける。乗り越えていける。それが俺と妻が結婚した最たる理由だった。


 ……いや、誤魔化すのはやめよう。


 わかっていたんだ。察していた。理解していた。

 けれど、縋っていたくなったんだ。


 言葉を出せない自分が情けない。

 楽しく終わろう、そう決意したのに。


 公園に到着した時、涙はこぼれ落ちる寸前だった。



  ******



「晴れててよかったですねー。ほら見て、夏の大三角!」


 しん……と静まり返った公園に二人。

 狙いすましたかのように、他には誰もいない。


 眼下に見える街の明かりも、ここまでは届かなくて。

 見上げた星空の数多の光は、こんなにも儚くて。


 思わず握ろうとした妻の手を、だけど握れなかった。


「デネブ、アルタイル、ベガ。織姫と彦星。うんちくは……控えておこう」


「私はあなたのうんちく聞くの、好きだったけどな」


「……そう言ってもらえると、嬉しくはあるが」


 でも、もう時間がない。

 23時。夏の大三角も、徐々に姿を消す。


「……ねぇ」


 妻が短く、呼びかける。


「あなたなら……もしも、あなたならどうしますか?」


「何をだ?」


「映画の話。私なら大切な人を亡くしてしまったらどうだろうって、ずっと考えてたんだ」


「…………」


 俺は無言で、話を促す。

 ぽつりぽつりと、言葉を選ぶように妻は語った。


「世の中は理不尽です」


「不条理に満ち溢れています」


 その通りだ。認めたくない、苦しい現実と辛い過去。

 想像する未来は、明るいものばかりではない。


「重たい病気が発覚することもあるだろうし」


「災害に遭ってしまうかもしれない」


「通り魔に襲われたり」


「事故に巻き込まれたりするかもしれない」


「でも一秒、一秒がものすごく貴重だなんて、普段は気が付かないんだよね」


「失って……失ってから、やっと気が付く」


 当たり前のことは、当たり前のうちはわからない。

 喪失してようやく、自覚する。わかっていても、わからない。


「理不尽……本当に理不尽ですよね。不意な事故で、愛する伴侶を亡くして」


 辛いよ。


「日々を、無気力に送って」


 気力なんて湧くはずもなく。


「新しい相棒も見つけなくて」


 彼女以外、考えられるはずもなく。


「ひげを伸ばして。服も買わなくて。休みの日は昼まで寝てて」


 自分なんて、どうでもよくて。


「安月給の使いみちすら無くして。でも生きるしかなくて」


 彼女と使いたかった。共に使って生きたかった。


「織姫と彦星は、ずるい。心から羨ましい」


「そんな日々を送る最愛の人に、1年に1回すら会うことが出来ない」


「会うことが、許されないのに」


「でも、一度だけ。きっとこの一度だけ、神様がくれた奇跡に私は縋ろうと思います」


「ねぇ、あなた。私が言えることじゃないけど」


 ……ああ。


「あなたなら、どうしますか?」


「あなたは、どうしてきましたか?」


 泣いていた。

 妻も、自分も。

 必死に絞り出す声に、耐えきれなくなって。

 抱きしめようとして、抱きしめられなくて。


 ぬくもりを、感じることが出来なくて。

 生きている鼓動を、離さずにいられなくて。

 生きていたい感情を、受け止めてあげられなくて。


 縋りたい。妻を、抱きしめたい。

 永遠に。いつか死ぬまで、永遠に。


「最愛の人を、亡くした俺が」


「私という存在を、亡くしたあなたは」


 これから、どうするべきなのか。


 23時30分。

 もう、時間がない。


「…………不安に、させちまったんだな」


「…………それはそれは、もう。安心して天国を楽しむことすら出来ないくらいに。見てられなかったんだもん、空虚になっていくあなたの姿を」


 空気を変えようと、おどけてみせてくれる。

 妻の気遣いが、沁み渡る。


「正直に言うと、愛する人を亡くしてどうするか、答えは出ない。あの日……新婚の頃、初めてここに訪れようとして、少しでもタイミングがずれていたらなって。そんな後悔と反省ばかりが反芻してる」


 付き合い始めの頃に来た、想い出のこの場所。

 夫婦となって、新たに歩みだす記念に、再び星を見に来ようとして。


 その往路だった。

 赤信号を無視した車が、俺の運転する車に衝突した。助手席側だった。


 運悪く俺だけが軽症で済み、妻は重体に陥った。三日三晩、生死の境を彷徨った。

 妻は頑張った。きっと、ものすごく頑張ってくれた。一晩ももたないかもしれない、そんな可能性だってあったのに。


 でも、逝ってしまった。医師の努力も、俺や俺の家族、妻の家族。みんなの祈りは虚しく、霧散した。


「きっとあなたは、自分を責めてると思った。でもあれは事故。理不尽で許しがたい、事故なんだよ。あなたは悪くないって…………何度言っても、きっと納得してくれないと思うけど」


「お前ならそう言うだろうと思ってた。でも、そうだ。納得なんか、出来ない。出来るはずがない。あの日、俺がおまえを誘わなければ。俺がもし、交差点に入る前に信号を無視しそうなあの車に気がついていれば。そんなことばかり考えてしまうのは、どうしようもない」


「……ですね。もし私でも、きっと。きっと同じことを考えます。……じゃあさ、ひとつ。ひとつだけ、約束しよ」


 23時50分。


「楽しく生きて。あなたがしたくないことはしなくていい。嫌なことは嫌だでいい。ピーマンだって、無理に食べなくたっていい。……けど、楽しく生きてほしい」


 23時51分。


「そんな、お前がいない人生なんて……!」


 23時52分。


「ありがと。うれしい。でも、それが罰だって思ってさ、なんとかお願いできないかな」


 23時53分。


「こんな……こんな俺に、最後までお前は……」


 23時54分。


「私は、あなたの妻ですから。あなたのことを考えて生きて、そして今でもあなたのことを考えている」


 23時55分。


「泣かないで。私も、泣いちゃうから。泣いちゃうときっと、あなたの後悔を拭えないから。それなのにあなたは私の涙を拭おうとするから」


 23時56分。


「これからだって、思ってたんだぞ。これからずっと一緒に過ごして、笑って、泣いて、喧嘩して、子供が生まれて、家庭を築いて……幸せで輝いている未来を、迎えたかった」


 23時57分。


「……それはきっと、すごく、すごく楽しかっただろうなぁ。でもそんな風に言ってもらえて、奇跡に導かれて話をする機会を与えられて、私は満足だよ」


 23時58分。


「出来ねぇよ……理不尽を受け入れることなんて、絶対に出来ない。満足なんかじゃない。もっと、もっと何分も何時間も何日も何年でもお前と一緒にいたい! けど、お前の望みを……得難いこの奇跡を無駄にはしたくない……だから……!」


 23時59分。


「……お別れの時間、きちゃった。お願い、伝えたから。……よろしくね」


 妻の身体が透けて。


「愛してます。ずっと、あなたを愛してますから」


 今日が、終わる。


「俺だって! 俺だって愛してる! おまえよりもずっと、でっけぇ愛だ!! 見ててくれ……天国よりも羨ましくなるくらい、楽しんでやるからな!!」


 一瞬、笑顔が見えた気がした。


 00時00分。


 涙だけが、残った。


 ***


 朝だ。

 鳴り響くアラームの音。カーテンから差し込む日差し。


 いつの間に帰ったのか。

 どうやって帰ったのか。

 いつの間に寝たのか。

 覚えていない。


 昨日1日、俺が体験した不思議な出来事。

 目が覚めるとそこには、亡くなったはずの妻がいて。

 あの時と変わらず、屈託のない笑顔で俺を連れ回した。


 そりゃあ驚いた。一瞬だけ、思考が停止した。

 けど、何かの奇跡だって。本能が思いたかったのだろう。


 たとえ俺の妄想だとしても、別にいいって。

 そう思いたかったのだろう。


 35歳にもなって、何を馬鹿な与太話をしているのかって鼻で笑われるな。

 だからこそ俺は、この奇跡を胸にしまい、自分だけの想い出として大切に保存しておきたい。


 ひげを剃った。身なりを整えた。

 愛する妻の夫だったことを誇りに思うため。


 扉を開ける。

 せめて、伝えるために。


 なくしたくないものをなくさないために。

 まもりたいものをまもるために。


 失って初めて実感する、尊い宝物を、少しでも多く伝えていこう。

 これから寿命が尽きるまで、『楽しい』を謳歌して『楽しい』を伝播していこう。


 そうだ、昨日見た映画の原作を買ってこよう。妻と使いたかったお金で、大人買いで。


 高校生の頃。妻が俺に勧めて、でも読まなかったあの漫画を。

 大切な人の死を描いた、悲しい物語を。


 もう、目が覚めても君はいないから。

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