プロローグ
――その時、俺の世界に光が差した。
「なぁ……大丈夫か」
手に伝わる柔らかい感覚。
それは温かくて軽くて……とても、いい匂いがした。
「………え?」
俺の上で目を回していた少女が顔を上げる。
その顔は彼女の帽子のせいで半分しか見えなかったが……
「………………」
思わず反応できなくなってしまうほど、可愛かった。
「……えっと……どうしてボクのそんなところを触ってるんだい?」
「………………」
透き通るような声が耳に届く。
同時に聞こえてくるドクドクという音は、自分のものだろうか。
「どうかしたのかい? そんなにボクの顔をじっとみて……」
俺を訝しげに見つめてくる目。
長い睫毛に澄み切った瞳。
ずっと見つめていたら、全てを見透かされそうだ。
「……そ、そろそろ何とか言ってくれないか? ……その、恥ずかしい……」
――これはどういう状況だ?
俺の上の彼女を眺めつつ、急に冷静になった頭が動き出す。
――思い出せ。 どうしてこうなったかを思い出すんだ。 そうだ、記憶想起だ。
「お、おい。 ちょっと……」
――手始めに、さっきまでの事を思い出してみるぞ。
目の前の彼女はひとまずおいておくことにして、朝からの行動を振り返る。
――そうだ。 今日も何の変哲も無い一日になるはずだったんだ……