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風巫女と精霊の国  作者: もも野はち助
【番外編】

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43/48

英雄の歌声

婚約披露宴から一ヶ月後くらいのお話です。

本編12話と29話に出てきた『精霊大戦終歌』についてのエピソードになります。

主に風の精霊王がメインの話です。

 風巫女の為に設けられた風呼びの儀を行う為のバルコニー。

 婚約披露宴後、久しぶりにこのバルコニーのベンチで、ゆったりとした時間を過ごしに来たエリアテール。


 今から四カ月前のエリアテールには、この場所は避難所のような存在だった。

 精霊の泉の洗礼を受けたにも関わらず、一向に加護が得られず……。

 呪いの影響で、急に態度が豹変したイクレイオスから初めて受けた拒絶……。

 その間、エリアテールはこの国に来て初めて、悩んだり、傷ついたりする事を、かなり経験した。

 その時、この場所はいつもエリアテールを迎えてくれて、そして穏やかな一人の時間を与えてくれる……そんな場所だった。


 しかし今のエリアテールにとって、以前の様にこの場所を避難所として使うような状況は、ほぼない。


 地の精霊王が受けたお告げの『精霊王より祝福を受け国に繁栄をもたらす乙女』は、最終的には自分の事だった。それが判明してからは、イクレイオスの婚約者として自分は相応しくないという気持ちは、キレイさっぱり無くなった。

 更にイクレイオスの気持ちを認識してからは、自分は必要とされていた存在という自信も持てた。

 ずっと姿を見せてくれなかった下級中級精霊達は、今では自分が外に出ただけで、慕う様に集まって来てくれる。


 四カ月前にエリアテールが抱えていた不安や悩みは、今ではすっかり消え去ってしまっている。だから、この場所に救いを求める状況が現在では、ほぼない。


 それとは別に今まで免除されていた社交関係の付き合いが増えたり、イクレイオスとの婚礼の準備が徐々に始まり出したりと、多忙だった理由から、このバルコニーでゆっくりするという考えが、なかなか生まれなかった。


 しかし今朝方、風の精霊達に歌を捧げる為、風呼びの儀を行った際、このバルコニーのベンチがふと目に入った。

 そして四カ月前……そこで気持ちを整理したり、大泣きしてしまった自分を思い出す。つい最近の出来事なのに、急に懐かしさを感じたエリアテールは、午後に再び、このバルコニーを訪れたのだ。


 婚約披露宴後は、何かとイクレイオスと一緒に過ごす事が多かったエリアテールだが、今は久しぶりの一人の時間を満喫している。

 イクレイオスには申し訳ないと思いつつも……。


 それを堪能するかの様にベンチに座ったまま、そっと瞳を閉じると優しい風がエリアテールの頬を撫でた。

 その心地よい感覚を満喫していたエリアテールだが……。

 以前にも同じようにこの優しい風を感じた事を思い出し、そっと瞳を開く。


「風巫女よ、以前よりも更に穏やかな表情をする様になったではないか」

「やはり風の精霊王様でしたか……」


 そこにはもうお馴染みのいたずらっぽい表情を浮かべている風の精霊王が、目の前に立っていた。礼を取る為、ベンチから立ち上がろうとするエリアテールを、精霊王は片手で制する。

 そして隣にドサッと腰を下ろし、背もたれに両腕を掛け、足を組む。


「今日はあの間抜けな王太子は、一緒ではないのだな?」


 すっかり定着してしまった風の精霊王のイクレイオスの呼び方に、エリアテールが苦笑する。


「精霊王様……その様なおっしゃりようは、その……」

「ならば、腑抜けの王太子の方がよいか? 最近のあやつは、そなたを手中に収められる事が確定し、かなり浮かれておるようだからな」


 精霊王の言葉にエリアテールが、やや腑に落ちない表情を浮かべる。

 婚約披露宴後、イクレイオスと一緒に時間を過ごす事は、以前以上にかなり増えたが……浮かれているような様子は、あまり見受けられない。

 そもそもプラスの感情が分かりにくいイクレイオスが、浮かれているという状態をこの11年間、エリアテールはあまり見た事がない……。


「浮かれて……いらっしゃいますかね……?」

「あれは確実に浮かれているだろう。そうでなければ、そなたはあの王太子にやたらと密着されたりなど、されぬはずだと思うが?」 


 呆れながら語る精霊王に、エリアテールが見る見ると赤くなる。


「ち、違うのです! 確かに……その、イクレイオス様のわたくしに対する距離感は、ここ最近かなり近くなられましたが……。み、密着というまでは……」

「だがここ最近のあの王太子は、よくそなたの膝の上で、無駄に惰眠を貪っておるではないか。あれは密着ではないのか?」

「な、何故、精霊王様がその事をご存知なのですかっ!?」

「たまたま上空を移動していた際、窓から見えたのだが?」


 そう言われたエリアテールは、耳まで真っ赤になって両手で顔を覆ってしまう。

 確かに婚約披露宴後のイクレイオスは、お茶の時間にひょっこり現れては人払いをし、何かにつけて「疲れたから膝を貸せ」と要求してくる様になったが……。

 最近、その感覚が麻痺していたエリアテールは、何の疑問も持たずに少しでもイクレイオスの疲れが取れればと、快く膝を提供していた。


 だがよくよく考えると、以前のイクレイオスは、そんな事を言わなかった。

 言い出す様になったのは、自身の気持ちをエリアテールに伝えた以降からだ。

 その事を考えると、以前イクレイオスに言われた『もう友人としての境界線を死守する義務は無い』という言葉が、脳裏に蘇ってくる……。


「風巫女よ……我は忠告したはずだぞ? この先、あの王太子と添い遂げるつもりならば、食いつくされぬ様に覚悟しておけと……。でなければ、そなたは早々に我の与えた風の力に頼る事になるぞ?」

「イ、イクレイオス様に限って、その様な事は……!」


 そう言いかけるも、全く言い切れる自信がないエリアテールは、その先の言葉が続かない。そんなエリアテールの様子に勝ち誇った様な表情をする精霊王。


「式典にて、あのような甘い歌を紡ぐからこういう事になるのだ。初めから我が提案した我の古き友の歌を歌っておれば、このような事にはならなかったのだぞ?」


 そう言って精霊王は、楽しんでいる様な意地の悪い笑みを浮かべる。


「婚約披露宴にて精霊大戦終歌をですかっ!? あの様な席でわたくしがその歌を披露すれば、イクレイオス様どころか、国中が大騒ぎになってしまいます!」

「なんだ。そなたはあの歌は嫌いか?」

「まさか! あの様な素敵な歌を嫌う者などおりません!」

「ならば歌い上げれば良かったではないか……」

「時と場合によります!」


 明らかにからかわれてると感じたエリアテールが、ややムキになる。

 そんなエリアテールの反応が面白いのか、声を上げて笑う精霊王。

 全てを見透かしている様な精霊王の態度に、悔しさと恥ずかしさでエリアテールが赤い顔をしながら、抗議するような目を向けた。

 その反応に更に精霊王の笑いが増す。


 そんなエリアテールだったが……先程、話題に出てきた精霊大戦終歌の事で、今まで疑問に思っていた事をふと思い出す。


「あの、精霊王様。その精霊大戦終歌なのですが……以前お聞かせくださった歌声のご友人というのは、人間の方なのですか?」


 全く予想していなかったエリアテールの質問に一瞬、精霊王が目を見開く。

 そしてすぐに懐かしむ様な……だが、どこか寂し気な表情を浮かべた。


「そうだ。あれはまだ、我が上位精霊だった頃に出会った人間の友だ……」

「精霊王様は、元上位精霊様でいらしたのですか?」

「ああ。我は二代目となる。初代精霊王は、その精霊大戦にて自身の責任を感じ、当時上位精霊の中でも一番力のあった我に精霊王の権限を託した……。現状、地の精霊王以外は我も含め、その際に精霊王になった者達となる」

「では地の精霊王様のみが……初代精霊王という事でしょうか?」


 そんな長い時を過ごてきた偉大な地の精霊王に、精霊達からの加護を受けられない事を気軽に相談してしまった自身の軽率さをエリアテールが、後悔し始める。

 そんなエリアテールの様子を察して、風の精霊王が苦笑した。


「安心するがいい。あれは三代目だ。二代目の地の精霊王は、今から800年程前に人間と添い遂げる為、精霊である事を捨てた。この大陸の北東を治めるウッドフォレストという国があるであろう。あの国の初代国王の人間が、その相手だ。故にあの国は大地の力が強く、緑に恵まれ、農業が盛んな国となったのだ」


 まさかこの国の精霊王が精霊を辞め、他国の王族と添い遂げていたとは……。

 それと同時に精霊王という存在は、初めからそうではないという事にもエリアテールにとっては、意外だった。

 精霊王から語られるあまり知られていないこの大陸の歴史に、エリアテールは驚きっぱなしだ。そんなエリアテールの様子に満足げな表情を浮かべる精霊王。

 しかし……その後、何故か急に少し悲しげな笑みを浮かべた。


「風巫女よ……。すまぬが、もう一度だけあの歌を歌ってくれぬか?」

「精霊大戦終歌……でございますか?」

「ああ。そなたの歌声は、我以外には聴こえぬ様に配慮する。頼めるか?」


 するとエリアテールは、破顔するように優しい笑みを浮かべ、返答する。


「ええ! そのように配慮して頂けるのであれば、喜んで!」


 そしてバルコニーの少し広い場所まで歩き出す。


 初めて歌い上げた際は、心が折れそうになっていたエリアテールを、まるで勇気づけてくれる様な歌詞だった精霊大戦終歌……。

 だがその時、自分を誘導してくれた風の精霊王の古き友人の声は、今回はない。

 だから今から歌う精霊大戦終歌は、エリアテール色の歌となる。

 前回とは違い、今の穏やかな気持ちの自分が歌うと、どうなるのか……それはエリアテール自身にも分からない。


 それでもあの歌には、前に進むという強い思いが込められている歌だ。

 あの真っ直ぐに突きあがるような爽快な歌に、どんな気持ちを込めるか……。

 その事で一瞬、自分が迷うかと思ったエリアテールだが、不思議と紡ぐ想いが自分の中から、自然と生まれてくる。


 そして瞳を閉じたエリアテールは、気持ちを集中させた。

 第一声を発しようと大きく息を吸い込むと、まるでエリアテールの足元を清める様に風が地面を吹き払う。

 それを合図にする様にエリアテールは、澄んだ歌声で歌詞を紡ぎ出した。


 前回同様、エリアテールによって静かな立ち上がり方をする精霊大戦終歌。

 ゆっくりと、じっくりと、先程自然に生まれた想いを丁寧に込めて歌い上げる。

 その度にさざ波の様な風が、エリアテールの足元を優しく吹き撫でて行く。

 そのさざ波の様な風は、サビに近づくごとにテンポを増していく歌に合わせて、徐々に強さを増していく。

 エリアテールの歌声も、いつもの優しい歌声から力強い声に変化していく……。


 そして歌のサビに入った瞬間、エリアテールの後ろから強く、大らかな風が吹き荒れた。後ろから吹き荒れた風は、エリアテールによって左右に大きく分かれ、空高くへと突き抜けて行く。


 あまりにも力強いその風は、空に低く浮いていた薄い小さな雲達を、一瞬で左右に切り開く。エリアテールの風によって切り開かれた空は、まるで未来を切り開く事を彷彿させた。


 そしてその切り開かれたその空は、中心に雲一つないような青空を生み出し、左右それぞれに白い二本の線を作り出す。

 作り出された二本の白い線は、エリアテールが生み出し続ける強風によって、ゆっくりと左右に広がり、青空の領域を広めて行った。

 その見事なまでの空の変化に、風の精霊王は目を見開いて息を呑む。


 この先、大国の王妃という未来が訪れるエリアテールにとっては、前回と違って歌の乗せる気持ちが、また変わる。

 今回、エリアテールが精霊大戦終歌に乗せた想い……。

 それは迷う事無く未来に向かって、真っ直ぐ進むという強い決意だ。


 前回は、自分一人で乗り越えなければならないという心境で歌ったこの歌……。

 その時は心地よい緊張感と、胸に詰まった想いを吐き出す解放感に取り付かれるように歌い上げた。

 そして折れかかっていたエリアテールに勇気を奮い立たせる様な……そんな後押しをしてくれた精霊大戦終歌。


 しかし、今のエリアテールには、もう一人で戦う必要はないという安心がある。

 これから先は、自分の隣には常に手を差し伸べてくれるイクレイオスがいる。

 イクレイオスが隣にいる限り、もう自分は一人で迷う事はない。

 だから後はイクレイオスを信じ、共に真っ直ぐ前だけを向いて歩むだけだ。


 そんな未来に向けての想いが込められたエリアテールの精霊大戦終歌は、澄んだ空気を作り上げる真っ直ぐな風を生み出す。

 その風を、まるで慈しむかの様に風の精霊王は目を細めて眺めた。

 そんな風は、歌と共に空高く新しい空気を舞い込ませるように吹き抜けて行く。

 静寂を残し、澄み切った空気を生み出したエリアテールの精霊大戦終歌……。


「それが今のそなたの……精霊大戦終歌の解釈の仕方なのだな?」

「はい!」


 そう自信に満ちた表情で答えるエリアテール。


「前回歌い上げた際は、精霊王様の古きご友人の方の力強い想いに後押しされている部分もございましたが……。今回わたくしのみの解釈で歌い上げると、この様になります」


 その言葉に精霊王が、悲しくなる様な綺麗な笑みを浮かべる。


「風巫女、以前そなたに聞かせた我の古き友の歌声だが……それは我が最後に聴いた友の声となる」

「え……?」

「我が古き友は、その歌を歌い上げた直後に命を落とした」


 その瞬間、エリアテールの表情が驚きと悲しみで曇る。


「まさか……その古きご友人の方というのは……」

「そなたらには『英雄』と称えられている大戦を終結に導いた吟遊詩人だ」

「!?」


 千年以上前に起こった今でも語り継がれている精霊大戦……。

 以前、エリアテールが風の精霊王より聴かされた伸びやかで奇跡的に澄んだ中世的な声で歌われた精霊大戦終歌は、驚く事にその大戦を鎮めた歌そのものだった。


「そ、そのような大変貴重な歌を……外部の人間でもあるわたくしごときに聴かせても、よろしかったのですかっ!?」

「そなたにだからこそ、聴いて欲しかったのだ。そして……どうしてもそなたに再び、歌い上げて欲しかったのだ……」

「何故……わたくしの様な未熟な者に……」


 すると精霊王が、悲しさと寂しさが入り混じった様な笑みを浮かべた。


「我はこの時、まさかこの歌が友の最後の声となるとは思わなかったのだ……。そなたの歌同様、我はこの友の歌声を大変気に入っていた。だからこの歌を永遠に聴く事が出来るよう風の力で閉じ込めた。だが……」


 そこで一度精霊王が言葉を切る。


「この歌は、友の最後の叫びとなってしまった……。以来、あれ程気に入っていた友の紡いだ歌を聴く事が出来なくなってしまった」

「そ、そんな……」

「だが、そのような時間を過ごす間にそなたが現れた。我が古き友の様に……汚れなき魂を持ち、澄んだ声で歌を紡ぐそなたが……」

「そ、その様な勿体なきお言葉、わたくしの様な者には身に余ります!」


 歴史に名を遺す英雄と同等扱いされ、エリアテールが過剰なまでに恐縮する。

 その様子に精霊王が、クスリと笑みをこぼす。


「風巫女よ、確かそなたは我が風の耐性以外、持ち合わせていなかったな?」

「は、はい。お恥ずかしい事ですが……」

「その様に恥ずべき事ではないぞ? 我が友など、4属性全ての耐性を持たぬ存在だったのだからな」

「そ、その様な方がいらっしゃるのですかっ!?」

「千年位前には、極稀だが存在はした。だが、精霊大戦以降は一切見かけなくなったがな。それでも我が友は、全属性の精霊達に慕われていた……」


 その言葉にエリアテールは、既視感を覚える。


「だが、我が友は属性耐性を一切持っていなかった訳ではない。そなた同様、ある一つの属性耐性しか持ち合わせていなかったのだ」

「ですが……4属性全ての属性耐性は、お持ちで無かったと先程……」

「属性は何も地水火風が全てではない。遥か昔、消え去ってしまった古の属性が二つある。それが『光』と『闇』だ。我が友は、恐らく……その光の属性耐性しか持ち得ていなかったのだろう」

「その様な事が……」

「友は魔法を得る事は出来なかったが……内なる力として無意識に光の力を扱う事が出来た。そして他属性耐性を持たぬ分、その力は純度が高く、混じり気が一切ない強力な力だったのだ」


 そして精霊王は、優しい笑みを浮かべてエリアテールを見やる。


「そして、それはそなたにも言える事だ。一つの属性耐性しか持たぬからこそ、その力は純度が高く強力となり、その力を扱うそなたも混じり気のない清らかな魂なのだ。故にそなたも全属性の精霊達に慕われやすいであろう?」

「はい。ですが、そういう経緯で全属性の精霊様達が、わたくしの事を慕ってくださっていたとは……存じ上げておりませんでした……」


 そう答えたエリアテールは以前、下級中級精霊達が気遣いから、自分の前に姿を現さなかった時期の事を思い出す。


「だからこそ、我はどうしてもそなたにあの友の歌を歌い上げて欲しかったのだ。我が友が命と引き換えに残したこの歌を……もう一度、聴く事が出来るようにと。この歌声は、友の最後の叫びなどではなく、友が未来に繋ぐ想いを込めた歌声だと思える様にと……」

「精霊王様……」


 そう寂しげに語る精霊王だったが……。

次の瞬間、いつもどおりのいたずらっぽい表情に急に戻る。


「だが、まさかそなたにこの歌を歌わせている際、あの王太子が怒鳴り込んでくるとは、予想していなかったがな。その所為で、我はそなたの歌声を閉じ込め損ねてしまった!」

「も、申し訳ございません! ですが、イクレイオス様もまさか精霊王様が、その様なお考えで、わたくしに精霊大戦終歌を歌わせていたとは、ご存知なかったと思うので……」


 何故かここにはいないイクレイオスの代わりに、必死で弁明と謝罪をするエリアテールに、精霊王が苦笑する。


「だが、ある意味……あの時、閉じ込め損ねて良かったのかも知れぬな……。我が友の歌に誘導されたあの時の精霊大戦終歌よりも、そなた自身の想いから紡がれた先程の精霊大戦終歌の方が、我には価値ある歌となったのだから……」

「わたくしごときの歌声で、精霊王様のお役に立てるのであれば、これほど光栄な事はござません」

「だが、一つだけ気に入らぬ事がある……。あれは何故、我とそなたが共に過ごしていると、すぐに嗅ぎつけてくるのだ?」

「あれ、と申しますと?」


 やや迷惑そうな表情で、そう愚痴る精霊王の言葉が理解出来なかったエリアテールは、キョトンとしながら聞き返す。


「まぁよい。此度はしかと、そなたの歌声を得る事が出来たのだからな。だが、あれとは今は顔を会わせたくない。我はそろそろここを去るとしよう」

「え? あの……『あれ』とは、一体……」


 未だに『あれ』の存在に見当が付かないエリアテールが、再度精霊王に訊ねようとするが……精霊王は、意味ありげな笑みを浮かべるばかりで答えなかった。

 そのかわり……


「風巫女、此度の件、本当に感謝するぞ」


 何か吹っ切きれた様なスッキリした表情で礼を告げると、逃げるようにバルコニーから飛び降り、つむじ風の様に姿を消してしまった。

 それと同時にバルコニーの出入り口の扉が、激しい音を立て乱暴に開かれる。


「エリア! 今ここに風の精霊王がいなかったか!?」


 息を切らして駆け寄ってくるイクレイオスに、エリアテールがやっと『あれ』が何の事だったのか、理解する。そして思わず笑い出してしまった。


「どうなんだ! 笑っていないで、ちゃんと答えろ!」


 やや苛立った表情でそう詰め寄ってくるイクレイオスに、エリアテールの笑いは更に誘発される。この二人は、互いに凄く気にし合っている癖に、やはり仲はあまり良くないらしい。そう思うとエリアテールは、思わず苦笑してしまう。


 だからこそ、今日の風の精霊王とのやり取りは、イクレイオスには内緒にしようとエリアテールは、心に決めた。

【以下お礼になります】

ブックマークして頂き、ありがとうございます!

わーい!50件越えたー!本当にありがとうございます!\(^o^)/

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