1章 出会い
一章 出会い
ベッドに横たわる彼女の目には明る過ぎて視界に靄がかかり辛うじて天井が見えるようなそんな世界。
あれから六年意識が有りながら長い時間が経っている。
彼女はその苦痛から逃れるために人格や感情を心の奥底に押し込めている。
そして彼女は擬似的な睡眠をしていた。
時間が経ち、昼の明るさから一転、静寂に包まれた深い闇夜。彼女の頬には、病室に吹く少し冷たいクーラーの風が当たる。
彼女には何も感じない。肌にあたる人工の風も病室の薬品臭さも人の温もりさえも…。
だがこの夜は違った。
頬を撫でる冷たい感覚を彼女は感じた。
目を見開いてもそこには一面に広がる靄のかかった闇。
彼女はずいぶん久々な感覚を覚えた。
〈 怖い、怖い恐い怖い、《怖い‼︎》 〉
彼女の耳には聞きなれない声も聞こえてくる。
…ごめん、ごめんね、幼い君を救ってあげられなくて、僕のせいで…本当にごめんね。
〈だ…れ…?〉
彼女は何を思ったのか声をかけようとした、しかし声になるはずの空気はなんの変化もなく呼吸として消化されている。彼女は空気になった声を確認して諦めた。
この夜はやはり違っていた。
『君には僕の存在がわかるのか!』
静寂のはずの暗い病室から男性のものと思しき声が聞こえた。