精霊王会議
本編10話『冷たい婚約者』の直後くらいのお話です。
登場人物は4属性の精霊王達になります。
コーリングスター城の地下に存在する白く淡い光を放つ美しい神殿……。
その地の精霊王の神殿では、美しい容姿の各精霊王達が一堂に集結するという、かなり贅沢な状況になっていた。
「今回、我はそなたらに確認したい事がある故、集まって貰った!」
そう話を切り出したのは、この神殿の主である艶やかな茶色の髪を持つ美しい女性の姿の地の精霊王だ。
「我はそなたのように暇ではない。何用だ」
そう不機嫌そうに口を開いたのは、襟足が見える長さで朝焼けの様な色のうねった髪を持つ火の精霊王だ。
長身で浅黒い肌をした筋肉質の逞しい男性は、美しい彫刻像を彷彿させる。
「それは我とて同じだ! だが今のこの国では不可解な事が二つ程起こっておる」
「不可解な事? それは我らに関係のある事か?」
地の精霊王の言葉に、風の精霊王が反応する。
「一つは全属性の下級と中級精霊に関しての事だ」
そう地の精霊王が告げると他精霊王達は、すぐにエリアテールの事だと察する。
「あやつらが現風巫女の前に姿を現さない……その件か?」
「あの娘は、元より強力な風を扱える。それ故、下級中級ごときが加護など与えずとも問題ないのではないのか?」
風と火の精霊王のその意見に対して、地の精霊王は静かに首を振った。
「風巫女がその件で心を痛めておる……。皆、何か原因を知らぬか?」
地の精霊王の言葉に可憐な少女の様な透き通る美しさを持つ水の精霊王が大きく反応する。
「知っておれば早々に力を貸しておる! しかし……我がどんなにあの風巫女に焦がれようとも、我には祝福どころか加護さえも与えられぬのだ!」
「我とてあの美しい魂を持つ娘がこの地を訪れた際、我らの加護を与えられる資格を身に付ける事をどんなに待ち望んでいた事か! しかし……資格を得たあの娘には惜しい事に我の象徴である火を受け入れる器がない……」
落胆しながらの水と火の精霊王の言葉に地の精霊王が驚く。
「まさか……3属性もの耐性値が全て低いと言うのか!?」
そしてその地の精霊王の反応に水と火の精霊王も驚き、思わず目を見開く。
「では我らの配下である下級中級どもが、あの風巫女の前に姿を見せぬのは……」
「恐らくあの娘に加護を与えたくとも与えられぬ事に耐えかねたのであろう……」
「だが! 下級の者すら加護を与えられぬ程、3属性の耐性が低い人間がこの世におるのか!?」
予想外のエリアテールの属性耐性値の特殊さに、地水火の精霊王達は眉間にしわを寄せて考え込んでしまう。
しかしそんな中、唯一余裕のある笑みを浮かべている精霊王が一人いた。
「ほぅ? そなたらの属性では、あの風巫女に力を与えてやる事は出来ぬのか?」
そう言って一人勝ち誇った様な表情を浮かべている風の精霊王。
その挑発とも思われる発言に3属性の精霊王達が同時に鋭い目を向ける。
「おのれ……薄々勘づいてはおったが……やはり祝福を与える事が可能なのは、そなたのみか!」
「あの娘もこのような屈折した者の祝福以外得られぬとは、なんと哀れな……」
忌々し気に悪態をつく地の精霊王と、その状況のエリアテールを憐れむ火の精霊王。しかし、この二名よりも更に怒りを露わにしているのが、水の精霊王だ。
「風の! そなたは何故あの風巫女がその件で心を痛めておる事を知りつつも、未だに祝福を与えぬのだ!? 風巫女が不憫ではないかっ!」
そう風の精霊王に食ってかかった水の精霊王だったが……。
それは地の精霊王の冷たい言葉で遮られる。
「そなたがそれを申す権利があるのか……?」
「では、我があの尊き風巫女を邪険に扱っているとでも申すのかっ!?」
「風巫女の事ではない。そなた……今この国の王太子である小童が、どういう状態なのか知らぬのか……?」
「イシリアーナの息子がどうしたと言うのだ?」
全く心当たりがない様子の水の精霊王に地の精霊王が呆れる。
「先日、我はこの国の豊穣祭にて人間どもに舞を披露した。その際、あの小童は自身が心奪われている風巫女ではなく、別の娘を伴い、我の舞を見ておったぞ?」
「それが……どうしたというのだ?」
「その際の小童は風巫女ではなく、強制的にその自身が伴った娘に恋い焦がれておった。確か……そなたの配下には魅了の術を得意とする力の強い上位精霊がおったはずだが?」
地の精霊王のその言葉に、可憐な少女の様な水の精霊王の美しい顔が一気に般若のような表情へと変化する。
「まさか……我がイシリアーナを寵愛している事を知っての上で、その息子にその者が呪いを与えたとでも申すのか……?」
「それは分からぬが……我が確認したい事のもう一つがその件だ」
怒りのあまりワナワナと震えだす水の精霊王。
「どうせその娘が上位精霊を言葉巧みにたぶらかし、そのような呪いを掛ける様、進言したのであろう! これだから人間は……心の汚れておる者が多いのだ!」
「たわけ! たかが人間ごときの言葉で、あの気位の高い上位精霊が簡単に惑わされる事がある訳なかろう!」
「では我が配下が勝手にその様な振る舞いをしたとでも申すのかっ!?」
「詳細は分からぬが……その呪いを受けし小童より水の気配を感じた。だが小童が追い回しているその娘には、恐らく非はない……。現にその娘は、心変わりをした小童に辛く当たられておる風巫女を心底心配しておるそうだ……」
「愛しき風巫女が……イシリアーナの息子より、そのような仕打ちを!? 何と愚かなっ! 許せぬっ!」
「小童に怒りをぶつける前に、まずそなたの配下の者を咎めるべきであろう!」
地と水の精霊王達のやり取りに大きくため息をつく火の精霊王と、呆れ顔な風の精霊王。しかし、そんな風の精霊王にこの後、火の粉が飛んでくる。
「そもそも何故そのような事に……。イシリアーナの息子は風巫女以外の娘を傍に置くなど、今までなかったであろう!」
「その件もイシリアーナより確認した。どうやら風巫女が我ら精霊より加護を受けられぬ事をかなり悩み、その加護を促す為、力の強い上位精霊より加護を受けているその娘を傍に置いたそうだ」
その話から3属性の精霊王が、再び鋭い目つきで風の精霊王を睨みつける。
「風の! そなたがさっさと祝福しておれば、このような事にはならなんだぞ!」
「下らぬ人間嫌い等をしておるから、尊き存在が傷ついたのだ!」
「今からでも遅くはあるまい! さっさと風巫女に祝福を与えよ!」
他精霊王達から畳み掛ける様に責められ、風の精霊王は不機嫌そうな顔をする。
「ほぉ? そなたら……本当に我があの風巫女に祝福を与えても良いのだな?」
「この状況で何を申す! これ以上、あの風巫女が傷つく姿は見るに堪えん!」
「そもそもあの娘が加護の資格を得た際、早々に祝福を与えれば良かったのだ!」
「さすれば風巫女が悲しむ事もなかったであろうが!」
段々と不機嫌さを増してゆく風の精霊王に対し、容赦なく罵倒する他精霊王達。
そんな言いたい放題な他精霊王達に、目を据わらせながら風の精霊王が冷ややかに言葉を放つ。
「本当に良いのだな……? もし我が風巫女に祝福を与えてしまえば……あの王太子はそれを好機とばかりに早々に自身の欲を満たそうと、風巫女を汚しにかかると思うが?」
その言葉に3属性の精霊王達が急に静まり返る……。
「それでもそなたらは、すぐにでも風巫女に祝福を与えよと?」
そうキレイに嘲る様な笑みを作った風の精霊王は、他精霊王達に再度問う。
「「「その祝福……少し待て……」」」
その瞬間、3属性の精霊王達の意見が見事に一致した。
こうしてエリアテールは、風の精霊王からの祝福をかなり先延ばしにされる。
そしてこの経緯の所為で、哀れイクレイオスはこの後、大変な受難を強いられる事となった……。




