火葬場にて
「叔父さん」
死者が見えるのは小さい頃からだが、話しかけたのは初めてだった。
叔父さんは、火葬場の駐車場で、いつものように少し上を見て、タバコをふかしていた。
「おう」
話しかけたは良いけど、何を言うべきか分からず黙り込んだ僕に叔父さんは苦笑して続ける。
「辛気臭ぇ顔すんな」
「タバコ、俺は死んでも辞めないって言ってたけど、ほんとだったね」
仕方なくそんなことを言ってみる。
「まぁな、どうせ俺なんか地獄行きなんだからよ、ここで一服してから行こうと思ってなぁ。閻魔の奴、待たせてやんだ」
ニヤッと笑う。いつも僕がいじめられて帰ってくると、くだらないいたずらを仕掛けてきた時と同じ。
「悪口大会だろ?」
そう言って、火葬場の控え室を振り返る。そんなことないよ、そう言おうと思ったけど、嘘は通じない気がして、首だけ振る。
「まぁいいさ。みんな、俺には迷惑してただろうからなぁ。死んでくれて、ホッとしてんだろ。なぁ、お前ももう、俺のタバコの遣いに行かされずに済むな」
僕はまた、黙って首を振る。
「そうだ、俺の部屋にある、絵具とか、道具はみんなお前にやる。ぐずぐずしてっと、姉ちゃんが来て捨てちまうだろうから、早く行った方がいいぞ」
ここまで言うと、タバコを投げ捨て、スニーカーでもみ消す。
「さてと。そろそろ行くか」
「叔父さん」
僕はもう一回言う。でも、なんて言えばいいか、分からない。
叔父さんは少し僕を眺めていたが、近づくと、僕の髪をくしゃくしゃ撫でた。ちゃんと、叔父さんの細くて固い指の感触がある。
「なんも心配すんな。お前、絵の才能、あるよ。だから俺を越えてみな!なーんてな」
そう言って1人で笑うと、もうそこにいたのが嘘みたいに、叔父さんの姿は消えていた。結局、さよならも、ありがとうも、言えなかった。
足元に落ちてる、潰れた吸殻を、僕はそっと拾い上げる。