【はじまりの村ーヴィティム】
《―報告。case13を始動。過去17年において特筆すべき問題無し。計画は順調。》
まもなく全てが終わる。ようやく、ようやく我々は救われる。長かった。いや、これからのことを考えると短いのかもしれない。しかしこれで、私達は始まることができる。
『―では始めよう。そして、新たなる旅立ちをもって終わりを告げよう。
――この星の破壊を――』
「じゃあ母さん、行ってくるよ。」
「ええ、行ってらっしゃい、ナツ。」
つぎはぎだらけのワンピース、底の擦り切れた靴、手入れができずボサボサの髪の毛を無理やりまとめていて、同年代と比べるとかなり年老いて見えるが、その優しさは息子の俺が一番よく知っている。
幸せだった、と思う。17年前に俺を拾って、女手一つでここまで育ててくれた。それだけじゃない。このうなじの辺りにある銀色の刻印、「勇者の証」のおかげで周囲からは忌み嫌われ、肩身の狭い思いをしたはずだ。俺の本当の両親は、その証が原因で俺を捨てたのだから。
この世界では、17年に一度、「魔王」と呼ばれる存在が全てを破壊しようと魔族を率いて動き始める。きっかり17年。それまではなんの音沙汰も無く、どこに魔王がいるのかすらわからないのに、突然、まるで以前からそこにあったかのように姿を現すのだそうだ。というのも17年前なんて俺は生まれていたのかもわからないし、そもそも覚えているわけがない。今も西のペトロの地に現れたと聞いただけで実際に見たわけじゃない。
そして、その魔王を倒すために生まれてきたのが、うなじに銀の証をもつ俺――「勇者」というわけだ。
魔王を倒す。というと聞こえは良いが、実際に魔王を倒した勇者はおらず、帰ってくることもないらしい。ただ、ある日突然魔族たちが姿を消し、同時に新しく銀の証をもつ子が生まれたという噂を聞いて、ああまたかと肩を落とす。
また、当然、魔王も勇者に倒されるわけにはいかないのだろう、復活と同時におびただしい数の魔族を勇者のもとに向かわせ、過去何度も勇者の住む街はことごとく破壊されてしまったそうだ。
その結果、勇者の誕生は魔王復活の予兆であり。災厄の象徴として忌み嫌われることとなった。
わが子とはいえ忌み子だ。俺も両親を恨むことはない。だからこそ、ここまで育ててくれた母さんには本当に感謝している。
17歳の誕生日の今日、打倒魔王の旅に出る。行きたいといえば嘘になるが、運命なのだから仕方がない。俺が旅に出なくて、世界が滅んでしまうのも困る。母さんにもこれ以上迷惑はかけられない。
「母さん、今までありがとう。何もしてやれなかったけど、最後くらい魔王を倒して、親孝行するよ。」
「ふふ、大きすぎる親孝行だこと。そうねぇ、じゃあその時は、ご馳走用意して待ってるから、……無事に帰ってきてね。」
母さんの涙をこらえた笑顔に、胸を締め付けられそうだ。
「それは楽しみだな。何が何でも帰ってこないと。……それじゃあ、そろそろ行くね。」
「ええ、気をつけてね。」
留まりたい気持ちを捨て、母さんの目から逃げるように歩き出す。旅立ちの日、門出を祝うように昇り始めた太陽に嫌気がさした――
《報告。勇者ナツがヴィティムを出発。新たなる勇者の旅立ちに幸あらんことを。》
はじめまして。宮本夏弥です。
小説、書いて見ました。難しいですね、三週間くらいかかったと思います(笑)。
「君ガ為ニ世界ヲ」第1話、プロローグかな?投稿させていただきました。初めて書いたので、拙いところや、わかりにくいところもあると思いますが、最後までお付き合いしていただけるとうれしいです。
私情もあり、あまり定期的な更新は難しいかもしれませんが、気長に待っていただけると幸いです。
では今回はこのあたりで、これからよろしくお願いします。
ナツのお母さん、正直好みです。