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8.ひと時の癒し

 イシリアーナのお陰で、晴れてマリアンヌと友人になれたエリアテールは、翌日の午前中はファルモと婚約披露宴の準備に、午後からはマリアンヌと過ごすようになった。


 そんな中、初めの三日間はイクレイオスが多忙な為、マリアンヌと水入らずで過ごせたエリアテール。その際に同じロマンス小説を愛読していたり、お互い甘いものに目が無かったり、幼少期は同世代の子供と遊べる機会が少なかった境遇だったりと、かなりの共通点から、すぐに意気投合してしまう。


 そんな状況だった為、やっと手が空いたイクレイオスが顔を出す頃には二人はすっかり仲良くなっていた。そしてそれ以降は、イクレイオスも交えて三人でお茶をする様になる。


「マリアンヌ嬢は水の上位精霊でも男性の姿の者から、加護を得たのですね?」


 イクレイオスが話しかけると、相変わらず愛らしい仕草でマリアンヌが答える。


「そうなのです。とてもお美しい方でした……」

「上位精霊様方は、わたくし達と人とあまりかわらぬお姿なのですよね? ならばもし飛びぬけて美しい方に声を掛けられたら、それは上位精霊様かもしれませんね……」

「お前は上位精霊の前に下級、中級精霊に会う事が先決だろう?」


 マリアンヌの言葉から上位精霊に思いを馳せたエリアテールだったが、呆れ顔のイクレイオスから鋭いツッコミを受けてしまい、苦笑しながら誤魔化そうとした。

 そんなエリアテールに一瞬だけイクレイオスは呆れつつも更にマリアンヌとの会話を続ける。その様子を見ていたエリアテールは、ふとある事に気付いた。そういえばイクレイオスが自分以外の令嬢と話す姿を初めて見たと。


 エリアテールがよく知っているイクレイオスは、いつも城内で忙しそうに執務をこなしている様子が殆どだ。

 だが国主催の夜会等にはイクレイオスも必ず参加しているので、そういう時が今の状態なのだろう。しかしエリアテールは夜会等の社交関係に参加していないので、その時のイクレイオスの姿を知らない。

 そんなイクレイオスは、エリアテールとは幼少期からの付き合いなので、いつも口調がぶっきらぼうで態度は俺様気質でもあり、ツッコミも容赦なく入れてくる。


 しかしマリアンヌに対してのイクレイオスは、公の場で振舞うような見事な紳士ぶりで接し方をしている。お茶のおかわりを気遣ったり、マリアンヌが会話に混ざりやすいようになるべく共通の話題を振ったり……。

 精霊の加護が得られない自分の婚約者の為に来てくれた伯爵令嬢をしっかりもてなしてくれるイクレイオスの姿は、エリアテールにはとても新鮮だった。


 中でも特に興味を引いたところは、マリアンヌに対しては常に気遣いある話し方なのに相手がエリアテールに変わると、いつものイクレイオスの口調に戻る事だ。それを器用に使い分けている様子が面白くて、こっそり笑いを堪えていたエリアテールだったが……。


「なんだ?」


 すぐにイクレイオスに気付かれてしまい、不信そうな視線を向けられてしまう。


「いえ……その……」

「全く! 何をニヤけているのだ……。無作法だぞ?」

「も、申し訳ございません」


 そう謝りつつもエリアテールの笑いはますます込み上げて来てしまい、イクレイオスは更に怪訝そうな表情を深める。そんな二人のやりとりにマリアンヌが、不思議そうな表情を浮かべた。その表情がまた何とも愛らしくて「ふふっ……」と、ついに忍び笑いが漏れる。

 しかし、そんなエリアテールの忍び笑いをイクレイオスは見逃さなかった。


「だからお前は、何故そうすぐに腑抜けた顔になる!」


 そう言って、いきなりエリアテールの片頬を引っ張るようにつねり出す。


「いひゃい! いひゃいれふ!」

「締まりのない顔をしているお前が悪い!」

「イ、イクレイオス様!? 流石にそれはエリア様がお気の毒では……?」

「お気になさらず。幼少期からの事なので」


 そしてイクレイオスは、慣れた手つきでエリアテールの頬から手を放した。そんなイクレイオスを恨めしそうに涙目でジッと見返すエリアテールが、優しく自分の片頬をさすり出す。

 すると今度はマリアンヌの方が吹き出してしまった。


「お二人は、大変仲がよろしいのですね」

「とんでもない! ただの腐れ縁です」


 そんな言葉を交わす二人を見たエリアテールは、頬の痛みからこの状況が夢ではないと実感する。作り物のように整った顔立ちのイクレイオスと繊細な美しさを放つ愛らしいマリアンヌ。

 まるでロマンス小説から飛び出して来たような素敵な容姿の二人に今、自分は囲まれている。しかも自分もその中に交じり、楽しくお茶を楽しんでいるのだ。


 友人と楽しく過ごす事に飢えていたエリアテールだが、それ以上の素敵な状況が舞い込んで来た事にすっかり浮かれてしまう。まるで自分が夢物語の中に迷い込んでしまったかの様に……。目の前ではその素敵な二人が、優雅に言葉を交わしているのだ。


 そんな光景を間近で見られる事は、もやはエリアテールにとって眼福以外の何物でもない。

 ここ二か月近く、精霊の姿を見る事が出来ずに心を痛めていたエリアテールにとって、この状況はかなりの癒しとなっていた。

 そしてその嬉しさからか、思わず忍び笑いをまた漏らしてしまう。


「ふふ……ふふふ……」

「なんだ……まだ足りなかったか?」


 刺すような視線を送りながらイクレイオスは片手を軽く上げ、手で何かをつまむ動作をエリアテールにしてみせる。その仕草を見たエリアテールは、焦りながら首を大きく振った。


「いえいえ! もう充分反省しておりますので!」


 そんなエリアテールを疑わしげな目つきを向けるイクレイオスのやり取りを見たマリアンヌは、またしても笑いをこぼす。

 そんな楽しい一週間を過ごすと、婚約披露宴まであと一カ月と差し迫っていた。

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