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風巫女と精霊の国  作者: もも野はち助
【番外編】

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32/48

ドレスの行方

本編21~25話の間の裏側の出来事のお話です。

登場人物はエリアテールの侍女のエリーナとリーネ。

20話でチョロっと名前が出てたイクレイオスの文官の一人のルースになります。

「「「あったぁぁぁぁぁー!」」」


 午前中までマリアンヌが滞在していた客室で、エリアテール付きの侍女のエリーナとリーネ、そしてイクレイオスの手伝いをしている若い文官のルースの3人が同時に声を上げた。


「まさか……マリアンヌ様のご利用になっていたお部屋に運ばれていたなんて……」


 この中では一番年長者のエリーナが、驚きながらエリアテールの婚約披露宴用のドレスが入った箱を開ける。


 昨日、イクレイオスにドレスの捜索を命じられたルースだが……配送を担当した若者が捕まらず、結局二日がかりの捜索になってしまったのだ。

 同時にエリーナとリーネも昨日から必死にこのドレスを探していた。


「良かったぁぁぁ~! これで俺はイクレイオス様に殺されずに済むぅぅぅ~!」

「良かったぁぁぁ~! これでエリアテール様がご婚約披露宴で恥をかかされずに済むぅぅぅ~!」


 冷静に箱の中身を確認しているエリーナの横で、まるで生き別れの兄妹が感動の再会を喜ぶ様に、手と手を取り合って涙ぐむルースとリーネ。

 そんな二人の様子にエリーナが苦笑する。


「って、リーネ! イクレイオス様がエリアテール様に恥をかかす様な真似するわけないだろ!」

「そんなの分からないじゃないですか! だってここ最近のイクレイオス様は、ずっとマリアンヌ様のお尻ばかりを追いかけられていたんですよ!?」

「いや、それだけは絶対にない!」

「どうしてそう言い切れるんですか!?」

「でなけりゃ、俺ら文官が地獄の様な思いさせられながら、馬車馬のように酷使されてる意味がないだろ!」

「いいえ! あのイクレイオス様の事です! どうせ表向きはエリアテール様とのご婚約披露宴と言いつつ、実はマリアンヌ様とご自身のご婚約発表の場に変更……とか、そういう事を平気でなされそうじゃないですか!」

「リーネ……お前の中では、どれだけイクレイオス様は悪人になってんだよ……」

「エリアテール様を傷付ける方は、全て悪です!」


 そんな二人のやり取りに呆れ、更に苦笑するエリーナ。


「それにしても……どうしてマリアンヌ様のお部屋に……」

「それなんですけど……配送担当の奴の話だと、エリアテール様がこちらにお運びする様、指示されたとか……」

「エリアテール様が……?」


 それを聞いたリーネが「ほらぁ!」と勝ち誇った顔をする。


「やっぱりエリアテール様もあのイクレイオス様の非常識なご行動から、ご自身が婚約破棄されると思ってしまわれたんですよ!」

「だからそれだけは絶対ないって!」


 またしてもエリアテール至上主義派のリーネと、イクレイオス擁護派のルースの言い争いが始まる。

 そんな二人に呆れつつも、ドレスの状態を確認するエリーナ。


「それにしても……いくらエリアテール様のご指示とは言え、配送担当の者が随分とすんなりそれを受け入れたわね?」

「それにも一応、理由がありまして……。実はこのドレス、今サンライズで人気の仕立て工房から届いたドレスなんですよ」

「「サンライズの?」」

「なんでも今コーリングスターで流行ってるドレスの形より、サンライズで流行ってる形の方がエリアテール様のあのスレンダーな体型が映えるとの事で……。デザインや素材はこっちで用意して、わざわざ仕立て部分だけは縫製技術が上のサンライズの方でするようイクレイオス様が手配されたそうで……」


 それを聞いたリーネが不思議そうに小首を傾げる。


「それが間違ってここに届けられた事と、どう関係してるんですか?」

「ようするに、ドレスがサンライズから届いた品だったから、エリアテール様が親しいマリアンヌ様への贈り物として自国から取り寄せたドレスって、配送担当の奴が勘違いして、疑いもせずにマリアンヌ様のお部屋に届けてしまったらしい……」

「それは……また間の悪い……」


 そう言って、エリーナがドレスに目をやる。

 確かに今コーリングスターで流行っているベルラインやプリンセスラインのドレスよりも、この仕立てられた細身が強調されるハイウエストのエンパイアラインのドレスの方が、長身でスレンダーなエリアテールの綺麗なボディラインは、より美しく見せる事が出来る。


「ほら見ろ! リーネ! イクレイオス様はエリアテール様の為にドレスすら、ここまで拘って準備なされてるんだぞ! そんなイクレイオス様がエリアテール様とご婚約破棄なんてする訳ないだろ!?」

「でも、それはまだイクレイオス様がマリアンヌ様と出会ってない頃の話じゃないですか……」

「お前……どうしてもイクレイオス様を悪者にしたいのか……?」

「悪者にしたいんじゃなくて、私はエリアテール様に対して酷い事をなされたという事実を言ってるだけですぅー!」


 再び始まったエリアテール至上主義派とイクレイオス擁護派の言い争いを仲裁すべく、エリーナが口を挟む。


「でも、ほらリーネ! このドレス、とっても素敵なデザインよ?」

「確かに……最高級のシルク生地にたくさんの小さなダイヤがふんだんに散りばめられて、更に豪華なレース刺繍も施されてますね。 でもエリアテール様に鮮やかな青色のドレスって……珍しくないですか?」

「確かにそうね……。エリアテール様のドレスには黄色やオレンジ、黄緑系などの中間色のドレスが、今までは多かった気がするわ……」

「あー! それにもイクレイオス様の拘りが!」


 そう言ってルースがバッと挙手をする。


「普段エリアテール様がお召しのドレスのお色だと……ほら! ダイヤがあまり目立たないですよね? だからダイヤが一番目立ちそうで、尚且つエリアテール様にも合うお色という事でこの色にされたんですよ!」


 そう得意げに語るルースを白い目で見るリーネ。


「そこまで拘る程、エリアテール様に尽くして下さっていたのに……どうして今回みたいな事になるんですか……?」

「えっと……それは……」

「ま、まぁ、ドレスも無事見つかったんだし! ほら二人とも、早く自分達の仕事に戻りましょ?」


 リーネを宥めながら、そう取り繕うエリーナ。

 どうもリーネはエリアテールの事となると、周りが見えなくなってしまう。

 そんなリーネは「あっ!」と何かを思い出す。


「そういえばルースさん! さっきドレスの捜索をしてる時、城内入り口前にサンライズ王家の馬車が止まってたのを見たんですけど……」


 その言葉を聞いて、エリーナとルースがビクリとする。


「リ、リーネちゃん? まさかそこから降りて来られたのって……」

「はい。サンライズ国の王太子アレクシス様でした」


 それを聞いた途端、エリーナとルースの顔色が一気に青くなる。


「でもイクレイオス様は、今ご婚約披露宴準備でかなり時間に追われ、相当気が立ってらっしゃるんですよね? それなのに……アレクシス様と打ち合わせって……大丈夫なんですか?」

「だ、だ、だ……大丈夫な訳ないだろっ!?」


 リーネの言葉に物凄い勢いで狼狽えだしたルース。

 そんなルースを尻目に、エリーナが逃げる様にリーネに声を掛けた。


「えっと、リーネ? 私達は早くこのドレスをエリアテール様のお部屋に運ばないと……ね?」

「エリーナさん! 俺、それ手伝います! 女性二人では運ぶの大変ですよね!?」

「ダメよ! ルースは今すぐ執務室に戻って、荒ぶるイクレイオス様にドレスが見つかった件を、早急にご報告しないと!」

「…………嫌です」

「ルース……?」

「嫌だ! 絶対に戻りたくない! 今も戻ったら、地獄の魔王と終焉の魔王の壮絶な戦いに巻き込まれる!」


 そういってドレスの入っている箱にしがみつき、首を振るルース。

 そんなルースに呆れながらリーネが窘める。


「もう! ルースさんってば大袈裟ですよ? イクレイオス様ならともかく……あのお優しいアレクシス様の事を魔王だなんて……」

「リーネ……お前のいい人基準はエリアテール様に優しいか、そうでないかの二つの判断材料しかないのか……?」

「それ以外に何があるんですか?」



 結局、ルースはエリアテールの部屋までのドレス運びを意地でも譲らなかった。

 しかし……その運搬時間は一瞬で終わり、その後は重い足取りで修羅場と化していると思われる執務室にトボトボと帰って行く。

 そんなルースに「頑張ってくださいね~!」と、無邪気に手を振るリーネ。


 ところが……この世の終わりのような顔をして入室したルースは、予想外の状況に驚く事となる。執務室では、いつも以上にご機嫌な終焉の魔王ことアレクシスが、ファルモとロッドと共に婚約披露宴の出席者の追加を話し合っていたのだ。


「ロッドさん……あの、イクレイオス様とアレクシス様は揉めたり等は……なされなかったのですか……?」


 アレクシスが帰国後、ロッドにこっそり確認するルース。

 すると、ロッドが珍しく満面の笑みでこう答えた。


「エリアテール様が神の様なご対応をしてくださったお陰で、アレクシス様がご満悦になられたので全く問題なかったぞ?」


 そんなエリアテールの奇跡の対応を心の中で大称賛し、心の底から感謝の言葉を捧げたルース。


 しかし……。

 一時間後にロッドが連れ戻してきた憔悴しきったイクレイオスの様子を見たルースは、今回の戦いは終焉の魔王の圧勝だった事を密かに悟った……。

【以下、お礼です】

前回ブックマークと評価をしてくださった方々、本当にありがとうございます!

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