表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風巫女と精霊の国  作者: もも野はち助
【本編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/48

27.愛されし風巫女

 イクレイオスの一言でビクリと肩を震わせたエリアテールは、何故分かったののだろうという表情で浮かべる。


「やはりか……。この際、そういった不安に感じている事は全て話せ」

「はい……」


 呆れながら不安を吐き出すように促して来たイクレイオスに何故かエリアテールが安堵する。

 昔から粗暴で高圧的な口調ばかりのイクレイオスだが、口にしている内容からは常にエリアテールは気遣ってくれている事が感じられる。そんな不器用なイクレイオスの優しさに促され、エリアテールは今抱いている不安をポツポツと語り始める。


「わたくしが風の精霊王様の祝福を頂けた事は、今のお話で充分理解致しました。ですが……精霊の泉にて洗礼を受けてから、この国では当たり前のように見る事が出来る一般精霊をわたくしは、まだ一度もお見かけした事がございません……」

「だが精霊王……それも人間嫌いで有名な風の精霊王から慕われているのだから、それで充分だろ?」

「ですか、この国は精霊の国です。その次期王妃が一度も一般精霊を見たことがないと言う状況は、あまり外聞がよろしくないかと思います」


 そう言って今にも泣き出しそうな表情で、エリアテールはイクレイオスに尋ねる。


「イクレイオス様……このように精霊によく思われていない者が、この国の次期王妃となるなど許されないのではないでしょうか……」


 滅多に見る事が出来ない懇願するようなエリアテールの様子に一瞬、イクレイオスが釘付けになりながら息を呑む。だが、すぐに我に返り「またこのパターンか……」と、小さく呟いた。


「いいも悪いも……。そもそもお前が『精霊達によく思われていない』という認識が間違っている!」


 そう言い切ったイクレイオスの言葉にエリアテールも、この状況に既視感を抱き始める。

 対してイクレイオスの方は、段々このパターンにうんざり気味だったが、エリアテールがかなり気にしている事を考え、しっかりと説明した方がいいと判断した。


「まずお前の場合、嫌われているというより……精霊達に好かれ過ぎている」

「好かれ……っ!? な、何かの間違いでは……?」

「間違いなどではない。しかも城内の殆どの者はそれを知っている。その証拠にお前が洗礼を受ける前は、その周りに鬱陶しいほどの下級精霊が付きまとっていたからな」


 精霊の加護を受ける為にこの国の王家が管理している精霊の泉にて洗礼を受けない限り、精霊の姿は見る事が出来ない。エリアテールの場合、毎月10日間のみコーリングスターで過ごす生活を10年以上しているが、その間は洗礼を受けていなかった。


 だが、この国の住人は別だ。

 洗礼の資格は、コーリングスターの国民として3年間の在住後に与えられる。

 故にこの国で生まれ育った人間の殆どが幼少期で洗礼を受け、精霊の姿を見る事が出来た。その為、精霊達がエリアテールに付きまとっている光景は、城内の者達にとってはもはや日常的な風景だった。だが当人であるエリアテールは精霊を見る事が出来ない時期だったので、その事を知らずに今まで来てしまったのだ……。


「そういえば……以前、加護をなかなか得られない事をイシリアーナ様に相談させて頂いた時にそのような事を言われたような気が致します。ですが、それならば何故未だにわたくしに姿をお見せくださらないのでしょうか……」

「その件だが、少々複雑な理由というか……精霊達の無駄な気遣いが関係している」

「無駄な気遣い……でございますか?」


 珍しく歯切れの悪い話し方を始めたイクレイオスの様子にエリアテールが、不思議そうに小首を傾げる。


「お前は以前、地の精霊王から聞かされた加護を与えられない理由を覚えているか?」

「確か……わたくしの地属性の耐性値が著しく低い為、加護を与えられないと……」

「それなんだが……。お前の場合、地属性だけでなく水と火の属性耐性値もゼロに等しい程、低いらしい」

「ゼロっ!?」

「その代わりと言っては何だが……。風属性の耐性値が異常な程、高い」

「それはわたくしの属性値が風属性特化型という事ですか?」

「ああ。だがここで別の問題が出てくる。お前が唯一精霊から加護を受けられる風属性だが……。人間嫌いで有名な風の精霊王の許しがない限り、一般精霊達は加護を与える事を禁じられている」

「では、わたくしが一般精霊の方々から加護を得られなかったのは……」

「地・水・火の精霊達は、お前の属性耐性が低すぎて加護を与えられず、風に関しては精霊王の許しがない限り、一般の精霊達は加護を与える事が出来ない状態だった。そういう経緯で今までのお前は、精霊達からなかなか加護を授けられずにいた」


 そう語ったイクレイオスは、ため息交じりに一呼吸置いた後に更に一言付け加える。


「まぁ、結局は一番特化した属性の精霊王の祝福を得ているがな」


 しかし、ここでエリアテールは、ある事に引っかかり出す。

 何故エリアテールが精霊の泉で洗礼を受けた後、精霊達は一切姿を現さなくなったのだろうかと……。

 その事を問うと、イクレイオスが何とも言えない複雑な表情を浮かべる。


「それが先ほど言っていた『精霊達の無駄な気遣い』だ……」

「それは……精霊の方々がわたくしを気遣った結果、お隠れになったという事ですが?」


 するとイクレイオスが、やや呆れ気味にその真相を語り出す。


「お前は洗礼を受けてから、いつまで経っても精霊からの加護を受けられない事に悩んでいただろ?」

「はい。特例で洗礼を受けさせて頂いたのに……このままでは皆の期待に応えられないと……」

「だが、お前が加護を受けられなかったのは、極端過ぎるお前の属性耐性が原因だった。本来ならば精霊達は、すぐにでもお前に加護を与えたいと思っていた者が多かったはずだ。だが自分達の属性では、耐性値が低過ぎるお前には加護を与える事が出来ない……」


 そこまで話すと、イクレイオスは一息付く。

 だがエリアテールには、まだ精霊達が姿を見せなくなった原因が理解出来ないでいた。

 それを補足するようにイクレイオスは、更に口を開く。


「もし加護を与えられない精霊達が、そうとは知らない加護を望むお前の前に頻繁に姿を現していたら、お前はどう行動した?」


 その言葉にエリアテールが目を見開く。

 もしその状況だったのなら、エリアテールは精霊達に必至で加護を与えてくれるように頼んでいただろう。加護を与えたくても与えられない精霊達に対して……。


 精霊で人語を話せる者は上位精霊と精霊王のみだ。

 エリアテールの周りに集まっていた下級と中級精霊達には、人間と話す術はない。

 そんな精霊達は、加護を与えられない理由を説明出来ない自分達がエリアテールの周りに頻繁に姿を現わせてしまえば、ますます加護を得られない事で悩んでいたエリアテールを追いつめてしまうと考え、自分達よりも力の強い精霊がエリアテールに加護を与えるまで、姿を現さないと決めたのだろう。


「ですが、風の精霊からならば、わたくしは加護を受ける事が出来たのですよね?」

「その事については先ほども説明したが、風の精霊に関しては精霊王の許可無しに勝手に人間に加護を与える事は出来ない状況だった……。そもそも、あのふざけた精霊王が寵愛しているお前への加護を他の精霊達に許可するとでも思っているのか?」

「寵愛というのは、少し言い過ぎかと思いますが……」

「異例とも言える額に精霊王の祝福を受けておいて、今更何を言っている!」


 どうやらイクレイオスは風の精霊王には、あまりいい感情を抱いていない様だ。

 その事に苦笑しつつも、未だに納得出来ない部分があるエリアテールは、更に質問を続けた。


「では何故風の精霊王様は、わたくしに加護や祝福をすぐに与えてくだされなかったのでしょうか……」


 そのエリアテールの質問に何故かイクレイオスは、明後日の方向に視線を向けた。

 その反応にエリアテールが不思議そうに小首を傾げる。


「イクレイオス様?」

「その件に関しては詳しくは分からないが……。何でも他の精霊王達が、自分達では加護を与えられない事をやっかみ、風の精霊王が祝福を与える事に反対したらしい……」


 そう答えてくれたイクレイオスだが……その返答は何故か歯切れが悪いものだった。

 そもそも何故イクレイオスは、この二カ月半の精霊達の動向にここまで詳しいのだろうか……。

 すると、エリアテールの心の中を読むようにイクレイオスが、その疑問に答える。


「風の精霊王より聞かされた。解呪された日の夜、私の部屋にいきなり現れた」

「精霊王様が自らお部屋に? もしやイクレイオス様と風の精霊王様は、仲がよろしいのでは?」

「お前の目は節穴か? あのような無礼極まりない精霊王と私が親しいなど有り得ないだろうが!」


 やはりイクレイオスは、風の精霊王にあまりいい感情を抱いていない様子だ……。

 その為、もうその話題には触れない方がいいとエリアテールは判断する。

 そんなエリアテールの懸念に気付いていない様子のイクレイオスは、窓の外にチラリと目を向けた後、何故か不敵な笑みを浮かべた。


「だが今のお前は、その精霊王からの祝福をしっかり受けているからな。たとえどんなにふざけていようとも4大精霊の一人でもある精霊王からの祝福だ。それはすなわちその属性の精霊達にとっても特別な存在となるのだろう」


 急に何かを仄めかす言い方をしてきたイクレイオスは、おもむろにエリアテールに窓の外を見るように促して来た。そのまま素直にエリアテールは窓に近づき、外を覗く。

 すると……窓の外には数えきれない無数の発光体が漂っていた。

 初めて目にしたその美しくもある幻想的な光景にエリアテールが瞳を大きく見開き、魅了されたように息を呑む


「精霊達は皆、お前が風の精霊王の祝福を受けた事を自覚するまで、じっと待っていたのだろう。最上級の精霊王から祝福を受けたのであれば、もうお前への無駄な気遣いもする事も姿を隠す必要性もなくなる。エリア、今後はお前が屋外に出るだけで、下級と中級精霊達が以前のようにビッシリとくっ付いてくるぞ?」


 そう言って、イクレイオスが小さく笑みをこぼした。

 久しぶりに見たそのイクレイオスの表情に自然とエリアテールの心に安堵感が広がった。

 そんな安心感を得たエリアテールは、外を漂っている優しい光に惹かれるように窓へとそっと近づく。すると漂っていた発光体が窓にペタリとくっ付いてきた。よく見ると淡い光の玉だけでなく、発光している小さな人型の精霊の姿もある。イクレイオスの説明だと、ただの淡い光の玉なのが下級精霊、小さな人型なのが中級精霊との事だ。


 そんな初めてみる精霊達の姿にエリアテールが目を輝かせる。

 そしてそっとガラス越しに手を添えると、そこに精霊達が集まってきた。そんな精霊達の行動に自分が嫌われていなかった事を実感出来たエリアテールが、嬉しそうに頬を紅潮させてイクレイオスに振り返る。

 その様子を見たイクレイオスは、苦笑しながらポツリとこぼす。


「人だけでなく精霊もタラシ込むのか……。お前は本当にタチが悪いな……」


 困惑するような笑みを浮かべながら呟かれた婚約者の声は、精霊と戯れる事に夢中となっていたエリアテールの耳には届かなかった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★この作品の感想は、あとがきの方でどうぞ!★
【風巫女と精霊の国のあとがき】

【他サンライズの巫女シリーズ】

★雨巫女アイリスが主人公の話★

★男装風巫女のアズリエールが主人公の話★
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ