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エピローグ

 エピローグ



「我がプシュケーの、赴くままに!」


 キュピーン、という効果音が似合いそうな、なんとも言い難い、強いて言えば可愛いポーズをとるナオ姉。

 指は明後日の方向を向いてるし、体を支えてる片足は震えてるし、いまにもコケそうだ。


「……急にどうしたよ」


 まぁ一言で言えば、ナオ姉大復活、なんだろうけど。


「あ、あれ? 反応薄くないかな?」

「え? 今のツッコミ待ちだったのか?」


 こうしてナオ姉と歩くのも久しぶりになってしまった。 三日に一度はこうしてる気もしなくもないけど。


「だってユウくん、厨二な私も好きって言ってくれたし……」


 最近朝練に放課後練習と忙しくしていたナオ姉は、それでも俺と過ごす時間をこうやって捻出してくれていた。


「た、たしかに言ったけど、そんな唐突に言われても……」

「……だ、ダメだった?」


 ――上目遣いに聞くのは反則だろ……


「……いや、最高だ」


 こんなナオ姉を見られるのは俺だけだと思うと、なんだか優越感というか、自慢したくなるというか。


「なら良かった。 じゃあ次は……」


 ――次? 次ってまさか……


「……続きは、また今度ね?」


 クルッと回ってウィンク。

 期待するなとどこかで叫ぶ声が聞こえるが、悲しかな、俺は健全な男子高校生なのだ。


 ――こんなの見られたら、恨みつらみで呪われそうだな。 ミオが可哀想だし、あまりそういうのを煽りたくはないんだが……


 会話をする事も叶わない相手に気を遣っている自分に気付き、つくづくお人好しだよな、と思ってしまう。


「……そういや、ナオ姉」

「なに?」

「そろそろ進路希望、提出しないとだろ? 決めたのか?」


 話題を変えるために振ってみたが、あまり良い選択ではなかったかもしれない。


「うーん……実はまだなんだ」

「推薦とか、狙えるだろ?」

「それもそうかもだけど……」


 どうやらまだ悩んでいたらしい。

 俺が催促して変なところで妥協されてもなんだか寝覚めが悪いので、あまり詮索しない方がいいかもしれない。


「……ユウくんは、何かやりたい事、あるの?」


 だが意外にも、そんな質問を振られてしまった。


「俺の、やりたい事……?」


 正義の味方になりたい、なんてことを打ち明けたのはミオだけだ。 ナオ姉にその事は言ってないし、さすがに言うつもりもない。

 けどなら、俺は何がしたいのだろうか?


「……そうだな」


 ……答えはもう得ていた。


「人の助けになりたい。 それがどんなに影ながらでも、誰かを救えるなら」


 具体的な方法はまだ決めてないけど、少なくとも、今の俺の回答はこれだった。


「……そっか。 ユウくんならきっと、できるよ! この神崎ナオミの名にかけて、保証してあげる!」

「やめてくれよ。 責任とれねぇから……」

「ううん! 絶対取ってもらうから!」


 ――俺もそろそろ、現実に目を向けるべきなのかね……


 気が早いと言われればそうかもしれないが、なんだかそう思ってしまう。

 それは焦りから来てるのだろうか。 一度鏡に聞いてみるのもいいかもしれない。


「あ、着いちゃったね」


 本当にこうしていると、通学路が短く感じる。


「じゃあ、また後でね」


 ナオ姉と別れ、教室へ走る。

 予想以上に時間が迫っていた。


「あ、ユウヤ!」


 教室へ飛び込む。

 そんなに急ぐ必要はなかったかもしれないと少し後悔した。


「……えっと、迷惑、かけたっしょ? ほんと、ごめん!」

「な、なんのことだ?」


 シホが俺の顔を見るなり頭を下げてきた。

 教室内がざわめきに包まれる。

 なんだか思わぬ噂が駆け回ってる気がするが、気のせいという事にしたい。


「シホのお兄ちゃん、やっちゃったって」


 そう聞いて察した。

 確かにあの副部長、シホと同じ苗字だった。


「い、いや。 シホが謝ることないだろ? 顔をあげてくれ」


 これ以上シホを辱めるようなことをしてると、ミオの仕事が増えてしまいかねない。


「キツ〜く言っておいたから! だからもうこんな事ないと思うから!」

「わ、わかったから!?」


 ――そこまで必死にならなくても……


 どうしたものかと頭を抱えるところだったが、そのタイミングでチャイムが鳴ってくれた。 ナイス。


「後で好きなの奢ってやるから、ね?」


 ――見返りが怖いので断っていいですかね、それ。


 誤解を解いて回るのが大変そうだと、朝から頭痛に悩まされる事となった。 本当に勘弁してほしい。



 *********



 ナオ姉は今日も忙しい。

 食事当番は基本的に俺がするようになってしまっていた。

 文句はないし、ナオ姉も楽しそうだから良いのだけれど。


 ――ゲームのスコア、それでも上がってるんだよな……


 才色兼備でゲームもこなせるなんて、どこまで超人なのか。


 ――俺も特技の一つくらい、習得した方が良いのかね……


 下準備を軽く終わらせ、エプロンを放って部屋へ戻る。

 着替えてなかったら後で何を言われるかわかったものではない。


「…………」


 姿見の前に立つ。

 相変わらずのボサ髪と目。

 見慣れた自分の姿が正常に写っていた。


「……俺も調律師チューナー、目指してみようかな、なんて」


 呟いて、ミオが困る顔を容易に想像できてニヤケてしまう。


「さすがに、夢見すぎだよな……」


 シャツのボタンに手をかけ、外していく。


「……なんだ?」


 ――なんだか鏡面が揺れて……ってあれ?


 嫌な予感を感じた瞬間。


「のぁぁあああああ!?」


 何かにぶつかって跳ね飛ばされた。

 後ろのベッドに強打してしまい腰が折れそうになる。


「……っつつ……」


 何事かと閉じていた目を開けると。


「……や、やぁ。 また会ったね」


 俺がどんな顔してたのか、それは鏡に聞くしかないけれど。

 どうやら俺の非日常は、まだまだ終わってくれそうにないらしい。







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